02.5.16 最終弁論 因果関係 A君

1、原告代理人の武田より、 A君 の死亡と本件MMR接種との因果関係について申し述べます。

2、本件では、 A君 に起きた急性脳症の原因として、被告側よりA香港型インフルエンザウイルスによるものであるとの反論がなされております。
 しかしながら、 A君 の急性脳症がインフルエンザウイルスにより引き起こされたことを直接裏付けるデータは全く存在しないのであり、あるのはごく初期のインフルエンザ感染の兆候だけであります。これをもって、本件急性脳症をこれに先立つMMRワクチンやその副反応と完全に切り離し、たまたまこの時期に偶然にインフルエンザに感染したことによるものと決めつけることは全く不当なことであります。

3、裁判所に重視していただきたいことは、 A君 が平成元年10月25日に本件MMRワクチンを接種して以降、同年12月29日に亡くなるまでの約2カ月の間、様々なウイルス感染特有の症状を繰り返し、入院や通院を繰り返しており、健康状態が完全に回復した時期はないということであります。この経過を子細に観察すれば、MMRワクチンが後の疾病に大きな影響を与えていることがわかります。
 まず接種から8日後の11月2日、 A君 は40度近い発熱をきたし、麻疹特有の発疹が現れ、同月4日に麻疹ワクチンによる副反応と診断されております。麻疹ワクチンの副反応としては、かなり重い部類に属します。
 さらに、それからわずか10日後の11月14日には、今度は嘔吐、発熱を訴え、同月17日には箕面市立病院に入院し、髄液検査の結果から無菌性髄膜炎と診断されております。この無菌性髄膜炎は、本件MMRワクチンの副作用の最も典型的なものであり、後に責任論において述べますように、本件MMRワクチンに薬事法上の製造承認を受けていない製造方法で培養されムンプスウイルスが混入していたことが原因と考えられるものであります。この無菌性髄膜炎が、本件MMRワクチンに起因するものであることは、被告も争っておりません。この無菌性髄膜炎による入院は平成元年12月8日まで続いております。
 さらに、退院のわずか2日後である12月10日には、 A君 は再び発熱、嘔吐、水様性下痢を訴えて診察を受け、翌11日には乳児嘔吐下痢症と診断されております。この乳児嘔吐下痢症の治療は12月18日頃まで続けられております。
 そして、そのわずか9日後の12月27日には、 A君 は発熱により箕面市立病院で診察を受け、翌28日には急性脳症を発症し、最終的に12月29日に亡くなっているのであります。
 この一連の経過を見れば、 A君 の健康状態は、本件MMRワクチンの接種をきっかけとして急激に悪化しており、その背景に感染症ウイルスに対する免疫力の低下があることが強く推認されるのであります。麻疹ウイルスにはご承知のように強い免疫抑制作用があります。そのメカニズムはよくわかっておりませんが、麻疹にかかった子供は、肺炎などの二次感染を引き起こしやすくウイルスに対する抵抗力が極端に弱くなるということが古くから小児科医の間で常識のように言われております。また、麻疹にかかった子供の免疫機能をつかさどるリンパ組織が麻疹ウイルスにより広い範囲で破壊されるということもわかってきております。
 本件で、 A君 の剖検所見を見ますと、腸管系のリンパ組織が広範囲に破壊されていたとの記載があります。これは、 A君 の免疫機構に何らかの異変が起きていたことを裏付けるものであります。また、剖検所見によれば、 A君の脳組織にはいまだに髄膜炎の名残が見られたとあります。このことは、 A君 の無菌性髄膜炎がいまだ完治していなかったことを裏付けるものであります。このような各種のデータを見るかぎり、 A君 の死亡とMMRワクチンが無関係とは到底考えられないのであります。

 予防接種により健康被害が発生するメカニズムはいまだに未解明の部分が多く、医学的には多くの議論の余地を残しています。しかし、予防接種により一定の割合で副反応による健康被害が発生するということについては、公知の事実となっています。
  A君 は、MMRワクチンに起因する無菌性髄膜炎により平成元年12月8日まで箕面市立病院に入院していました。そして、その月の末には急性脳症で亡くなったのです。その間、わずか20日間ほどの期間があるだけであります。この20日間の間に何が起こったのか、これを今から全て検証することは不可能であります。しかし、急性脳症で死亡するわずか20日前まで A君 がMMRワクチンの副反応で入院していたという事実、これを経験則の面から法的因果関係の問題としてどのように評価するかということが問われているのであります。

 今回の意見陳述をするにあたり、私は、過去の予防接種被害に関する集団訴訟の因果関係に関する全国の裁判例を検討してみました。裁判所の判断基準は白木4原則であります。MMR接種の影響力を完全に排除できるほどの明確な他の原因が認められる事例でないかぎり、予防接種に近接した時期に起きた健康被害は救済するというのが判例の一貫した立場であります。このような考え方にそって A君 の死亡と予防接種との因果関係を判断するかぎり、本件で法的因果関係があることは明白であると考えます。