02.5.16 最終弁論 因果関係総論

因果関係総論

1)スモン、水俣病、カネミ油症事件と言った公害あるいは消費者被害事件において、我々は初期の被害情報を無視してあるいは軽視して対応を遅らせた事が如何にその後の被害を拡大させたか、歴史的教訓として心に留めております。
 今回の事態にはこれら事件の教訓が真に生かされていない。甚だ残念なことである。
 予防接種において、副反応の存在が疑われた場合は、その情報が確実でなくとも否定してはならない。
 もし重大な副反応であれば医学的判断をする前に、先ず接種を中止し被害の拡大を防ぐべきであった。
 本件MMRワクチン接種は、89年4月に開始され93年4月に接種中止(一時見合わせ)が決まるまでの間丸4年間接種が継続されました。
 この間 無菌性髄膜炎多発に対する阪大微研はもとより厚生省、国の対応は甚だ不十分であった。
 被告国は、MMR接種にかかるパンフ等を見るにMMR接種後の髄膜炎を開始時点で全く考えていなかった。
 そのため接種の現場の医師らには髄膜炎の副反応に対する警戒感が一部を除きなかったことが本件被害の拡大の一要因であった。
 そのため当初髄膜炎の存在を指摘されるとその情報を否定することに熱心で深く検討していなかったのではないか。
 そのうち髄膜炎の発生が否定できなくなると、それを自然感染おたふく風邪に起因すると決めつけた。
 ウイルスがワクチンに由来することが判明した段階では、今度は発症率を最小に抑えるよう様々な細工をした。
 最終的には「従来考えられていたよりはるかに高い発生率で」発症していることをみとめざるを得なかったが、軽症だから心配ない、自然感染の方が恐ろしい等とワクチン擁護に終始した。
 事ここに至ればMMRワクチンが欠陥商品であることは明らかであり、直ちに接種を中止してワクチンを回収すべきであったが、被告らはこれを怠った。
 被告らの責任は重大であると考える。

2)因果関係について
 本訴訟で被告ら特に阪大微研はその裁判活動の大半を因果関係の不存在の主張立証に時間を費やしたと言っても過言ではない。そして阪大微研からは 森浩志さん 浅野喜造さん 森島恒雄さんの意見書を提出している。又平成11年には国が因果関係に関する鑑定を申請した。
 しかし繰り返し指摘しているように、国はMMRワクチンの副反応に関する被害の情報を研究者に公開していない。
 従ってワクチン被害についての情報が圧倒的に不足しているのが実情である。
 健康被害にかかわる研究は、一部被告国の委嘱する研究班によってなされているが、彼らは予防接種を積極的に推進する立場から発言してきた学者研究者である。
 従って公平中立な鑑定は存在し得ないとして原告は鑑定に強く反対し、当裁判所は鑑定を採用しなかった。賢明な判断であったと思慮するものである。
 そしてそのことは森島氏らの意見書等についても同様のことであり、その内容はまず結論ありきのものであり中身の議論も踏まえ、その証拠価値が低いことこれまで何度も述べて来ている。
 少なくともMMRワクチンの副反応について何らかの意見を述べうるとすれば、おおよそ判断の前提としてMMRワクチンによる神経障害の有無ないしその程度内容を認識していなければならない。
 その上で各被害児の接種後の症状経過や各種臨床検査の所見や剖検結果を踏まえなければならない。その点これらの意見書作成者において具体的に製造承認時の副作用データ、接種開始後、一時中止までのMMRワクチンによる副作用例その数、神経障害の有無、内容程度を踏まえて作成された意見書はないと考えている。
 この点の不十分さは彼ら意見書の致命的な問題性を示唆するものであり強く認識されるべきである。

3)他方原告らが提出する白木・林意見書は、特に白木博士は神経病理の権威であり、予防接種に伴う神経障害の研究の外、過去多数の予防接種訴訟の中で被害児を多数診察し、疫学的な分析を行い、あるいは剖検例を含めた検査結果を検討する中でいわゆる白木4原則なるワクチン接種と被害との因果関係を考える一つの枠組みを提示し東京高裁、大阪高裁を初めとする裁判所で採用する考え方として確立されたものである。
 この4原則は、過去の予防接種禍集団訴訟各高裁判決においても、予防接種と当該事故との因果関係総論の考え方として採用されているが、これは予防接種の副反応に関する情報が限られている中で、神経病理の専門家でありながらワクチン禍について臨床的にも病理学的にも経験を積まれた白木博士の「原則」が評価され、採用されたものである。ただこの4原則は、何も特殊な因果関係の考え方をしているわけでもないし、又特段原告側の立証範囲や立証責任の程度を軽減したものではない。
 高度の蓋然性の立証は、明白な科学的な証明がなされない限り、間接事実から経験則による推認と他原因の不存在による推認という手法になるもので、この一般的な考え方を白木博士は、神経病理の専門知識と臨床、病理の経験から4要件を提案しているにすぎない。
 従って本訴訟においても白木4原則を前提に因果関係の主張立証を行っているが基本的にその中身はこれまでの予防接種訴訟における因果関係の考え方と何ら変わらないと理解している。
 なおこれまで白木博士が関わられた予防接種訴訟で、その因果関係に関する意見が判決で排斥された例はありません。

4)最後に本件3例の被害児は、いずれもMMR接種後の健康被害について 《A君は》 一定の時期まで、 《大輔君》 および 《花ちゃん》 については、死亡ないし重篤な後遺障害の結果まで予防接種法による因果関係が行政上すでに認められている。
 しかしながら本件で被告国は、行政上の因果関係と訴訟上の因果関係は異なるとしてこれを争っている。
 しかし法文上もワクチンの副作用による健康被害者の「救済」には、発現した症状及び経過とワクチンとの因果関係の証明が不可欠であり、国の行政上の認定はそれを認めたことに他ならない。
 訴訟上これを否定するとなれば、被告国は行政上の因果関係を認めた理由と訴訟上これを否定する理由を明らかにし、その齟齬が合理的であることを示すべきであるが、その様な証明は一切なされていないことに留意されるべきである。

 引き続いて個別被害児につきワクチン接種と疾病との因果関係について意見を申し上げる。(担当の代理人に交代)