MMR大阪訴訟の経過概要

(MMR訴訟弁護団事務局井尻潔法律事務所06-6365-7383)
1993年12月24日 A君・木下大阪地方裁判所へ提訴
1996年 4月23日 上野大阪地方裁判所へ提訴
両事件その後併合される。
争点は、MMRワクチンと死亡・後遺障害とに因果関係
2002年5月16日 結審
2002年11月28日 弁論再開決定
2003年1月30日 弁論再開・結審
2003年 3月13日 大阪地方裁判所判決
・木下・上野の件、原告の主張を認め、ほぼ請求認否される。
・A君の件、MMRワクチンと死亡との間の因果関係が認められないとの理由で請求棄却、
しかし
・判決後、阪大微研との間で事実上の示談成立
2003年 3月26日 A君の件、大阪高等裁判所へ国のみを相手として控訴
控訴審での争点は、
・A君の死亡とMMRワクチン接種との因果関係があるかが最大の争点
・特に麻しんワクチンによる免疫機能が不全となったか否か新たに鑑定を実施した。
2005年12月7日 結審
2006年 4月20日 控訴審判決予定

■控訴審における争点と我々の主張、及びこの裁判の意義

               MMR大阪訴訟弁護団 重村達郎(ひまわり総合法律事務所06-6311-7688)

○争点1(A君の死亡とMMRの関係

 控訴審においては、一審で認められなかったA君にかかるMMRワクチン接種と死亡との因果関係、及び、一審で死亡または重篤な後遺障害との因果関係が認められた木下大輔・上野花両ケースにおける、とりわけ国の責任の有無が主要な争点になりました。前者にあっては、我々被害児側は、MMR接種後死亡に至る過程の中で、麻疹特有の発熱・発疹やおたふくかぜワクチンに由来する無菌性髄膜炎(これは、国によって認定されている)、更には乳幼児嘔吐下痢症など連続した発症の中で全身状態が悪化していった臨床経過、死亡直後の解剖結果における回腸パイエル板の損傷等顕著な腸障害の存在を示す所見、及び麻疹ワクチンによる免疫抑制の研究報告等をふまえ、仮に咽頭ぬぐい液から検出されたインフルエンザウィルスによる脳症の発症が死亡の直接の引き金になったとしても、MMRワクチン接種による副作用により全身の免疫機能の低下または破綻をおこしていたことが死亡の大きな原因となったものである旨、主張しました。
 そのために、保存されていたA君の腸のプレパラート標本を日本の病理学の第一人者である名倉宏東北大学名誉教授に鑑定していただき、その病理所見から、死亡当時、全身の免疫機能の司令塔とも言うべき腸管のリンパ機能がウイルスの侵入など何らかの要因により破壊されていた旨の鑑定書が提出され、国の反論に対し再反論する形で、京大病院の中嶋安彬病理専門医による補充意見書を提出して、理論的な裏付けをしました。

○争点2(国の責任

 また、後者の国の責任については、一審が認めた条理に基づく責任を法的根拠に欠けると主張する国に対し、統一株MMRワクチン接種を開始して半年後の89年10月当時、早くも、群馬県をはじめ高頻度でMMRワクチン接種後の無菌性髄膜炎の発症報告がなされており、接種後の死亡報告もあったこと、また、カナダでは、占部株おたふくかぜワクチンを含むMMRワクチンが副作用の多発のために中止・回収命令がだされていた中にあって、当時の厚生省が、予防接種法に基づく予防接種の主体としての役割、及び薬事法に基づく調査・立入権限に基づき、副作用報告をふまえ接種の一時見合わせなど果断な措置をとっていれば、被害の拡大・発生を防ぐことができたものであり、国には法的責任に基づく結果回避義務を怠った過失がある旨、あらためて主張しました。

本訴訟の社会的意義

 この裁判では、次々とかわる無菌性髄膜炎の発症率の報告の一方で、91年の自社株MMRワクチンの導入を初め、なぜ4年もの間、1,700人以上にのぼる無菌性髄膜炎の発症と10名近くに及ぶ死亡・重篤な後遺障害の発症に至るまで、漫然と接種が続けられたのか、自治体によっては早期に中止の措置をとったところもある中で、無責任体制の一端が明らかになってきました。また、ワクチン接種は伝染病の予防という社会防衛を目的として国が主体となって行いますが、これまでの予防接種集団訴訟と異なって、禁忌者排除にむけた接種体制の不備よりもむしろ、なぜ、製造承認を経ない混合原液を用いた欠陥ワクチンが流通してしまったのか、いわばワクチンメーカーの製造物責任と、製造承認・検定体制や副作用報告への対処を含め、欠陥ワクチンが市場に出まわらないように管理・監督すべき国の予防接種行政のあり方と責任が問われています。

 本年4月から、国は、MR(はしか・風しん混合)ワクチンの2回接種を法定接種として導入し、これによるものしか予防接種法に基づく救済がなされない法改正をしようとしています。国がMMRワクチン接種の経験から何を学び、学ばなかったのか、4月20日に高裁判決の出るこの裁判の行方は、今後の予防接種行政にも大きな影響を与えるものと思います。

以上