■ 上野花ちゃんのお母さん 詩4篇 03.7.2届く

参考:96.6.6 法廷での陳述 ← まだの方はこれを先に読むといいでしょう
 無垢な人(習作)

あなたはいつも傍らにいる
天井の電灯を見上げている
吊ってある鈴を見ている
兄と姉がこしらえた折り鶴の飾りを見ている
ラジオの音楽に聞き耳をたてている
小鳥の鳴き声も
あなたは聴いている
部屋を横切る兄姉の姿を
目で追いかけている
そのあと
ふと
窓の外の遠くの方を見るような目になり
ときどき
ふーんと言ったりしている
そして時折
まっすぐに私を見る

誰もうらまないの?
誰もせめないの?

わたしはこのままです
これでいいです

いつも静かに座っている
無垢な人


 無垢な人(習作)

春の陽が揺れる
蒼い部屋の底に
きらきらと溢れるような瞳で
横たわっている
無垢な人
 〜木瓜の花の思い出〜

木瓜の花には辛い思い出がある
鯉のぼりを,僕がわたしがと争いながら空に上げて
帰る小径で,朱色の木瓜が満開だった
その花があまり美しかったので、私は
娘二人を引き止めて,その花の横に立たせた
上の娘ははずかしそうに肩をすぼめ,
下の娘は大真面目に両手を揃え,
私のカメラに収まった
それから数日後
下の娘は突然病に倒れ,二度と
自分の足でその庭に立つことはなかった


 〜 入学の季節に〜

わたしは思われてならない
切り揃えた前髪の
勝ち気そうな眉の下に
きらきらした大きな瞳
唇を大真面目に結んだ
赤いランドセルの
小さなあなたの姿が

橙色のスーツを着て
おてんばで擦り傷だらけの足に
真っ白な靴下
髪はつやつやと光っている。
同級生と並んで立つ講堂に
あなたの名前が響けば
あなたは大きな声で
はいっ
と返事をしただろう
そして
透明な花の匂いがして
みなムクムクと楽しがっている春風の中を
うれしいうれしいと
笑いながら駆けただろう

わたしは思われてならない。
やわらかな日射しに縁取られ
綿毛のように揺れている
小さなあなたの
強い眼差し
わたしの手の平に触れる
清々しい希望のぬくもり
春の日のひかりよりも
まぶしく輝いている
晴れやかなあなたの笑顔が