TEACのカセットデッキとしては事実上の最終型となる030SシリーズのV-6030Sです。
V-7000からのセンターメカレイアウトはそのまま継承し、外観を大胆に変更しています。
この上位モデルとしてV-8030Sが存在しますが、その差はごく僅かですので、今回はこのV-6030Sを中心に紹介したいと思います。
例によって、ベースはジャンク品です。
動作状態にあるものは高値になってしまいますし、かろうじて動作しているとはいえ中身はジャンクと大差ないでしょうからね。
入手時の症状は、再生すると表示が消えて止まるとか、そのへんのよくある定番トラブルだったと思います。
このゴージャスなツマミ、素晴らしいです!
小さいのはV-8000Sと同じ樹脂製ですが、このゴージャスなツマミのお陰で全然チープに見えません!
目の錯覚かな?
使い辛かったスライド式のNR切り替えスイッチはツマミ式に進化しました。
やっぱり、こうでなくっちゃね!
操作スイッチは同社のCDプレーヤーVRDSシリーズと同じデザインを採用しています。
CDと重ねてセッティングするとカッコイイかもしれません(^^;
それにしてもこのカセットホルダー、凄過ぎです!
フロントパネルもそうですが、ブ厚いアルミ製で重量もかなりあります。
V-8000Sまでのペナペナプラスチックとは大違い!とても同じメーカーの製品とは思えないほどです。
天板を留めているビスは金色にメッキされています。
外観の細かい所にまで気を配った設計です。
さきほどのツマミを外してみました。
2ピース構造ですが旋盤削りだしです!
外観におもいっきりカネ掛け過ぎです。
さて、それでは内部の検証といきましょうか。
センターメカで、そのすぐ後ろに再生回路基板があり、その左側が録音系、右側は電源&ロジック系と完全にブロック化され相互干渉を防止すると共にシャーシ全体の強度を高めています。
信号経路を最短化するためのロッドも健在です。
プラグインで刺さっているのはドルビーSエンコード基板です。
石はおなじみCXA1417Sです。
こちらはバイアス回路で石は定番のuPC1297Cです。
しかし、V-8000Sまでは良質な部品で組まれていましたが、コストダウンでしょうか、高精度フィルムコンが安価なセラミックコンデンサに変更されています。
ついでに、録音アンプもV-8000Sまでは低歪オペアンプを使った構成でしたが、専用のCXA1198APに変更されていました。
ダブルデッキ等そのクラスの製品でよく見かける石ですね・・・。
メカの後方にある再生基板です。
アナログ系の電源回路、再生イコライザ、ドルビーB/C、ドルビーS、モニター切り替え等が実装されています。
まずは再生イコライザから。
デュアルFETによる差動増幅+オペアンプという今までの構成から、オペアンプ一発のシンプルな回路に変更されています。
まぁ、コストダウンでしょう。差動増幅を入れたところでメリットもそれほど無かったようですし。
効果の薄かった部分を徹底的に削ってコストダウンしたと思われます。
ちなみに、電解コンデンサは音質に関わる信号経路のカップリングも含め全て低品質で評判の台湾製です(悲)。
V-8000Sまでは音響用の国産品をふんだんに使っていたのに・・・物凄いコストダウンです。
気持ち悪いので、せめてカップリングだけでもと音響用に交換しました。
こちらは電源部&ロジック基板です。
コンデンサは一部ルビコンを使っていたと記憶していますが、やはり主役は台湾製です。
シールドのフタを外すと見慣れたsankyoメカが出てきました。
なんじゃこりゃ?
し、素人さんの手が入ってるぅ〜!!
物凄くイヤな予感が・・・
メカを取り出します。
余談ですが、フロントパネルを外さないとメカは取り出せません。
手を抜いてメカだけ外そうとすると、手抜きどころかより一層苦労する事になります。
メーカーのサービスマンでも手抜きをしようとして失敗(再修理)という事をやらかしたという報告を受けていますので、素直にフロントパネルを外したほうが賢明です。
電動ホルダーもV-8000Sと同じですね。
後付けのこの部分はタッピングビスが使われています。
さて、メンテ開始です。
リールモーターの配線がちぎれそうです。
あれこれグリグリと必死になって作業したのでしょうね。
こういうところまで気がまわらなかったのでしょうか。危ない危ない!
私も気をつけなくちゃです。
いつものようにメンテします。
キャプスタンはダイレクト駆動ではなくDCモーターによるベルト駆動となっています。
それ以外はV-8000Sと同じです。
ヘッドは見た目ではわかりませんが、PC-OCC巻線のコバルトアモルファスヘッドとの事です。
メカの整備が終わりました。
基板を点検するためシャーシから外します。
コネクタや電源部など、再ハンダを行います。
ついでに気になる箇所のコンデンサを音響用に交換したり、劣化した部品も交換します。
それにしても、このフロントパネルはカネかかってますよ!
厚みが、ハンパじゃないです!
言いたくないけど、中身とは大違いです。
組み付け完了。動作もOKです。
末期モデルという事もあり、整備性も良好でラクに作業できるのは良いですね。
入念に調整を行います。
周波数特性はカタログ値を余裕でクリア。中身は大幅にコストダウンされたモデルですが基本性能の高さを確認でき、ちょっと安心です。
外装を組み付けて完了です!
それにしてもゴージャスだ・・・。
外観にカネを掛け過ぎて中身をコストダウンした製品ですが、オーディオが減退していった90年代前半の製品ですから、売る為には音よりも見た目のほうが重要だったのは確かです。
しかし、それでも本格カセットデッキとしての基本性能は確保されていますので、結果からいきますと実に合理的な設計が生かされた新しい時代のカセットデッキだったのかもしれません。
気になる上位モデルであるV-8030S。
この6030Sと価格で2万円ほどの差がありますが、一体何が違うのか、2万円の差は何なのか、気になりますよね。
気になってしょーがないので8030Sも入手してバラしました(^^;
まず、天板に鉄板を貼り付けて重量アップが図られていました。
しかし、それ以外は6030Sとの差は感じられません。
悲しい事に、パーツグレードも全く同じです。
台湾製コンデンサも健在です。
何もかもが全く同じです。
録音ボリウムがディテントになっているのではと期待しましたがこれまた全く同じ汎用品・・・。
うーむ・・・。
結論!
やっぱりメカのキャプスタン駆動がダイレクトドライブになっているという点と、天板に鉄板を貼り付けて重量かさ上げしている事以外に違いはありませんでした。
つまり、この部分で2万円アップという事になるのですね。
それにしても、このモーターは凄いなぁ・・・!!
歴代最強モーターかもしれません。
外観がゴージャスになった反面、中身は徹底的にコストダウンされてしまったのが残念でしたが、音はこれがなかなかどうして良い感じです。
ほぼニュートラルと言っても良いのではないでしょうか。
V-8000Sから角を取って、少し丸めた感じの印象ですが、ボーカルものは心地よく楽しめます。
とにかく、耳障りな音を出さないのでリラックスして聴く事が出来るのは凄い事だと思います。
録音アンプが悲しいほどコストダウンされていますが、ヘッド性能の高さでしょうか。高レベルでも破綻しません。
デジタルソースの録音機としての基本性能は十分確保されています。
その自信の表れが、録音ボリウムのツマミにも現れているのでしょうか。
音質以外の部分では、重圧なカセットホルダーが気分を高めてくれます(^^)
何でしょうかね、このホルダーの雰囲気は・・・
V-8000Sとは全然違います。
自然と高級重量テープを使いたくなりますね。
さて、V-8030Sの音はどうかというと、やっぱり全く同じようにしか聞こえません。
若干、音像のピントが鋭くなったような気がしますが、気のせいかもしれません。
まぁ、差が無くちゃ面白くないぞっていう気持ちがそう感じさせたのかもしれませんが(^^;
音質面の違いよりも信頼性という点にメリットがあるのは確かです。
ブラシレスのDDモーターですから、経年劣化はほぼ無視できるレベルです。
対するV-6030SのようなDCモーターでは、経年で必ずトラブルが発生します。
実際、オークション等でもそういったトラブルを抱えたジャンク品を見かけます。
あとは「当時の最上位モデル」とか「TEAC最後の本格カセット」といった部分、これもある意味重要かな(^^;
V-8000Sの内容でV-8030Sの外観だったらなぁって思ってしまうのは私だけ?
まぁ、それはちょっと欲張りってやつでしょうかね〜。