ビクターの最終最強デッキTD-V931です。
発売当時定価87000円という中途半端な価格でしたが、その価格からは考えられないほど贅沢な作りでコストパフォーマンスは圧倒的に高いモデルであります。このモデルを最後に、ビクターはカセットに魂を込める事をやめてしまいましたので、事実上最終最強モデルと言っても過言ではないでしょう。そのため某オクの相場も一時期よりは正常化しつつありますが、まだまだ高値安定状態が続いています。
やはり、このへんのモデルは押さえておく必要があるので、ジャンク品を入手してその実力を確認してみました。
まず、フタをあけるとあまりにも贅沢な造りでビックリしますね。プラグイン方式を採用した基板...すべてが銅メッキ、ネジも銅メッキ、部品も高級、ホントにこれ87000円という低価格デッキなのかと疑ってしまいます。
このあたり、少しでもいいからナカミチさんにも見習ってもらいたかったなぁ。
プラグイン基板で、それぞれがブ厚いシールド板でしっかりとシールドされています。極めて合理的でカネと手間がかかっています。
録音レベル調整のVRは信号経路が最短になるように長〜いロッドで延長されています。
で、そのVRですが、高価で高精度なディテント型が2個も当たり前のように使われています!!
通常入力に加えCD専用入力の専用VRまでも装備しているという事だけでも立派なのに...一体原価はいくらなんだろうと要らぬ 心配をしてしまいます。
電源部です。
トランス容量は並ですが、オーディオ系の電源回路に使われているコンデンサはアンプ並の容量 です!
プラグイン基板が刺さるメイン基板にはバイアス発振回路があり、シールド板により各ブロックの相互干渉対策も万全です。
こういった細かな所まで徹底した設計思想が、このデッキの高S/Nサウンドを支えているのでしょう。
今回は徹底オーバーホールを行うので、全バラにします。
MDF製のアークベースはしっかりとフライス加工してあります。
87000円という価格の中から、どうしたらこんな事が出来るのか不思議です。
今回のジャンク品は「録音が出来ない」という物でしたが、原因はコレです。
恐らく工場の生産ラインでの不具合手直し作業でしょう。経年でハンダが浮いてしまい導通 がなくなり録音系が機能しなくなっていました。
電線で処理すればこのようなトラブルは起きなかったと思われますが、でもお陰様で格安で入手できました(^^)
バイアス発振回路の電解コンデンサを全数交換しました。
交換の必要はないかもしれませんが、メイン基板は後から作業する場合は極めて面 倒ですのでバラしたついでに最善策をとっておく方が良いと思っています。
もちろん、全箇所再ハンダを行いました。
これは録音アンプ部です。
銅板が貼り付けてあるのはドルビーICで恐らくCX20188と思われます。
オペアンプは今まで見た事の無いJVCブランドのVC4580Lというものが付いていました。
恐らくNJM4580Lと同等の物だと思われますが、本当にカネかかってますよこのデッキは!!
これは再生イコライザ基板です。
これまた高価なパーツで手抜きなくしっかりと仕上げてあり見ているだけで幸せです。
FETによる作動増幅+VC4580Lという一般的な構成ですが、聴感S/Nの高さから察するに細部まで手を抜かずに作り込んだ証といえるでしょう。
一体この部分だけでいくら掛かっているいるのか心配になってしまうVR基板ですが、もちろんこちらも再ハンダで強化しておきました。
さて、いよいよお楽しみのメカをバラします!
さすがはビクターだけあって、整備性は抜群でバラし易いです。
程度も良く、部品交換はベルトは程度です。
お約束のアレです。
完全に終わっていますので無条件で交換です。が、パターンまで癌が進行しており、交換だけでは済まない状態です。
仕方ないので、ジャンパー処理を施しました。
ちなみにこのモーターはまだメーカー在庫があるようです。
元通
りに組み上げてジャンク機材に接続して最終調整を行います。
良いですね、何も問題ありません。波形も綺麗です。録音もバッチリ出来ますし、ウッドペッカー病や超音波病も対策しましたので完璧です!
さてさて気になるその音ですが、一言で言うと良い音のするカセットデッキです。
カセットなんだからカセットでいいじゃないかと言われてしまえばそれまでですが、ここまで採算を無視して一生懸命作ったのだからアイワやナカミチのデッキのように「コレ本当にカセット?!」っていう衝撃的なあの感覚をついつい求めてしまうのは私だけではないはずです。
特筆すべき点は聴感S/Nが高いという点ですね。よくぞここまでやったなという感じです。が、表現力とでもいいましょうか、その点ではまだまだカセットの域を脱していない印象です。
S/Nの高さが素晴らしく、不安なくリラックスして音楽を愉しむ事ができる点は、ソニーの最高級クソデッキとは全く異なる部分であります。解像度重視のスッキリとした低域 、綺麗だけど細くなってしまう高域は、なんとなくナカミチサウンドに似ているような気がします。
でもね、このデッキは87000円の低価格デッキですので、この価格でそういう次元を求める方が間違っていると思います。わかってはいるのですが、その価格を忘れさせるほど魂のこもったヘヴィーな製品なのでついつい価格以上の高い次元を求めてしまいがちです。
もう一歩、あともう一歩詰めれば最高のカセットデッキになったと思いますが、残念ながらビクターはこのモデルを最後にまともなカセットデッキから撤退してしまいました。実に惜しいです。
かなり厳しい評価になっちゃいましたが、なんだかんだ言っても結構お気に入りだったりします。手放せない逸品である事には変わりないです。
2〜3台持っていてもいんじゃないかなって思わせてくれるデッキでした(^^;