DENON
DTU-S10改 DAC化計画



DENONのCS-PCMチューナーDTU-S10です。

「何?それ??」って思う人もいるかもしれませんので、簡単に説明しますね。
DTU-S10はミュージックバードという音楽放送専用のチューナーで、音声は無圧縮のリニアPCMで放送されています。
サンプリング周波数は48KHzとCDをも上回る高音質がウリでしたが、残念ながら2011年7月で放送終了が決定しました。

サービス開始と同時に、各社から気合の入ったハイエンドチューナーが発売され、その中の1台がこのDTU-S10です。
DENONのハイエンドモデルに与えられる型番「S10」を持つモデルなだけに、無駄ともいえる物量を投入し作り上げられた当時の最上位で、定価は15万円でした。

しかし、そんな銘機も放送サービスが終了してしまえば重くてデカいだけの箱になってしまいます。
オークションでも高値安定を維持していましたが、ミュージックバードのサービス終了がアナウンスされると一気に値崩れを起こし、現在は高くても数千円程度で入手できるまでになってしまいました。

非常に残念な事ではありますが、ここはひとつポジティブに考えて、サービス終了と共にゴミとなってしまうこのチューナーを有効活用してみようという事で、高速化事業部の定番メニューでもある(?)D/Aコンバーター化させてみる事にしました。
15年前の製品ですが、DENON伝統のALPHAプロセッシングを搭載したフラッグシップモデルですので、DAC化でその実力を引き出す事も充分可能なはずです。

と、いう事で、値崩れしたブツを軽くポチっと。送料と同じくらいでした・・・(^^;

届いたブツです。
ワンオーナーでご覧の通りの美品でした。
重量も12キロほどあり、これがこの価格・・・信じられません!
解約済みでスクランブルがかかっていると価格が上がらないようですね。

ま、解約してようがしてまいが、この際ぜんぜん関係ありません。
いつものように、通電前にバラし開始です!








ブ厚いフロントパネルにこの「S」が・・・泣かせますね(^^;














リアパネルはご覧の通り、意外とシンプルです。
写真では分かりにくいかもしれませんが、出力RCAジャックは削り出し風で高級感があります。













インシュレーターは鋳物製で重たいです。
足の上に落とすとエラい事になります。

こんな凶器のようなモノが4つも付いていますので、これだけでも入手価格以上の価値はあると思います。

その他、天板はもちろんシャーシの底面にはブ厚い鉄板が2枚も重ねて付けてあり、トランスが占める重量配分なんてカワイイもんです。








開封してみました。
意外にも・・・高級機らしくない???

シャーシは当たり前のように銅メッキでピッカピカ。
電源トランスは普通のEIコアがデジアナ独立で2個搭載されています。










上のチューナー基板を外すと、今回の主役であるDAC基板が現れました。

電源部も一体になっているので、パっと見た感じ改造し易そうで好印象でした(^^)












左がDAC基板、右がチューナー基板です。

色々調べてみると、チューナー基板はNEC製で同じものが各社に供給されていたようです。
それをベースに、各メーカーが個性を出すためにDAC部を独自の物と組み合わせて商品化していたようです。
DENONはALPHAプロセッシング、アキュフェーズならMMB方式ってな感じですね。










電源トランスです。
EIコアですが、各ステージ独立巻線ですので、何かと応用できて便利です。
もちろん、これはこのまま活用します。












ドンガラにしました。
それでも重量は10キロ近くあります(^^;

DAC化も美味しいですが、この価格ならケースとして見ても全然美味しいですね。











ブ厚いフロントパネル、頼もしいですね!

さすがはハイエンドモデル、所有する喜びが愉しめます。












さてさて、目的のDAC部です。
思った通り、当時のハイスペック20bitDACだったPCM1702が左右独立で2個搭載されています。

・・・あれ?S10なのに4DACじゃないの??
やはりCDプレーヤーとはこういった部分で差別化しているようですね。
ちょっと、寂しいかなぁ(^^;









アナログ回路はI/VアンプとバッファがuPC4570C、GIC式LPFがBA15218という構成でした。
良質な音響パーツでしっかり組まれています。

8倍デジフィルにしてはフィルムコンがやけに多いなと思いながらも、この時はあまり深く考えませんでした。











これがALPHAプロセッシングの心臓部、SM5845AFです。
SM584*というと、製造元はNPCでしょうか。

困った事にコイツのデータシートが全然見つかりません。
近い型番のものを入手しましたが、全然違い参考にすらなりません。
製造はNPCでも、設計はDENONが深く関わっている影響でしょうか。ガードも固いように感じます。

困りました。各モードの設定以前にどのピンがどの入力なのか、それすら全くわかりません。
早くも挫折の予感・・・(^^;






このCB441というコネクターにすべての信号が来ている事は確かですので、あの手この手で絞り込んでいくしかありません。
シールド線は、デリケートで高い周波数を扱っている証拠ですのでマスタークロックかな?
HCU04でバッファリングした上でSM5845に供給しているので間違いないでしょう。
何fsなのかはわかりませんが、CDプレーヤーにも搭載されている石ですので384fsってところでしょうか。
こんなノリで進めていいのか?って思いながらもデータシートが無く他に手段が無いので強行突破です(^^;

この他にSM5845に接続されている3本のうち2本がHC74に導かれています。
何かの信号の立ち上がりで何かをラッチしているようですが・・・ここが大きなヒント。
多分、LRCKをラッチしているのだろうと。
残るはBCKとDATAかな?こんな調子で実際やってみるしかないですね(^^;




接続先のこの石のデータシートも探しましたがノーヒット。

そんな中、TikさんからSM5845搭載のCDプレーヤーの回路図を頂きました。
聞けば研究室で缶詰状態だったとか、そんな忙しいなか手を差し伸べてくれて・・・ホント有難うございました!

SM5845の詳しいデータは分からないままですが、入力の問題は睨んだ通りで正解でした!
さぁ、これで音が出るはず!?








こちらで調べたピンアサインはこんな感じです。

こんな程度の事でも、データシートが無いとホント苦労するもんですね。












電源系統を調べていきます。
トランス出力で使われていない巻き線がありましたので、電圧も丁度良いのでDAI用に利用する事にしました。













空いている部分がありますので、ここを生かす事にします。














ダイオードとコンデンサ、レギュレーターを実装して5Vを生成します。

また、この基板の電源はマイコンからの信号でON/OFF制御されるようになっています。
そのため、このままトランスを接続しても電源部は動作しません。

電源部にあるM5290の10ピンとM5230の8ピンをそれぞれ開放(パターンカット)し、常時動作するようにする必要があります。








ある程度準備が整ったところで、とりあえず、実験用のPD0052を使ったDAI基板を利用して動作確認を試みる事にしました。
こういう基板が1つあると、何かと便利ですね。












こんな感じで仮配線して火を入れます!
結果はバッチリ!音出ました!

SM5845のハードウェアリセットをしっかりやらないと音が小さかったり出なかったりと動作が不安定になる傾向がありましたが、その点も対策しました。

これでバッチリ・・・と思ったのですが、なんか音が変?
高音が出ない・・・気のせい?いや、そういうレベルではないでのす。







試しに周波数特性を測定してみました。

一昔前では貧乏人には実現できなかった夢の環境が、今ではノートパソコンで容易に出来てしまいます。
ピコピコ系は大の苦手な中卒ですが、今後は逃げずに少しずつやっていこうかなと・・・(^^;











さて結果はご覧の通り、「なんじゃこりゃぁ〜」っていう・・・
慌ててCS-PCMについて調べてみると、エンファシス処理した上で放送しているんだそうで・・・。
なので、チューナーでディエンファシス処理する必要があるんですね。だからこういう特性になるわけです。

ここで心配なのは、この特性をSM5845でデジタル処理で行っているのか、それともアナログ回路で処理しているのか・・・。
前者だとしたらデータシートが無いので物凄ーく厄介です。
アナログ処理に期待して・・・



ただのI/Vアンプなのに、やたらコンデンサが多い・・・。
調べてみると、PCM1702の出力はキチンとフラットな状態で出ていましたので、このI/Vでハイカットしているようです。

良かった、アナログ回路ならなんとか出来そうです!











早速、余計な物は撤去して元々付いていたコンデンサを有効活用する方向で回路を組みなおしました。

軽く1次LPFってところでしょうか。
8倍デジタルフィルターなので、これでも充分でしょう。











その後に付いていたGICフィルタは、前段の回路の特性を折り込んだ設計ですので、中卒の私にはそこまでのセッティングはハードルが高すぎます。

GICフィルタは信号がオペアンプ等のアクティブ素子を通らないため、一般的には位相回転が少なく音質的にも優れると言われていますが、実際に聴いてみるとドライ傾向で少々キツい疲れる感じの音になるようです。
(これがALPHAプロセッシングを嫌がる人が居る理由???)
オペアンプも内部でレベルを一杯に振っていますので、今回のような電圧の低い回路ではどうなの?という疑問も出てきます。

私的にはこの回路にGICフィルタを付けるメリットが何1つ見当たらないので綺麗サッパリ撤去しました。





アクティブLPF+出力保護抵抗を利用したパッシブLPFという構成で組み直して測定した結果がコレです。

特性はもちろん、聴感上も全く問題ありません。このまま行きます!








元々、マイコンで電源制御をしていた関係で、出力のミューティングをトランジスタで行っていましたが、今回はマイコンではなくシンプルに電源トランスの1次側をON/OFFする方式に変更るため、このままではポップ音が豪快に出てしまいます。

ハイレベルな自作マニアの間では、音質劣化を理由にミューティング回路を搭載しない人が圧倒的に多いのですが、音質云々以前に周辺機器を破損させるような物はオーディオ機器として失格です。

最近ではオークション等でその手の類に手を出してしまい、大切な機器を飛ばしてしまったという話をよく聞くようになりました。

まずは何よりも安心して使える安全性を確保し、その上で音質を磨き上げる。これが大前提だと私は考えています。
ですので、ミューティング回路もしっかり仕上げますよ。




トランジスタを撤去し、リレー式に変更しました。

トランジスタをそのまま利用しても良いのですが、音質的にはリレーのほうが良い・・・というのもありますが、制御回路が簡単に済むという点に魅力を感じて搭載というのが正直なところです(^^;;











DAIはPD0052で専用に組みました。
16bitでMSBファースト後詰めなら何でも使えると思いますが、PD0052なら秋月電子で容易に入手できますし、最新のチップのようなフラットパッケージではないので変換基板の必要も無くユニバーサル基板にそのままバンバン実装してサクっと作れる点が私には魅力的な石です(^^)

入力は光と同軸の2系統、出力も活用して光と同軸を同時に出力できるようにしました。









フロントパネルの表示部、せっかくなので何か活用したいですよね。














せっかくなので、お遊びでDAI情報などをを表示できるようにしてみようかと。














サンプリング周波数の表示や入力切替回路、各LEDの駆動回路などを汎用ロジックで組みました。

この程度の内容なら1チップマイコンでカンタンに実現できるのですが、ピコピコ系が苦手な中卒の私には無理・・・
汎用ロジックで組み上げたため無駄に回路規模が大きくなってしまいました。
高校生に見られたら、鼻で笑われそうですね(^^;

高卒以上のみなさんが作る時は、ダイナミックドライブで効率的に組んだほうが良いです。








表示部も小細工して、ご覧の通りシンプルに。
まぁ、お遊びです(^^)












電源スイッチのノブは無垢削り出しでした!

元々はマイコン制御でしたのでタクトスイッチが使われていましたが、今回はAC100Vを直接ON/OFFするのでオルタネイトスイッチに付け替えます。











アルミでアングルを作って、スイッチノブのストロークを変更した上で取り付けました。














実験では1個のトランスで動作させましたが、せっかくなのでデジタル専用トランスも活用します。

LED表示部を汎用ロジックで組んだため、消費電流もバカに出来ないんです(^^;
でも、このトランスなら全然余裕ですね。
エコじゃないけど・・・











製作した各基板をシャーシに取り付けていきます。

あともう一歩!












配線完了!

それではいよいよ、火を入れます!











動作OK!苦労が報われる瞬間です(^^)

試しにCDからのデジアウトを入れてみましたがご覧の通りです。













入力切替は、RS-FFを組んで元々あったスイッチに割り当てました。
まだ2個余っていますけどね、それは必要に応じてまた考えましょうという事で(^^;












今回のこのDAC化の問題点として、ディエンファシスに対応していない点があります。
これは当初、デジタル処理で対応する予定でいたのですが、前途の通りSM5845のデータシートが入手できず使い方がわからないため今回は見送りました。

SM5845にはディエンファシス機能が付いているようですが、データシートが無い現在では確認の手段がありません。
アナログ回路で組む方法もありますが、デジタルで済むならそれに越した事は無いですし、私自身もディエンファシスを必要とする機会が無いので、今回は無しのまま進めました。

しかし、無しのままでは寂しいので、ディエンファシスを必要とする信号が入力された時は一目で確認できるようにLED表示を追加しておきました。





フタして完成です!

試しにND-S1を接続してみたところ、48KHzと表示されました。
ま、これはND-S1とPD0052の仕様ですので問題ないです。

出てくる音は、林檎のオモチャとは思えないクオリティ。
この意外性が楽しいです(^^;












試聴など


なんとか完成しましたが、ALPHAプロセッシングに拘らなければ、他のデジフィルで済ませたほうがラクでしたしディエンファシスも確実です。
しかし今回のDAC化は、できる事ならALPHAプロセッシングを生かしたまま仕上げたい、音を聴いてみたいという理由がありまして、使い方がわからないSM5845のまま強引に完成までこぎつけました。

実は以前、今回のALPHAプロセッシングの後継モデル?であるALPHA24プロセッシングを搭載したプレーヤーを所有していた事がありました。
音は、ちょっとビックリするくらい良く響く感じで最初は驚いたもんです。
なんといいますか、倍音というか余韻というか、直接音の後ろでフワっと出てくる雰囲気が、ALPHA24だとモロ前に出てくる感じ・・・。
これには驚いたり戸惑ったり・・・で結局手放してしまいました。
しかし、いざ手放してしまうと、また聴いてみたくなったりするもので(^^;
そんな事もありまして、今回仕上げてみた次第です。

さてさて、気になる音ですが、意外にも普通かな(^^;
記憶の中にあるALPHA24プロセッシングほど違和感は無いように感じます。
よくALPHAプロセッシングの高域を嫌う人がいますが、私的にはとくに気になることはありませんでした。
なかなか綺麗な音が出ていると思います。

音の傾向は、なんといいますか、ハイファイ志向といったところでしょうか。
高級機らしくレンジも広く、これといって耳につく音もないです。

一昔前のフィリップス系の石を搭載した製品とは、全く異なる傾向です。
なので、そういった音が好きな人にはALPHAプロセッシング(とくにALPHA24)は合わないのかなと思えます。
濃密なフィリップスに対してALPHAはちょっと薄いけどワイドレンジな印象・・・かな?
オペアンプの交換で、このへんの傾向は多少変わるかもしれませんが。

ちょっと辛口評価になっちゃいましたけど、この価格を考えれば(手間はもんのすんごくかかってますけどね)有り得ない音質です。
1から部品を集めて製作したら、部品だけで数万円かかりますから。

このままでも充分実用になりますが、もっと上を目指すならDCD-S10のように4DAC化するお楽しみも残されています。
SM5845には4DAC用のDATA出力端子が装備されていますので、無理なく4DAC化が可能です。
実は万が一に備えてもう1台入手してありますので、後ほどトライしてみようと思っています。

何はともあれ、これでミュージックバードのサービスが終了しても高価なチューナーがゴミにならずに済みそうです。
CS-PCMを愛用している皆さん、くれぐれも捨てないで、DAC化してお楽しみ下さい!