PHILIPS
DCC900




フィリップスの第一世代DCCデッキDCC900です。
DCCとはMDとほぼ同時期に登場したデジタル圧縮技術を用いた録音再生機です。
このあたりは、WEBで検索されますと詳しい情報がご覧になれるかと思います。

DCC900はDCCデッキとして世界で最初に発売されたものだったと記憶しています。
最初といっても、他社比でもホンの僅かな時間差でしたが(^^;
DATでいうところ世界初のアイワXD-001みたいなもんでしょうか。

光ディスクを用いるMDと違い、DCCはテープを利用しています。
カセットは専用品を使いますが、再生に関してはアナログカセットと互換性があり、アナログカセットの再生が可能という仕様です。
発売当初から、アナログカセットの再生音が良いと評判でした。

当時、オーディオフェアでMDとDCCを試聴しましたが、DCC再生の後にアナログカセットの再生(確かXK-S9000で録音したものだったと思います)をしたところ、会場内がどよめいていました(^^;
この経験から、買うほどの物ではないと決め付けて現在に至ります。

しかし、アナログカセットの再生能力の高さは見逃すわけにはいきません。
また、メーカー問わず第一世代DCCデッキの多くが録再不良のジャンク品となってオークションでも流通しておりますので、このあたりの修理解析も兼ねて1台仕入れてみました。


今回のブツはカウンターは進むけど音が出ないという、よくある定番ジャンクです。
WEBで調べますと、一部のDCCマニアの間ではヘッド磨耗が原因という事らしいですが・・・?

実はマランツのDD-92というDCCデッキも持っているのですが、中身は全くと言って良いほど同じでした。
違うのは外装くらいなもんでしょうか。
DATのアイワXD-001とソニーのDTC-1000ESの中身が全く同じだったというあの感覚です。





カセットをセットした様子です。

メカの動作は問題ありませんでした。動作がトロいのは仕様のようです(^^;
ラジカセっぽい動作音が松下を連想させてくれます・・・










そのメカの隣にあるシールドされた部分はAD/DAコンバーター関係です。













そのすぐ横にはアナログカセット用の再生イコライザ回路がありました。
オペアンプ式でNJM2068DD、ドルビーNRはCXA1330でした。












さきほどのシールド内にある基板です。

大きいほうがAD/DA関係ですが、小さいほうはよくわかりません。
サーボ関係ではないかと思われますが・・・?











AD/DA基板です。

A/Dコンバーターは旭化成のAK5326、D/AコンバーターはSAA7350でデジフィルSM5840との組み合わせです。










この基板の役割はよくわかりませんが、「A-SIDE」とか「B-SIDE」って印刷してあるのでサーボ関係でしょうか。
チップのほとんどはフィリプス製です。











うぎゃぁぁぁ!!
漏れまくりです!
しかも、パターンがかなり痛んでいます・・・!











スルーホールを介して裏面にまで被害が及んでいました。
ひどいもんだ・・・大丈夫かな・・・?

年数からして当然の結果ではありますけどね。
一刻も早く手を打つ必要があります。









まずは失禁コンデンサの撤去からはじめます。













キレイにはがして掃除して予備ハンダを行います。













在庫のリード線のコンデンサに交換しました。
一部高さの関係で寝かせました。












さぁ、次はいよいよメカを始めます!
一見、複雑そうですが整備性は良好で時代の流れを感じさせてくれます。












ひっくり返してみると・・・













ココにも失禁ちゃんが大量に!!

恐らくこの基板はRF関係の処理をしていると思われます。
ヘッドからの信号をモロに扱いますので、この状況は致命的です。










早速、取り出して修復開始です。













かなり酷い状況です。
パターンが切れていなければ良いのですが・・・












さきほどの基板よりも本数が多いので、被害も広範囲で酷いです。
とりあえず、やるしかないですね。












全部剥がして、漏れた電解液は極力取り除きます。













リード線のコンデンサに交換して完了です。












厄介な所が終わったので、あとは落ち着いていつも通りの作業です。

メカはとってもシンプルですね。
まるでラジカセ(^^;
本格3ヘッドデッキのように基本性能を徹底的に磨き上げるような事は必要ないという事でしょうか。
まぁ、所詮は圧縮デジタル機器ですから・・・ねぇ(^^;







アナログカセットとDCCとではテープ速度が違うため、倍速ダブルデッキに使われている物と同じ2スピードタイプのDCキャプスタンモーターが使われていました。

って書くと物知り君みたいですが、最初コレ見た時はなんで2スピード?って思いました。
仕様を調べて、ああ、そういう事かと(^^;









バラバラにしてアナログカセット同様のメンテナンスを行います。

ヘッドまわりがちょっと違うだけで、普通のカセットですね(^^)











バラして清掃給油で、メインベルトを交換しておきました。
シンプルゆえに、トラブルも少なく耐久性も高いようです。
合理的といえばそうでしょうかね。










ピンチローラーもキレイにしてグリップ復活処理を行いました。
新品ですと言ってもバレないでしょ(^^)












特殊な形状の薄膜ヘッド。
このへんだけはダイキャストでしっかり作られています。
ちょっと救われたような気持ちです(^^;

オートリバースなので、回転ヘッド機構です。










その回転機構です。
アナログカセットと違い、ヘッドからの配線も大量になるためフレキケーブルでRF基板に接続されています。

このあたりの扱いには注意が必要です。








メカのメンテが完了しました。














メイン基板の裏面です。

もちろん、ハンダ修正を行います。
古い機械ですからね、必須作業です。










例のプラグイン基板の端子や入出力端子の根元は忘れずに強化しましょう。













作業完了!ドキドキの動作確認です。

何も問題ありません。キレイに録再できるようになりました(^^)
いやぁ〜、あの基板の腐食を見た時は半分諦めましたが、良かったです。








正直、この情報を公開すべきかどうかはずいぶん悩みました。
上記のような簡単なメンテナンスを施さなくても奇跡的に動作していて、いつ壊れてもおかしくない余命あと僅かなジャンク品がオークション等で「完全動作品」として高値で取引されているようです。
そういった物に手を出して満足していた人にとっては認めたくない衝撃的な事実でもありますし、また美味しい所だけ持っていこうとする修理業者にとってはこれを利用しない手は無いのではないでしょうか。

しかし、DCCそのものの需要も少なく、珍しいという事以外に魅力は・・・ですので公開に踏み切りました。
もし、オークション等で上記作業を施したというブツを入手したならば、ハンダ付け等の作業が丁寧に正しく行われているか確認して下さい。
面実装コンデンサの交換は、素人さんですと(私も素人ですけどね)パターンを痛め易いです。
いや、最近はプロのほうが絶望的な作業をするようですので、必要以上にプロである事をアピールしている業者は要注意です。
パターンの拡大画像を載せたのは、そのあたりの仕上がり具合の判断が出来るようにするためです。

パターンの剥がれが無く、ハンダ付けも艶つやなら合格レベルといったところでしょうかね。



これがDCCカセットです。
ホコリの混入を防ぐため、シャッターが付いています。

このDCCテープ、非常に高価でしかも現在は販売も終了しております。
とても貴重?なテープという事になるのでしょうか。
このテープが無いとDCC録再が出来ません。







そこで、アナログカセット(ハイポジ)にDCC記録が出来るかどうか実験しました。
コレ、ユーザーなら一度はやってみたいはず(^^;

やり方は簡単。アナログカセットをセットしてもDCCカセットとして認識させれば良いわけです。
昔、VHSテープにS-VHS記録なんていうのが流行りましたが、アレと同じ手法です。

ただ、カセットに加工するのは面倒なので、ハード側で対処しました。
とりあえず、この部分のコネクターを抜けばなんでもかんでもDCCテープです(^^;






結果はNGでした・・・(^^;
カウンターは進むのですが音は全然出てきませんでした。
やはり、専用の真空蒸着で製造された細かい磁性体のテープでないとDCC記録は難しいようです。

そのテープをアナログデッキで再生してみると、デジタルっぽい音が録音されてましたよ(^^;







オチャメな実験をしたりと遊びましたが作業完了です。













センターメカですが操作ボタンは小さめです。
まぁ、この手のオモチャは操作感を楽しむ(?!)ような物ではありませんから、動けがイイって感じでしょうか。











頭出し信号も打ち込めるようになっています。
このあたりはDATからの流れを受け継いでいるのでしょうね。












録音ボリウムツマミが大きく、録音機である事をアピールしていますが、大半のユーザーはCDのデジタルコピーで使っていたのではないでしょうか。

ちょっと面白いのは、入力切替スイッチに「AUTO」がある事。
AUTOにしておいてアナログ/デジタル(光/同軸)いずれかに信号を入れておくと、入力されている信号を検出して自動で切り替えてくれます。
便利なような・・・無意味なような・・・(^^;







番外編として、パナのRS-DC10も紹介しておきましょう。

精悍なブラックフェイスにサイドウッド、ゴージャスなオーディオ機器って感じですが、よーく見るとDCC900とパネルレイアウトはまったく同じです。










底面にはパナお得意の飾りの樹脂ベースが付いています。
性能的に意味は無いです。
加重に対する強度不足で足付近が割れるといったトラブルを多く見ています。
なんでこんな事したんだろ???
バブルの名残?









中身はDCC900と全く同じですね。
説明するほどではないです。












天板には防振用のゴムが貼り付けてありました。
ここまでやるなら、底面のプラスちっくベースは止めて欲しかったなぁ。












DCC900に付いていた「AUTO」モードは付いていません。

うん、これぞ正統派!!

ざっと違いはこんなところでしょうか。









軽くインプレ


まず、DCC録音再生に関しての音質は、省略させて頂きますね。
え?何故かって?
まぁ、このあたりは人それぞれ好みの問題になるかと思いますが、個人的には圧縮音源の音には興味が無いんです。
テープ記録で使える音を得たいならDATがあるでしょ。メディアもずっと安いし現在も供給されてますから、それで十分。
DCCなんて高額で入手難なテープメディアで圧縮音源を楽しむなんて、珍しい事以外にメリットは全く無いと思っています。

でも、アナログカセット再生には興味がありますね(^^)
歴史あるアナログカセット史上で最も新しいとされる機器でどんな音を聴かせてくれるのか?!

アナログ再生音質は、スッキリ系でちょっと軽めといったところでしょうか。
キレイな音ですね。無理に欲張っていないためでしょうか、無難なカセットの音です。
けっこう素直だと思います。S/Nも良好。ワウは、まぁまぁかな。
なんとなく、ビクターのTD-V931っぽい音でしょうか。
この再生音をデジタル出力に変換して出してくれるのも良いですね。
ヘタなPCでA/D変換するよりずっと良い音です。

操作感は、ラジカセですね(^^;
間違っても、オーディオ機器ではないです。
あ、でも、松下デッキって最高級機もみんなこんな感じでしたよね。
昔の松下ビデオデッキに搭載された「新快速メカ」のようなコンセプトをオーディオ機器にも生かして欲しかったなぁ。

いろいろいじくって、ちょっと意外だったのはヘッドアジマス。
アナログテープ再生ではヘッドアジマスの影響は音にハッキリ現れますが、DCC再生の場合は派手に外しても問題なく再生してしまいます。
オートリバースゆえにヘッドアジマスのズレによる互換性も十分検討された機器だという証ですね。

機器としての存在意義とでもいいましょうか。そういう点では大失敗なDCCでしたが、地味に凄い技術がぎゅっと詰まった機器である事は間違いないです。

せめてテープが容易に入手できれば・・・もっと遊べただけに残念です!