<冬>神話原稿(旧作)

スパルタ国には、レダという美しい王妃がいました

レダはその美しさから恋多き神、ゼウスの目に止まり、白鳥の姿に化けたゼウスによって二つの卵を産み落としました

片方の卵からはカストル
もう片方の卵からはポルックス

カストルはスパルタ国王の子で人間でしたが、ポルックスはゼウスの血を引く神の子でした

カストルとポルックスは共に勇敢で仲のいい双子でした

ポルックス「カストル兄さん!今日はあっちの山まで競争だ!」

カストル「あぁ!ポルックスには負けないぞ!」

兄のカストルは頭が良く、馬の扱いも長けていました
弟のポルックスは一人で一軍に匹敵(ひってき)するといわれる優れた格闘の腕を持っていました

ポルックス「なぁカストル兄さん、俺たちは双子だから何があってもずっと一緒だよな?」

カストル「当たり前だろう?俺たちは双子だぞ?産まれたのが一緒だったんだ、きっと死ぬ時だって一緒さ!」

カストルとポルックスには同じような境遇の双子の従兄弟がいました。彼らの名はイダスとリンケウス

ある時、カストルとポルックスはこの二人に卑怯な手を使われ、平等に分ける予定だった牛たちを全部持っていかれてしまったのです

彼らは激しい口論となり、殺し合いにまで発展してしまいました

リンケウス「死ね!カストル!!」

カストル「ぐっ!ぁあああ!!」

カストルはリンケウスの放った矢によって心臓を射抜かれて死んでしまいました

ポルックス「カス、トル...?カストルッ!!」

怒りが頂点に達したポルックスはリンケウスを一撃で倒しました

そのスキを見たイダスは大きな岩をポルックスに投げつけ、岩が頭に当たったポルックスは気絶してしまいました

気絶している間に止めを刺そうとしたイダスでしたが、天から降ってきた雷の剣(つるぎ)に撃たれ、イダスは死んでしまいました

ポルックスが目を覚ました時、そこは天界でした

ポルックス「ここは一体...なぜ僕は生きているんだ...」

ゼウス「お前が生きているのは、お前が私の息子だからだ」

ポルックス「誰だっ?!」

突然聞こえた声に驚き、ポルックスは拳をかまえました

ゼウス「我が名はゼウス。神の王。そしてお前の父親だ」

ポルックス「なっ、僕の...父親?」

ゼウス「さよう、カストルは違うがお前は私の息子、不死身の力を持った神の子だ」

ポルックスはゼウスに自分の出生(しゅっしょう)の秘密を聞き、完全に神になり天界で暮らすように言われました

しかしポルックスは

ポルックス「産まれるのも生きるのも、果てには死ぬのも共にとと誓ったんです!」

その思いを聞いたゼウスは胸を打たれ、カストルを生き返らせてやろうと思いました

そこでゼウスは死の国を治めるハデスを呼びつけ、双子のことを話し、こう切り出しました

ゼウス「ハデスよ、どうにかしてカストルを生き返らせることはできないのか」

ハデス「ゼウス様、神ならともかくただの人間を生き返らせることがどれほどのことかご存知のはずでしょう」

ゼウス「私はポルックスの兄弟愛に胸を打たれた。お前しかカストルを生き返らせることはできないのだ」

ハデス「王たるゼウス様の願いならば叶えたいと思いますが、無条件では生き返らせることはできません」

ゼウス「では、ポルックスの命を半分カストルに与えるならばどうだろうか」

ハデス「わかりました、では彼らは一年の半分を共に地底で、もう半分を天界で暮らすことにいたしましょう」

この条件が、ハデスにとってカストルを生き返らせることの最大限の譲歩だったのです

ゼウスはその条件に納得し、ハデスは約束通りポルックスの命を半分、カストルに与え、生き返らせやりました

そしてゼウスはもう一つ、カストルとポルックスにプレゼントしました

普通、人間が星座になることはほぼ無いのですが、ゼウスはもう二度と二人が離れ離れにならないように、仲良く隣り合わせの星座として、空に昇らせたそうです



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