<春>神話原稿(旧作)
おとめ座の女神デーメテールは、地上に春を招き、色とりどりの花を咲かせ、緑の葉を茂らせてくれる神様でした。
ある日のことです。地の底に沈んだ国を治める、使者の神、ハデスが姿を現し、いきなりこんなことを言い出したのです。
★ハデス「デーメテールの女神よ。私もそろそろ、嫁が欲しくなった。ついては、あなたの娘、ペルセポネを貰い受けたいと思ってのう。」
★女神「あの子を嫁にですって!」
★ハデス「そうじゃ。地の底でゆっくり一緒に暮らしたいと思うてのう。」
★女神「あなたは何ていうことを!」
デーメテールの娘、ペルセポネは、神々の間でも評判の美しさで、人気を集めていました。
★女神「ダメです!誰がなんと言おうと、あなたには渡しません!」
★ハデス「(不気味な笑い)これはこれは、ずいぶん嫌われたものだ。それほどまでに言うのなら、仕方あるまい。私にも覚悟というものがある。」
★女神「・・・何をなさるつもりですか?」
★ハデス「デーメテールよ、私は欲しいと思ったものは必ず手に入れる。
それが私の生き方。誰にも邪魔はさせぬ。(不気味に笑う)」
♪波の音
それから何日かたったある日のことです。ペルセポネは、まわりに気をつけながら、大好きな春の花を摘んでいました。
★ペルセポネ「まぁ、あんなところに、きれいな水仙!」
ペルセポネは思わず、水仙の方にかけ寄ろうとしました。その時です!
♪大きな地鳴り
ハデスが大地を真っ二つに割りました。
★ペルセポネ「キャーーー!お母さま、お母さまぁー!」
★ハデス「(笑う)」
ペルセポネはあっという間に、地の底へ吸い込まれていってしまいました。
ペルセポネが地の底に連れ去られたことを知ったデーメテールは
★女神「ペルセポネ・・・(泣き声)」
とても悲しみ何も手につきません。花を咲かせることも、明るい光をかざすことも、みんな投げ出して、とうとう神殿の奥深く、ピタリと扉を閉ざしてとじこもってしまいました。
★神1「このままでは、みんな死んでしまう・・・」
★神2「なんとかして女神デーメテールに出てきていただかなくては・・・」
春のない冬の世界、それは死の国も同然です。
そこで、大神ゼウスにお願いをしてみることになりました。
★神1「ゼウス様、どうにかしていただけないでしょうか・・・」
★ゼウス「よろしいだろう。
おいハデスよ、ペルセポネを開放しなさい」
大神ゼウスのお申し付けとあっては、やむをえません。
ペルセポネが帰ってくることを知ったデーメテールは、
★女神「なんといういい知らせでしょう!
あの子が帰ってきてくれれば、私は地上に春の花を咲かせることができます。」
とても嬉しそうです。
ところが、一筋縄でいかないハデスが、別れ際のペルセポネを呼び止め、手にしたザクロの実を食べてゆくように命じたのです。
★ペルセポネ「どうしてこんなものを?」
★ハデス「いいから食べなさい。」
ザクロの実は全部で4つ。
ペルセポネは迷いましたが、断ってハデスの気持ちが変わってはと思い、4つとも全部食べてしまいました。
★ハデス「(笑う)」
帰ってきたペルセポネにこの話を聞いたデーメテールは、ガックリ肩を落として言いました。
★女神「あのザクロは、ハデスがお前をしばるためのもの。
4つ食べたとあれば、1年のうちの4ヶ月はハデスのもとに、またとらわれの身とならねばならない。」
★ペルセポネ「お母さま、あぁ・・・何ということを・・・」
ペルセポネのいない4ヶ月、女神デーメテールはまた姿を消してしまい、暗く寒い毎日が続くようになり、このため冬の季節ができたと言われています。