<夏>神話原稿
(効果音)トントン・・・
(織り姫の鼻歌)
天の川の東の岸から、調子のよい機織り機の音とそれにあわせた楽しそうな歌声が聞こえてきます。
織姫がはたをおりながら、歌っているのです。
織姫は、天の神様の娘で、はたをおり、神様たちへ捧げる着物を作るのが仕事です。
織姫の作る着物は神様の間でも評判でした。
神1「いやあ、おりひめのおる布の美しいこと。」
神2「それに、あのこは、まれにみる働き者ですよ。」
神1「本当にいいむすめだ。」
と神様たちは褒め称えています。
働き者の織姫のことを、織姫のお父さんもたいそうかわいがっていました。
父「織姫、おまえは働き者じゃのう。じゃが、まだ若いのじゃから、化粧をしたり、髪をかざったりもしたいであろう。」
しかし織姫の答えはこうでした。
織姫「いいえ、お父様。わたくしは、はたをおってさえいれば幸せなのでございます。ほかにのぞみはございません。」
父「いいこだ。しかし、一日中はたをおっているだけというのもかわいそうだ。そうじゃ、あの子に婿をむかえてやろう。そうすればあの子も、はたをおるよりもっと幸せなことがあると、わかるじゃろう。」
織り姫のお父さんは早速、だれかいい若者はいないものかと探し、見つけたのが、天の川の西の岸で天の牛をかっている、彦星という若者でした。
こうして、ふたりは結婚し、くらすようになったのです。
でも、なかがよすぎるのも困りものでした。
彦星「今日は、水遊びをしよう。」
織姫「ええ。」
ふたりはもう、毎日が楽しくてたまりません。
一日中、遊んでばかり・・・
織姫は、はたをおるのをすっかり忘れてしまい、彦星も、天の牛の世話をするのをなまけました。
とある神様が、
神1「私の着ものはまだおれませんか?今着ているのは、もうこんなにすりきれてしまったんですよ。」
と言っても織姫はやはり彦星に夢中です。
向こうの神様が、
神2「天の牛たちの汚くなってしまったこと・・・。あのままでは、病気になってしまいます。」
そう呼びかけても彦星は織姫ばかりを見つめています。
見かねた織り姫のお父さんは二人に言いました。
父「二人とも、仲良くするのもよいが、そろそろ仕事にかかったらどうじゃな。」
織姫「はい、お父様。明日からかかりますわ。」
彦星「ええ、明日は天の川で、牛たちを洗ってやりましょう。」
ところが、その明日になっても、二人はさっぱり働くようすがありません。
いつまでまっても、織姫ははたをおらず、彦星も、牛の世話をしないのです。
あまりのことに、織姫のお父さんも、すっかり腹を立ててしまいました。
そして、とうとうある日のこと・・・
父「二人とも、毎日遊んでばかりいて、仕事をしないとは、なんたることじゃ!もう二人いっしょにくらすことは許さぬ。もとどおり、天の川の西と東に別れるがよい!」
織姫「別れるなんて!そ、そればかりはお許し下さい。」
彦星「これからは、けっして仕事をなまけたりしませんから・・・」
けれど織り姫のお父さんが二人の言葉を信じることはありませんでした。
父「いや、ならぬ。今すぐ別れるがよい!」
こうして、仲のよい二人は、天の川をはさんで、離れ離れにされてしまったのです。
二人は悲しみ、そして遊んでばかりいた自分を反省しました。
しかし大好きな彦星との別れがあまりに辛かったのでしょう。
来る日も来る日も、織姫はしとしと泣くのです。
父「おまえは、そんなに彦星に会いたいのか。」
織姫「はい・・・会いたいです・・・」
二人が仕事をせずに遊んだことをお父さんは許せませんでした。
けれど、織姫があんまり悲しそうにしているのを見ると、お父さんも少し可哀想に思えてきたのです。
織姫にある条件を与えることにしました。
父「それなら、一年に一度、七月七日の夜だけ会ってもよろしい(会うことを許そう)。」
織姫「まあ、お父様、本当ですか!」
それからは、その一年に一度の会う日だけを楽しみに、織姫は、毎日毎日一生懸命はたをおりました。
天の川のむこう岸の彦星も、天の牛をかう仕事にせいを出しました。
そして、待ちに待った七月七日がやってくると、織姫は、夜になるのをまちかねて、天の川をわたり、彦星のところへとんでいくのです。
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