神話原稿<春>

ときは黄金時代。まだ地球に季節というものがなかったときのことです。世界は一年中、春のような気候でした。
そのころの人間界では人間同士はもちろん、動物も植物も、そして神々たちもがみな分けへだてなく、仲良く暮らしていました。
そんな人間界で暮らす神々のなかに女神アストレアがいました。
アストレアは天秤を使って「善」と「悪」の判断をするのが仕事です。

(鳥のさえずり)

人1「お腹がいっぱいで気持ちがいいな」

人2「(あくび)眠くなってきたよ」

アス「よろしければ、一緒にお昼寝をしませんか」

人1「あ!女神様!それはいいですね」

人2「ぜひ、一緒にお昼寝をしましょう」

(鳥のさえずり)

人々も神々もみな仲良く暮らしていたので、アストレアが天秤を使うことはありませんでした。

しかし、そんな黄金時代はやがて銀の時代へと移り変わるときがきました。
銀の時代では4つの季節ができ、寒くてこごえる冬や、うだるように暑い夏がやってくるようになりました。
人々は畑を耕して作物を作り、季節の変化に備えるようになったのです。
その頃から、貧富の差が生じ、ほかの人のものを盗む者が現れました。

人1「あ!うちの麦がぬすまれてる!あなたがぬすんだんでしょ!」

人2「違う!私はやってない!」

人3「君たち醜い争いをするんじゃない!」

人1「うるさいわね。もしかして、あなたがやったんじゃないの」

人3「おまえの麦なんて誰も盗まねぇよ」

(効果音:喧嘩風)

そんな争いが各地で頻発していました。
その姿を見た神々は

神1「あぁ、呆れたものだ。奪い合うことしかできないのだろうか。」

神2「争いはなにもうまないというのに。」

と、呆れて天界へ戻ってしまったのです
けれど、アストレアだけは違いました。人間に正義や平和、善悪について説き続けたのです。

ア「人間界のみなさん。争いではなにも解決しません。話し合い、相手の立場に立って考えましょう」

人1「そうだ!そうだ!お前たちも私の話をちゃんと聞け!」

人2「なに言ってんだ!お前が最初にわがままを言ったからだろう」

人1「なんだとー」

人2「ふざけるな!」

人3「おいおい!悪いやつはどいつだ!おれがたたきつぶしてやるぞ。」

人間たちはアストレアの話に耳を傾けず、武器を作って戦争を始めました。
これが銅の時代です。

(効果音:合戦→爆撃)

さすがのアストレアも限界でした。人間に正義を説くことが無駄だと気づいてしまったのです。

アストレアは、

ア「この世に黄金の時代が戻るまで、二度と私が地上に降り立つことはないでしょう。」

といい残し、白い翼を羽ばたかせて天界へと駆け上がり、おとめ座になりました。
その時アストレアの天秤はてんびん座になりました。

残された人間は、善悪の判断を失い、強い者が自分の都合のいいように決めた勝手な正義にしたがって生きなければならなくなったのです。




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