ファミリー版 キリスト教 P 付1-5 (その歴史と思想)
参考文献 竹下節子:キリスト教 日本聖書協会:聖書・新共同訳  山形孝夫: 図説・聖書物語(旧約篇、新約篇) 河合龍雄: 図説・イエス・キリスト 挽地茂男: 図解雑学・キリスト教 (付1)旧約聖書D (諸書) ジェフリー・バラグラフ:図説・キリスト教文化史(T・U・V)
日本キリスト教団出版局:新共同訳・聖書事典 ほか
諸書は紀元前2000年頃から1世紀にかけてユダヤ教の会堂において「律法」「予言」の書の正典に付け加えられた諸文書ですが、諸雑書ではなくて、人生 の明暗をバリエーション豊かに映し出している知恵の書といわれ、ここには神の愛と信仰と希望に生きた人々の確かな足跡がみられます。

*1、ハレルヤ (Hallelujah) Halleluは、「ほめる」 で神をほめたたえよ= 主を賛美せよ の意味 で、喜びや感謝を表し 祈りや賛美の初めと 終わりに用いられて きました *2知恵文学 ここでの「知恵」とは 学問、知識を積み重ね ただけのものでなく、 人生の真実を悟り、物 事の本質を理解する能 力のことで、愚者の言 葉に対して賢者の言葉 を意味し、賢者の言葉 には神の意志や知識が 隠されているという思 想が背景にあります。 知恵文学はこういっ た「知恵」を格言やこと わざ、教訓詩などを用 いて、人生や社会の諸 問題を教えようとする 文学で「ヨブ記」「箴言」 「伝道の書」「詩篇」など の作品です *3、サタン 「悪魔」をさします。 神に敵対し、神の計画 を妨害し、民を誘惑し て反逆へ導く存在。 旧約聖書では神に仕 え、神の前で人間の罪 を告発する役割を果た していますが、のちに 誘惑者として登場しま す。 新約聖書では悪霊た ちの首領であり、人を 誘惑するだけでなく、 神の業を妨害しますが 、最後の時には滅びま す。 *4、ギレアド ヨルダン川東の地域、 牧草が豊富で牧畜が盛 んに行われ乳香も産出 しました *5、黙示文学 黙示とは「宇宙の万物 に関する隠された秘密 が象徴的に説き明かさ れること」で 「啓示する」とか「ひら き示す」とも訳されま す。 ここでいう「秘密」と は天上界の出来事を指 しますが、その内容は この世の終末、この世 の終わりがいつ、どの ようにやってくるのか 、そのとき人間はどう なるのか・・・・・といっ たこの世の出来事が中 心です。 黙示文学はこの世の 終わりの破局を宇宙的 なイメージを使って描 き出し、絵画的効果を 引き出すことを目的と したもので、旧約聖書 のダニエル書、新約聖 書のヨハネ黙示録、マ ルコ福音書の13章がそ の系列に加えられます


<諸 書>

『詩 篇』

  ヘブライ語では「テヒリーム」(賛美の歌)と呼ばれています。
 賛歌、嘆き、信頼、知恵、巡礼歌、感謝の歌など多岐にわたっていますが、時代と
 民族を超えて、広く人々の心にある永遠の平和を求める思いに、勇気と慰めを
 与えて来たヘブライ文学の最頂点を示しているといわれます。

 ー賛美の歌ー
  「ハレルヤ(*1)・・・・・113章の1〜3
   主のしもべたちよ、主を賛美せよ
    主の御名を賛美せよ。
   今よりとこしえに
    主の御名がたたえられるように。
   日の昇るところから日の沈むところまで
    主の御名が賛美されますように。」        
 
 ー感謝の歌ー<ダビデの詩>・・・・・30章の12・13
  「主よ、あなたはわたしの嘆きを踊りに変え、
   粗布を脱がせ、喜びを帯として下さいました。
   わたしの魂があなたをほめ歌い、沈黙すること
   のないようにしてくださいました。
   わたしの神よ、主よ、
   とこしえにあなたに感謝をささげます。」

 ー嘆きの歌ー<ダビデの詩>・・・・・13章の2〜4
  「いつまで主よ、わたしを忘れておられるのか。
   いつまで、御顔をわたしから隠しておられるのか。
   いつまで、わたしの魂は思い煩い
        日々の嘆きが心を去らないのか 
   いつまで、敵はわたしに向かって誇るのか。」

 ー神信頼の歌ー<ダビデの詩>・・・・・23章の1〜4
  「主は羊飼い、わたしには何も欠けることがない。
   主はわたしを青草の原に休ませ、憩いの水のほとりに
   伴い、魂を生き返らせてくれる。
   主は御名にふさわしく、わたしを正しい道に導かれる。
   死の陰の谷を行くときも、わたしは災いを恐れない。
   あなたはわたしと共にいてくださる。
   あなたの鞭、あなたの杖、それが私を力づける。
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・   」
      
『ヨブ記』

  主人公のヨブは実在かどうか不明ですが、ヨブ記はバビロン捕囚後の紀元
 前5世紀頃、学識高く信仰のあついユダヤ人によって書かれたものと考えら
 れています。
  ヨブ記は旧約聖書中の知恵文学(*2)の一つで、人が何の理由も無く苦しま
 なければならないことが、何故あるのかをテーマとして、プロローグ(1〜2章)
 ・対話編(3章〜42章の6)・終曲(42章の7〜27)の三大部分から構成されていま
 す。

  ヨブは非の打ちどころのない正義の人でしたが、サタン(*3)の試みにあい、
 すべての財産、家庭及び健康を失い、自己の生を呪います。
  
  「やがてヨブは口を開き、自分の生まれた日を呪って言った
   “わたしの生まれた日は消えうせよ。
     男の子をみごもったことを告げた夜も。
     その日は闇となれ。
     神が上から顧みることなく、光もこれを輝かすな。”・・・・・」・・・・・3章の3・4
                                        
  これに対してヨブの友人たちはかれの不幸が罪の結果であり、彼に悔い改
 めを忠告する。

  「あなたが神を捜し求め、全能者に憐れみ乞うなら、
   またあなたが潔白な正しい人であるなら、
   神は必ずあなたを顧み、あなたの権利を認めて、
   あなたの家を元どおりにしてくださる。・・・・・・・」・・・・・8章の5・6

  しかしヨブは友人の応報観に根ざした常識的な説得にいっそう苦悩し、神
 の義−正しさ−がどこにあるかを模索し、これまで主張していた人間の正し
 さを放棄し、神の前にひざまづきました。

  「ヨブは主に答えて言った
   “あなたは全能であり、おぼしめしの成就を妨げることは出来ない
     ことを悟りました。
              ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
     あなたのことを耳にしてはおりました。
     しかし今、この目であなたを仰ぎ見ます。
     それゆえ、わたしは塵と灰の上に伏し、
     自分を退け、悔い改めます。”」・・・・・42章の1〜6

  このような苦悩は国を追われ離散した民ユダヤ人のそれを反映するものと
 されます。
     
『箴 言(しんげん)』
 
  人生の目的は何であるか、それは如何に追求すべきか、について実際生活上
 の「教え」を述べた格言集です。

  ー知恵のすすめ・父の諭しー
     生きていくための知恵を得るための父が子に与えた戒めの言葉が中心
     です。
      「・・・・・曲がった言葉をあなたの口から退け、ひねくれた言葉を
       唇から遠ざけよ。・・・・・・・・・・」・・・・・4章の24

  ーソロモンの格言集ー
     箴言の中心部で375個の格言から成っています。
      「憎しみはいさかいを引き起こす。愛はすべての罪を覆う。」・・・・・10章の12

  ー知恵ある者の教訓ー
     30に区分される勧告とその付録で古代エジプトの知恵文学「アメンエ
     ムオペトの教訓」との関係が指摘されています。
      「名誉は多くの富より望ましく、品位は金銀にまさる。」・・・・・22章の1

  ーソロモンの箴言(補遺)ー
     前半は節制の勧告、後半は二行対句の格言集です。
      「貪欲な者は財産を得ようと焦る。やって来るのが欠乏だとは知らな
       い。」・・・・・28章の22

  ーアグルの格言ー
     前半は人間の弱さを説き、後半は数を利用した格言です。
      「飽き足りれば裏切り、主など何者かというおそれがあります。
        貧しければ盗みを働き、わたしは神の御名を汚しかねません。」
                                             ・・・・・30章の9
  ーレムエルの格言ー
     レムエル王の母が王に教えた節制と寛容に関する諭しと、有能な妻に
     関する詩です。
        「彼女は生涯の日々、夫に幸いはもたらすが、災いはもたらさない」
                                             ・・・・・31章の12
『雅 歌』

  ヘブライ語では「歌の(中の)歌」と訳され最も素晴らしい歌を意味していて
 内容は恋愛歌です。
  花嫁、花婿の美しさを賛美するものとして、イスラエルの結婚式などで歌わ
 れます。
   4-1若者の歌・・・・・4章の1
       「恋人よ、あなたは美しい。
        あなたは美しく、その目は鳩のよう。
        ベールの奥にひそんでいる髪は、
        ギレアド(*4)の山をかける山羊の群れ。」

『ルツ記』

  内容は異国で夫と息子を失ったナオミが故国ユダに戻り、同行したモアブ
 人の嫁ルツをとおして、新たに息子たちを与えられ、将来のダビデ王朝の礎
 を築く物語で、民族の枠組みを超えた神の救いの豊かさが全体の基調となっ
 ています。

『哀 歌』

  五つの詩歌から成り、エルサレムの都の陥落と神殿が破壊されたことを嘆
 く歌と、その苦しみに耐え忍んだ民衆の歌を含み、単なる嘆きの歌にとどま
 らず、苦難から学んだ信仰の教訓が含まれています。
  回復の未来はまだ見えてないけれど、人々は神の言葉にそむいた自らを分
 析し、苦悶のうちに悔い改めて、神を信頼する信仰を告白します。
     「主よ、御もとに立ち帰らせて下さい。
      わたしたちは立ち帰ります。
      わたしたちの日々を新しくして
      昔のようにして下さい。」・・・・・5章の21

『伝道の書(コヘレトの言葉)」
  
  紀元前250年頃に作られたもので
     「なんという空しさ、すべては空しい」 という有名な言葉にはじまって
 います。
  一切は空しいということが根底にありますが、神は全世界を創造され、その
 美しさを否定するのではないが、創造世界の矛盾や悪いと思われるも限りな
 くあり、それらのすべてのことを含めて、人智で計り知れない神の知恵とい
 つくしみを忘れてはならないことを述べています。
     「“神を畏れ、その戒めを守れ” これこそ人間のすべて、
      神は善をも悪をも、 一切の業を隠れたことも、すべて
      裁きの座に引き出されるであろう」 ・・・・・終章

『エステル記』
   
   ペルシャに滞在しているディアスポラ(離散)のユダヤ人によって、紀元前
  3世紀頃作られたものと考えられています。
   ペルシャ王妃となったバビロン捕囚の民、ユダヤ人のモルデカイの養女エ
  ステルが、ユダヤ人絶滅を実行しようとした王につぐ第二の権力者となっ
 たハマンの計画を酒宴の席で暴露し、ハマンを失脚させ、ユダヤ人の迫害は
 取り消され、さらに王の命令でユダヤ人には仇敵を征伐する許可もおり、や
 っとペルシャ諸州に住むユダヤ人に休息の日が訪れるようになりました。
      「・・・・・ユダヤ人モルデカイはクセルクセス王に次ぐ地位に
       ついたからである。ユダヤ人には仰がれ、多くの兄弟たちに
       愛されて、彼はその民の幸福を追い求め、そのすべての子孫
       に平和を約束した。」・・・・・終章

『ダニエル書』
 
   背景はバビロン捕囚時代の紀元前6世紀にさかのぼります。
   内容は二部に分かれ、前半(1〜6章)はバビロンに強制連行された青年貴族
  ダニエルが異郷の地にあってヤハウェ信仰を失わず、激しい迫害の嵐の中を
  勇敢に生き抜いていく話、義人(神の前で正しいとされる人)ダニエルの信仰
  の戦いが主題です。後半部分(7〜12章)はダニエルの見た幻の描写が中心で
  ダニエル書が予言の書というよりも黙示文学(*5)であるといわれるのは、こ
  の部分によろものです。 
   ダニエル書にはダニエルの見た不思議な現象や幻が次から次へと出てきま
  す。        
   
『エズラ記、ネヘミヤ記』

   エズラ記、ネヘミヤ記は元来一つの書物で、これが分かれたのは中世以降で
  すが、内容的にも一体をなしており、バビロニアの捕囚からのユダヤ帰還、神
  殿再建後におけるエルサレムを中心とする、ユダヤ人民族共同体の再建を描
  いています。
   両書は大きく二つの部分に分けられますが、第一部(エズラ記1〜6章)では
  バビロン捕囚からの帰還と神殿の再建、第二部(エズラ記7章〜ネヘミヤ記13
  章)はエズラとネヘミヤによる共同体の形成が描かれています。

『歴代志』

   歴代志上・下はアダムからバビロン捕囚の帰還までを扱う歴史書で内容は
 大きく四つに分かれます。
    
   (1)アダムからサウルまでの系図
       ここではダビデとレビ人の系図に特に関心が持たれています。
  
  (2)ダビデの歴史
       サウルの死を伝え、王国存立の危機到来を述べ、ダビデの台頭、
      ダビデ支配の誕生、エルサレムを都とするダビデの「全イスラエ
      ル王国」の確立を描き、ダビデからソロモンへの王位継承の物語
      へと続きます。
  
   (3)ソロモンの物語
       智恵と富に恵まれたソロモンによる神殿建築完成を描き、神殿
      建築については特に「ダビデが計画を準備し、ソロモンが完成し
      た」という世紀の大事業に、偉大なる才智にすぐれ賢明な君主の
      協力が強調されています。

   (4)南王国ユダの歴史とバビロン捕囚まで
      王国の分裂とユダ王国の歴史が扱われ、大部分の物語は、列王記
     には記述されない歴史をとり扱っています。   
    
  
旧約聖書の舞台
バビロン川のほとりで〜バビロン捕囚の歌(詩篇137篇)
バビロンの流れのほとりに座り シオン(註 エルサレムを指します)を思って、わたしたちは泣いた 竪琴は、ほとりの柳の木々に掛けた わたしたちを捕囚にした民が 歌をうたえというから わたしたちを嘲る民が楽しもうとして 「歌って聞かせよ、シオンの歌を」と言うから どうして歌うことができようか 主のための歌を、異教の地で エルサレムよ もしも、わたしがあなたを忘れるなら わたしの右手はなえるがよい わたしの舌は上顎にはり付くがよい もしもあなたを思わぬときがあるなら もしもエルサレムを、わたしたちの最大の喜びとしないなら 主よ覚えていてください エドムの子らを エルサレムのあの日を 彼らがこう言ったのを 「裸にせよ、裸にせよ、この都の基まで」 娘バビロンよ、破壊者よ いかに幸いなことか お前がわたしにした仕打ちを、お前にし返す者 お前の幼子を捕えて岩にたたきつける者は
バビロニア捕囚
ティソのリトグラフ(1892年)
ヨブ記の挿絵 6.7世紀頃、パリ国立図書館蔵
サタンのために体中腫れ物ができ横たわっているヨブ、
右下には妻が左には3人の友人が描かれている

ルツ物語 バリー、1250年
ライオンの穴の中のダニエル(部分) リュベンス
ワシントン、ナショナル・ギャラリー
予言者ダニエルの名声は高まりましたが、それをねたむ者も多く、彼は王を差 し置いて神に祈りや願い事をしてはいけないという禁令を破った罪により、ラ イオンの洞窟に投げ込まれました。 しかし、ライオンは彼に何の危害も加えようとはしなかったと言われます。

水浴のスザンナ テオドール・シャセリオー 1839年
パリ・ルーブル美術館 ーダニエル書外典ー
人妻スザンナに恋をしたが想いが通じなかったユダヤ人の長老が偽証した のを青年ダニエルが見破り、彼らは処刑され、スザンナは救われ、ダニエル の名声は高まりました
(註・外典とは旧約聖書の選にもれた古代ユダヤ教文献の一部のことで、 ほかに新約聖書の選にもれた新約外典と呼ばれる諸文書があります)  

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