■私の調査研究報告■


 国政に必ず連動する自治体

国と県と市町村の「負担区分」

『事業仕分け』に注視しよう

20091114

甲府市議会 山田 厚

国と自治体の「負担区分」「負担割合」を重視すべき

●「生活重視が争点」政権ができましたが、新たに国の正しい社会保障政策の向上が法の施行によってはじまっても事態はそれだけでは完結しません
 国における徹底した財政的な裏づけ保証がないと自治体段階で必ず後退することになるからです。

●正しい政策を正しく完結させるには
「負担区分」の問題がかなり重要となります。「負担区分」とは、それぞれの事業における国と自治体との経費を負担する割合のことです。

・地方財政法第10条によると

「法令に基づいて実施しなければならない事務であって、国と地方公共団体相互の利害関係がある事務のうち、その円滑な運営を期するためには、なお、国が進んで経費を負担する必要がある」ものとされています。

・第11条には

「経費の種目、算定基準及び国と地方公共団体とが負担すべき割合は、法律又は政令で定めなければならない」とされています。

社会保障制度をはじめ継続的にかかる事業では、100%国の経費でまかなわれるものはほとんどなく、必要な経費の 国・県・市町村の「負担区分」がありそれによる「負担割合」があります

 例えば、いくつかの「負担割合」をみると

・母子家庭自立支援給付金事業

       国3/4        市町村1/4

     ・生活保護費

       国3/4        市町村1/4

     ・放課後子どもプラン

       国1/3   県1/3  市町村1/3

     ・まちづくり交付金

       国4/10以内     市町村6/10以上

●正しい政策が決められてもその国と自治体の「負担割合」までも問題にしなければなりません。この「負担割合」において市町村の負担をなくさないと、きわめて市町村の財政を圧迫することになります。いくつかの例をあげてみます。

@ 高校の授業料無償化となっても

 例えば、甲府商業高校 授業料・入学金・試験料 を無償化した場合

年間の授業料などの負担額は総額で 9126万円です。これをどうするのか

「負担割合」を

  国1/2なら 市町村は4.563万円の支出となります

      国1/4なら 市町村は6846万円の支出となります

A 子ども手当の支給額がもし負担区分となったら

 甲府市の子ども手当の該当者である1歳から15歳は約2万8000人です。

約2万8000人×31万2000円=経費は87億3600万円

 例えば、生活保護の「負担割合」と同じく、また現行の児童手当の「負担割合」を近似させて想定すると国が3/4 で 市町村が1/4となります
そうなると甲府市の毎年支出は21億8400万円となります。これは、いまの甲府市の財政では極めて困難な福祉予算の増大とされます。

 ※甲府市の現行の児童手当の支給額 13億770万円 うち甲府市独自財源は35000円です。約1/4

 しかし、児童手当は企業負担がありました。このことも継続させ自治体の負担をなくさないと、どこの自治体もきわめて財政難になります。

この子ども手当の問題では、民主党は全額国庫つまり10/10でおこなうことを明らかにした、とのことです。これは大歓迎です。

しかし、「負担割合」でみると生活保護などの国の事業においても当初は国が10/10でした。それが現在では3/4にされています。小泉改革のときには「2/3にしたい」とも国はいっていました。当初だけではなく今後の確認も必要です。

 また(別のレポート)扶養控除の廃止も2011年に検討されていますが、極めて問題です。これは自治体のさまざまな減免制度・低所得者対策(市民税の非課税)にを崩すもので増税だけの問題にすまされません。

B    保育所保育料無料化となったら
 
 幼児教育や保育料の無料化も正しい政策ですが、自治体への影響を検討すべきです。
 
 例えば、甲府市の保育料は(国基準額の保育料12億5,300万円ですが、当然 市の規準額で徴収している実際の保育料 86000万円で検討します)
 
 市の基準の保育料の総額86000万円で計算するなら

 追加の甲府市の支出は「負担割合」が

 ・国が3/4なら 市町村は1/4となり

  甲府市の支出額は21500万円

 ・国が1/2なら 市町村は1/2となり

  甲府市の支出額は43000万円となる

 このように「負担割合」が変わると自治体の持ち出し額が大きく異なるのです。

「負担区分」「負担割合」では国の10/10を目指す取り組みを

 「負担区分」による「負担割合」をしっかりしないと、正しい政策であっても自治体段階の社会保障・教育において全体の改善と向上とはなりません。

 自治体は小泉改革以降、地方交付税の削減などによって財政的に疲弊しています。

 先ほどの「子ども手当」が(もし1/4の負担割合)でも各自治体における追加の支出はきわめて困難(不可能に近い)予算額です。

 そうなると、国の政策ではない自治体独自(単独事業)の社会保障政策が廃止とならざるを得ません。自治体での社会保障・教育の全体が混乱し後退することとなります。また、この事態となると、実質的に自治体は単なる国の下請け機関になってしまいます。

●また小泉改革以降の激しい公務員の人減らし、非正規化、民間委託化なども終わることなく、更に激しく続くことになります。

●法をつくるときに、必ず「負担区分」「負担割合」まで具体的に明確にしておかなければなりません。原則として今から国の10/10で対応をもとめるべきす。また児童手当などにあった企業負担も忘れてはなりません。


中小企業法人税率の軽減はもちろんいいことですが、マイナスとなる自治体予算への補填はどうするのか

 民主党のマニフェストによると中小企業対策として「18%の法人税額を11%にする」ことがあります。これも正しい政策です。しかしこれだけ決めても完結はしません。

 例えば、甲府市の場合で検討します。

 中小企業とは、資本金1億円以下の会社で甲府市では約2080社です。

       法人所得800万円の場合では

法人年所得

800万円の場合

法人税額

税率20年度

22

176万円

21年度

18

144万

22年度

→ 11

→88万

                                                                                                      

法人市民税

上記の14.7

258720

上記の14.7

211680

上記の14.7

129360


● 甲府市の場合 対20年度比で 約1億円の収入の減額となります。
 
 この費用を国で補償するか、財源移譲をはからないと、自治体は他の予算を削るようになります。

様々な法改正は、ITなどの自治体負担と公務員の労働強化を招くことを念頭に置くべき

●この間の政府の強力な指導でIT自治体化(電子自治体化)が進められてきています。全ての自治体はIT抜きで仕事は出来なくなっています。そこで、法改正や新法律ができると自治体ではソフトの作りかえなどでおおきな支出となります。

●いままで国はこの支出をほとんど自治体に押しつけてきました。 例えば、甲府市の国保会計の「後期高齢者医療制度導入に係るIT関係の委託料」をみてみましょう。

・医療制度改正対応業務、賦課激減緩和措置対応、実態調査などで総額9200万円ほど支出となっていますが、

国庫補助金などでは537万円しか入らず、

9200万円−537万円=8660万円

相殺して8660万円ほどが国保会計からの支出額となっています。

 結果として、厳しい甲府市の国保会計をさらに圧迫して、「赤字」と保険料の値上げの要因ともなっています。

●政権交代のなかであ大きな法改正、いくつもの新法の制定となることは確実です。IT関係などの経費も国の具体的な対応が求められています。

●また、大きな法改正、いくつもの新法律とは、必ず公務員労働者の大変な労働強化を招くことを忘れてはなりません。

 地方公務員は、この間の人減らしと非正規職員化によって、かなり過重労働となり、健康診断結果でも有所見率(健康状態が不良な労働者の割合)が極めて高くなっています。小泉改革以降、甲府市でも有所見率が民間を含めての全国平均よりかなり高くなっています。ほとんどの自治体労働者の健康状態は悪くなっています。

●このことも、配慮すべきです。ましてや公務員の削減などこの時期には絶対に避けるべきことは言うまでもありません。

●国の正しい政策であっても、それだけでは完結しません。自治体段階でどうなるのかを想定して、国の具体的な対応と自治体からの具体的な要請が必要です。

自治体に押し付けられている財政問題は、

 社民党国会議員に奮闘してもらうとともに、全国市長会などで統一要望にするように、自治体議員も意見書の採択など含めて頑張らねばなりません。この場合、民主党の自治体議員より社会保障や市民生活に深く係わっている社民党の自治体議員の取組みが重要となっていきます。


 甲府市議会の意見書の採択に

そのため、社民党で準備した、以下の意見書を9月議会に提出し満場一致で採択された。

今後この趣旨を、議会の意志として、自らの自治体に対応するしていくことを求めていくつもりです


新たな政権による事務事業の見直しと新たな事業に伴う

自治体の負担軽減などを求める意見書

 「生活重視」の争点による平成21年8月の衆議院選挙によって新たな政権が発足した。今後、新たな政権による事務事業の見直しと新事業が開始されることとなるが、この場合、地方自治体にあたえる影響は極めて大きいものとなる。 社会保障をはじめとする新たな事業の開始とそれに伴う今後の継続的な経費については、国・都道府県・市町村における負担割合が大きな課題となる。十分な財源補償と税源移譲がない中での新事業の開始は、地方自治体の財政をさらに圧迫し、自治体の担ってきた独自の社会保障事業の維持継続をきわめて困難にしていく。地方自治体を取り巻く実情は、三位一体改革以降、地方一般財源の大幅な削減が続き、さらにはこの不況下によって収入の大宗をなす住民税も厳しい減収状態となっている。このことを考慮するなら、法令にもとづく新事業については自治体の負担を軽減し、事業を継承していくために、原則的に国が必要額を確保し10/10の国の負担が図られるべきである。

 国による事業の大幅な見直し、事業の廃止及び新たな事業の開始は、地方自治体に多額な財政支出を伴わせる。特に現在の地方自治体は、電子自治体としてIT化された中で業務を遂行しているため、制度改正や新たな事業開始には、システムの構築や改修などにより多額な経費が伴うことになる。こうしたことから国は、交付金等を削減することなく上記の財政支援を遂行すべきである。

 また、大幅な事務事業の見直しと新事業の開始時は、現場の地方公務員に過重な負担をもたらし、多忙化のため心身の健康不全傾向が強まっている現状に拍車をかけるものとなる。国においては国家公務員の総人件費削減をさらに図るものと思われるが、地方自治体における人事管理は地方自治体の当事者の自律性と自主性にゆだねるべきである。その地方自治体の自律性と自主性をもって地方分権と社会保障の充実を進め、ILO勧告に基づく労働基本権の回復を図るべきである。

 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。

平成21年9月29日                          甲 府 市 議 会



はじまった「事業仕分け」も、このままでは議会制民主主義と社会保障の破壊につながる

●政府・民主党の、行政刷新会議は「事業のムダ」をなくすために「事業仕分け」をはじめています。しかし進むにつれて、マスコミの歓迎はあるものの、危惧すべき傾向が現れています。事態は、ムダな公共事業の見直しとか官僚支配の是正に止まらず、生活や議会制民主主義の破壊にもつながる可能性もあります。

@        議会制民主主義の趣旨からもおかしい

事業仕分けが説明も含めて1時間で「廃止」「見直し」「地方移管」などと仕分けられています。論拠もなく、きつい『劇場』的な意見がだされ、あまりにも簡単に、乱暴に切られています。「民間の仕分け人」も政府・民主党の指名者で、多くの国民や当事者を代表しているわけではありません。これで決定まで進んだら自民党の長年やっていた議会軽視の審議会政治より悪質となってしまいます。

A 恣意的の選別されている事業仕分け対象 

 国の事業の全体が事業仕分けの対象となっていません。あくまで財務省というか民主党から選別された事業のみです。これでは結論ありきになってしまいます。例えば、防衛費のさまざまな事業についてはほとんど対象になっていません。在日米軍への「おもいやり予算」も全体ではなく、その中の一部の事業のみといいます。

B このままでは、自治体と社会保障への破壊につながります

 さまざまな事業にはそれぞれ自治体と地域の住民が関連しています。ここがどうなっているのか関係なく進めたら大変なことです。しかも今回、事業仕分け対象に地方交付税まで対象とされました。地方交付税は「制度の抜本的な見直し」とされたとのことですが、自治体の根幹に関わる問題を『仕分け人』に仕分けられていいのでしょうか?

 社会保障のさまざまな事業も心配です。この事業仕分けは、甲府市をはじめ自治体段階ではすでに行われており、『仕分け人』(構想日本21のグループ)によって1時間で「廃止」「見直し」「民間委託」と仕分けられています。そこで対象となるのは、自治体独自の社会保障事業です。議会の審議も不十分なままに当局は採用し、社会保障事業の後退をすすめています。国の段階でもこのことが進んだら大変だと思います。

C    財源確保は取れるところから取らないとおかしい 富裕層への応分の負担を

 財源確保は、取れるところから取らないといけません。証券優遇税制やさまざまな大企業減税・富裕層優遇税制を「廃止」「見直し」をすべきです。政府・民主党は「聖域」にしていても、いまこそ社民党のマニフェストを掲げるべきです。

自治体での事業仕分けの影響をつかみ、具体的な対応をしよう

● 自らの自治体でどのような事態となっていくのか、点検しなければなりません。

 そこで、私は、新聞にあった事業の仕分けランをコピーして、甲府市に資料提出を求めました。


財政課 〇〇〇〇課長様

 いつもご指導ありがとうございます。

来年度予算要求で、行政刷新会議による国レベルでの事業仕分けが行われていますが、甲府市における影響についてうかがいます。

@各自事業で甲府市の関連しているもに○をつけてください

Aその事業の甲府市の平成20年度決算額21年度予算額をおしえてください

B平成22年度に想定される削減額が分かればそれも記入してください。

 お忙しい中、まことに申し訳ありませんがよろしく、お願いいたします

20091113日 

甲府市議会 山田 厚


●当局の答えは、『必要な資料ということで、すでに私達もやっていますが、少し待ってください。いまやっていますが、かなりの多岐にわたりますので』ということでした。

 国と自治体で連携した取組みがさらに必要になっています。