2010
年9月3日 甲府市議会
           

森林・林業と野生動物のクマを守ろう

   遅れている熱中症の予防対策を

山田 厚 代表質問


 森林・林業と大型野生動物
に対する認識と基本方針について

●このところ、イノシシなどの森の生きものが山梨及び甲府市の里山や人家の付近に出没し、農産物の被害ももたらしています。
 特に、相次ぐクマの目撃情報は、市民を驚かせています。

クマの出没の原因はどこにあるのか?
「クマが増え過ぎたから」か、それとも「森の食べ物や住かがなくなったから」か。

●その対応はどうするか?
「クマは危険だから、とにかく捕まえて殺すしかない!」とするのか。 「いや、もともと臆病な動物。驚かせないかぎり、人を襲わない」「安全と農産物防除の対策を行い、クマを保護すべきだ」。とするのか。さまざまな意見があります。

●私は、様ざまな意見の、回答は、日本の森林・林業の状態にあると思います。日本は、面積の約7割が森林です。山梨も森林の占める割合は大きく、全国で4番目に森林率が高く、甲府市でも64%が森林です。
●森林の多面的な機能は、改めて見直されています。炭酸ガスを吸収する地球温暖化対策としての役割、多様な生物をはぐくむ役割、水源の涵養、保安と防災上の機能など、人間が生きていくために必要な環境と資源を、森林が与えてくれています。

しかし、森は荒れています。特に人工林が問題です。
 日本の人工林の割合は森林面積の4割を占め、世界の中で最も人工林の多い国の一つです。戦後植林した人工林資源が利用可能な段階にも入りましたが、林業は、安価な輸入材に押され、国内では生業として成り立たない状態があります。林業所有者も関心がうすれ、間伐などの人工林への手入れが不十分となっています。

●しかもスギ・ヒノキの針葉樹が手入れもされないで密集しており、こういう状態だと、木も成長しないで、ヒョロヒョロと伸びるばかりで、林の中は日が差さず真っ暗です。下層の草や木や生物も育ちません。これは非常に災害にも弱い状態です。

●民有林だけでなく国有林も大変です。森を守る森林管理署などの職員もこの間の人員削減で、激減しています。1991年には約3万人の職員が、今では7千人弱です。当然、丁寧な対応が困難になっています。同じことは、県有林や市有林にもいえると思います。

●また、この間続けられてきた大規模開発は、森林そのものを破壊しました。丁寧な環境への検証抜きに、進められてきたダム・高速道路・大規模な宅地開発・レジャー施設やゴルフ場などの開発は、自然環境を破壊しました。

今、クマの出没は、これらの森林環境の破壊の典型的な現象と見るべきです。森の食べ物と、住みかがなくなっているのです。
 「捕まえて殺せ」といういままでのやり方は、極めて問題です。 ツキノワグマは、他のイノシシなどの野生動物より繁殖力が弱く、環境省では「下北半島、紀伊半島、東中国、西中国、四国、九州地方では絶滅の恐れがある」とレッドデーターブックに指定しています。西日本の20県では、狩猟が禁止されました。すでに沖縄は絶滅し、九州も近年絶滅したと考えられ、四国、中国でも絶滅が危惧されています。

●クマが出没したら、「捕殺する」だけでは、いけません。環境省の資料によると近年のクマの大量出没は2004年度と2006年度です。このときは人身被害もあり、大量捕獲・大量捕殺となり、合わせて7000頭以上が処分されています。この2004年度に処分数が多かった中国地方は、現在、絶滅が危惧される地方となっています。

●どう考えても、人間の捕殺が熊の絶滅を進めたといえます。なお、このときのクマの大量出没は、食料である山のブナやミズナラの木の実の凶作が原因の一つとされています。

●農産物被害や特に人身被害は絶対に避けるべきですが、その手立てと共に、クマの出没を防止するためには、森の荒廃を改め、回復させていくしかありません。

●今、森林と林業のもつ多面的な機能が見直されてきています。政府は『コンクリートから木へ』をスローガンにして『森林・林業再生プラン』を方針に掲げています。また、「人類の存続の基盤である、生物の多様性を将来にわたって維持しよう」という『生物多様性基本法』もできました。10月には生物多様性の国際会議も名古屋で行われます。
 問題は、私達甲府市の、森林・林業で具体的にどうすべきかが問われています。


質問します

@甲府市長は、森林・林業の持つ多様で重要な機能をどのように認識されていますか? 
「森林・林業再生プラン」も踏まえて、甲府市の豊かな森を残し、林業の再生にむけ、今後どのようにされていくのか。おたずねします。

A森の多様な生物のなかで、もっとも大きい野生生物であるクマ、地域的に絶滅し始めているツキノワグマに対して、どのように対応をしますか? 
 原則とし「捕まえて殺す」のか? それとも、人との共生を目指し「貴重な野性生物としての保護」を、原則としていくのか? その基本的な認識と方針をうかがいます

答弁:市長

 森林は、木材を生産するばかりではなく、地球温暖化の防止、水源の涵養、土砂災害の防止、快適な環境の形成やレクリエーションの場の提供など私たちの暮らしに欠かせないさまざまな役割を果たしていることから、これらの公益的機能が充分発揮できる森林づくりが重要であると考えております。
 
 このため、本市におきましては、重要な水源地域の保全を重視した森林づくりの推進と、地域産業としての林業・木材産業等の再生を図るため、本年度、新たに森林整備課を設置するとともに、来年度には、林業職を採用するなど組織の充実を図ったところであります。
 このような中、国においては、昨年12月に策定した「森林・林業再生プラン」に基づき、本年度、計画的な施業(せぎょう)による適切な森林管理への誘導と安定的な木材供給の確保を図るための制度を検討していることから、本市におきましてもこれら制度検討に基づき森林・林業の再生に努めてまいります。

答弁:産業部長

 国においては、全国的に個体数が減少傾向にある「ツキノワグマ」について、西日本を中心とする「地域個体群」が絶滅の恐れがあることから、17県で狩猟行為による捕獲を制限し個体の保護を実施しております。
 山梨県では「山梨県ツキノワグマ保護管理指針」を定め、この指針において県内の生息数を400頭と推定し、減少傾向にあるツキノワグマを保護管理することとしております。
 本市においては、この指針に基づき、捕獲個体の取り扱いを奥御岳市有林内鳥獣保護区へ放獣することにより「人との共生」を図っているところであります。


生物多様性と動植物に対する人間のモラルを高める取組みを

●「地球の多様な生物をその生息環境と共に保全しよう」という生物多様性が問われています。動植物の生態系を守り人との共生が大切です。この場合、人間の側のモラルが必要です。野生生物であるクマなどに対して、人間の安全を確保するためにも、人間の側のモラルをどう高めていくのかです。

例えば
必要な電気柵の設置、
・農地に放置された果実類の除去
クマとの突然の出会いを避けるために、草や灌木の下刈りをすること、
・里地里山の環境、耕作放棄地の管理など。

●特にクマに対しての知識と注意を呼びかける広報活動も必要です。

・クマの出没情報をひろげること
・クマの生息域に入る工事関係者、ハイカーや登山者、きのこ狩りの人には、リスクがあること
・危険防止の装備として熊よけのスズやラジオなどを携帯すること
・クマがえさを求めて動く、朝夕の時間帯や冬眠前後の季節の入山は避けること
・生ごみを山に捨てないこと、
・クマに遭遇した時の安全対応など。

●これらのことを周知するための掲示板、ポスター、チラシ、ホームページも必要です。
 またクマの生息域入り口の店や宿泊地には、熊よけのスズなども置いてもらうことの努力もすべきです。

質問します

●生物多様性とその保全が強調されている時だからこそ、人間の側がモラルを高めるべきです。特に今年になって出没が多くなっているクマに関してのモラルをどう広げていきますか?お尋ねします。

答弁:産業部長

 本市では、昨年古関町において、ツキノワグマによる人身事故が発生するとともに、県内においては、本年7月に上野原市で登山者が襲われる人身事故などが発生しております。
 このような人身事故を未然に防ぐためにもツキノワグマに対する人間側のモラルを持った行動が必要不可欠であり誘引物の排除徹底や入山時間帯など人間側における遭遇回避対策の周知が重要であると考えております。
 このため、遊歩道、登山道入り口への注意看板の設置や、ラジオ、クマよけ鈴などの携帯の徹底啓発に努めて参ります。


森林・林業の再生及び防災機能の強化について

●森が荒れていると、森のもつ自然の防災機能も弱くなります。山がもろくなり、がけ崩れ、土石流など、さまざまな災害をもたらします。

●防災上からも森林の手入れは不可欠です。特に人工林は間伐が重要です。適切な間伐をしないと、林の中は真っ暗で、灌木も下草も生えません。このような状態では、雨にも風にも弱く、災害に脆弱な山となります。

●甲府市は、市有林はもとより民間の人工林に対しても適正な指導と援助をすべきです。また、間伐によって、森に日の光を入れることと共に、周辺に、実のなる木の植樹も必要と考えます。




●がけ崩れ、土石流、地滑りから、住民の生命を守るために、2001年『土砂災害防止法』ができました。この法律では「土砂災害の恐れがある区域」を『警戒区域』とし、「建物が破壊され、大きな被害が生じる恐れのある区域」を『特別警戒区域』としています。甲府市では216区域が指定されていますが、この区域をみると、森林・林業のもつ防災機能が低下している区域が関連していると思われます。

●森林整備課と防災対策課は連携して、甲府市の「警戒区域」「特別警戒区域」などへの調査点検・定期的なパトロールを行い、崩れてきている森林、手入れ不足で極めてもろい人工林などに、危険な状態があれば、優先的・重点的な対応が必要と考えます。

●まず、ここから、森林の防災機能を高めるために、小規模治山事業や、間伐や広葉樹の植樹など、多様な森林構造を目指すことが必要と考えます。

質問します

@森林・林業において間伐などの手入れが重要です。市有林は、もとより民間の人工林への指導と援助はどうかでしょうか? また実のなる木の植樹はどうか、お聞きします。

A森林の持つ防災機能は大きいと考えます。指定された甲府市の「土砂災害特別警戒区域」などの調査点検・定期的なパトロールを行い、もろい人工林などの危険な区域は、優先的・重点的な対応をすべきですが、いかがお考えでしょうか。

答弁:産業部長

 本市民有林における人工林は、2,402haで民有林全体の44%となっております。

 この人工林整備につきましては、甲府市森林整備計画に即した7地区の森林施業計画に基づき、森林整備支援交付金や所有者負担のない「環境公益林整備支援事業」など各種事業実施と甲府市の森林整備上乗せ補助などにより森林整備の支援を行っております。
 また、森林整備における基盤整備として、林道整備や間伐材の利用促進を図るための簡易作業路開設支援事業にも取組んでいるところであります。
 今後も、山梨県や各森林組合など林業関係者と緊密な連携を図り、本市の人工林整備に努めて参ります。
 また、実のなる木の植樹につきましては、奥御岳市有林において「市民との協働」をコンセプトとした「こうふ水源の森づくり」を実施しております。
 この水源の森は、国土保全、水源涵養など公益的機能発揮と野生鳥獣の生息環境へも配慮したもので、クリ、ミズナラなどの広葉樹とカラマツの複層林で、平成14年度から植樹を実施してまいりましたが、今後も、さらなる拡充に努めてまいります。

答弁:産業部長

 毎年、本格的な梅雨期を前に山地防災に関する情報収集活動として、県など関係機関と本市地域防災計画の山地災害危険地212箇所を中心に「災害防止パトロール」を実施しているところであり、これまで77箇所で復旧、予防などの治山事業施設を整備してきたところであります。
 今後におきましても、「山地災害」から市民の生命と財産を守るため、パトロールを強化し、地域住民への山地災害危険地の周知や避難体制の確立など地域住民の防災意識の向上に努めるとともに、「山地災害危険地域内」人工林の間伐整備に努めてまいります。


熱中症予防で必要な弱者対策や、学校管理・職場管理を

●このところの挨拶の初めは『毎日あついですね』がほとんどです。自然環境の破壊とか、二酸化炭素による地球温暖化などの、大きなことが、市民生活上でも具体的に実感させられています。

●記録的な猛暑の中で、甲府盆地の夏はさらに厳しくなっています。甲府市の救急車で運ばれた熱中症の人が激増しています。
 この8月までで58人です。この数年間でみると2倍から3倍にもなっています。




●全国の熱中症死亡者数は、まだ確定していませんが、終焉した新型インフルエンザの死亡者200名余りをはるかに越えています。

●救急車で運ばれた、人の年齢層のほぼ半数が65歳以上の高齢者です。また電気・水道が止められている生活困窮者の死亡も報道されました。

●行政としては、まず重く熱中症になりやすい一人暮らしの高齢者や、生活困窮者、糖尿病などのり病者などの、複合的にリスクのある人へのかかわりが求められています。
 また、高齢者のグラウンドゴルフやゲートボールも夏の炎天下は好ましくないことも広げていただきたいものです。

●小中学校の学校管理としての熱中症予防も重要となってきました。これまでは、夏休みがあるから、それでよかったのですが、しかし、記録的な猛暑が続くこれからは、そうはいきません。

しかも2学期の始まりは早くなり、小学校の運動会も、中学校の体育祭も、ほとんどが9月開催です。炎天下の準備や練習には、今までになくリスクがともないます。

●市の教育委員会としても具体的な対応が求められています。
 例えば、たとえば、31度をこえたら運動場での体育を控えるとか、学校の最上階の教室は、かなりの高温となりますから、危険温度である35度以上では涼しい場所へ避難するとかの、学校安全管理のマニュアルなども検討すべです。



●学校施設の冷房も必要です。特に、小中学校職員室の冷房化が、甲府市は遅れています。冷房がない職員室が16校、図書室は13校、この冷房化を、まずは、早急に進める必要があります。

●甲府市の高温職場といえば、環境センターと学校給食調理室で、熱中症警戒職場です。特に学校給食の調理室は異常な高温・多湿となっており、多くの職場が、連日40度もこえるという危険な状態です。安全衛生委員会を充実させ、これらの職場の夏季対策、施設改善、休息・休憩時間の確保などがもとめられています。



質問します

@弱者である幼児や高齢者、そして生活困窮者への熱中症予防が特に必要です。
 高齢者福祉・生活福祉・保健衛生としての熱中症予防を、どのようにされているのか、うかがいます。

A学校教育における熱中症予防はどうでしょうか。
 一定の温度や湿度での災害防止のための指針ないしマニュアルが必要です。また、学校施設内の冷房の充実も必要です。いかがお考えでしょうか?

B 学校給食や環境センターなどの高温職場における熱中症予防はどうでしょうか。調査はされていますか? 危険な状態をまねかない配慮を、どう行っていますか? お聞きします。

答弁:福祉部長

 連日にわたり猛暑が続き、熱中症による救急搬送や死亡事例が全国的に報告される中、本市におきましては、特に発症リスクが高いとされる高齢者や乳幼児を中心に、適時適切な対応に努めているところであります。
 具体的に申し上げますと、高齢者に対しましては、地域保健師による保健指導や生活保護現業員による生活指導の際に、小まめな水分補給をはじめ室内の温度管理などの予防対策を促すほか、市内の地域包括支援センターや介護サービス事業所へ啓発用チラシを配付し、要介護者等へ適切に対処するよう注意喚起をしております。
 また、保育園に通う児童に対しましては、熱中症対策に関する職員研修や「ほけんだより」による保護者への周知、そして毎朝の検温など、児童の健康管理に留意するよう取り組んでいるところであります。
 なお、本市が管理運営しております児童館や放課後児童クラブにおける対策といたしましては、早期に冷房機器の総点検を実施するとともに、必要な改善措置を講じております。
 いずれにいたしましても、気象庁の長期予報によりますと、今後も厳しい暑さが続くことが予測されておりますので、引き続き気温の変化を注視しながら、市民の熱中症対策に意を注いでまいります。

答弁:教育長

 教育委員会としての熱中症予防についてのマニュアルは、文部科学省、環境省が作成したリーフレット「熱中症を予防しよう〜知って防ごう熱中症〜」及び「熱中症環境保健マニュアル」を活用し、これらを基準として熱中症発生の要因や予防対策、処置方法など適切に対応することを示しております。
 今月も厳しい暑さが続くとの気象予報も出されていることから先般、各学校、また、定例校長会においてマニュアルの活用を重ねて指導し、事故防止の徹底を求めたところであります。
 また、学校施設内の冷房機設置状況は、施設改築時の設置予定も含め8月末現在、保健室、パソコン教室、給食室の休憩室では100%、校長室87%、職員室58%、図書室66%となっております。
 今後の設置計画につきましては、現在、学校施設の耐震化整備に集中的に取り組んでおりますので、この事業の完了を待って成長期の体温調整機能の健全な発達への影響や財政面など総合的に勘案しながら設置の必要性について検討してまいります。

答弁:総務部長

 職員一人ひとりの健康管理は、人事管理上の重要な課題の一つでありますので、職員安全衛生委員会による職場巡視や、保健室保健師による健康指導等に力を入れ、必要に応じて、施設の整備改修等の対策も講じてきております。
 こうした中、熱中症への対策といたしまして、学校給食の調理職場においては、職員の休憩室へ空調機器を設置するとともに、いつでも水分補給ができるよう、調理室に保冷剤とペットボトルを入れたクーラーボックスを常備したところであり、今後は調理従事者の健康保持の観点から調理室の換気設備等の改善も進めてまいります。
 また、環境センターでは、焼却工場の高層階に空調機器を備えた休憩室が設けられているなど一定の設備が整えられていることから、特に暑い時期には、休憩室等を利用して水分補給も行いながら体調管理ができるよう職場の中でも職員に注意を促し、熱中症の予防に努めてまいりました。
 今年度、給食調理職場や環境センターにおいて、職員の熱中症は確認されていませんが、今後も、熱中症に限らず、業務の能率が維持向上できるよう職員の健康管理に努めてまいります。


※これは正式な会議録ではありませんが、内容的は変わりありません

 これは、山田厚の質問原稿と当局の答弁原稿で構成したもので、再質問と再答弁も含めた正確な会議録ではありません。内容的には変更ありませんが、正式なものは、201012月に明らかとなります。
 今回再質問による市長答弁では「原則とし『捕まえて殺す』のではなく、「貴重な野性生物としての保護」を、原則としていくことを確認してくれました。 なお、熱中症予防では学校と給食調理室の調査点検を民生文教委員会で確認しました。冷房設備は耐震補強工事後の2012年度以降になりそうですが、一日も早い設置も要求しています。