ゲーム脳の恐怖



「ゲーム脳の恐怖」という本がNHK出版から発行されました。日本大学森教授が執筆されたものですが、これの改善にお手玉遊びが役立つとのことでしたのでその掲載記事を探していましたところ、News Web Japan(http://kodansha.cplaza.ne.jp/broadcast/index.html) というHPに詳しく掲載されていましたので転載しました。
詳しくお知りになりたい方は以下のアドレスからお入り下さい。



10月23日号


http://kodansha.cplaza.ne.jp/broadcast/special/2002_10_23/index.html



取材・文:草薙厚子 取材:島田健弘、渡辺江麻
男性にとってはうれしいような、目のやり場に困るような女性の過剰露出ファッションが流行りだして久しい。「見せブラ」などは当たり前。最近、目に付くようになったのは、たとえばかがみこんだ時にジーンズのウエスト部分からのぞいているパンツである。しかし、それがファッションとしての露出ではなく、無意識・無自覚でなされているとしたら、どうだろう? 実はここにも、外界に対する意識障害=「ゲーム脳」がかかわっているというのである。

ローライズパンツから始まった
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「ローライズの時はノーパンか、ひもパンです」

「コーディネイトをするときに、立ち姿は考えるけど、座ったときの姿なんて考えませんよ。だいたい下からだったら、まずいと思うけど、上のフチが見えている程度は気にしないし、それが赤だって、黒だって、見えてても、『まあ、いいか』って思いますよ。それにズボンだと、肉のたるみが浮き出るときがあるじゃないですか。お肉がたるんでるのを見られるよりは、(下着の)パンツの上を見られるほうがマシです。下着のパンツの線が見えるほうがよっぽど恥ずかしいですよ」(20代後半・女性会社員)

パンツがのぞいてしまう主な原因は、2000年頃から流行り出した股上が浅いローライズ(lowrise)パンツだ。10代から30代、さらに40代の女性までもがローライズパンツを穿いている。
「子供を抱いている30代前半のお母さんが前かがみになったとき、ズボンの後ろからパンティが丸見え、それどころか尻の割れ目まで。どうなっているの?」(40代・男性会社員)
と、戸惑いを覚えているのが実情だ。
かつては母親はパンツが見える子供を「ダメでしょ! お行儀が悪い!」と叱っていた時代もあった。しかし、今は母親自らがパンツを見せていても平気な時代になっている。

欧米から上陸したローライズは、アメリカの歌姫であるブリトニー・スピアーズ(20)がステージや撮影時によく穿いている。日本では、若い女性のファッション・リーダーとしても知られている浜崎あゆみ(24)やhitomi(26)が追随。
「やっぱり、彼女たちの影響はあるかも。穿くためにダイエットしてます。でも、男性の目は気にしませんよ。もし、パンツが見えても自分には見えないから別に何とも思いません。パンツは、Gパンにベルトをあしらう感覚でワンポイント的に見せたりしますよ」(20代前半・専門学校生)

いつもローライズのジーンズを穿いているという20代後半のOLは、「男性の目などまったく気にならない」と言い放つ。
「パンツを出すのは文化です。みんな出しているから気にならないです!」


自分の世界に陶酔
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右列が「見せる」系だそうです

もちろん、男性からは「気にすべきだ」という意見もある。
「見えないものが見えたり、羞恥心があるだろうという女性の仕草にわくわく、どきどきするわけです。今のローライズからのぞくパンツは行儀が悪いとしか感じません」(30代前半・男性プログラマー)

しかし、女性からしてみると、脚が長くスタイルが良く見えるのは誰に見せるためでもなく、自分のためだという。
「自己満足もあるかもしれないけど、周りの特に女性の目は気になりますよ。脚が長く綺麗に見えるし、動きやすい。今、ローライズ以外のズボンを見つけるのは大変」(前出・専門学校生)
実際、売り場でも股上の深いものを見つけるのは至難の技。バラエティ豊富な衣料量販店に行っても、ハイ・ウエストのズボンは1割程度である。

ファッション・コーディネイターの栗原登志恵氏は、日本人にとってローライズは着こなしが難しいという。
「欧米のモデルさんやミュージシャンなど、ファッション・リーダー的な人たちに影響されて、日本でもここ数年ローライズのズボンが流行しています。股上が浅いと、スタイルがよく見えるとか、ワイルドに見えるということで穿いているようですが、本来、ウエストが細く腰が張っている欧米人の女性の体型に似合うものなのです。わりあい扁平なお尻が多い日本人女性のスタイルにあまり合わないように思います。芸能人は衣装として着るので見られることを前提としていますが、一般の人はその格好で日常生活を送るので、座ったり、かがんだりした時に下着が見えないように気をつけたいものです。ローライズ用のショーツがあるので、それを穿いて頂きたい。ちょっとの気遣いとTPOを考えるだけで周りを不愉快にすることが無くなると思います」

ローライズ用のパンツの値段は1500円から2000円強と、10代にとって下着としては少し高価で痛い出費だが、ノーブランドなら500円くらいのものも出てきている。
「当社でも見えてもかわいいようにレースをつけるとか、リボン、フリルをつけるとか、デザインを考えて作っています」(トリンプ・インターナショナル広報部)

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「パンツを出す文化」だそうです

心理学者で法務省法務総合研究所の小柳武氏はこの流行を自己満足と分析する。
「基本的に若い女性たちから羞恥心がなくなってきています。そのような状況の中、彼女らは自己満足で、自分たちがかっこいいと思っている。自分のパンツが見えていないということ、他人の目が気にならないということは、自分の世界に陶酔している、一種の自己実現といえます。男性中高年にとっては、女性のズボンからパンツが見えるということは文化にないから“だらしない”と思いますが、若者にとっては魅力的ではないが受け入れられていると思います。それを受け入れるか受け入れないかは文化や環境の違いです。腰のところから下着が見えても猥褻感がないので犯罪に発展することはほとんどないでしょう」

ローライズ用のパンツの売れ行きは上々、しかし、ローライズで若者は寸胴(ずんどう)になってきたと萩原みゆき氏(ワコール宣伝部)は、ワコール人間科学研究所の調査結果を解説する。
「今年は下から見せてもいいようなパンツも売れたりしてます。この売り上げは2桁増であがっています。一昨年はローライズ対応のパンツが品切れという状態になりまして、それで次のシーズンから特に20代、30代をターゲットにした下着はローライズ対応のパンツが増えました。売り上げはパンツの中でローライズタイプの構成比がかなり上がりました。
ところで、いまティーンエイジャーの体型を調査したら、ウエストが寸胴になってきています。平成生まれのティーンが、昭和生まれのティーンより寸胴になったという結果がでたんです。ローライズの洋服が流行りだして、ウエストを意識する機会がなくなったからだという説もあります。ウエストがここ、ヒップがこのぐらいと意識を持つことから体型は変わってくるのです。ですので、ローライズの着用はウエストへの意識をますます希薄にさせていくと思いますね」
ワコールのローライズ用パンツはバリエーションも増え、生産数は2002年では昨年比146%の伸びを示している。


脳の障害によるれっきとした病
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「見せブラ」として販売されてます

外見としてのファッションではなく、人間の中身が変わってきたという説もある。理性の源である脳の前頭前野と人間の羞恥心は大きな関係があるからだ。脳の前頭葉の中にある前頭前野は記憶、感情、集団でのコミュニケーション、創造性、学習、感情の制御や犯罪の抑制を司り、さまざまな命令を出す司令塔である。
「ファッションというのは、どんな意識的な理由(口実)があったとしても、無意識な『繁殖戦略』が隠れています。よくいわれる本能というものです。男性に訴えかけるような体型とかファッションをする、わざとセクシーに見せるとか、逆に慎ましく見せるとかは、人を意識している行動なのです。これは問題ではない。ただ、無意識に下着が見えるような格好や行動をしたりするのは、周りに対して無頓着、かまわなくなるということなので、脳の障害でおこるれっきとした病です。パンツが見えようが、ブラジャーが見えようが気にしないというのは、それはうつ病の傾向を疑うか、人間としての本来的な働きが落ちていることなのです。実際、分裂病のかたは身なりを気にしなくなります。外界に対する意識の障害ですね。ある状況に対して、自分はどういう立場なのかという意識がないんです。そういう人たちが目だってきています。周りにどう思われているか意識しない、自己意識がなくなるというのが、『ゲーム脳』といわれている正体でもあります。若者が切れやすいというのも前頭前野の働きがにぶっているからです」(北大医学部・澤口俊之教授)

確かにここ数年、電車の中で化粧をしたり、道端や階段に座り込んでモノを食べている若者が目に付くようになり、羞恥心の欠如が叫ばれてきた。人の目を意識することのない若者たちが社会に蔓延(はびこ)る時代になったようだ。その延長にある社会とは一体どのようなものだろうか? 自己満足に閉じこもった独りよがりだらけの社会か、または価値観の多様性を尊重した成熟した社会か? ファッションでいえば、ローライズの次にやってくるブームがその答えをもたらすかもしれない。
答えを知りたくないような気分になってきた。



10月30日号



取材・文:草薙厚子 取材:島田健弘、渡辺江麻

http://kodansha.cplaza.ne.jp/broadcast/special/2002_10_30/index.html

先週のNews Web Japanでは「女性がパンツを見せる」原因として、ゲーム脳が関わっているということをお伝えした。しかし、ゲーム脳の恐ろしさはそれだけにはとどまらない。
「キレやすい」「集中力がない」「注意力散漫」「羞恥心欠如」「その日暮らし」「無気力」という症状がゲーム脳の特徴である。どこか思い当たるところがありませんか?

多くの嫌がらせも殺到
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森昭雄教授(脳神経科学)「きっかけは高齢者の脳波パターン」
7分16秒の動画コンテンツです
森教授が開発した脳波測定器(ブレインモニタ)

最近、急に脚光を浴びてきたゲーム脳だが、どのような脳の状態のことを示すのだろうか。
脳の中で35%を占める前頭葉の中に前頭前野(人間の拳程の大きさで、記憶、感情、集団でのコミュニケーション、創造性、学習、そして感情の制御や犯罪の抑制をも司る部分)という、さまざまな命令を身体全体に出す司令塔がある。この司令塔が、ゲームや携帯メール、過激な映画やビデオ、テレビなどに熱中しすぎると働かなくなり、いわゆる「ゲーム脳」と呼ばれる状態になるのだ。これを科学的に証明したのが東北大の川島隆太教授と日大大学院の森昭雄教授だ。

両氏の実験の手法は異なるが、同様の結果が出ている。
川島教授は、ポジトロンCT(陽電子放射断層撮影)とファンクショナルMRI(機能的磁気共鳴映像)いう脳の活性度を映像化する装置で、実際にゲームを使い、数十人を測定した。そして、2001年に世界に先駆けて「テレビゲームは前頭前野をまったく発達させることはなく、長時間のテレビゲームをすることによって脳に悪影響を及ぼす」という実験結果をイギリスで発表した。この実験結果が発表された後に、ある海外のゲーム・ソフトウェア団体は「非常に狭い見識に基づいたもの」というコメントを発表し、教授の元には多くの嫌がらせも殺到したという。

川島教授の実験結果については、次回詳しくご紹介するが、今回は森教授の成果を中心にお伝えしよう。
森教授は、簡易型の脳波計を開発し、脳が活動するときに出るβ波という種類の脳波を測定して、前頭前野の活動を調べた。脳波は周波数ごとに4種類に分類される。深い眠りのδ波(デルタ波・0.5〜3ヘルツ)、眠気や浅い眠りのθ波(シータ波・3〜8ヘルツ)、落ち着いたときに出るα波(アルファ波・8〜13ヘルツ)、興奮したときのβ波(ベータ波・13〜30ヘルツ)に分類される。

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本誌記者も測定。結果はビジュアル脳

「人の脳波、特に高齢者の脳波パターンをたまたま採っていたら、若い人たちとは違っていました。そこで痴呆老人と若い人たちの違いを調べるためには数値化・定量化しなければいけないということになりました。そのため独自の脳波計を開発したんです。そして、実験的にウチの脳波計のソフトを開発した人たちの脳波を採ったんです。そのときβ波が想定した値よりも低かった。検査した8人全員がそうなりました。それ以外の職業の人たちを計ったら、β波が高く出るのです。そこで、彼らは職業的に画面をずっと見ていて、他者とのコミュニケーションがないことに気付きました。画面を見ることで、一見、前頭前野を使っているように思われますが、実際には使っていないんじゃないかと。日常的にコミュニケーションが少ない、家に帰ってもパソコン、家族とも会話がない。そういう人たちだったのです」


老人性痴呆症と同じ脳波パターン
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ノーマル脳(緑がβ波、黄色がα波。以下同)
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ビジュアル脳
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半ゲーム脳
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ゲーム脳

そこで、森教授は大学生にゲームをさせて実験してみると、β波が出ない者もいたという。その結果、β波がゲームをしてもまったく変わらないタイプの「ノーマル脳」、ゲームをやると下がるタイプの「ビジュアル脳」、β波が不安定で上下している「半ゲーム脳」、最初から低いタイプの「ゲーム脳」という四つのパターンに分類できたという。この中のβ波が低いタイプは痴呆症の脳波パターンと同様だったという。痴呆症の患者は前頭前野が働かなくなるということは定説になっており、実際、前頭前野の脳波の活動を示すβ波が低かったのである。

「ノーマル脳」のタイプ:
ゲームをしたことがない人。礼儀正しく、学業成績は普通より上位が多い。

「ビジュアル脳」のタイプ:
ゲームをほとんどしたことがないが、テレビやビデオを毎日1〜2時間見ている人。ゲームをやめたら元に戻る。「ノーマル脳」と同様、学業成績も普通以上の人が多い。

「半ゲーム脳」のタイプ:
少しキレたり、自己ペースといった印象の人が多く、ゲーム中に声をかけると「うるさい!」という返事しかかえってこない。日常生活で集中力があまりなく、物忘れがある。

「ゲーム脳」のタイプ:
キレる人が多い。普段ボーッとしていることが多く、集中力が低下している。学業成績は普通以下の人が多い。物忘れが激しく、時間感覚に欠け、学校も休みがちになる傾向がある。

「β波は脳の局所的な活動なんです。前頭前野が活動すればβ波がでる。あるいは聴覚野でも音を聴いていればその部分のβ波がでる。脳の局所の部分の興奮を反映しているのがβ波なんです。β波の興奮度が高くなれば、脳が活発な活動しているという目安になる。逆にそこの活動性が悪くなればβ波は低下します。そこで、研究を進めていると、痴呆の方はβ波が低いという結果が出た。高齢者の場合、前頭前野から働きが低下していくのです」

森教授は、携帯メールを長時間やっている人やホラー映画やビデオを長時間見ている愛好者も前頭前野のβ波が低下しているという結果も得た。若くして前頭前野の働きが悪くなることを「若年性痴呆症状態」として、高齢者の痴呆症と同じ状態だと結論づけている(『ゲーム脳の恐怖』NHK出版)。これらの研究結果は、11月3日にアメリカ・オーランドでの脳神経科学会で発表され、それと同時にアメリカの全マスコミで公開されることになっている。


前頭前野がにぶるとIQが落ちる
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対戦型ネットワークゲームならゲーム脳にならない?

ゲームが精神に悪影響を与えることは、残虐な少年事件が起こる度に囁かれてきた。1997年に日本中を震撼させた「酒鬼薔薇聖斗」事件がある。「さあゲームの始まりです 愚鈍な警察諸君 ボクをとめてみたまえ ボクは殺しが愉快でたまらない」という1通の挑戦状とともに土師淳君の頭部が中学校の正門に放置された。大人たちは「何故、こんな残虐なことを少年が……」と衝撃を受けた。ゲームの影響が行為に現れた事件といっていい。しかし、事件化しないまでも、ゲームは若者たちの脳に深く広く影響を与えていたのだ。

『平然と車内で化粧する脳』(扶桑社)で前頭前野と羞恥心の関係を結論づけた北大医学部の澤口俊之教授は、最近の若者の様子をこう危惧する。
「問題意識がない、指示を待っているだけ、計画性がない、というような学生が増えました。あきらかに前頭前野の働きがにぶっているような学生が多く、研究どころではないという状況です。これは、各大学の教授の集まりでみんなが一致する現場の意見です。だから、今の大学院生は、入ってきて2年くらいは前頭前野の働きを高めるような教育から始めます。いろんなプログラムを各学生にあわせて毎日行い、研究者としての土台を作るのに2年かかるんです。『最近の若者の様子がどうもおかしいぞ。これはどうも前頭前野の働きがにぶっているのではないだろうか』という仮説から、ゲームと脳に関係性があるのではという研究が始まりました」

さらに澤口氏は前頭前野の働きの低下で、社会に適応できない人が増えているという。
「前頭前野がにぶると、一般的なIQ(知能指数)が落ちてきて、仕事ができない、あるいは長く続かないとか、結婚しても離婚するとか、犯罪を犯すとか、社会的に適応できずにマイナス方向にどんどん進んでいく。前向きなクリエイティブな生き方ができなくなるんです。
そういう人たちが増えているように見えるし、その証拠も出てきている。どうしてそうなってきたのかもようやくわかってきたというのが現在の状況です」

“すぐそこにある危機”は経済だけではなかったのである。このままでは、もし万が一、不良債権処理が何とかうまくいっても“日本沈没”は間近である。

11月13日号では「チェックリストであなたの脳を検証する」をお送りします。


11月13日号




http://kodansha.cplaza.ne.jp/broadcast/special/2002_11_13/index.html

取材・文:草薙厚子 取材:島田健弘、渡辺江麻
ゲーム脳に関する問題を2回にわたって特集してきましたが、「2ちゃんねる」を含め多くの反響をいただいています。今回は青少年のみならず、日本を侵蝕しつつあるゲーム脳のメカニズムにより詳しく迫り、対処法のヒントにもなる簡易リストであなたの脳をチェックします。

言ってもわからないヤツが急増のわけ
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“VTR実証”脳を活性化させる読み書き計算(42秒の動画コンテンツです)
光トポグラフィという装置を使って脳の働きを観察する。読み書き計算をすると前頭前野が活発化する様子がよくわかる。脳の中で35%を占める前頭葉の中に前頭前野(人間の拳程の大きさで、記憶、感情、集団でのコミュニケーション、創造性、学習、そして感情の制御や犯罪の抑制をも司る部分)という、さまざまな命令を身体全体に出す司令塔がある。この司令塔が、ゲームや携帯メール、過激な映画やビデオ、テレビなどに熱中しすぎると働かなくなり、いわゆる「ゲーム脳」と呼ばれる状態になるのだ。また、唯一抑制機能をもつ前頭前野が発達しないとキレやすい人格になる

内閣府の『青少年とテレビ、ゲーム等に係る暴力性に関する調査研究報告書』によると、ゲームで遊ぶ頻度が高い青少年ほど、暴力経験が増えるという結果が出ている。親からの無干渉といった要素もあるにせよ、テレビゲームの遊戯時間と暴力経験に相関関係が認められたのだ。(グラフ)

世界で最初に、脳の働きに対するゲームの影響を発表した東北大の川島隆太教授は、犯罪抑制力には前頭前野が重要な役目を果たすという。
「例えば腹が立ったときに殴りたくなっても、結果を予想して理性が働き我慢するものです。これが前頭前野の正常な働きなのです。前頭前野は古い脳に対して、抑制信号を出して暴走しないように常にブレーキをかけているんです。新しい大脳皮質の下にある古い脳である海馬とかの辺縁系に対して抑制信号をかける。古い脳とは動物にとって、のどが渇いたら水を飲む、腹が減ったらエサを食べるという本能的な行動を司るものです」
本能的な欲求や衝動に対して、エチケットや羞恥心という形で前頭前野が抑制をかけるというのが一般的である。しかし、最近では混雑した通勤電車の中でハンバンガーを食べたり、化粧をしたり、ズボンからパンツをみせたりするのは、前頭前野が働かないゲーム脳ではブレーキをかけることができないからだ。

前頭前野が退化すると学習能力の低下も招きかねないと日大大学院の森昭雄教授は警鐘を鳴らす。
「見て書いてという勉強の場合は、視覚的に記憶中枢にもっていくことができますから別ですが、聴いてそれを記憶にとどめるという能力は前頭前野が働かなければできません。しかし、ゲーム脳になってしまうということは、ゲームに時間を割かれ、それだけ勉強する時間がなくなってしまうことでもあるわけです。またおそらく古い脳に対してドーパミン系の快楽信号を送りますから、ゲームを続けようとして時間が長くなります」
その結果、体も疲れ、目も疲れ、頭もぼうっとする。当然学力は下がってしまう。どんどんゲームにはまって他のことをするのがイヤになってしまうのにはドーパミンの分泌という理由があったのだ。
さらに、最近、言っただけでは説明が理解できない人が増えている。この場合、前頭前野が働かないわけであるから、書くという視覚的刺激を与えることが必要になる。


テレビもコミュニケーション障害を生む

ゲームだけではない、長時間のビデオやテレビの視聴も前頭前野に良い影響を与えないということが分かってきた。
「たとえば、乳幼児期にテレビ・ビデオをつけっぱなしだったり、ゲーム、早期教育のフラッシュカード、電子おもちゃ等に囲まれて、言葉が遅れてしまった子どもが、そのまま保育園や幼稚園に行くと、コミュニケーションがとれなくてイライラして暴力をふるったり、ひきこもってしまったり、そういった問題が現実に起こっているんです」(川崎医科大学・小児科の片岡直樹教授)
さらに片岡教授はテレビの人気番組や人気教材も同罪だと憤慨する。
「内容の良し悪しではなく、テレビがついていること自体が問題なんです。少なくともテレビやビデオは、2歳までは見るべきじゃないんです。応答的環境がなくなることで、コミュニケーションがとれなくなってしまうのです」
乳幼児の段階では、情報を情報として選別し、これを意味付けしたうえで頭脳に受け入れる能力はまだ発達していない。テレビやビデオは、子供が求める行動や表現に応じてくれるはずはないので、子供は求めることも主張することもなくなってしまう。いかに教育的にプログラムされている内容であろうと、その弊害は同じだという。

「NHKが“新しいタイプの言葉遅れ”について、私のところに取材しにきたことがありました。コミュニケーションがとれない子供が増えているということで、事例を紹介してほしいということでした。事例を、スライドで全部説明しました。 『セサミストリート』についてもストーリー性がないため、幼児が見ても興奮するだけと指摘しておきました。取材した人は納得して帰られましたが、結局番組にはならなかったようです。
今、NHKは“テレビで子供がよく育つ”といったテレビを擁護する番組をさかんに流していますが、大変疑問です。私のところには自閉症児のお母さんたちが相談にこられますが、(ビデオやテレビを見せ続けたことに対して)なぜそんなことをしたのかとあとになって泣いています」(前出 片岡教授)

上が血流(赤)を測定した脳の断面図。上がゲーム時、下が計算時のもの。計算時のほうが明らかに脳は活発に動いている
【フラッシュカード】1枚1秒以下の速さで、言葉を読み上げながら(CDを聞きながら)カードをめくっていくことで右脳を高速に反応させ、活性化する方法。一瞬に記憶する能力を開発する七田式学習教材 

脳を活性化するゲームを考えよう
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前頭葉が人間らしい理性を司る

子供だけではない、最近キレる大人も急速に増えている。警察庁の発表では刑法犯が平成8年以降、6年連続して戦後最悪数を更新しつづけている。経済的な不況でリストラや失業が蔓延し、国民の中に逼迫感が充満していることも原因の一つと思われる。
法務省法務総合研究所の総括研究官の小柳武氏は、このような混沌とした社会がキレる大人の増加をまねくと懸念している。
「少年非行においてはキレる少年の存在が指摘されていますが、最近成人においてもコントロールがきかない、抑制力が働かない、キレる大人と考えられる犯罪が目だってきています。電車の中で暴行を働くという事件がまさに象徴的です。短絡的で、一瞬のうちにぱっとやってしまい、やったらどうなるかとかを考えてないですね。大人は昔は多少考えたり、自分をコントロールする訓練とかを年齢とともに重ねてきて、子供や少年に比べて冷静な判断、行動をしてきたと思うのですが、今は自分をコントロールする力がどんどん弱まってきているのではないでしょうか」

川島教授は大人がキレるのも前頭前野が働かないからだと解説する。
「(ゲームをしていると)大人も前頭前野を使わない生活を強いられるわけです。偏った肉体鍛錬をすると偏った身体になるのと同じことです。キレる大人というのは、前頭前野の抑制機能がうまく働かないということです。これは肉体と一緒で、使わないと弱まるものなんです。子供たちは育っていくという体の成長がありますけど、大人の場合はどんどん退化していきますので、(使わないと)そこが成長することはないわけです。我々健康人でも足にギプスをはめて1ヵ月もしたら、細くなりますから、前頭前野を使わない生活をずうっとしていたら、それと同じことが起こると思います」

前頭前野が成長している幼児期を含めて、そこが正常に発達しないと中学生・高校生、さらには成人になっても目的意識、計画性のないその日暮らしの人間が増えてくることになる。しかし、今の日本の文化ではゲームを完全シャットアウトするのは無理である。川島教授はゲームの種類によって判断すべきと話す。
「子供に“ゲームをやるな”と言っても隠れてやります。親の側に、自分たちからのコミュニケーションの質と量が減っているということを自覚させるということが重要だと思います。建設的に考えると、脳によくないということを認めたうえで、ゲームを作る側はどうやって脳を活性化するゲームを作っていくかということを考えていかなければならない。子供がゲームをやっても親子のコミュニケーションがきっちり取れていれば問題ないと思いますよ。ゲームがいけないんじゃなくて、コミュニケーションをきちっととらない家族のあり方がいけないんだということを、マスコミは強調してもらいたいですね。これは大人の間でも同じことが言えます」

ところであなたは最近キレやすくなっていませんか? 大人でもあり得るゲーム脳かどうか、簡易チェックをしてみましょう。「正確に調査したいという場合は詳細なデータが必要」(澤口教授)なことは言うまでもありませんが、この項目が前頭前野を働かすヒントにもなっていますので、ぜひお試しを。

さて、簡易チェックの結果はいかがだろうか? 少しでもゲーム脳の傾向があった場合は、次週の“ゲーム脳から脱する法”を待ってもらいたい


11月20日号



取材・文:草薙厚子 取材:島田健弘、渡辺江麻

http://kodansha.cplaza.ne.jp/broadcast/special/2002_11_20_2/content.html

前頭前野が正常に機能しない、いわゆるゲーム脳の危険について3回にわたって特集してきましたが、今回はそのソリューション(解決)編です。先週号の「簡易チェック」で「あなたは、注意が必要です」「あなたは、完璧に危険です」という診断結果が出た方々、お待たせしました。ご安心ください。努力すれば前頭前野は発達します。今回は実例と共に前頭前野を活性化させる方法をお伝えします。

お手玉による回復の実例
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森教授「お手玉でゲーム脳は治りました」(3分18秒の動画コンテンツです)

「お手玉をやったことにより、実際にゲーム脳が完全に回復しました」
日大大学院の森昭雄教授は、ゲーム脳対策としてお手玉を推奨している。

お手玉がゲーム脳克服方法として見出されたキッカケは、学生からの“ゲーム脳患者”がいるとの通報だった。
「ゲームをやり過ぎてヘンな子がいると学生が連絡してきて、(森教授の元に)その大学生を連れてきたんです。しかし、よくしゃべったり笑ったりするんです。正常なんです。そうしたら、『薬を飲んでる』というんですね。精神科に行って、もらった薬を飲まないと暴れてしまうというんです。ゲームのやり過ぎでおかしくなってるというのがわかってるんでしょうね」

この学生は、自分でもゲームのやり過ぎが元になって異常をきたすという因果関係がわかっていたという。そこで、彼にブロック(積み木)をやらせてみた。しかし、森教授が開発した脳波測定器(ブレインモニタ)の反応は、β波が微かに上がっただけでゲーム脳の状態は解消されなかった。
森教授は昔なつかしいお手玉に注目した。数個の玉を使うお手玉遊びは、左右の手や玉の状態など物事の手順を考えながらするので前頭前野が活発に働くからである。

「お手玉は集中しないとできませんので、やらせたんです。そうしたら2週間でβ波が通常値にあがりました。しかし、すぐ元に戻ってしまい、安定しなかった。そこで3〜4ヵ月継続的にお手玉をやらせてからまた脳波を取ったら、今度はかなり安定してきたんです。ただまだ突然、意識がふっと消えたりするんですけどね。ゲーム脳の人は目の焦点が合わなくて、高齢者のようにぼうっとした表情になるときがあるんです。そのときは脳波がスーっと落ちるのですが、普通の人にはそういう症状は絶対に起こらないんです。今、10ヵ月近く経過しまして、脳波の状態も完全に安定し、人間も変わり、明るくなりました。よくしゃべるし、笑うし。友達からも変わったと言われ、自分自身も変わったと。誰が見ても変わったとわかるんです」
この学生はお手玉のおかげで、ゲーム脳を克服しつつあるようだ。これまで1日3時間以上の時間を費やしていたゲームをやめ、その代わり、10分間をお手玉に、その他は読書や他の学生とのコミュニケーションに使った成果である。
お手玉といっても内容はごく普通。3個のお手玉を使い、8の字を描くように両手で投げる。2個では簡単すぎて効果は薄い。1日、わずか5分から10分、落とさずに連続150回を目指してやってみる。150回がクリアできるようになれば、ゲーム脳からも脱却できるという。

これまで360人のβ波をサンプルとして調べたが(10月30日号NWJ)、前頭前野にβ波が出にくく、ゲーム中になるとまったく出てこないゲーム脳の人が2割いたという。これらの人は総じて1日2時間以上ゲームで遊んでいた。

そうしたゲーム脳を治癒する“特効薬”はお手玉にあったのだ。
「お手玉は前頭前野の活動性を非常に高めるんですね。実際に取ったデータで、脳全体が非常に活動することがわかっています」(森教授)

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お手玉をしている時とゲームをしている時の情報の伝達経路。理性、情緒を司る前頭葉にゲーム時は刺激が届いていないことがわかる

ゲームは“癒し”でもあった
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「子どもからゲームを取り上げるのではなく、家族のコミュニケーションが大切」東北大・川島教授

一方、東北大の川島隆太教授は前頭前野を発達させるためには、読み書き計算が効果的だという。
「なにもしていない時と読み書き計算の時の脳の状態を比べて、どれだけ脳の中で血流が速くなるかということを測定しました。血流は神経細胞の活性度と一対一で対応しています。そうすると音読や計算をしているときの前頭前野は右半球も左半球もものすごく活性化していることがわかります」
川島教授の実験結果を見ると読み書き計算がよいというのは一目瞭然だ。しかし、ゲームを全て否定する必要はないという。

「多くのコンピュータゲームは、前頭前野をあまり刺激しないということが科学計測ではっきりと現れています。ただしリズム・アクション系のゲームですと右脳は活性化されますし、一部のロールプレイング・ゲームでも前頭葉の活性化が認められています。それでもコンピュータゲームと大きく括ると、その7割から8割においては前頭前野は活性化しないんです。いい面としては視覚的な情報処理をする脳の部分は非常に活性化されますので、そこを鍛えることはできます。ただし、人間が人間らしい気持ちを持つ、コミュニケーションをする、ものを考えるという大事な作業をする前頭前野という器を育ててくれる刺激ではないといえます。人気が出るかどうかは別ですが、前頭前野を大いに活性化するようなゲームをゲーム会社が開発してくれれば、話が変わってきます」(前出・川島教授)
ゲーム会社にとっても今後の大きな課題となるに違いない。

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数字を数えあげている時の脳の血流パターン。上が自然数、下が素数を唱えている

ゲームを有効に利用することも不可能ではないのだ。川島教授はゲームをしている時の脳と“癒し”時の脳の血流状態が酷似していると言う。
「眠りにつく時、前頭前野の血流は下がっていきます。それによって深い眠りにつく。それから、私たちが“癒し”の感覚が得られるようなものを見たり聞いたりした時、実は前頭前野の血流は下がってきます。もちろん、見たり聞いたりする部位の血流は上がっています。その時の、血流パターンは、ゲーム中の脳活動とよく似ている。ある人から聞いたのですが、コンピュータゲームは現代人にとって“癒し”であると。私たちも言い得て妙だなと感じています。心安らいでいるという感覚は、前頭葉の血流が下がった時に感じたり、安らぎすぎると眠ってしまったりします。たぶん、その言葉は正しいと思っています」

前頭前野の活発な活動のリミットは、人がどのくらい集中できるかということで計ることができる。集中力は大人のレベルでも40〜50分くらいで切れてしまい、1時間が限度だという。教育の現場で言われる集中力は、小学生では学年×10分がMAXだ。
前頭前野を使った後には、5分から10分のリラックスタイムをとることを川島教授は薦めている。

「体の筋肉と置き換えてみるとわかりやすいのですが、使いっぱなしでは疲れてきて、効率は落ちますよね。そのために筋肉の中に乳酸がたまってきたら、私たちは苦痛を感じて休みをとるというシステムができています。脳もそれと一緒ですよ。疲れたなと思ったら、5分から10分脳がリラックスするような休みをとればいい。前頭前野を休ませるためにゲームをするというのは、有効だと思いますよ」


IQではなくPQの時代

北大の澤口俊之教授は、これからはゲーム問題に対して国家的プロジェクトとして対処したほうがいいと提案する。犯罪とゲームの深刻な関係も心配されているが、政府と企業と大学とが一体となって取り組まなければならない深刻な事態なのかもしれない。
「自分の前頭前野の働きがにぶっているかどうかを調べる方法と、にぶっているとわかったらそこを強化するプログラムが必要です。現在、IQではなく、『前頭葉(前頭前野)の力=PQ(Prefrontal Quotient)』についてさまざまな調査研究が行われてきています。集中力がないとか、計画性がないとか、片付けができないとか、自覚症状としてはいろいろありますが、客観的な指標として出す必要があります。前頭前野の働きは日々変化するので、ベーシックな能力を計るのです。前頭前野の働きを高めるには、個別には読書がいいとか、そろばんがいいとかアドバイスができますが、まだ体系的になっていません。研究を進めれば、体系だてて前頭前野の働きをのばす方法を考え出せると思います」

ゲーム脳にはゲームで。「ゲーム立国」日本としては世界に先がけて研究を進め、前頭前野を刺激し、ゲーム脳にならないゲームを開発してもらいたいものだ。