「つかれたにょー」
閉店後の片付けをしている店内に間延びした声が響いた。声の主は自称“ゲーマーズのアイドル”でじこである。正式にはデ・ジ・キャラットと呼称されるが、でじこと愛称で呼ばれている。
「あんたねえ、掃除始めてから五分も経ってないでしょ」
その隣で呆れたように、いや、呆れてそう切り返した少女は自称“でじこのライバル”うさだヒカル。通称うさだ。
「ワタシのようにキリキリ動きなさいキリキリ」
「でじこはうさだみたいに便利な耳なんて付いてないにょ」
「“うさだ”って呼ばないで! ラ・ビ・アンローズよ!」
そう行っている彼女は自分の耳に……正確には頭に装着しているうさ耳でハタキを振り回した。便利なんだがそれがどのようにできてるかは不明だ。ローターで回して飛ぶし。
「ふっ。うさだはうさだだにょ。まあいいにょ。手伝ってやるにょ。感謝するにょ」
でじこは労働に疲れた体を起こすとほっぽり出していたモップを拾う。
「するのが当たり前だっての」
「冗談の解らんやつにょ」
「あれ?今日はぷちこはどうしたの?」
掃除が終わろうとする頃、うさだが疑問を口にした。
「バイト中は一緒にいたみたいだけど……先に上がったの?」
「今頃ぷちこはムラタクと飯食ってるにょ」
ぶすっと膨れながら答えるでじこ。手は動いてない。というか、今もバイト中だ。
「ほえ、なんで? あ、ぷちこって満更じゃないんだ?」
ポン、と手を叩くうさだ。
「違うにょ。いまでじこの部屋には食べ物が無いのにょ」
「は?」
おもわず手を止め、聞き返す。
「食べ物が無いにょ〜〜! 御飯なんて三日前から食べてないにょ。今日うさだがミナタクから貰ったメロンパンでも食べないときっと飢え死ににょ〜!」
「なんでアンタが知ってるのよ〜!?」
誰にも知られていないはずの秘密を明かされビックリするうさだ。顔にはしまったの文字が書いてある。
「今日、階段のところでこそこそしてると思ったらこっそり受け取ってるの見たにょ!でじこも欲しいにょ。欲しいにょ!欲しいにょ!」
(ああ……これ、ワタシの晩御飯なんだけどなぁ……)
じたばたと暴れるでじこを見て、このままだと掃除が終わらないと思ったうさだは……
「じゃあ、半分だけあげる」
「ビンボ臭いにょ」
「わがまま言わないの。ワガママいってるとあげないから」
「わかったにょ。感謝して食べてやるにょ」
「アンタねえ……」
ジト目だった。
掃除が終わった二人はそのままでじこの部屋で夕食(メロンパン)を採り、電波の入りの悪い二世代ほど前の型のテレビを見ていた。
「あ、もう11時? そろそろ帰らなきゃ」
そう言って身を起こすうさだ。映画を見終わって、時間は11時。そろそろ帰らないといけない時間である。
「え、もう帰るのかにょ?」
「まあ、明日は日曜だけどね」
とはいえ、日曜もバイトはあるのだが……
「泊まってくにょ。布団はぷちこの分が空いてるにょ」
そう言ってうさだの手を引くでじこ。いつも見せている表情とはどこか違う。
「でじこ……どうしたの?」
ふと真顔になって聞き返す。しかし、でじこは黙ったまま、うさだの手を離さないでいる。明らかに、いつも喧嘩している生意気な猫娘ではない少女がそこにいた。寂しいのだろうか? ふと、そう浮かぶ。
「まあ……ウチに帰っても誰かがいるわけじゃないんだけどね。今日は泊まってあげる」
結局うさだはでじこの部屋に泊まることにした。なんだか、以前の自分を見ているような気がしたから。
「うさだは寂しがりやさんにょ」
そういって、でじこはうさだに抱きついた。うさだは黙ってでじこを抱きしめた。そう、うさだも同じように誰かの温もりを感じていたいのだ。
シャカシャカと音を漏らすイヤホンを、ぷちこは静かに聞いていた。
「ぷちこちゃん、何をきいてるんだい?」
「でじこの歌だにゅ」
――妹じゃない友達じゃない、ずっと側においてね。――
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