■■■ 辞世の句

刑に臨む

磐代の浜松が枝を引き結び 真幸くあらばまた還り見む − 有馬皇子

ももづたふ磐余の池に鳴く鴨を 今日のみ見てや雲隠りなむ − 大津皇子

古来の一句 死も無く生も無し 万里 雲尽き 長江 水清し − 日野俊基

白日青天 怒電走る − 千利休

風さそふ花よりもなほ我はまた 春の名残をいかにとやせん − 浅野長矩

身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも 留め置かまし大和魂 − 吉田松陰

孤軍 援け絶えて俘囚となり
君恩を顧念して 涙 更流る
一片の丹喪 よく節に殉じ
雎陽は千古 これわが儔
他に靡きて今日また何をか言はむ
義を取り生を捨つるは わが尊ぶところ
快く受く 電光三尺の剣
ただ まさに一生をもって君恩に報いむ − 近藤勇

ただ皇天后土の わが心を知るのみ − 江藤新平

力に生きて

倭は 国のま秀ろば たたなづく 青垣 山ごもれる 倭し うるはし − 倭建命

業鏡高く懸げ 三十七年 一槌にして打ち砕き 大道坦然たり − 北条時頼

人間五十年 下天のうちに比ぶれば 夢幻のごとくなり 一たび生を得て 滅せぬもののあるべきか(『敦盛』) − 織田信長

逆順無二の門 大道は心源に徹す 五十五年の夢 覚来めて一元に帰す − 明智光秀

四十九年 一睡の夢 一期の栄華 一杯の酒 − 上杉謙信

露とをち露と消へにしわが身かな 浪速ことは夢のまた夢 − 豊臣秀吉

かかる時さこそ命の惜しからめ かねて無き身と思ひ知らずば − 太田道灌

おもしろきこともなき世をおもしろく − 高杉晋作

腹いたや苦しき中に明けがらす − 山岡鉄舟

自裁

なよたけの風にまかする身ながらも たわまぬ節はありとこそ聞け − 西郷千恵子

うつし世を神さりましし大君の みあとしたひて我はゆくなり − 乃木希典

愛の前に死がかくまでも無力なものだとは この瞬間まで思はなかった − 有島武郎

水涕や鼻の先だけ暮れ残る − 芥川龍之介

池水は濁りににごり藤なみの 影もうつらず雨ふりしきる(伊藤左千夫) − 太宰治

ぼくは神の手に”あるいは悪魔の手に”打ち倒されました − 田中英光

私は歩み去ろう 今こそ消え去って行きたいのだ 透明のなかに 永遠のかなたに − 原民喜

散るをいとふ世にも人にもさきがけて 散るこそ花と吹く小夜嵐 − 三島由紀夫

漂泊の果て

鴨山の岩根し枕けるわれをかも 知らにと妹が待ちつつあるらむ − 柿本人麻呂

つひに行く道とはかねて聞しかど 昨日今日とは思はざりしを − 在原業平

生くべくも思ほえぬかな別れにし 人の心ぞ命なりける − 和泉式部

願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月のころ − 西行

眺むる月にたちぞ浮かるる − 飯尾宗祇

旅に病んで夢は枯野をかけ廻る − 松尾芭蕉

行列の行きつくはては餓鬼地獄 − 萩原朔太郎

入滅

無覚の聖衆来迎 空に満つ − 空也

常陸の人々ばかりぞ この者どもをも御あはれみ
あはれ候ふべからん
いとをしう 人々あはれみ思しめすべし − 親鸞

みづから一念発心せんよりほかには 三世諸仏の慈悲も済ふことあたはざるものなり − 一遍

それ 道に去来生死の相なく また 安危治乱の変なし − 夢窓疎石

虚空地に落ち 火星乱れ飛ぶとも 筋斗を倒打して 鉄囲を抹過せん − 絶海中津

平生は長詠短歌の中
酒を嗜み詩に婬して 永日を空しくす
身後精魂 何処にか去る
黄陵の夜雨 馬嵬の風 − 一休

知性の死

士やも空しくあるべき万代に 語りつぐべき名は立てずして − 山上憶良

思ひおく言の葉なくてつひに行く 道は迷はでなるにまかせて − 黒田如水

心平等といへども事に差別あり 差別の中心はまさに平等たるべし − 契沖

今よりははかなき世とは嘆かじよ 千代の棲家を求めえつれば − 本居宣長

十二万年夕月の夜 訪ひ来ん人を松の影 − 岡倉天心

余ハ石見人森林太郎トシテ死セント欲ス − 森鴎外

おみやげを買わなくていいか 埴輪や名器のような副葬品を − 高見順

僕の身体が 七色のしゃぼん玉にかわって
空気中をふわふわただよいながら
ボシャンボシャンと消えていったら さぞ楽だろうな − 細川宏

詩心の行方

出でて去なば主なき宿となりぬとも 軒端の梅よ春を忘るな − 源実朝

白梅に明くる夜ばかりとなりにけり − 与謝蕪村

草の上に蛍となりて千年を待たむ 妹が手ゆ黄金の水を給ふと言はば − 良寛

人魂で行く気散じや夏の原 − 葛飾北斎

我が家の犬はいづこにゆきならむ 今宵も思ひいでて眠れる − 島木赤彦

露草や赤のまんまもなつかしき − 泉鏡花

雪の上に春の木の花散り匂ふ すがしさにあらむわが死顔は − 前田夕暮

戯と俳の中に

木枯や跡で芽をふけ川柳 − 柄井川柳

ほととぎす鳴きつるかたみ初鰹 春と夏との入相の鐘 − 大田南畝

われも秋六十帖の名残かな − 柳亭種彦

世の中の厄をのがれて元のまま かへすは天と地の人形 − 瀧沢馬琴

朴散華即ちしれぬ行方かな − 川端茅舎

松朽葉かからぬ五百木無かりけり − 原石鼎

誰彼もあらず一天自尊の秋 − 飯田蛇笏


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