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(2014.7.7記)
内閣官房国家安全保障局が公表している
「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」の一問一答
への反論と解説

この政府の「問答集」は次々と【問】が追加されて、当初の22問から35問になっています。
追加された【答】は長々したものが多く、まさに「言い訳集」にふさわしいものになっています。
ホルムズ海峡の機雷封鎖の例がしつこく取り上げられていて、まるで、もう海外派兵のシナリオがすでにできているようです。
政府の一問一答の「問」 政府の一問一答の「答」 反論と解説
 新【問1】 集団的自衛権とは何か?  【答】 集団的自衛権とは、国際法上、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止することが正当化される権利です。しかし、政府としては、憲法がこのような活動の全てを許しているとは考えていません。今回の閣議決定は、あくまでも国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るための必要最小限度の自衛の措置を認めるだけです。他国の防衛それ自体を目的とするものではありません。  【解説】 アメリカのベトナム戦争も旧ソ連のアフガン戦争も集団的自衛権の行使として始められました。そのため政府は、こうした戦争とは違うと言いたくて「必要最小限の自衛の措置」と言い訳しています。しかし、国の存立を全うできない危機かどうかは政府が判断するので必要最小限になるかどうか保障はありません。また、我が国が必要最小限と主張しても、武力攻撃国がそう思って攻撃を最小限に「自制」してくれるかどうかは保証の限りではありません。
 新【問2】 我が国を取り巻く安全保障環境の変化とは、具体的にどのようなものか?  【答】 例えば、大量破壊兵器や弾道ミサイル等の軍事技術が高度化・拡散し、北朝鮮は日本の大部分をノドンミサイルの射程に入れており、また、核開発も行っています。さらに、グローバルなパワーバランスの変化があり、国際テロの脅威や、海洋、サイバー空間へのアクセスを妨げるリスクも深刻化しています。  【解説】 大量の核兵器を保持するソ連があった時代でも、集団的自衛権の行使が必要だとはされませんでした。当時と異なるのは中国や北朝鮮の軍事力強化ですが、これらの国が、日本より先に世界最強の米軍を攻撃するということは考えられず、日本が集団的自衛権を行使する状況にはなりえません。
 【問3】 なぜ、今、集団的自衛権を容認しなければならないのか?  【答】 今回の閣議決定は、我が国を取り巻く安全保障環境がますます厳しさを増す中、我が国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るため、すなわち我が国を防衛するために、やむを得ない自衛の措置として、必要最小限の武力の行使を認めるものです。  【解説】 我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置は、個別的自衛権によってすでに認められています。集団的自衛権行使を容認するということは、それ超える武力行使を認めるということで、必要最小限を超えた武力行使に足を踏み出すということです。
 【問4】 解釈改憲は立憲主義の否定ではないのか?  【答】 今回の閣議決定は、合理的な解釈の限界をこえるいわゆる解釈改憲ではありません。これまでの政府見解の基本的な論理の枠内における合理的なあてはめの結果であり、立憲主義に反するものではありません。  【解説】 憲法は、武力の行使を放棄し、国の交戦権を認めないと明記しています。自国が攻撃されていないのに、武力を行使するというのは、合理的な解釈の限度を超えるもので、立憲主義の否定そのものです。
 【問5】 なぜ憲法改正しないのか?  【答】 今回の閣議決定は、国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るために必要最小限の自衛の措置をするという政府の憲法解釈の基本的考え方を、何ら変えるものではありません。必ずしも憲法を改正する必要はありません。  【解説】 他国に対する武力攻撃に対して日本が武力行使をするということ自体が必要最小限の自衛の措置を超えるものです。当然、憲法改正が必要ですが、手続きが面倒で、時間がかかるから、解釈改憲で済まそうとしているのです。
 新【問6】 今後、更に憲法解釈を変更して、世界各国と同様に国際法上合法な集団的自衛権の行使を全面的に認めるようになるのではないか?  【答】 その場合には憲法改正が必要です。なぜなら、世界各国と同様に集団的自衛権の行使を認めるなど、憲法第9条の解釈に関する従来の政府見解の基本的な論理を超えて武力の行使が認められるとするような解釈を現憲法の下で採用することはできません。  【解説】 今回の憲法解釈の変更は、従来の政府見解の基本的な論理を超えていないと言いたいようですが、今回の変更に実質的な歯止めはなく(問20参照)、従来の政府見解の基本的な論理をすでに超えています。さらに明文の憲法改正も狙われています。
 【問7】 国会での議論を経ずに憲法解釈を変えるのは、国民の代表を無視するものではないか?  【答】 5月に総理が検討の方向性を示して以降、国会では延べ約70名の議員から質問があり、考え方を説明してきました。自衛隊の実際の活動については法律が決めています。閣議決定に基づき、法案を作成し、国会に十分な審議をお願いしていきます。  【解説】 閣議決定されるまで、論議は与党の自民党と公明党との間だけで行われたものでした。国会質問があったからと言って議論がされたとはいえません。作成される法案も、何十本もの法律が一括法案として提案されたら、十分な審議が危惧されます。
 【問8】 議論が尽くされておらず、国民の理解が得られないのではないか?  【答】 この論議は第一次安倍内閣時から研究を始め、その間、7年にわたりメディア等で議論され、先の総選挙、参院選でも訴えてきたものです。5月に総理が検討の方向性を示して以降、国会では延べ約70名の議員から質問があり、説明してきました。今後も皆様の理解を頂くよう説明努力を重ねます。  【解説】 第一次安倍内閣以降の内閣は集団的自衛権の行使を問題にしたことさえありませんでした。何ページもある公約集の中に含まれていたからといって、「先の総選挙・参院選でも訴えてきた」というのは実態に合いません。間近の選挙で、集団的自衛権の行使容認は大きな争点となっていません。
 【問9】 今回の閣議決定は密室で議論されたのではないか?  【答】 これまで、国会では延べ約70名の議員からの質問があり、総理・官房長官の記者会見など、様々な場でたびたび説明し、議論しました。閣議決定は、その上で、自民、公明の連立与党の濃密な協議の結果を受けたものです。  【解説】 自民・公明の与党のみで非公開の議論をしてきたのですから密室での議論そのものです。閣議決定の文言には何度か変遷があったといわれていますが、なぜ、どうして変わったのか十分な説明もありません。
 新【問10】 今回拙速に閣議決定だけで決めたのは、集団的自衛権の行使に向けた政府の独走ではないか?  【答】 閣議決定は、政府が意思決定をする方法の中で最も重い決め方です。憲法自体には、自衛権への言及は何もなく、自衛権をめぐるこれまでの昭和47年の政府見解は、閣議決定を経たものではありません。今回の閣議決定は、時間をかけて慎重に議論を重ねた上で行いました。今回の閣議決定があっても、実際に自衛隊が活動できるようになるためには、根拠となる国内法が必要になります。今後、法案を作成し、国会に十分な審議をお願いしていきます。これに加え、実際の行使に当たっては、これまでと同様、国会承認を求めることになり、「新三要件」を満たしているか、政府が判断するのみならず、国会の承認を頂かなければなりません。  【解説】 憲法と閣議決定のどちらが上位の規範なのかは言うまでもありませんが、憲法が上です。内閣は憲法の下にあり、憲法を守る義務があります。それを下位が上位の解釈を勝手に変えてしまうのですから、拙速な独走であることは間違いありません。与党だけで密室で議論したものを「慎重に議論を重ねた」とは言えません。今後、国会に十分な審議をお願いするということ自体が、これまでは国会を抜きに議論してきたことを自白しています。今後、国会審議で歯止めをかけていくことは重要ですが、与党が過半数を占めている国会で関連法案が可決されてしまったとしても、正規の憲法改正の手続きを経ない改憲は無効です。
 新【問11】 今回の閣議決定で議論は終わりなのか?  【答】 今回の閣議決定は、自民、公明の連立与党の濃密な協議の結果に基づき、政府として新しい安全保障法制の整備のための基本方針を示したものです。今後、閣議決定に基づき、法案を作成し、国会に十分な審議をお願いしていきます。  【解説】 「自民、公明の連立与党の濃密な協議」のみにもとづき憲法解釈の変更を行ったことは隠しようがありません。今後、国会審議があるからといって、閣議決定で憲法解釈を変更するという手法が許されるはずがありません。
 【問12】 憲法解釈を変え、平和主義を放棄するのか?  【答】 憲法の平和主義を、いささかも変えるものではありません。大量破壊兵器、弾道ミサイル、サイバー攻撃などの脅威等により、我が国を取り巻く安全保障環境がますます厳しくなる中で「争いを未然に防ぎ、国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るために、いかにすべきか」が基点です。  【解説】 憲法の平和主義とは、自国が攻撃された時の緊急避難的な反撃以外の一切の武力行使を放棄し、交戦権も認めないというものです。自国が攻撃されていないのに武力の行使を行うのは、平和主義の放棄そのものです。争いを未然に防ぐためにこそ、日本からは攻撃しないという立場が重要です。
 【問13】 憲法解釈を変え、専守防衛を放棄するのか?  【答】 今後も専守防衛を堅持していきます。国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを、とことん守っていきます。  【解説】 自国ではなく、他国への攻撃に対して日本が武力行使を行うことは、すでに専守でも防衛でもありません。
 【問14】 戦後日本社会の大前提である平和憲法が根底から破壊されるのではないか?  【答】 日本国憲法の基本理念である平和主義は今後とも守り抜いていきます。  【解説】 戦争放棄が憲法の平和主義で、集団的自衛権行使はそれを壊します。
 【問15】 徴兵制が採用され、若者が戦地へと送られるのではないか?  【答】 全くの誤解です。例えば、憲法第18条で「何人も(中略)その意に反する苦役に服させられない」と定められているなど、徴兵制は憲法上認められません。  【解説】 この政府見解を国民は忘れないようにしましょう。貧困から学資や生活費のために若者が自主的に軍隊に入る「経済的徴兵制」という事態もありえます。
 新【問16】 今回、集団的自衛権に関して憲法解釈の変更をしたのだから、徴兵制も同様に、憲法解釈を変更して導入する可能性があるのではないか?  【答】 徴兵制は、平時であると有事であるとを問わず、憲法第13条(個人の尊重・幸福追求権等)、第18条(苦役からの自由等)などの規定の趣旨から見て許容されるものではなく、解釈変更の余地はありません。  【解説】 問のとおりに解釈変更がされる可能性があります。与党自民党の石破幹事長は、現憲法下でも徴兵制が可能だとの見解を持ち、戦争の際には「敵前逃亡は懲役300年」などの規定が必要だと言っています。
 【問17】 日本が戦争をする国になり、将来、自分達の子供や若者が戦場に行かされるようになるのではないか?  【答】 日本を戦争をする国にはしません。そのためにも、我が国を取り巻く安全保障環境が厳しくなる中で、国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るために、外交努力により争いを未然に防ぐことを、これまで以上に重視していきます。  【解説】 他国への攻撃に日本が反撃すれば、攻撃国からは参戦とみなされます。戦闘がエスカレートして長引けば、兵員の補充のため若者が戦場に行かされることになります。攻撃しないと憲法で宣言している国だからこそ、外交努力も実るのです。
 【問18】 自衛隊員が、海外で人を殺し、殺されることになるのではないか?  【答】 自衛隊員の任務は、これまでと同様、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるというときに我が国と国民を守ることです。  【解説】 戦闘になれば、殺し、殺されざるを得ません。他国への攻撃に反撃するのですから、海外で戦闘が行われるのも当然です。自衛隊員にそんなことをさせてはなりません。
 新【問19】 今回の閣議決定で、自衛隊員が戦闘に巻き込まれ血を流すリスクがこれまで以上に高まるのではないか?  【答】 自衛隊員は、「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえること」を宣誓して、任務に当たっています。自衛隊員がいざという時に備えて日頃から厳しい訓練を徹底的に行っている理由はただ一つ。国民の命と平和な暮らしを守るためであり、そのために、他に手段がないからです。
 新たな法整備により与えられる任務は、これまで同様、危険度の高い任務になります。あくまでも、国民の命と平和な暮らしを守り抜くためのものであるという自衛隊員の任務には、何ら変更はありません。自衛隊員が、海外で、我が国の安全と無関係な戦争に参加することは断じてありません。
 また、我が国の安全の確保や国際社会の平和と安定のために活動する他国の軍隊に対して、いわゆる後方支援といわれる支援活動を行う場合については、いかなる場所で活動する場合であっても、これまでと同様、自衛隊の部隊の安全を確保しつつ行うことは言うまでもありません。
 【解説】 自衛隊員の多くは、我が国への攻撃から国民を守る、災害救助に献身するという思いで任務にあたっているはずです。その自衛隊員を、我が国への攻撃もないのに、他国への攻撃に対する反撃として駆り出すことになるのが集団的自衛権の行使です。なぜ他国の戦争に加勢しなければならないのか、自衛隊員の思いとも異なる任務を強要することになります。
 「我が国の安全と無関係な戦争に参加することは断じてありません」といいますが、関係があるかないか判断するのは政府であり、実際には関係なくても「自存自衛のため」(太平洋戦争開戦の詔勅)と強弁して自衛隊を動かすことになるのは容易に想像できます。
 後方支援は自衛隊の安全を確保しつつ行うといっても、戦闘状況の中で、相手国が自衛隊の安全を確保してくれるなどということがあり得るはずがありません。、結局、血を流し、流される戦闘になってしまい、これまで外国で一人も殺さず、殺されなかった自衛隊の誇りが失われます。
 【問20】 歯止めがあいまいで、政府の判断次第で武力の行使が無制約に行われるのではないか?  【答】 国の存立を全うし、国民を守るための自衛の措置としての武力の行使の「新三要件」が、憲法上の明確な歯止めとなっています。さらに、法案においても実際の行使は国会承認を求めることとし、国会によるチェックの仕組みを明確にします。  【解説】 「新三要件」の「明白な危険」「他に適当な手段がない」「必要最小限度の実力行使」というのはすべて政府が判断することですから、何の歯止めにもなりません。秘密保護法によって、その内容をチェックすることもできなくされています。
 新【問21】 国会で議論されている「新三要件」に言う「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」の有無は、どのような基準で判断するのか?  【答】 現実に発生した事態の個別・具体的な状況に即して、主に、攻撃国の意思・能力・事態の発生場所、その規模・態様・推移などの要素を総合的に考えて、我が国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民が被ることとなる犠牲の深刻性、重大性などから、「新三要件」を満たすか否か客観的、合理的に判断します。  【解説】 「答」には「誰が」判断するのかわざと書いていないようですが、判断するの政府です。要するに内閣ということで、今回の憲法解釈変更の閣議決定をしたのと同様に密室で判断されるのですから、いくら要件を満たすか客観的、合理的に判断するといっても信用することはできません。
 【問22】 自衛隊は世界中のどこにでも行って戦うようになるのではないか?  【答】 従来からの「海外派兵は一般に許されない」という原則は全く変わりません。国の存立を全うし、国民を守るための自衛の措置としての武力の行使の「新三要件」により、日本がとり得る措置には自衛のための必要最小限度という歯止めがかかっています。  【解説】 集団的自衛権の行使に地理的限定はないと自民党の幹部は何度も言っています。「新三要件」は政府が判断するのでなんの歯止めにもなりません。状況によっては、自衛隊が、地球の裏側へでも、世界中どこへでも行って戦闘することになってしまいます。
 【問23】 国民生活上、石油の供給は必要不可欠ではないか?  【答】 石油なしで国民生活は成り立たないのが現実です。石油以外のエネルギー利用を進める一方で、普段から産油国外交や国際協調に全力を尽くします。  【解説】 石油のためといって、ペルシャ湾やマラッカ海峡での紛争に日本が参戦すれば、相手から「敵国」と思われて、ますます資源確保が困難になります。
 新【問24】 狭いところで幅33キロメートルの地点もあるホルムズ海峡に機雷が敷設された場合、我が国に大きな影響があるのか?  【答】 我が国が輸入する原油の約8割、天然ガスの2割強は、ホルムズ海峡を通過しており、ホルムズ海峡は、エネルギー安全保障の観点から極めて重要な輸送経路となっています。現在、中東情勢が不安定になっただけで、石油価格が上昇し、ガソリン価格も高騰していますが、仮に、この海峡の地域で武力紛争が発生し、ホルムズ海峡に機雷が敷設された場合には、かつての石油ショックも比較にならない程に高騰し、世界経済は大混乱に陥り、我が国に深刻なエネルギー危機が発生するでしょう。  【解説】 ホルムズ海峡に機雷が敷設された場合には、我が国に深刻な危機が発生すると強調しているのは、集団的自衛権を行使して自衛隊を機雷の除去に参加させたいということでしょう。中東情勢が石油供給に影響するのは事実ですが、それだからこそ、中東諸国からは、日本が中立国であり、軍事行動はしないと信じられていることが重要なのです。日本が集団的自衛権を行使して、アメリカの側に立つと明確になった途端、相手からは「敵国」と思われて、石油供給にもいっそうの困難が生じるはずです。
 新【問25】 日本は石油を備蓄しているから、ホルムズ海峡が封鎖されても「新三要件」に言う「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」に当たらないのではないか?  【答】 石油備蓄が約6ヶ月分ありますが、機雷が除去されなければ危険はなくなりません。石油供給が回復しなければ我が国の国民生活に死活的な影響が生じ、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されることとなる事態は生じ得ます。実際に「新三要件」に当てはまるか否かは、その事態の状況や、国際的な状況等も考慮して判断していくことになります。  【解説】 しつこくホルムズ海峡封鎖の例を取り上げて集団的自衛権行使の要件に当てはまる事態が「生じ得ます」としています。しかし、ホルムズ海峡は問24にあるように狭く、海域はすべてイランかオマーンの領海で公海の部分はありません。そこに自衛隊が行けば、外国領海への海外派兵となり、外国に行って戦闘しないという安倍首相の会見での説明(7/1)と矛盾するのではないですか?
 【問26】 日本は石油のために戦争するようになるのではないか?  【答】 憲法上許されるのは、あくまでも我が国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るための必要最小限の自衛の措置だけです。  【解説】 石油の輸送路確保を口実に、「我が国の存立が脅かされる」といって、戦争に参加していく危険を強く感じます。
 新【問27】 機雷の除去は、海外で武力を行使するものであり、海外派兵に当たるのではないか?  【答】 国際紛争を力で解決するために機雷を敷設し、船舶の自由な航行を妨げることは国際法違反です。自由航行を回復するために機雷を除去することは、国際法上は武力の行使に分類されますが、機雷の除去は受動的、限定的な行為であり、敵を撃破するための大規模な空爆や地上戦とは、性格が大きく異なります。機雷の除去を行う自衛隊の船舶は攻撃的なものではなく、木や強化プラスチックでできており脆弱なため、まさに、そこで戦闘行為が行われているところに派遣して、機雷の除去を行うことは、想定されません。  【解説】 政府自身が「国際法上は武力の行使に分類される」としているように機雷の除去は軍事行動です。目的を持って機雷を敷設した国が、日本の機雷除去船が木製で脆弱な船だから大目に見て攻撃しないでおこうと考える保証は一切ありません。戦闘行為が行われていなくても、機雷除去をきっかけに戦闘行為に突入することも十分考えられます。戦闘行為には対立関係になる相手があるので、我が国が「攻撃的でない」と言ったところで、相手国がそのとおりと思って黙認してくれると想定するのは非現実的です。
 【問28】 従来の政府見解を論拠に逆の結論を導き出すのは矛盾ではないか?  【答】 憲法の基本的な考え方は、何ら変更されていません。我が国を取り巻く安全保障環境がますます厳しくなる中で、他国に対する武力攻撃が我が国の存立を脅かすことも起こり得ます。このような場合に限っては、自衛のための措置として必要最小限の武力の行使が憲法上許されると判断したものです。  【解説】 明白な事例を示せないように、他国への武力攻撃が我が国の存立を脅かすことはあり得ません。しかも、そのような場合に武力行使を行うことは自衛とはいえず、憲法上許されないというのが従来の政府見解でした。必要最小限の武力の行使は、日本が直接攻撃された時の反撃以外は許されません。
 【問29】 今回の閣議決定により、米国の戦争に巻き込まれるようになるのではないか?  【答】 憲法上許されるのは、あくまで我が国の存立を全うし、国民の命を守るための自衛の措置だけです。もとより、外交努力による解決を最後まで重ねていく方針は今後も揺らぎません。万が一の事態での自衛の措置を十分にしておくことで、却って紛争も予防され、日本が戦争に巻き込まれるリスクはなくなっていきます。  【解説】 ベトナム戦争は、アメリカが集団的自衛権の発動として開始したものです。アメリカと軍事同盟を結んでいた韓国はこの戦争に参戦し、5000人の戦死者を出し、その数倍のベトナム人の死者を生みました。日米安保条約にもかかわらず日本が参戦しなかったのは、憲法が集団的自衛権の行使を禁じていたからです。
 新【問30】 米国から戦争への協力を要請された場合に、断れなくなるのではないか?  【答】 武力行使を目的として、イラク戦争や湾岸戦争のような戦闘に参加することは、これからもありません。我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がない場合、他に適当な手段がある場合、必要最小限の範囲を超える場合は、「新三要件」を満たさず、「できない」と答えるのは当然のことです。  【解説】 政府に、米国の要請を断るつもりはないはずです。これまでは、たとえ同盟国の米国の要請であっても海外派兵を断れたのは、集団的自衛権の行使が憲法上許されていないと言えたからです。それが言えなくなるので、当然、断れなくなります。戦闘に参加することはないと言っても、相手が攻撃してくれば応戦し戦闘にならざるを得ません。
 【問31】 今回の閣議決定により、必要ない軋轢を生み、戦争になるのではないか?  【答】 総理や大臣が、世界を広く訪問して我が国の考え方を説明し、多くの国々から理解と支持を得ています。万が一の事態での自衛の措置を十分にしておくことで、かえって紛争も予防され、日本が戦争に巻き込まれるリスクはなくなっていきます。  【解説】 他国への攻撃に日本が反撃するというのは、けんかをしている当事者の一方に暴力で協力するということですから、相手からは「敵国」とみなされてしまいます。巻き込まれるどころが、あえて積極的に戦争に加わっていくという行為です。
 【問32】 今回の閣議決定によっても、結局戦争を起こそうとする国を止められないのではないか?  【答】 日本自身が万全の備えをし、日米間の安全保障・防衛協力を強化することで、日本に対して戦争を仕掛けようとする企みをくじく力、すなわち抑止力が強化されます。閣議決定を受けた法案を、国会で審議、成立を頂くことで、日本が戦争に巻き込まれるリスクはなくなっていきます。  【解説】 武力による抑止力という考え方は、かつての米ソ冷戦時代の発想で、核兵器の拡大が際限なく続いたように、きりのない軍拡につながります。戦争を仕掛けようとする企みをくじくのは、冷静な外交交渉であり、無法を許さないという国際世論です。そのための平和外交が必要です。
 【問33】 武器輸出の緩和に続いて今回の閣議決定を行い、軍国主義へ突き進んでいるのではないか?  【答】 今回の閣議決定は戦争への道を開くものではありません。むしろ、日本の防衛のための備えを万全にすることで、日本に戦争を仕掛けようとする企みをくじく。つまり抑止力を高め、日本が戦争に巻き込まれるリスクがなくなっていくと考えます。  【解説】 秘密保護法の制定、武器輸出三原則の放棄に続く今回の閣議決定は、明らかに軍国化の方向を向いています。防衛のための備えを万全にするという口実で軍備拡張、邦人保護を口実に中国侵略に踏み出したのが、かつての日本の軍国主義でした。
 新【問34】 今回の政府の決定が防衛予算を増加させ、軍拡競争をあおるのではないか?  【答】 決して軍拡につながることはありません。我が国の防衛予算は、中期防衛力整備計画に基づき、5年間、毎年0.8パーセントずつ増やすことが既に決められていますが、それでも2002年の水準に戻るにすぎません。  【解説】 武器輸出三原則も放棄し、集団的自衛権行使容認で軍事的緊張が高まっているとの印象を与えて自衛隊を海外に出し、毎年軍事費を増やす、まさに軍拡そのもので、軍需産業の経済的利益を図る道です。
 【問35】 安倍総理はなぜこれほどまでに安全保障政策が好きなのか?  【答】 好き嫌いではありません。総理大臣は、国民の命、平和な暮らしを守るために重い責任を負います。いかなる事態にも対応できるよう、常日頃から隙のない備えをするとともに、各国と協力を深めていかなければなりません。  【解説】 憲法判断の「最高責任者は私です!」という国会答弁にみられえるように、安倍首相は、日本の軍事化、集団的自衛権の行使に、独りよがりの「責任感」「使命感」を持っているのではないでしょうか。大変危険なことです。
 【自衛の措置としての武力の行使の新三要件】
 ○我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
 ○これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
 ○必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
 【解説】 左記の三要件が当てはまっているかどうかは、政府が総合的に判断するとされています。その判断に当たっての情報は秘密保護法によって政府以外には公表されません。

(2014.5.14記)

集団的自衛権の行使容認は二重の憲法違反、
許してはいけません


 自衛権とは戦争する権利のこと

 安倍首相が、閣議決定で憲法の解釈を変えて「集団的自衛権」を行使できるようにしようとしています。集団的自衛権とは何でしょうか?  自衛権というのは、合法的に軍事行動を行う権利、あるいは戦争を正当化する根拠という意味を持っています。現代の国際社会では、あからさまな侵略戦争が許されないことは国連憲章にもうたわれ、地球規模のコンセンサスになっています。許される戦争として国連憲章で認められているのが、個別的自衛権と集団的自衛権なのです。

 個別的自衛権というのは、自国が攻撃されたときに反撃する戦いですが、集団的自衛権というのは、自国が直接攻撃されていなくても、同盟国を助けるために自国領土以外で軍事行動をすることの理由づけとして語られる言葉です。
 ちょうどわかりやすい実例がつい最近、ウクライナのクリミア地方で起きました。
 ウクライナでは親ロシア政権が倒されて反ロシアの政権が誕生しました。これまでウクライナ政府の協力で同国内のクリミアに海軍基地を置いていたロシアは、基地を絶対に手放したくないため、もともとロシア系住民の多いクリミア地方をウクライナから分離させてロシアに編入してしまおうと画策しています。ウクライナ政府の合意なしに住民投票を行い、ロシア編入賛成が多数だったとしてクリミアを手中におさめ、すかさず軍隊を送って、ウクライナ側の抵抗に睨みをきかせました。場合よっては、本格的な戦闘行動も辞さずという姿勢です。
 このロシア軍派遣の論理が「集団的自衛権」なのです。ロシア側の論理では、ロシア系住民が多く住むクリミアがウクライナ国内で迫害され、攻撃されるかもしれないので、同胞の要請にこたえて集団的自衛権を行使してクリミアに駐留したということになります。
 同様の事例は、これまでもありました。
 ベトナム戦争は、トンキン湾で北ベトナムが南ベトナム艦船を攻撃したので、南ベトナムの同盟国たるアメリカが集団的自衛権を行使して北ベトナムに反撃するという理由で始まりました(北が攻撃したというトンキン湾事件はでっち上げだったことが後に判明)。
 アフガン戦争は、親ソ政権がイスラム原理主義の反政府勢力に倒されそうなので、政府の要請にもとづきソ連が集団的自衛権を行使して軍隊を送りこみ戦争を始めました(アフガン政府のソ連への救援要請というのはウソだった)。
 この例に象徴されるように、集団的自衛権というのは大国が軍事行動を起こすときの「言い訳」として用いられてきた言葉です。これが、日本国憲法でも認められた権利だと解釈できると安倍首相はいうのですが、そんな理屈が成り立つでしょうか。

 憲法は戦争も交戦権も放棄している

 日本国憲法は第9条で以下の通り戦争の放棄を定めています。

 第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 これでは「外国が軍隊で攻めてきても反撃もできないのか?」という不安に対して、これまで政府は、「憲法は『個別的自衛権』まで否定したものではないので、日本が攻められた場合は反撃できる。そのための最低限の実力が自衛隊だ」という解釈を示してきました。この解釈も憲法違反だという考え方もありますが、ともかくも60年以上、こう説明してきたのです。「戦争は放棄したが、個別的自衛権はある」ということは、言い方を変えれば、「憲法が放棄した戦争というのは、集団的自衛権のことである」ということになります。もちろん侵略戦争の否定は自明の前提です。
 その集団的自衛権を認めるということになると、いったい憲法は何を放棄したのか? ということです。何も放棄していないということになって、憲法9条は何の意味も持たない空文だったということになってしまいます。
 憲法9条は一項で、戦争、武力による威嚇、武力の行使を放棄しています。たとえ同盟国が攻撃されるという国際紛争が生じても、それを解決する手段として、武力は行使できないのです。
 さらに二項で、戦力不保持、交戦権の否認も定めています。交戦権を認めないということは、どんな理由であろうとも軍事行動はできないということであり、そのただ一つの例外が、これまでの政府見解によれば、実際に他国が武力で侵攻してきたときに自国内で反撃して国民を守る個別的自衛権であり、そのための必要最小限の部隊が自衛隊なのです。
 安倍首相は、そういう考え方が、現在の国際情勢に合わないと説明しました。国民を守るためには集団的自衛権が必要だというのです。しかし、その例として挙げられた、邦人輸送外国船の警護や共同行動している米艦が攻撃されたときの救援というのは、もし本当に必要な事態なら個別的自衛権の行使で対応できる事例ですし、もし本当に必要でない事態で発動されたら、まさに戦争への参加ということになってしまいます。

 政府が憲法の解釈を変えるのは立憲主義の否定

 どうしても個別的自衛権だけでは不十分だと考えるのであれば、憲法を改正して、集団的自衛権も行使できるようにする以外に方法はありません。そのために、憲法で決まっている通りに国会で発議して、国民投票をしなければならないのです。それをしないで、政府の解釈だけで、国の基本を定めた憲法の根幹を変えてしまうのは、法治国家の根本を揺るがす暴挙です。
 政府は、その時々の選挙で多数を占めた党派によって構成されるもので、数年で構成も考え方も変わってしまう可能性があります。一方でその権限は強大で国民の生活、生命に絶大な影響を与えます。だからこそ、その時々の政府が、あまり勝手なことをしないように縛る役割を果たしているのが憲法なのです。政府が権力をふるえるのは、あくまで憲法の定める範囲内に限り、その憲法は国民が負託したものなのだから、改変するには、面倒でもそれなりに慎重な手続きを必要とするというのが「立憲主義」なのです。

 安倍首相の解釈改憲の主張は、憲法の戦争放棄原則の否定であり、立憲主義を否定する暴挙です。許してはなりません。阻止するために多くの国民が立ち上がらなくてはならないと思います。


 (参考)今まで集団的自衛権の行使として国連に報告された14事例

(1) ハンガリー動乱におけるソ連による武力行使(1956年)
(2) レバノン内戦における米国による武力行使(1958年)
(3) ヨルダン内戦における英国による武力行使(1958年)
(4) 南アラビア連邦問題における英国による武力行使(1965年)
(5) ベトナム戦争における米国による武力行使(1965年)
(6) チェコ動乱におけるソ連による武力行使(1968年)
(7) ソ連によるアフガニスタン侵攻(1979年)
(8) リビアによるチャドへの武力行使(1980年)
(9) ニカラグア内戦における米国による武力行使(1980年代前半)
(10) フランスによるチャドへ武力行使(1983年、1986年)
(11) 米国によるホンジュラスへの武力行使(1988年)
(12) イラク・クウェート危機における米国、英国、アラブ連盟諸国等による対イラク武力行使(1990年)
(13) ロシアを始めとする独立国家共同体(CIS)諸国によるタジキスタンへの武力行使(1993年)
(14) 米国同時多発テロにおける英国を始めとするNATO諸国によるアフガニスタン武力行使(2001年)



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