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読書記録

Latest Update at 22nd December, 2005 by KITORA


このページでは KITORA のかなりバイアスのかかった文章が書かれています。御承知おき下さい。

エデンの命題/The Proposition of Eden


島田荘司 著(2005/11/29 読了)
☆☆☆☆
カッパ・ノベルス ¥933- ¥980-(税込)
ISBN4-334-07622-X

御手洗シリーズではありません。中編 2作からなる作品集です。
御手洗シリーズの「魔神の遊戯」でも旧約聖書からの引用というか島田的解釈を加えた物語が語られましたが、 表題作では本格的に旧約聖書からのインスパイアというか生物(生命)科学的な味付けが加味されております。

エデンの命題:以下の 2編を所収 ・エデンの命題
・ヘルター・スケルター

・エデンの命題 ネヴァダ砂漠に作られた学園「エデン」、そこに学ぶザッカリはアッペルゲンガー症候群を患っており、 実はこの学園に学ぶ生徒は全てこの病に悩む人達であった。
自らの好む領域に於いては特異的な専門性を発揮するほど知能が高い彼らは時には様々な分野について 議論を交わすのだが、旧約聖書の解釈に関しても同様で、アダムからイブが生まれたのはクローニングではないか等と 議論は尽きない。
そんな中、ザッカリの親友にして恋人とも言える〜〜が突如いなくなり、 彼女の弁護士と名乗る男から謎めいた手紙を渡される……

・ヘルター・スケルター 昏睡状態から目覚めた男、病室と思われるその部屋に入ってきた医師と妙なロボットから 事故で脳に大きな障害を受けたと説明される。その障害の克服の為には これから 5時間の治療が Critical であると……
男の記憶では彼は 37歳であったが、医師が手鏡を渡すと驚いた事にそこには老人になった自分の顔が……
医師は彼が既に 70手前だと告げ、途切れた記憶を思い出すには生後から彼の記憶を辿っていくしかないと言い、 幼い頃から 37歳までの記憶を克明に思い出せればそれがきっかけとなって 37歳以降の記憶を思い出し、 脳に再度刻まれる事で記憶を喪失する危険性が小さくなると男を説得して治療を始める。
医師の説明を受けるに連れて、男が生きてきた人生は子供の頃受けた脳へのダメージからか 暴力が支配するものである事が思い出されていく、そして決定的だったのはベトナムであった。
医師との会話の中で思い出された事柄でも例えば地理的な事では自分の左側は鮮明に記憶するが、 右側にあるものは記憶されていない。右脳が左脳を圧倒しているというよりも左脳が働いていないかのようだ。
そして徐々に呼び覚まされた記憶がベトナムからの帰還〜37歳当時に近づいて……

「エデンの命題」は旧約聖書と最新の生物化学(生命科学)知識から生まれた作品と言えるのでしょうが、島田荘司らしい解釈も随所に見受けられ、なかなかの読みごたえでした。
(こういうのを理系小説または理系ミステリと言っても良いのではないかな……)
物語後半のカタルシスという点では御手洗シリーズとは比べられませんが、小説として非常に面白かったです。

「ヘルタースケルター」ですが、どことなく「ネジ式ザゼツキー(2003/10)」を思いおこさせるような感じでした。
この作品では前半の物語性と後半部分の展開の妙というか島田荘司らしさが堪能出来ました。
それにしても意外な名前が出てきて、どうなるのかな……という気持ちにさせられるのですが、 若い世代の読者諸兄には馴染みが薄い名前かも知れませんね。(^_^;)

このタイトルでピンと来る人には後半の展開が読めるのかも……
私はどこかで聞いた事があるとは思っていましたけど、ググってみてようやく分かった次第。
件の男が白人と黒人の最終戦争を「ヘルター・スケルター」と呼んだらしいです。
イギリスでは螺旋状の滑り台を指すらしいのですが、辞書的には「【名】あたふたすること、 大慌て、狼狽、混乱、右往左往すること」との事。

それと、時代考証というか科学技術の歴史的な進歩という観点からは問題がないのだろうか……
まぁ、そういったところでは著者は神経質なくらい調べるタイプなので杞憂だとは思いますが……


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