大曲皮フ科ニュース
 

 

 


2012年3月1日号

爪についてのウソ・ホント

 

皮フ科専門誌に、爪についての通説、俗説に関して取り上げた論文が掲載されていましたので、興味深い部分を抜粋してご紹介致します。

 

★@カルシウム摂取が足りないと爪が脆くなる?

爪の異常を訴えて受診した患者さんから、その原因として栄養学的に自分のカルシウム摂取に問題があるのでしょうか、との質問に遭遇する場面が少なくありません。おそらく、爪は硬い→骨も硬い→骨は多量のカルシウムを含有し、骨のカルシウム含量が低下する骨粗鬆症では病的骨折など問題を生ずる、などの知識から、爪の硬さにもカルシウムが関与するといった誤解が生まれたのだと思います。こういう誤解は一般の方からばかりとは限りません。爪を含む組織の病理標本作製を依頼する際、「爪が入っているなら脱灰を要するので標本作製に多少時間がかかります」と病理の検査技師から告げられて驚いた経験が一再でないことからも推察されます。

 

皮フ科医であればご存知と思いますが、爪の硬さはカルシウムを多く含むからではなく、ケラチンそれも被覆皮フの軟ケラチンとは異なる硬ケラチンを含むからなのです。爪の肥厚を呈する状態ではさらに爪は硬さを増して自分で爪を切ることさえできなくなってしまう場合もあることを経験した臨床医も多いと思いますが、こういう病的な状態でもカルシウムは関与せず、爪の厚さが増すことで爪は硬さを増します。

 

爪疾患に関する本には爪中に含まれるカルシウム重量が文献引用して記載されていますが、それによると500〜700μg/g程度とされ、皮フに含有されるカルシウム重量が約100μg/gであるのに比べると確かに数倍高いですが、骨に含まれるカルシウムが30mg/g程度であるのをみると桁違いに少ない量なのです。

 

★A死んだ爪、生きている爪★

爪水虫や外傷性の爪下の血マメなど爪そのもの、または爪下に原因があって色調が変化する病態や白濁、肥厚など正常の爪とは異なる外観を呈する爪を有する患者の診察時によくこういう質問を受けます。いわく「この爪は死んでいるのでしょうか?」 ちなみに抜爪という処置法も俗には「生爪」を剥がす、と表現されるので、こういう際の感覚に共通点がありそうです。

 

爪は死滅した細胞の堆積構造物であり、生物学的には生きた爪というものは存在しないというのが医師側の認識ですので、始めにこういう質問を受けた際は一瞬戸惑いましたが、この種の質問を発する患者さんの意図は言うまでもなく細胞学的意義を問うているのではありません。患者さんがいう「生きた爪」とは滑らかで光沢がありピンク色の健康な爪を指しているのは明らかですが、殊にこういう場合の爪が生きているかどうかという質問の真意は、このまま従来どおり爪が伸展するのか、それともいったん現在の爪が脱落して新たな爪形成を期待せねばならないのか、という点を訊いているのだ、と場数を踏み質問の文脈を探るうちに分かってきました。

 

白濁して脆く崩壊した爪水虫の状態も「死んだ爪だ」と言えば納得してもらえるでしょうが、爪下の一部に外傷により爪下の血マメが出現したような場合で、穿孔など侵襲が少ない処置が早期に行われ、爪下の血液が適切に排除された場合は、爪は抜け変わらずそのまま伸び続け、やがて正常な爪に復帰することもあり、こういう場合がまさに「爪は死なずに生きていた」と解釈されるのだと分かってきたのでした。基礎医学的立場から,「生きている爪などない」と頭ごなしに否定してしまうのでなく、こういう質問の前提にある状況を理解して対応することが必要なのでしょう。

 

★B爪半月の大きさと健康/栄養の良否との関係

この通説もかなり広く流布しているものの一つです。爪半月は爪の根元の乳白色で不透明な三日月状の部分で、爪を作る爪母が爪の下に透けて見えるものです。爪半月がなぜ白く見えるかについては、含有する水分が多い爪母に接して、爪も水分が多いためであることが皮フ科医の東により解明され、健康・栄養状態が良いこととは無関係であることが証明されました。

 

  C飲み薬でも治らない爪水虫〜諦めるべき?★

爪水虫の飲み薬を飲んでも治りにくい爪水虫は存在します。それは爪が皮フから剥がれて浮いている場合や、線状の混濁がある場合です。

 

剥がれて浮いている爪の下の空洞には、水虫菌が菌塊を成して

いますが、通常の爪水虫が菌糸であるのと異なり、分裂・増殖を中止している胞子であり、爪水虫の飲み薬を菌が取り入れてくれないために、効きにくいのです。

 

このような場合は、線状の混濁部や浮いている爪を爪切りなどで除去(左写真)すると、爪下の菌塊が排除され、治る可能性が高まります。

 

 

@〜Bは雑誌MB Derma2011年10月号の安木良博先生の論文からの抜粋、一部改変。