糖尿病  −合併症を予防するには−

宝塚市医師会 岸本通彦

糖尿病は、血液検査等で簡単に診断できる病気ですが、早期には明らかな症状を認めないため治療されず、糖尿病の合併症である失明、心筋梗塞、脳卒中、腎不全などを発症した後に、糖尿病の治療を開始する人が少なくありません。しかし、これら合併症は予防することが大切で、そのためには、初期の糖尿病を発見し、早期に治療を開始することが必要です。糖尿病の人と比較して、糖尿病でない人や糖尿病をきちっと治療している人は、合併症が半分から4分の1へ減少すると報告されています。ここでは、糖尿病について、なぜ、起こるかを理解していただき、日々の取り組みに活かせて頂きたいと思います。そこで、今回は、やや難しい定義や原因などを、最初に書きました。まず、ポイントだけを理解して頂き、日々の取り組みについて説明したいと思います。

【糖尿病(Diabetes Mellitus)とは】
基本:尿検査(尿糖)でなく血液検査(血糖値)で判断する。
定義:1999年5月(日本糖尿病学会)(一部省略)
1.空腹時血糖値≧126mg/dl、75gOGTT2時間値≧200mg/dl、随時血糖値≧200mg/dl、のいずれか(静脈血漿値)が、別の日に行った検査で2回以上確認できれば糖尿病と診断してよい。1回の検査だけの場合には糖尿病型と呼ぶ。
2.糖尿病型を示し、かつ次のいずれかの条件が満たされた場合は、1回だけの検査でも糖尿病と診断できる。
@糖尿病の典型的症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)の存在
AHbA1c≧6.5%
B確実な糖尿病網膜症の存在

【血糖とは】
ヒトは、ブドウ糖をエネルギーとして利用する。この血液内のブドウ糖濃度が血糖値である。

【インスリンとは】
膵臓から血液中へ出るホルモン。ホルモンとは、血液内の命令伝達物質
インスリンは、ブドウ糖を細胞内へ、運ぶ作用がある。
インスリンが作用すると結果として血糖値が下がる。

【糖尿病の分類】
1型糖尿病:
 小児期の発症がほとんど。 日本では糖尿病全体の4%前後
2型糖尿病:
 中年以後の糖尿病のほとんど。 糖尿病のほとんどがこのタイプ。

【糖尿病の原因】
1型糖尿病: ある種の遺伝的素因を持った方(遺伝因子)に、ウイルス感染(環境因子)が引き金になり、免疫機序により膵臓のβ細胞が破壊される。このため、膵臓はインスリンを産生できなくなり糖尿病が発症する。

遺伝的素因
ウイルス感染等 → 膵臓のβ細胞の炎症
            ↓
         膵臓のβ細胞の破壊
            ↓
         インスリンの不足 →  糖尿病
              主にインスリン依存状態となる。

2型糖尿病: インスリン分泌能力の低下した素因などを持った方(遺伝因子)に、運動不足、肥満などによるインスリンの働きが鈍ることが起こる(環境因子)と体内のインスリンでは、血糖を充分下げることが出来なくなり糖尿病を発症する。

遺伝的素因
 (インスリン分泌能力の軽度の低下)
 (エネルギーを効率良く使う体質)
環境因子
 (肥満、運動不足)
     ↓
 インスリンの効きが悪くなる
     ↓
 インスリンが大量に必要になる
     ↓
 インスリンが充分分泌できない  →  糖尿病
          主にインスリン非依存状態(インスリン抵抗性)

【糖尿病の治療】
食事療法
肥満を主因とすることの多い2型糖尿病では、食事療法により、適正体重の達成と、その維持が、病気の予防、治療につながる。肥満を改善すると、インスリンの効きが良くなり(インスリン感受性を高め)、遺伝的に糖尿病になりやすい体質の方でも、発症を予防できる。また、糖尿病の方でも、各組織でインスリンの作用が高まり、血糖値が改善される。よって、食事療法は、肥満を改善することが、目標である。糖尿病に良いとされる食べ物はなく、何を食べても良いのだが、全体のカロリーを、1日の消費カロリーと合わせることが、最も大切である。
@1日の摂取カロリー量(1日摂取総エネルギー量)
標準体重を求める。
 標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
 摂取カロリー量(kcal)=標準体重(kg)×27kcal(25〜30)
運動量が大きい場合(工事現場の仕事など)
 摂取カロリー量(kcal)=標準体重(kg)×35kcal(30〜40)
Aそのカロリーをどのように配分するか
三食に均等に分ける。1日二食や、一食は膵臓に負担がかかる。
間食(おやつ)も全体のカロリーを上げない程度なら可能。
B何からカロリーをとるか(栄養素の配分)
糖質60% 蛋白質15〜20% 脂肪20〜25%
Cアルコールは可能か
少量ならOK。しかし、摂取カロリーに含める必要があり、また、
多量になると、肝機能障害を介してインスリンが効き難くなり、
糖尿病を悪化させる。

運動療法
運動療法の意義は、カロリーの消費よりインスリン感受性改善効果が大きい。
つまり、インスリンの効きが良くなり、血糖値が下がる。激しい運動(運動強度が強い)は、糖質がよく利用され、その時は血糖が下がるが、予防、治療には結びつかない。逆に、歩行などのゆっくりとした運動(運動強度が低い)でも、運動時間が長くなると脂肪の利用率が高まり、肥満改善につながる。特に、内臓脂肪の減少につながる。従って、運動強度は低くても一定時間をかける有酸素運動がすすめられる。また、運動の効果(インスリンの効きを良くする効果)は、運動後三日程度しか持続しないため、出来れば毎日、少なくとも二日に一回は運動を行うべきである。

薬物療法
現在、医療機関では、以下の種類の薬剤を用いて治療している。いずれも、インスリンの分泌促進、または、補充を主な目的とし、原因である肥満を改善するものではない。よって、薬剤を用いている場合でも食事、運動による、体重コントロ−ルは必須である。
 @内服薬(経口血糖降下剤)として
   スルホニルウレア薬     ビグアナイド薬
   αグルコシダーゼ阻害薬   インスリン抵抗性改善薬
 A注射薬(インスリン)として
   速効型インスリン   中間型インスリン
   持続型インスリン   混合型インスリン

【糖尿病の合併症】
  急性合併症 
    高血糖昏睡、感染症(肺炎、膀胱炎、蜂窩織炎など)、など

  慢性合併症
   細小血管合併症
    網膜症(失明)
    腎症(腎不全、透析)
    神経障害(手足のしびれ等)

   大血管合併症
    心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症など
    動脈硬化により発症する疾患