ヘルマンと出会って、あれから1年…
2001年 夏―
…君もそうだろ?
−そう、君だよ。
始まりは誰かからのほんのインスピレーションだったのかもしれない。
だけどいつのまにか夏に対する思いが特別なものに変わっていたんだな。
…早く!急がないと、始まっちゃうよ!
7丁目のおじいさんのお話がはじまるよ!
昆虫採集より、鬼ごっこより、だんぜんおじいさんの話は面白かったんだな。
サッカー選手より、アニメのヒーローより、だんぜんおじいさんはかっこよかった。
ある日の夕方、おじいさんが犬を連れて散歩をしているとき、
サッカーボールを蹴って一人で遊んでいた僕に、おじいさんはクイズを出したんだ―
『北極に行ったら、東西南北ってどうなるんだろうね?』
「えー?わかんないなぁ。だって北極って北のてっぺんでしょー?」
『…ハハハ、今度会ったら教えてあげるよ。おじいさんいい答えを知ってるんだよ―』
…その数ヵ月後、おじいさんはかわいがってた犬より先に天国にいってしまった―
僕ん家は8丁目だから、おじいさんの家は知っていた。一人暮らしだったんだな。
友達のてっちゃんやよーくんも、おじいさんのことはそれ以後もうすっかり話さなくなった。
今でも僕はふと夏になると思い出すんだ。おじいさんのこと、
そして、夏ごと探すんだ、学校では決して教えてくれなかった、おじいさんの「いい答え」を…
今年の夏も、いつもの”隠れ家”に行ってきたんだ。
木漏れ日の中で、ふとおじいさんのことを思い出したんだな。
何しろ、まだおじいさんが生きている頃からの”隠れ家”なんだ。
だから僕はいつもここへくるたびに、
当時の感覚に戻れるんだよ。
僕が今までつちかって来たどんな音楽も、
ここにくると、シンフォニーとなって、
有形無形に奏でるんだ。