雑木林----春 春の雑木林は落ちつかない。背の高い木が葉を茂らせる前に少しでも太陽に近づこうとする雑草がヒョロリヒョロリと背伸びする。乾いていた落ち葉が雨で湿って、居心地が悪くなった虫も起きてくる。 春の雑木林は息が詰まる。地面から立ち上る葉っぱの臭いは、目覚め始めた木のおくび。地面を這うようにゆるゆると流れる春風。乱雑に生える木が風を囲い込み、空気をよどませる。向こうに見える原っぱとは違った春が雑木林にある。 つまらない。せっかくみんな起き出したのに。 しかたないから、ぼくはピンボールをすることにした。 まっすぐに雑木林の中を走る。すぐに木にぶつかってしまう。ぶつかったら、その時の気分で右か左に走る。すると、すぐに別の木にぶつかってしまう。また、右か左に走る。落ち葉を蹴散らし、枝を踏み折り、ジュグジュグバキバギジュジュジュと走る。 はははは。目ぼけ眼の虫が飛びあがり、毛布をひっくり返された虫は慌てて逃げていく。 葉を繁らせ始めた木は、歯が生えはじめの子どものようにむずかり枝を震わせ、幹に体をぶつけるぼくに仕返しの鞭を繰り出してくる。でも柔らかいから大丈夫。 梢を揺らす風は薄緑で薄赤で薄青で、その向こうにある空には、太陽をひとり占めしようとたくらむ、ころっころでぱんぱんの雲が浮かんでいる春。雑木林はちょっと湿っぽくって落ちつきがない。 |