これはどうやら軽井沢にでも出かけたときに思いついたものらしい。
パソコンのファイル掃除の時に発見された。



雑木林----冬


冬の雑木林はやけに明るい。林の向こうの山も丸見えだし、地面の葉っぱも一枚一枚やけに、はっきりとみえる。木に寄りかかって空を見上げれば、風が梢を揺らして通り過ぎていくのもみえる。色の薄い空をはぐれ雲が恥ずかしそうに駆けぬけるのも見える。

冬の雑木林は静かだ。木に耳を寄せても眠っているのか、高い梢を通り過ぎる風の音しか聞こえない。うるさく寄ってくる蚊もいなければ、雑木林の向こうにみえる草原に置かれた巣箱に急ぐ蜂が顔を掠めることもない。カサカサと葉っぱを踏む音だけが聞こえる。

つまらない。せっかくこんなに明るいのに。
しかたないから、ぼくはピンボールになることにした。

まっすぐに雑木林の中を走る。すぐに木にぶつかってしまう。ぶつかったら、その時の気分で右か左に走る。すると、すぐに別の木にぶつかってしまう。また、右か左に走る。落ち葉を蹴散らし、枝を踏み折り、ザザザパキパッキザザザと走る。

騒々しく音を立てても誰も起きてこない。落ち葉の下で眠る虫は迷惑そうにさらに下にもぐりこみ、木は相変わらず木枯らしを受けてゆさゆさと揺れいているだけだ。僕の吐く息がヒュイと白く飛びあがり、あっという間に梢に吸い込まれる。

梢を揺らす風は透明で、その向こうにある空も妙に存在が薄い冬。雑木林の中はやけに明るい。そして静かだ。



3号店メニューに戻る
トップページに戻るKIng's Cafeエントランス