「内部被曝」について  (その8) 劣化ウラン弾

8.1劣化ウラン
8.2劣化ウラン弾
8.3「劣化ウランの放射能は無害」とする説
8.4ホット・パーティクル
8.5放射性物質におおわれた地球


「内部被曝」について (1) (2) (3) (4) (5)  (6) (7) (8) 目次 へ





(8.1) 劣化ウラン

「劣化ウラン DU (Depleted Uranium)」について、改めて書いておく。

「deplete」を辞書で引くと、
 「〜を使い果たす、使い尽くす、消耗させる、激減させる、 ・He depleted his savings. 彼は貯金を使い果たした。」
などとある。精力を使いはたしてフラフラの状態、消耗状態、というふうだ。「depleted mine」は、掘り尽くされた鉱山、「deplete one's strength」は、体力を使いはたす。したがって、「Depleted Uranium」となれば、放射能を使いはたしたウラン、という語感になる。
そもそもこの「Depleted Uranium」という語は、特殊な技術的語であって、一般のアメリカ人は知らない。すくなくとも、劣化ウラン弾がはじめて実戦に使われた湾岸戦争(1991年)前後までは。

次の引用は「中国新聞」の優れた長篇ルポ「知られざるヒバクシャ 劣化ウラン弾の実態」(新聞連載は2000年4〜7月)の一節。引用はここから。
ニューメキシコ州立工科大学のエネルギー物質研究試験セン ターは「試射場」をもっており、劣化ウラン弾の試射をくり返していた。1972〜93年に40トンの劣化ウラン弾の試射を実施したと大学当局者が述べている。
その近くのサッコロ市の住民であるスペイン系移民のダマシオ・ロペスさんが、工科大学の学長に最初に抗議にいったときのことである(1980年代後半のこと)。
放射能兵器と知ったロペスさんは、証拠を示しながら実験の中止 を求め直接当時の学長と掛け合った。すると学長は、色をなして答えた。

「どうしたというのかね、君。depleted uranium という英語が理解できないんだろう。depleted,つまり放射能なんて含まれていなんだ。全くの無害だよ。英語の勉強をしなおすんだな」

日本語で「劣化」と訳されている「depleted」という英単語には「消耗した」「中身が空っぽの」という意味が含まれている。多くのアメリカ人は、その言葉を耳にすると、ウランではあっても「人体には無害」と受け止めるようだ。

しかし、ロペスさんにとって学長の言葉は、アメリカ社会の中で常に差別されてきた先住民やスペイン系住民への「侮辱」以外の何ものでもなかった。
「学長の言葉が私の人生を変えたと言っても過言じゃない」。人体への影響など劣化ウラン弾の実態を調べるロペスさんの一歩は、 そこから始まった。
なお、「中国新聞」(本社は広島市)の田城明が副学長に面会しインタビューするのであるが、副学長は田城に対してミエミエのでたらめの応答をする。(わたしは、ネット上に公開している上記知られざるヒバクシャ 劣化ウラン弾の実態も、核時代の負の遺産(新聞連載2001年9月〜02年7月)も、いずれも全文を読んだが、多くの場合のインタビューの現場で“ヒロシマから来た新聞記者”というだけで信頼感がグンと増したようだった。しかし上記の副学長の場合のように、警戒心をかき立てる場合もあったようだ。これら長篇ルポは様々な賞を受賞し、書籍にもなっている。また、英語版のサイトへのアクセス数も多いのだという。

さて、その劣化ウランであるが、一口でいえば、天然ウランから濃縮ウランをつくる際の残り物(残渣、カス、ゴミ)である。
天然ウランには238Uと235Uという2種の同位元素が含まれている。238Uは核分裂をしないが、天然ウランの99.3%を占めている。235Uは中性子によって核分裂をするが0.7%しか含まれない。原子炉の燃料にするには235Uの比率を高め2〜5%にしたものを使う。これを濃縮ウランという(原爆にするには90%ぐらいまで濃縮する)。
この濃縮過程は、ガス拡散法とか遠心分離法など大仕掛けで大電力を必要とするものであるが、その過程では天然ウランから235Uを抜きとられて比率が下がったもの(残渣)が大量に出ることになる。それを劣化ウランというわけだが、通常は、235Uの比率が0.2〜0.3%である。通常1sの濃縮ウラン(核燃料)を製造すると、劣化ウランが5〜10s生じるとされている。

235Uは核分裂性である、238Uはそうではない、だから、前者235Uのほうがずっと放射能が高いという誤解が生じる。核分裂性と放射能(アルファ崩壊)とは別の性質であって、いっしょくたにしてはいけない(235Uのほうが放射能が高いのは本当であるが)。劣化ウランの危険性は放射能の問題であり、核分裂性とは別の問題である。
両者ともアルファ線を出すが、半減期は238Uが45億年、235Uが7億年。いずれも人間次元で考えると、無限に永いと思ってよい。放射能は半減期に反比例するから、238Uは235Uの約16%程度(7÷45)である。つまり、両方とも、永く持続するアルファ線源なのであり、前者の方がだいぶ弱いとはいえる。

しかし、濃縮ウランといっても235Uの含有率が0.7%から2%にあがった程度であるから、放射能の強さはそれほど上がったわけではない(原子爆弾用には90%以上に濃縮するが、ここではその話は略する)。劣化ウランについても同じことが言える。上にすでにあげてある数字から簡単な算術で放射能の比較ができる。
235Uの放射能を基準にして計算すると、
238Uを99.8% + 235Uを0.2%含む劣化ウラン
0.998×0.16 + 0.002×1 = 0.16168 ・・・ (A)

238Uを97.0% + 235Uを3.0%含む燃料ウラン
0.97×0.16 + 0.03×1 = 0.1852 ・・・ (B)

この比率を取って、A÷B = 0.873、すなわち、劣化ウランの放射能は燃料ウランの約87%
このように、劣化ウランとはいいながらその放射能は濃縮ウランと比較しても8割も下がらないのである。もともと、ウランはアルファ線をだすので、「外部被曝」の放射能としてはそれほど強いものではない。劣化ウランは、いくらか放射能が弱くなっているがせいぜい8割であり、アルファ線源としては似たようなものである。

ウランの放射能を考えるときには、つぎの、2つの面を見ないといけない。
  • ウランは「ウラン系列」最初の元素であり、永い年月をかけてさまざまな放射性元素になり、最後に安定な鉛Pbにまで変化する。したがって、ウラン鉱石など天然のものを扱うときには、ウラン系列の途中で生じるラドンラジウムなどの危険な放射性物質が伴うことを考慮しないといけない。ウラン系列の図表はこちら、(8.4)で扱う。

  • ウランはアルファ線を出すが、アルファ線は紙一枚で止まるほど物質と強く反応するので、外部被曝の線源としてはそれほど心配しなくて良い。空気や衣服で阻止されるから。しかし、体内に取り込んだ場合、内部被曝の線源としては、こんなに怖ろしいものはない。アルファ線が生体と強く反応するし、永遠といえるほど放射線を出し続けるからである。それ以外に、化学的毒性も重大である。
要するに、天然ウランであろうと濃縮ウランであろうと劣化ウランであろうと、体内に取り込むと、放射性物質としてはもちろん・重金属の化学毒性を考えた「危険物」として特別な取り扱いが必要なのである。放射能による毒性は肺ガンや白血病などの原因になるが、放射能と化学毒性の複合毒性が、20世紀後半の全世界的な糖尿病急増の原因物質ではないかという疑いが提出されている。

なお、「減損ウラン」という語を depleted uranium に宛てることもある。これは、燃料ウラン(濃縮ウラン)を原子炉で燃やしたあとの使用済み燃料を再処理して取り出されるもの。その場合、劣化ウランにたいしては denatured uranium (変性ウラン)という語を宛てる。ただ、本文で述べたように depleted uraniumを劣化ウランという用法が全世界で普及してしまい、おそらく、本来は「変性」という概念のほうが適当だったのに、一種の“誤用”がまかり通ってしまったようである。



(8.2) 劣化ウラン弾

劣化ウランはウラン燃料や核兵器を製造する際の“ゴミ”(産業廃棄物)であるから、核産業が進展するにつれて、低レベルの放射性廃棄物として大量に蓄積されることになった。これは、核産業の内部では使い道のないゴミであり、低レベルとはいえ放射性物質であるから環境へ放出することは許されない。蓄積量が増大すればするほど、管理する核産業側にとっては“困りもの”になっていった。(「低レベル」というのは、外部被曝の線源の限りでは、ウランそのものはそれほど危険ではないからである。くり返し言うように、体内にとりこまれて内部被曝の線源となると、きわめて怖ろしいものとなる。
「中国新聞」の田城明の「劣化ウラン弾」のルポから劣化ウラン弾の特性(掲載2000-4/3)の一部を引用する。
劣化ウランの蓄積は、米国では原爆製造の「マンハッタン計画」が始まった1940年代前半から今日まで続いている。これまでの 蓄積量は50万トン以上。ケンタッキー州パデューカにあるウラン濃縮用核施設など三カ所で、金属容器に収められて戸外に積まれてい る。

劣化ウランは鉄の約2.5倍、鉛の約1.7倍比重が重い。このため砲弾の弾芯に利用すると強い運動エネルギーが得られ、頑丈な戦車でも貫通する。しかも、貫通時の衝撃で高熱を発して燃焼し、戦車内の兵士をも殺してしまう。加工も容易で、大量にある原料は「廃棄物利用」のため、管理責任を負うエネルギー省(DEO)からただで支給される
ウランは、とても比重が大きく重く固い。その性質に着目するときわめて優れた砲弾材料となる。しかも劣化ウランは無用物としてエネルギー省は“好きなだけ使ってくれ”と兵器会社に無料で与えることになった。これは、企業や政府の都合だけを考えた、きわめて無倫理なやり方である。エネルギー省は一方では低レベル廃棄物として保管し、他方それを世界中にまき散らす砲弾材料として民間に与える。これは、矛盾した態度であることは明瞭だが、エネルギー省はWHOやICRPを手なずけて「劣化ウラン弾は無害である」と言いつづけている。
そのために砲弾として使うと、重いので従来の砲弾より射程距離がずっと伸びる。しかも、戦車の厚い鉄板を簡単に貫通して戦車内に飛びこむ。戦車の鉄板に孔を開ける瞬間に数千度の高温になり、燃えやすいウランはエアロゾルとなって空中にひろがる。エアロゾル化するのは劣化ウラン全量の70%ほどと見積もられている。(なお、タングステンも重く固いので砲弾として優れているのだが、容易に燃えず溶融もしないために、戦車に当たったとき先端が潰れて鈍化する。そのために貫通力が落ちる。ウランは当たった局部が溶融ないしガス化して燃え、芯が残る。その高熱と鋭端のために、すぐれた貫通力が生じるらしい。もちろん、タングステは高価で貴重、劣化ウランはタダで大量に“余っている”

じつは、すでに第2次大戦中に天然ウランを銃弾材料にすることは、各国で行われていた。原爆製造を試みていたナチス・ドイツは天然ウランを貯蔵しており、1943年に原爆製造をあきらめたときに1200トンの天然ウランがあったという。それを銃弾に加工して使った。(アルベルト・ネグリ「原子力産業が劣化ウラン賛成の立場を支える、とイタリアの新聞は述べる」、これは2001年1月11日のBBC放送のレジメのようである。「美浜の会」サイトにおいてある。
ウランを砲弾に利用することは最近始まったものではなく、第二次世界大戦中は天然ウランが銃弾に用いられた。旧日本軍もその例外ではなかった」と述べている論文を見つけたのだが、アホなことにこの論文には署名がない。(科学技術社会研究所というサイトにおいてある、PDFファイル。「劣化ウランについて
おそらく、もっと詳細で信頼度も高い情報があると思われるが、現在わたしが持っているのはこれだけ。旧日本軍のことなども、知りたいと思っている。また、“ウランの社会史”というような書物が存在してもいいように感じてもいる。何か分かったら、追加する。

劣化ウランの砲弾材料としての利用の研究がいつ頃からはじまったのか、はっきりしないが、すくなくとも1950年には米国陸軍がメリーランド州アバディーンの実験場で発射実験を行っていたという。
この情報は「劣化ウラン関連年表」によっている。この優れた「劣化ウラン関連年表」を載せているのは、信じられないほど膨大で活きのいい情報・論文があるサイトラテンアメリカの政治。革命史からタンゴまで。このサイトの主、鈴木頌さんは内科医。わたしは、ときどき元気をもらいに寄っています。未見の方には、ぜひお勧めです。
劣化ウラン関係の情報(日本語の情報)は比較的多いようだが、オリジナルな見解・研究はそれほどでもない。上ですでに紹介した「中国新聞」の「劣化ウラン弾」のルポ以外では、広島大学平和科学研究センターの篠田英朗「武力紛争における 劣化ウラン兵器の使用」を挙げておく。文章がぎこちなく理系の用語が誤用されているが(「金属ウラン」というべきを、「ウラン金属」としたり、「密度」というべきを「濃度」としている)。軍事方面の情報にすぐれているのは「アメリカの戦争と劣化ウラン弾」、ここは「Rescue Force SOG.」というサイトです。


天然ウランは通常は酸化物(U38、UO2)として存在している。これらは水に溶けず、比較的安定である。濃縮など化学処理をする場合は、フッ化物(UF6、UF4)にされる。6フッ化ウラン(UF6)は気体・液体・固体の3態をとるので都合がよいのである。劣化ウランの原料をDUF6と表すことがある。
金属ウランを取り出すのには、UF6 → UF4 → U(金属ウラン)
と化学変化させるが、金属ウランは水と反応して発火しやすく、融点1132℃。密度が19.05と大きい。0.75%(重量)のチタンを加えて硬化したものが、兵器の原料となる。

40年間以上も試射実験をくり返していた劣化ウラン弾がはじめて大々的に実戦で使われたのが、1991年の湾岸戦争である。
クエートから敗走するイラク軍に対して連合国の空軍・陸軍の攻撃が加えられ、圧倒的な強さをみせたことはよく知られている(なぜか日本では「多国籍軍」という訳語がつかわれたが、allied force は「連合軍」である)。その強さの中核をなしたのが、ふんだんに使われた劣化ウラン弾であった。このとき使われた劣化ウランの総量は300トン以上であるという。(必ずしも使用した当事者が認めていないケースを含めると、1973年の第4次中東戦争(十月戦争)でイスラエルが戦車砲の砲弾として使っている。1982年のレバノン侵攻で、やはりイスラエルが使用。同年のフォークランド紛争で英海軍が使用。1989年のパナマ侵攻で米軍が使用している。

この湾岸戦争で、戦車同士の戦いでは、劣化ウラン弾を持つ連合軍が圧倒的に優位であって、連合軍側の実質的な被害はゼロであった。いうまでもなく、実際にはこれに更に空軍の劣化ウラン弾を使った爆撃が加わった。
湾岸戦争における地上戦で、イラクのT−72戦車は、(米軍の)M1A1戦車7両に砲弾を命中させることができたが、実質的な損害を与えることはできなかった。戦争中に破壊された9両の(M1A1)エイブラムズ戦車のうち7両は、いわゆる「友軍射撃」によって破壊された。残りの2両は、運転不能となったために、捕獲を防ぐ意図でわざと破壊されたものである。つまりイラク軍はM1A1戦車を1両も破壊することができなかった。
地上戦でのあるエピソードによれば、泥にのめりこんで孤立した1両のM1A1戦車に、T−72戦車3両が近づいて攻撃した。そのうちの1両が1,000m以内の距離から発射した砲弾は、M1A1戦車の前部装甲に命中したが、損傷を与えることができなかった。別の1両は400mにまで近づいて実弾を発射したが、M1A1戦車の前部装甲に溝をつけただけで、跳ね返って落下した。それに対して泥にはまったM1A1戦車は、やすやすと3両のT−72戦車を劣化ウラン砲弾で破壊したという(篠田英朗武力紛争における 劣化ウラン兵器の使用)。
上引の「友軍射撃」とは誤射のことで、要するに米軍が味方の戦車を撃ってしまった、ということである。イラク軍は劣化ウラン弾を1発も持っていなかったから、誤射かどうかは歴然としてしまったのである。すでに何度も紹介した「中国新聞」の「知られざるヒバクシャ 劣化ウラン弾の実態」の第1回のルポが、誤射で劣化ウラン弾の破片を25個以上も体に受けて帰国したニューメキシコ州の兵士の骨ガンが疑われる病苦であったから、印象深い。湾岸戦争で米軍兵士の死者はわずか145人であったが、そのうちのすくなくとも35人は、自軍の誤射によるという。兵士たちは自軍の圧倒的に優れた武器に優越感を覚えることがあっても、劣化ウラン弾のなんたるかはまったく知らなかったし、軍は何も教えなかった。
軍と兵器産業の当事者たちは、いかばかり得意だったであろう。まったく、思い通りにことが運んだのである。ただひとつ、放射能による被害がじわじわと生じてくることが、時間の経過とともに否定しがたく増大してくることを除けば。(篠田英朗上掲論文によると、「M829A1」という120oの砲弾がM1A1、M1A2戦車で用いられ、陸軍の攻撃能力・兵生存率を高めたとして、「銀の弾丸(silver bullet)」と呼ばれて軍関係者に賞賛されたという。胸の悪くなるような話だ。

この1991年の湾岸戦争では、米軍−連合軍の圧倒的な軍備の前に、イラク軍およびイラク民衆が敗走し、なすところなく倒れていった。しかも、米軍は報道統制を徹底して“ピンポイント爆撃”を宣伝し、全世界のTV報道がそれを繰り返し流した。
実戦で使われた劣化ウラン砲弾のほとんどは、回収されなかった。命中した砲弾のほとんどが、目標物であるイラク軍戦車の中や周辺に残り、その他の命中しなかった砲弾は、目標物から数キロの範囲で地表に残存するか、地中に埋もれたと推測されている。
なおイラクのT−62戦車に機銃掃射を行うことを想定したA−10攻撃機の湾岸戦争前に行われたテストでは、砲弾の10%が目標物に当たり、90%が外れることが示されたという。つまりこのシナリオであれば、発射された劣化ウランの10%が着弾後に生まれるエアロゾル(微粒子)となって空中に放出されるか目標物に残存し、90%劣化ウランが周辺の土壌に入り込んだことになる(前掲 篠田英朗)。
クエートから敗走するイラク軍の車両に爆撃が加えられ、「死のハイウエー」(Mile of Deth)という語が有名になったぐらいである。ネット上ではピーター・タンリーの優れた報道写真40枚ほどを見ることができる The Unseen Gulf War 見られざる湾岸戦争。黒こげのイラク兵の死体がこれでもかこれでもか、というほど出てくるのでそのつもりで見て欲しいが、白黒の映像はけして醜くはない(首のない死体が2枚ほどあるが、あれはどういうことか。銃で飛ばしたということか)。下はその中から、1枚だけ拝借したもの。戦車などの戦闘車両だけではなく、大型バスなど民間人の犠牲者が多数生じたことを連想させる車両が写っている。
このピーター・タンリーの映像に登場する米兵の多くが、劣化ウランのエアロゾルを吸いこみ、自分の体内を放射能汚染し、帰国後苦しむことになったことを、想起してもらいたい。米兵の死者は「145人」では終わらなかったのである。



イラク南部の砂漠地帯が劣化ウランで汚染された。エアロゾルとなって大気中に飛び散ったウランが20トンほどと見積もられる。これは膨大な量である。大部分は周辺地域へ沈降しただろうが、何千qも遠くまで飛散したのもあったと思われる。つまり、湾岸戦争で爆撃機からと戦車からと、思うさま劣化ウラン弾をまき散らしたのは核兵器の地上実戦使用そのものなのである。核分裂(原爆・水爆)の熱核反応ではないので、戦闘現場では通常兵器の強力なものとして理解されがちだが、いったんこの兵器(劣化ウラン弾)を使用した後の放射能の飛散を考えると、これは、深刻な核兵器使用と考えるべきである。なぜなら、これは「マンハッタン計画」のなかで論議されていた“放射性のガス兵器”そのものであるのだから。「マンハッタン計画」の中ではたしかに強い放射能を持った即発生の放射能兵器を想定していたであろうが、50年後に実戦使用された劣化ウラン弾は遅発性の放射能兵器であった。

1995年のボスニア紛争でNATO軍が、空爆で劣化ウラン弾を使用。約3トンといわれる。1999年のコソボ紛争でNATO軍がユーゴ連邦軍へ空爆で劣化ウラン弾を使用。この時は約9トンという。
バルカン半島に駐留するNATO軍兵士、帰還兵、住民に発生する体調不良、ガン、白血病などの健康被害。ことに白血病死が続発し、バルカン症候群と呼ばれるようになった。劣化ウラン弾が原因と考えられるが、WHOは確証がないとして否定している。
2001年になりコソボの地上に放置された劣化ウラン弾から、236Uが検出され、これは天然ウランには含まれない同位体で、核燃料の再処理によって得られる劣化ウラン(減損ウラン)を使用していることが証明された。再処理による劣化ウランには猛毒のプルトニウムが含まれるので、ことに問題視されている。コソボから239Puが実際検出された。(核燃料の再処理とは、原発で“燃やした”核燃料の中から、ウランとプルトニウムを抽出して核燃料として再利用しようとするのが、目的である。使用済みの核燃料のなかには、核分裂生成物のきわめて雑多で高い放射性の元素が存在しているので、それらを溶解処理して高レベル放射性物質として取り出し、長期保存する。再利用を目的で抽出したウラン(減損ウラン)を材料に砲弾を造ったというのである。その中にはわずかであってもプルニウムや他の核分裂生成物も混ざるので、ウラン濃縮過程でえられる劣化ウランと比べて、危険性が増加する。
“毒を食らわば皿まで”の勢いで、(劣化)ウラン弾製造の原料として、劣化ウランだろうが減損ウランだろうがお構いなしに使ってしまう、無倫理な劣化ウランビジネスの非人道的な腐敗ぶりが分かる。


2001年の911事件を受けて、アメリカのアフガン侵攻が同年10月からはじまった。この戦争ではトラボラ攻撃などで洞窟や地下施設を破壊するバンカーバスター爆弾が使われたが、これには劣化ウランが大量に使用されているとされる。主たる戦場が砂漠であった湾岸戦争の時と違って、大規模な都市攻撃に劣化ウラン弾が思うさま使用された。同年に暫定政府成立、2004年に大統領選があり新政府ができたが、2007年の現在タリバン勢力はむしろ力を伸ばしてきている。(日本政府がこのブッシュのアフガン戦争にたいして、インド洋上で艦船へ無料給油をつづけているわけだ。海上自衛隊は直接手を下していないだけであって、実戦参加していると言うべきだと思う。憲法違反である。
2003年に米・英・オーストラリアなどによるイラク戦争(これを第2次湾岸戦争ということがある)が開始されたが、このなかでも、大量の劣化ウラン弾が使用されている。ことに2004年のファルージャ攻撃など。都市破壊にバンカーバスター爆弾が使用されることが、日常化してしまった。たんに都市が破壊されるというだけでなく、放射能の粉塵まみれにしてしまうために、今後、長期にわたってこの地の住民に重い負担をかけ続ける。きわめて非人間的で愚かなことだ。

アフガンもイラクも現在進行形なので、ネット上には劣化ウランに関しても非常に多数の情報がある。それぞれ、ひとつずつ挙げておく。
アフガニスタンにおける劣化ウラン戦争   イラク戦争劣化ウラン情報

ローレン・モレのつぎのレポートは重要な内容を含んでいる。劣化ウラン弾の放射性粉塵が地球全体をおおう可能性があるという。「中東の戦場から:劣化ウラン,英国の大気中に計測される」。
このレポートの中心人物であるクリス・バスビー(Chris Busby)は、前章で扱った「ECRR2003勧告」の執筆責任者である(放射能汚染が深刻なアイリッシュ海を背景にした映像)。英国バークシャー州オルダーマストンの核兵器製造保管施設(AWE)の大気観測で、2001年アフガン侵攻や2003年イラク戦争などのたびに、ウラン微粒子を観測していたことが、ハリーバートン社や英国政府の執拗な妨害をはねのけて公表された。
オルダーマストンは,北アフリカ,中東,および中央アジアの放射線源から大気中の砂埃の嵐によって運ばれる大気放射線レベルを定期的に観測している,欧州にある多くの原子力施設の一つである.2003年イラクにおける「衝撃と畏怖」作戦の後で,英国内の複数のフィルターから劣化ウランの微細粒子がより大きな砂埃の粒子とともに捕捉された.これらの粒子は2400マイルも離れたイラクの戦場から7〜9日間で渡ってきた.2003年の作戦開始以後,数週間に渡り大気中に測定される放射線が4倍になり,5ヶ所の観測地の一つでは,英国環境省への公式警報が必要なレベルに2度達した.(上掲ローレン・モレ 2006年3月2日)

凡例のハニングトン・ザットチャム・シルチェスタ・リーディングの4ヶ所は、AWEから十数q以内の周辺の地名。それら4ヶ所の平均値が「offsite 外部」としてでている。残りの4つ(R001Hなど)は核施設内に設けられた観測点で、その平均値が「onsite 内部」として出ている。
この核施設は80年代に近くに小児白血病の発生があったのを受けて、90年代初めから空気中の放射線レベルの測定をはじめた。2000年に、それまでのHVAS(大容量空気検出器)に替えて2週間毎のフィルタ方式にした。いずれにせよ、この核施設は自らが小児白血病などの原因となっている可能性を怖れて、空気観測を続けていたのである。そういう観測データを研究者に対して公開しないという体質は、おそらく、全世界の核施設に共通のものである。なぜ、そうであるのか。この体質がなぜ生じ、世界共通であるのか。この疑問は、しっかり、記憶しておく価値がある。

下図は、上図の2003年3月(イラク戦争開戦)前後の拡大図。横軸は1目盛2週間。


バスビーは、さらに中東−ヨーロッパの広域天気図によって、大気の流れを推測している。このバスビーの論証によって、中東からの劣化ウラン微粉末が英国にまで飛散してきて、しかも、法的警戒水準を越える濃度であったことは否定しがたい。AWEと英国政府があくまでデータを秘匿しようとしていたことが、かえってバスビーの論証を確からしく思わせる効果さえ生んだ。

2400マイルは3900qほどである。総計何十トンにもなるウランがμmレベルの微粒子となって大気中に放出されたのだ(μmは10-6m、昔のミクロン。大気中の粉塵は1〜0.1μmの径の粒子が個数では最も多いという。ウランのエアロゾルはそういうものに吸着されたり、また、独立の微粒子として大気中に浮遊する)。それが、何千qも離れた英国へ運ばれている。微粒子の径にもよるが、地球全体をおおっていると考えられる。(「SENKI」の「ローレン・モレさんに聞く 低レベル放射能が世界中に拡散している 」2006-12/5 のインタビュー参照。このインタビューは重要な内容があるので、最後の(8.5)節でもう一度参照する。なお、上掲グラフはバスビーの論文Did the use of Uranium weapons in Gulf War 2 result in contamination of Europe? 「イラク戦争でのウラン弾使用がヨーロッパに汚染をもたらしたか?」から拝借し、すこし手を加えている。縦軸はナノベクレル/m3


劣化ウラン弾に触れた直後から体調を崩す人にはじまり、帰国後何年もして自覚症状が出る場合もある。不具者として生まれる赤ん坊、生まれず流産した胎児、呼気・食物を通じて体内に取り込み小児白血病など子供のガンが発症し、ついで、数年して大人のガンが増加する。ウランは腎臓に打撃を与える。全世界的な糖尿病の増加の原因物質として疑われる。
つまり、劣化ウラン弾を使用した戦闘は何日か、何週間か、・・・で終わるが、その後に永い永い放射能によるダメージがつづくのである。ウランの半減期が億年で数えるものなので、一度ばら撒かれたら、人間次元では永遠にダメージが持続すると考えないといけない(重いウラン原子が風化過程で地中深くへ沈むことを期待することぐらいしか、人間には出来ない)。

戦場となった地域で暮らす人びとが一番強いダメージをうける。ついで兵士たち。だが、ウラン微粒子は全世界的に薄くひろがる。呼吸で直接体内に取り込まれる以外に、野菜や牛乳などの汚染が食べ物として摂取される。それに対する敏感さは胎児、子供、大人の順である。体内での細胞分裂の速い順である。それは、敵も味方もない。原子核の内部から溢れでるエネルギーを知ったのは人間の英知である。それによって、宇宙の構造の解明がいくらか進んだ。しかし、その人間の英知はなんと愚かなのだろう。





(8.3) 「劣化ウランの放射能は無害」とする説

米国政府――とくに軍(ペンタゴン)、エネルギー省――が、劣化ウランは無害であると主張していることがもっとも重要で深刻である。なぜなら、劣化ウランビジネスは無料の原料から、きわめて強力な銃弾・砲弾を創りだすのだから、べらぼうな利益が上がる。エネルギー省と原発企業は、劣化ウラン弾をドンドン消費して欲しいのである。劣化ウラン弾を戦場でばら撒けばばら撒くほど、原子力発電所が生みだす捨て場のない劣化ウランが減り、おまけに、軍事産業として巨利をうる。世界中に戦場をつくりだしてまわっている米国政府が(これがウランビジネスの番頭役をつとめるアメリカ政府の“政策”である)、この劣化ウランビジネスを手放すはずはないのであり、これは核兵器と原子力発電を駆動力としているウランビジネスという超巨大産業の一部をなしている。
IAEA(国際原子力機関)の役員のほとんどはアメリカの多国籍企業のトップが占めており、彼らがWHO(世界保健機関、「世界保健機構」という名称が改められた。国連の専門機関のひとつ)をも左右していることは公然の秘密である。

アメリカ・イギリス・フランスがウランビジネスの中心国であり、劣化ウランが“産業廃棄物”として生みだされ、しかし、低レベル放射性物質として永久管理を要求されるという困りものであることは既述の通りである。日本はウラン資源を持たないから、ウラン燃料(濃縮ウラン)を米・英・仏などのウランビジネス会社から購入している。濃縮ウランが売れることは劣化ウランの“困りもの”が生じることと裏腹であり、ウランビジネス会社は劣化ウランビジネス=軍事産業を裏に必然的に持つことになる。
2001年2月ごろの「美浜の会」の関西電力に対する抗議運動、関西電力が燃料ウラン(MOX燃料も含む)を購入する商売相手のBNFLという英国の会社が同時に劣化ウラン弾の製造も行う軍事産業でもあることに対して抗議したのは、問題の重要性を良く表していた。

日本中で呆けたように電力を使いまくっているエネルギー多消費社会は、その端をたぐっていくと、劣化ウラン弾の後遺症で殺されている胎児や戦場のこどもたちに至るのである。24時間のコンビニの照明・国中におかれているジュース販売機(冷房付きの)・ライトアップを当然のことと考える観光・外灯の多さ。わたしたちは、もしウランビジネスの末端に加担するのを止めたければ、電力多消費社会から訣別する必要がある。

右の女王がガスマスクをつけた切手は、前節(8.2)で引用したローレン・モレ LEUREN MORET 「The Queen's Death Star:Depleted Uranium Measured in British Atmosphere from Battlefields in the Middle East 」の冒頭におかれた、痛烈な皮肉である。彼女がじつに勇気のある研究者であることが、分かる。
この論文の末尾の一節を示す。
このグローバルなウラニウムの悪夢から利益を得ているの誰か?
Dr.ジェイ・グールドは著書『 内部の敵 THE ENEMY WITHIN 』で、英国王室は私的に、リオ チント Rio Tinto 鉱業を介して60億ドル以上のウラニウムビジネスへ投資をしていることを暴露した。

この鉱山会社は1950年代後半にローランド・ワルター・"ちび Tiny"・ローランド、女王の海賊、によって英国王室のために設立された。

ドイツ系の私生児として1917年に生まれ,名前を変える以前はローランド・ワルター・ファールホップとして1933年までにはナチス青年運動の熱烈な党員になっていたが、あるクラスメートは「・・・ヒトラーの熱烈な支持者で、おまけに傲慢で汚い手を使うやつ」だったと述べている。

彼の流星のような出世や情報機関と英国王室による保護は、彼がアフリカにおける最も強力な西欧の実業家として、女王にとって数十年間にわたっていかに貴重な存在であったかを示すものである。

アフリカおよびオーストラリアは、世界の主要な二大ウラニウム供給源である。ロスチャイルド家はウラニウムの供給と価格を世界的に支配するとともに、女王のビジネスマネージャーも務めている。

映画制作者デヴィッド・ブラッドベリーは「風に吹かれて BLOWIN' IN THE WIND」で、東部オーストラリアの汚れのない地域で劣化ウラン爆撃や砲撃活動が行われていたことを暴露し、内陸の鉱山から次の6年間で360億ドル以上のウラニウムを採掘するという計画を暴露した。ハリバートン社は鉱山地域からオーストラリア北海岸の港に鉱石を輸送する1000マイルの鉄道建設を終えている。

女王ごひいきのアメリカ人の海賊、チェイニー、ハリバートン、およびブッシュ一族は,ウラン採掘と中東・中央アジア・コソボ/ボスニアにおける不法な劣化ウラン兵器を共用することを通じて女王と結びついている。

カーライルグループ、ジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ[父ブッシュ]、カーライル社の前CEOフランク・カールッチ、ロスアラモスとリバモアの核兵器研究所を運営したカリフォルニア大学といった多様な個人や団体、そして米国や年金基金の国際投資が、劣化ウラン兵器を増殖させるのに果たしてきた主要な役割については余り知られておらず、国の内部や外部でたいていは認識すらされていない。

神よ女王を守り給え、地球を「死の星」に変えようとする共謀罪から。[英国国歌“God Save The Queen” (神よ女王を守り給え)に懸けている]


米国政府もIAEAも劣化ウランについては、化学的毒性と弱い放射能は認め、その有害性の主因は前者(化学的毒性)にあるという立場をとっている。後者については“極めて弱いもので有害とするに足りない”という主張である。これは、「マンハッタン計画」に遡る虚偽を含んでいるが、もし米国政府がこれを譲ることがあれば、第二次大戦以後の米国政府の正義の虚偽性の全体を譲ることにつながるので、けして手放さないであろう。

米国政府のやり方は、理屈や論理や正義がどうであるかは、問題にしない。そうではなくて、自分の欲する道が正義であるというやり方である。劣化ウラン弾について、日本の米国大使館はそのサイトに、IAEAの主張をそのまま載せているが、これがアメリカの公式見解と考えてよい。「劣化ウランに関するよく尋ねられる質問」(2003年10月)。次は、ここからの引用(強調は引用者)。

劣化ウランは、天然ウラン鉱を原子炉や核兵器に使用するために濃縮する際に残る副産物である。有毒で高密度の超硬金属である。

劣化ウランの放射線は、われわれが日常的に受けているバックグラウンド放射線(自然界に偏在している微量の放射線)と大きな違いはない。劣化ウランの放射性は弱い。例えば、多くの古い夜光腕時計にいまだに使われているラジウムの300万分の1、また火災検知器に用いられているものの1000万分の1に過ぎない。

劣化ウランの被ばくと、がんやその他の重大な健康上あるいは環境上の影響の増大との関連を、信頼できる科学的証拠に基づいて証明するものは存在しない。
劣化ウラン被ばくに関する最も信頼できる調査は、除去不可能な劣化ウランの破片が体内に残っている湾岸戦争の復員兵に関するものである。これまでのところ、ウランの化学的毒性あるいは放射能毒性による健康異常をきたした復員兵はひとりもいない。

劣化ウランが健康を害する主要因は化学的毒性ではなく放射能である、という誤解が多く見られる。他の重金属と同様、劣化ウランは、潜在的に有毒である。劣化ウランを飲み込んだり、吸い込んだりした場合、量が多ければ、化学的毒性の故に有害である。高濃度の場合には、腎臓障害を引き起こす可能性がある。
世界保健機関(WHO)によると、放射能毒性が肺がんを引き起こすのは、極めて多量の劣化ウランの粉じんを吸入した場合である。白血病など、放射線が誘発する他のがんのリスクは、かなり低いと考えられている。

劣化ウラン弾が装甲車両に命中すると、吸入される可能性のある劣化ウランの微粒子を含むエアゾールが形成される。汚染物質の大半は、被弾した車両内部にとどまる。しかし、粉じんの一部は空中に散り、風で拡散したり、雨で地面にたい積する。劣化ウランの粉じんの大部分は、命中した攻撃目標から数百メートル以内にとどまる。時間が経過するにつれて、地面にたい積した劣化ウラン微粒子の粉じんが地中に吸収される一方で、より大きい劣化ウランの破片は地面にそのまま残り、腐食し始める。
ほとんどの場合、標的に命中する貫通弾の割合は、10%以下である。標的をはずれたり、「ソフト」標的(非装甲車両)に命中した劣化ウラン貫通弾から生じる粉じんの量は、わずかである。粘土や砂のような軟らかい地面に衝突する弾丸の多くは、そのまま地中に入り込む(地質によるが、深さは数メートルまで)。

劣化ウラン貫通弾の腐食には種々ある。例えば、ケイ砂や酸性火山岩の場合には、可溶化率が高いために、地下水の局地的な汚染につながる可能性がある。しかし、線量率がバックグラウンド放射線レベルを大幅に超える可能性は低く、その地域の住民に対するリスクは最小限にとどまる
これは、米国大使館が現にサイトに載せている日本文(仮訳としているが)であるので、すこし、長めに引用した。重大なことなので、ぜひ、きちんと読んでいただきたい(アフガニスタンで、初めはハンセン病を中心にした診療所をひらき、何十年も地道な活動をしている中村哲さんらペシャワール会では、アフガニスタンに多数の井戸を掘っているが、その井戸水からもウランが検出されているという。「山崎久隆講演会」より。)。

だが、なぜこのような、明らかに事実に反する理論が世界的な主張としてまかり通っているのであろうか。そこには、単に「虚」を「実」といいくるめるという虚偽が演出されているというだけではなく、外部被曝と内部被曝の違い、しかも、測定しやすいガンマ線ではなくアルファ線が主役を演じていることなどが仕組まれているのである。

前章「(7.5)外部被曝と内部被曝」で論じたことだが、外部被曝の扱いが適当なのは、X線・ガンマー線など透過力の強い放射線が平均化された均一な放射を外部から全身に浴びせられるような場合である。それに対して、放射性のチリを吸いこんだり、放射性物質で汚染された食べ物を摂取したような場合には内部被曝の扱いが適当である。その場合は体内に点線源がいくつか出来ているということになる。内部被曝として扱う場合を誤って外部被曝として扱うと、線量強度の評価が1010もくいちがう場合が生じることも論じた。

ことにアルファ線は透過力がとても弱く、外部被曝としては放射能の被害を考慮しないですむ場合が多いくらいである。誤解してはいけないが、「透過力が弱い」のはアルファ線が物質に非常に激しくエネルギーを与えるので、空気中を数oしか進めないほどだ、という意味であって、けして放射能が弱いとか危険でないということではない。体の外にアルファ線源(たとえば劣化ウラン弾)があってもアルファ線の大部分は体内に入って来られないのである(空気や衣服で止まるから)。逆に、もしアルファ線源(たとえば劣化ウランのエアロゾル)が体内にはいると、非常に怖ろしいことになる。なぜなら細胞内を進みながらエネルギーを使いはたすまで電離化をし、エネルギーをすべて失ってやっと止まる。その間に40μm進む、というケースを前章であつかった(7.4)。X線やガンマ線のように透過力が強ければ、大部分がなにもしないで体を通過することもあるのだが、アルファ線では、そのようなことがない。持つエネルギーをすべて使い尽くすまで細胞を壊し、最後は静止する。内部被曝に関しては、ベータ線もアルファ線と同様と考えてよい。

逆にいうと、アルファ線を検出してその線量を測定するのはとても厄介である。通常のガイガー計数管(GM管)はガラス窓の中に希ガスを詰めたものだから、アルファ線はガラスを透過できず測定できない(窓を雲母箔片とするなど特殊な工夫が必要だが、壊れやすくなる)。ガイガー計数管は手軽だが、得意とするのはベータ線・X線である(ガンマ線は検出するが透過力が強すぎ感度は悪い。中性子線はホウ素を塗布するなど特殊な工夫をしないと検出できない)。

イラクのサマワに陸上自衛隊が「派遣」(出兵)されたのは2003年12月〜2006年7月であったが、その際、劣化ウラン弾を意識して、「線量計」を持たせたとされている。だが、それはアルファ線を検出しないので、その検出量が低くても、安心は出来ない。Rescue Force SOG.の主張を引用しておく。
サマワに派遣されている自衛隊員が持たされている携帯用「新型線量計」は、身体に浴びた放射線の量をアラーム等で知らせる計器である。しかしながら、ここにも日本政府の大きな「嘘」と「犯罪行為」が隠されている。
この「新型線量計」は、「ガンマ線」と「ベータ線」しか測定できないのである。ウランから放出されている主な放射能は「アルファ線」であり、「ガンマ線」は数パーセントに過ぎない。この「新型線量計」の使用方法としては、直撃を受けた戦車・車両、その他の施設に近付く場合などに限定される。
戦場である広範囲な砂漠の空中を飛び交っている劣化ウランの微粒子に含まれている「アルファ線」を検出することなど不可能なのである。それにもかかわらず、「これで安全」「対策済み」などの印象を与え、自衛隊員とその家族、そして全国民を騙し続けている。
川口順子外相の2004年1月17日の同志社大学での発言。
川口外相は17日の特別フォーラムでの質疑応答で、イラク戦争で米軍が使用した劣化ウラン弾の影響について、「世界保健機関(WHO)が(米軍などの空爆があった)コソボで調べた研究では、健康に(害を)及ぼすものではないというのが結論だ。国際的には、危険があるとは判断されていない」と述べた。ただ、「政府としては今後、引き続き注目していく」とも語った。 (読売新聞2004-1/17)
これが日本政府の見解であることは、「対米追随」をこととする日本政府の姿勢からみて、驚くにあたらない。官僚あがりの川口らしい、嫌らしい発言であった。

川口外相(当時)が「WHOはコソボでの劣化ウラン弾は危険じゃないと言っている」というのは、本当である
WHOの2003年勧告は、ネット上に対訳・和訳両方を出してくれている方(TriNary)があり、重宝する(強調は引用者)。(これは、山形浩生が主宰しているプロジェクト杉田玄白という「翻訳版の青空文庫」(山形浩生)にリンク集が置いてある。

ほとんどの環境では、その環境におけるウランの自然背景レベル全体に対して無視できる程度しか、DU の使用は影響しない。おそらく、DU 被曝は DU 兵器を使用した紛争によって引き起こされる可能性が最も高い。 コソボ(ユーゴスラビア連邦共和国)において着弾地点周辺でなされた現地測量の値を提出した国連環境計画(UNEP)の最近の報告は、その環境における DU 汚染が着弾地点の周囲数十メートルに限定されているということを指摘した。現地の植物や上水道の DU 塵による汚染は極めて微かなものだった。したがって、現地住民に対して深刻な被曝が生じる確率は非常に低いと考えられた。
国連の専門家チームは、NATO が1995年に空爆したボスニアで14の爆撃現場を調査し、3ヶ所から DU の痕跡を検出したと2002年の11月に報告した。完全な報告書は2003年の3月に UNEP から出版される予定である[1]。
DU 汚染事故の近くでは、DU の放射レベルがウランの背景放射レベルを超過することがある。このような事故の後では数日または数年間にわたって、汚染は通常、風雨によって広大な自然環境の中に消散する。汚染地域の住民や労働者は汚染塵を吸引したり、汚染された食品や飲料水を摂取するかもしれない。
航空機墜落現場付近では、平衡おもりが長時間激しい高温にさらされた場合、DU 塵に被曝するかもしれない。大量の DU 平衡おもりが燃焼するとは考えられず、緩慢な酸化が起こるだけであろうから、深刻な被曝は稀であろう。航空機事故後に浄化作業員や救急隊員が DU に被曝するのはありえることであるが、標準的な作業防護基準がいかなる深刻な被曝も防ぐだろう。

ウラン鉱山労働者に関する多くの研究において、肺癌のリスクが上昇することが論証されているが、これはラドン崩壊生成物に起因すると考えられている。肺組織の損傷は、放射線量の増加に伴って肺癌のリスクの上昇を誘発する可能性がある。しかしながら、DU は弱放射性にすぎないため、被曝集団においてその付加的な肺癌のリスクが検出されるには、非常に大量の(グラムオーダーの)粉塵が吸引されなければならないだろう。白血病を含む他の放射線誘発癌のリスクは肺ガンに比べ非常に低いと考えられている。
このように、WHOは、危険がゼロではないが「非常に低い」という言い方をする。御用学者の言い方はこんなものだ。「非常に低い」という評価の論拠としてICRP勧告などが使われるわけである。“現実に、ガンの患者が続出しているじゃないか”という指摘には、化学物質や生活習慣病のせいだろう、ということになる。実際に、米軍兵士らの湾岸戦争症候群を米国政府は否定し続けてきているが、その論法もこのWHOと同一である。
米国政府=軍産共同体 → IAEA → WHOへの圧力のかかり方は公然の秘密であって、特に放射能関係のWHOの勧告には、いっさい幻想を持ってはいけない。



(8.4) ホット・パーティクル

前章「(7.5)外部被曝と内部被曝」で体内に取り込まれたアルファ線源について論じた。その問題を、ここでもう一度とりあげる。
この問題の焦点となるのは、空気中にひろがる劣化ウランのエアロゾルを吸いこんだ兵士の肺に沈着した微粒子はμm単位の小さなものであり、そこから放射されるアルファ線はせいぜい細胞内を40〜50μmしか飛ばないきわめて狭い範囲に起こる現象である、ということであった。細胞の平均の大きさを径20μmとすると、このアルファ線に被曝する細胞はせいぜい10個程度であり、その外側の細胞には直接の被曝はない。この現象にたいしてICRPの評価手法は、同一の線量が肺全体に平均して照射されるというモデルで計算するものであるから、評価の違いが10桁近くにもなる、というのであった。
これを「不均等被曝」の問題として最初に問題提起したのがタンプリン(A.R.Tamplin)とコクラン(T.B.Cochran)「Radiation Standard for Hot Particle」(1974)で、この論文の定義どおりではなくとも、体内にはいった放射性物質を含む微粒子を「ホット・パーティクル」と称している。(ここの議論に関連して「バイスタンダー現象」という興味深い細胞の現象があるのだが、省略する。

もっと具体的に、踏みこんでみよう。
劣化ウランの微粒子が、どの程度のアルファ線を放射するものであるのか、計算してみよう。ディーゼル排気などで問題とされる浮遊粒子状物質(SPM Suspended Particulate Matter)の定義が「10μm以下」とされているので、ここでは径5μmの粒子を扱うことにする。

直径5μmの劣化ウランの微粒子が細胞に付着している場合、この微粒子は1年間に何回程度のアルファー線を出すだろうか。

数回だろうか、数十回だろうか、数百回だろうか、・・・・数億回だろうか。

こういう計算は見たくない!!という人もあろうから、関心のある方はこちら 計算 を見てください。高校程度の理科と数学の知識で片付きます。

わたしは、こういう放射能に関する事実の解明は、ぜんぶ、市民がみずからやって、市民のものにすべきだと考えて浩瀚な『人間と放射能』を書いたJ.W.ゴフマンにうたれました。実際、原発産業−学者・官僚は、胸の悪くなるほど厚く・無内容なマニアルや法律書をつくって、「放射能」を庶民の手に届かないムズカシイものと演出してきている。けして、放射能はムズカシイものではないのだ、というゴフマンのメッセージが重要だと思う。ここにはゴフマンが闘った、現代社会の支配階層による「知識の独占」があると思う。裏返して言えば、「知識の階層性」がある。

まず、「直径5μm」(マイクロメートル、ミクロン)は、5×10-6mのことで、千分の5o。これぐらいの微小な粒子は空中を浮遊して、呼吸と共に体内に入ってくる可能性が大きいのです。たとえば、ウイキペディアの「粒子状物質」を参照すると
(ジーゼルエンジンの排気中の)粒径は、10μm以下の細かい粒子が多く、大気中に長く浮遊することから、浮遊粒子状物質(SPM)と呼ばれ大気汚染の主要因とされる。浮遊粒子状物質は、人の気道や肺に沈着して健康を損ねる。このため、交通が集中する主要国道の周辺住民が相次いで国(道路管理者)に対して訴訟を起こしている。
などと出ている(SPM は suspended particulate matter)。

もう一つ別のデータを出しておく。これは、国立環境研究所のサイトの、「黄砂の粒径」についての年度ごとの分布で、とても興味深い。
縦軸は(μg/m3)なので、空気1m3あたりの重量である。粒径をどのようにして計っているのであろうか。顕微鏡的な方法ではないように思うが、吸引した1m3の空気中の黄砂資料をどのように処理しているだろうか。

ともかく、黄砂の中でもっとも多い粒子は 5μm前後のものである、と言っていいようだ。つまり、これは大陸から飛んできた黄砂であるから、そうとう“身軽な”粒子であると考えていいだろう。
岩石の比重は5程度を標準としていいだろうから、それよりはるかに重い劣化ウラン弾のエアロゾルは、おそらくもっと平均半径が小さいと考えられる。残念なことにわたしは、「劣化ウラン弾のエアロゾルの径分布」を示すデータを(不充分な形でさえ)見つけていない。たとえばローレン・モレは日本での講演で、冶金粉末の金属塵の半径分布(0.001〜100μm)を示して論を進めている。もし、「劣化ウラン弾のエアロゾルの径分布」の研究がどこかで公表されていれば彼女はすぐそれを示したであろう。
ローレン・モレ講演記録12のなかに次ぎのようなところがある。
これらは非常に微小な粒子で、ナノ粒子と呼ばれます。ナノ粒子の定義は0.1ミクロン以下です。その塵の平均直径は10分の1ミクロンで眼に見えません。これはまた家庭内のほこりのサイズです(0.001〜100ミクロン)。原発からの放射能がこの家庭内のほこりに吸着し、ひとが吸い込みます。これがどんなに小さいのか、バクテリアやウイルス(0.01ミクロン)、赤血球(7ミクロン)の大きさと比べるとわかります。金属塵(冶金粉末)とガスのところを見ると(図表を示しつつ講演している)、劣化ウランはウランガス兵器です。これが(0.001〜100ミクロン)金属塵とフューム(fume 金属の加熱溶融、溶接、溶断、スパークなどの場合に生じる微粒子)の大きさの範囲です。劣化ウラン粒子は10オングストロームからウラン原子のサイズまであります。ナノ粒子は、その大きさがそれが構成する物質特性よりもより重要で影響を与えます。
「劣化ウラン粒子は10オングストロームからウラン原子のサイズまであります」という語句の意味が不明であるが、ここは、劣化ウラン粒子の「下限」をモレさんが話しているのではないだろうか。「家庭のほこり」のレベルから下限はウラン原子のサイズ(3.5オングストローム=0.35nm)まである、と言ったのであろう。

ここでついでに述べておく。第1世代のすぐれた「反核」ジャーナリストとして活躍した田口汎とローレン・モレさんとの対談、「JANJAN」の、対談12の図表の説明に「放射性物質のエアロゾル粒径図。0.1〜0.01μの範囲の粒径が最も多い」としているのは、誤り。このグラフは劣化ウランについてのものではなく、大陸と海洋でのエアロゾルの比較をしているもの。田口汎さんの名前にひきづられて、このデータを誤読してしまう可能性があるので、書いておく。なお、田口さんは「対談9」では、同じグラフを掲げて「自然エアロゾルの平均的浮遊微粒子の直径は、ほぼ10-1〜10-2の範囲にある」と正しく説明している。
また、「JANJAN」のシリーズものはとてもいいものがあるのに、読むのに苦労する。「つづく」とあっても、それがどこに続くのかリンクがなく「目次」に相当する場所が明示してないのである。田口汎さんのシリーズの場合は、特集:原発を考えるが目次の役割を果たしているので、読み終わったらそのたびにここへ戻るようにするといい。「ローレン・モレさんとの対談」(1)〜(15)がたくさん続いているのであるから。


いずれにせよ、劣化ウランの遠くまで飛散するエアロゾルは、「黄砂」などより半径が小さい可能性がある。ウラン微粉末は塵埃に付着して浮遊するということもあるのだ。これらのことについては、後でもう一度扱う。

さて、上の問題の答は、次のようになる。

直径5μmの劣化ウランの微粒子は1年間に、約 494 個のアルファ線を出す。

一年間に約500個ということになる。18時間に1回ぐらいになる。
細胞周期(細胞分裂などの時間)が数時間〜十数時間というから、ちょうどそれくらいの時間間隔で叩かれる可能性が高い。この粒子の場合は、45億年経って238Uのアルファ線放出が年に250回程度まで減少するということなのだから、劣化ウランを一度吸い込むと生体反応で排泄してくれなければ、一生体内で同じ程度の強さのアルファ線を出し続けているということになる(なお、体内に入ったウランについては、ウランの化学毒性によって肺や腎臓がやられる。ウランの外部被曝はさして怖くないのでむしろ化学毒性が心配されていたが、内部被曝を考慮すると、化学毒性と被曝の両方で人体にダメージがあるというのが実際である。
ただし、これは精製ウランについてのことで、ウラン鉱石とは厳重に区別して考えないといけない。下で論ずるように、ウラン鉱石には「ウラン系列」の娘核種が含まれているので、ずっと強い放射能を持つのが普通である
)。

238Uについては、これまでまったく触れてこなかったウラン系列の「親核種」という問題がある。
238Uがアルファ線を出し、そのアルファ粒子は細胞のなかを突っ走って電離作用を起こして、その走路周辺を破壊する。その一方で、アルファ線を出した238Uは、別の原子、234Th(トリウム)になる。つまり、アルファ線を放出して、238Uは234Thに変わってしまう(「壞変」や「崩壊」という)のである。これを、親子関係にアナロジーを求めて、ウランがトリウムを生んだと表現したわけだ。238Uを「親」、234Thを「娘」とした(234Th が更に「壞変」するので、息子とはしなかったわけです)。
ところが、生まれたトリウム 234Th も不安定であり、放射性がある。半減期24日という短さでベータ線を出して(これをベータ崩壊という)プロトアクチニウム 234Pa に変わる。そのプロトアクチニウムは非常に不安定で、半減期はわずか1分ほどでベータ崩壊して、234Uとなる。・・・・・このように、次々に親が娘を生み、その娘がまた孫娘を生み、・・・・という長い長い系列がある。不安定核種が不安定核種を生む、という連鎖の系列である。

このウラン系列のはじめのところだけを、図示してみる。


238Uの半減期が45億年と、きわめて長いために、地球生成以来存在していた238Uが依然として残っていて、ウラン系列の「親」核種となっているのである。つぎつぎに、生まれていく娘核種たちの半減期が(上図の限りでは)びっくりするほど短いことにも気づく。(ウラン系列の全体の図表はこちら
このことは、内部被曝にとっては重大な意味を持っている。238Uのホット・パーティクルからアルファ線が出ると、ひきつづいて娘核種からも(それぞれ半減期程度の時間をおいて)放射線が出てくることになる(上図の場合はベータ線)。多くの場合はガンマ線も伴っている。いいかえると、娘核種が何段階にもわたって存在すると、その娘核種の数だけ、新たな線源が追加されたのと同じことになる

ウラン系列のメインとなる流れを取り出すと、次のように、始めと終わりを入れて15段階ある。このうち、放射能を持たないのは、最後の安定な「鉛206」だけであり、残りの14の核種はすべて放射性である。(メインの流れ以外の系列や、その説明については、ウラン系列の全体の図表を参照してください。
238U → 234Th → 234Pa → 234U → 230Th → 226Ra → 222Rn → 218Po → 214Pb → 214Bi → 214Po → 210Pb → 210Bi → 210Po → 206Pb
太古から存在するウラン鉱石の中には、これらが含まれていることになる。ただし、この系列中の唯一の気体であるラドン 222Rnは、岩石中から抜け出しやすい(したがって、それ以降の系列は含有量が減ることになる)。222Rn の半減期が3.8日と短いため、ウラン鉱山労働者などがラドンを呼吸して体内でその娘核種に変換して沈着し、肺ガンの原因になったりすることは、よく知られている事実である。(ラドン 222Rn のあとの「娘」たちを見ると、数日〜数分の半減期が続いている。そのために、ラドンガスを吸うと放射性「娘」たちがどんどん増えて、とても危険であることが分かるであろう。

理想的な状態を考えて、はじめに沢山あった親核種 238が、きわめて長時間放置され、次々に生みだされる娘核種も抜け出すことがなかったとすると、それぞれの核種の存在量の比率が変化しなくなる放射平衡に達することがある放射平衡に達する条件があるが、その議論には踏みこまない。「親核種」の半減期が十分長い場合にはその条件が満たされると考えてよい)。平衡に達した状態では、それぞれの核種の放射能(単位時間あたりの崩壊数)は全部等しくなるから、ウラン系列の場合は、238Uを単独で考えた場合の放射能の14倍の放射能を持つことになる。


このように劣化ウラン弾による内部被曝は低レベル放射能が長期間かけて、ゆっくりと作用するので始末が悪い(「低レベル」ということは単位時間あたりの放射線量が少ないということ。その状態が長期間持続する)。しかし、内部被曝にはもう一つの側面がある。それは、この現象は本質的に確率的な現象だということだ。被曝したすべての人に対して症状が出るのは「長期間かけてゆっくり」であるかもしれないが、疫学的に見れば、直ちに発病する人も必ずでてくる。それが誰かはけして予言できない(体が小さく、細胞の新陳代謝の早い子供が早く発病しやすい)。だから、いつでも発病は「先のこと」とは限らない。ただ、多くの場合ガン化は、数年〜30年ぐらいかかる。そのために、他の要因(化学物質、喫煙、生活習慣、遺伝)による発ガンにかぶさって現れる。個々の症例において、他の要因と放射能を、原因物質として分離することはできない。
個々の人が劣化ウラン弾によって肺ガンになったのか他の要因によるのかは、多くの場合、確定はむずかしい。しかし疫学的な手法をもちいると、相当の確度で劣化ウラン弾が発ガンの要因となっていることを確定できる。湾岸戦争に参加した何十万の元兵士と、同世代の参加しなかった人々と比較するのである。

ついでに、上と同じ設定(5μmのウラン粒子)で、天然ウランの場合、235Uを5%まで濃縮した場合のアルファ線の放出回数を計算してみた(原発でつかわれる燃料は235Uの含有率を3〜5%に濃縮している)。

直径5μmの微粒子は1年間に、

劣化ウランは約 494 
天然ウランは約 507 
濃縮ウランは約 620 
235Uのみは約 3124 

のアルファ線を出す。

つまり、劣化ウランは劣化というからといって、けして放射能が格段に弱いということではない。せいぜい、濃縮ウランの8割程度まで落ちるということにすぎない。(なお、原発推進系のサイトには「劣化ウランの放射能は、天然ウランの1割ほどである」と述べているところもある。放射平衡の14倍を考えているのだろうか?

上で残しておいた、劣化ウランの微粒子の直径に関することに、触れておく。
上で行った径5μmの粒子に対する計算を、1μmにするには、体積を考えればよいから、53 = 125分の1にすればよい。たとえば、最初の計算結果については、
494÷125 = 3.95
となる。すなわち、1年に約4個のアルファ粒子を出す、という計算になる。3ヵ月に一度である。さらに、小さな半径0.1μmになれば、10分の1の3乗であるから、千分の1になり、千年に約4個のアルファ線を出すということになり、個々の粒子を見ていっても、内部被曝問題としては意味がなくなる。もちろん、半径が小さくなるほど、粒子数が増え、粒子の集団としての扱いが必要になってくる。
また、生理的な問題として、より小さな粒子は細胞壁を通って血液中に滲透し、全身にまわることが可能になる。そういう可動性が問題になる。腎臓に沈着することを考えると、化学的毒性が深刻な問題になってくる。

東京大学の近藤研究室のサイトに、エアロゾルに関する次のような図表が掲げてあったので、拝借した。


近藤研究所のサイトにあるこの図表に対する説明。図の横軸はnm(ナノメータ)であるが、103nm = 1μm。
エアロゾルのもうひとつの重要性は健康影響です。粗大粒子の多くは鼻や喉で捕獲され吐き出されますが、微小エアロゾル(特にナノ粒子)は人間の肺の深部に効率良く到達することができます 。肺胞に沈着した粒子は血液中に溶け出して、様々な生体影響を引き起こす可能性があります。
更に、左図には「呼吸器への沈着率は粒径に依存」とあり、右図には「肺や気管支に効率的に沈着する粒径1μm以下の微小粒子が重要」とコメントがあった(引用では省略している)。「沈着率」の定義がいまひとつ分明でないのだが(個数か重量のどちらで表すのかによって、曲線がまるで異なると思えるので)、まあ、これ以上は追及しない。

実際の大気中のエアロゾルは電荷を帯びており、離散集合をくり返し、きわめて複雑なふるまいをするものらしい。粒子同士が付着したり、反発しあったりする。液体のもの固体のもの、素性にも色々ある。ナノ粒子は分子や原子の裸の状態の世界にちかい(ウラン原子の直径は0.35nm)。

類人猿の肺を使ったという、プルトニウム微粒子のホットパーティクルから出ているアルファ放射の写真が、ローレン・モレの講演記録Nuclear Holocaust and The Politics of Radiationに引用してあったので、紹介する。


これは500倍の顕微鏡写真で、針を突き刺したボールのようにみえるのがマイクロサイズの粒子から出るアルファ放射である。
兵士が最も有効なフィルタで防毒マスクをしていても、1日で2千8百万個のこのようなホットパーティクルを吸いこむ。そのうちの70%は血液に入る。
と彼女は述べている。



(8.5) 放射性物質におおわれた地球

19世紀末から20世紀初頭にかけて、放射性物質がつぎつぎに発見され、「放射能」という不思議な物質の性質に科学的追求の焦点が絞られてくる。
それまで、人類が扱ってきたすべての物質現象は原子と分子の世界であった。元素の周期律には19世紀前半から気づいた研究者がいるが(デーベライナの「3つ組」元素説、1827年)、メンデレーフの周期表は1869年に発表された(これはダーウィン進化論の発表のちょうど10年後)。
元素の周期表が重要なのは、千変万化・無限の種類がありそうに思える物質全体を鳥瞰的に見渡して、物質を構成している元素がせいぜい百に満たない案外少数種類しかないこと、しかもそれに顕著な周期性があることを見出した点にある。哲学的な思弁によってではなく、実証的な近代科学の手法によってそれをなしたことは画期的なことであった。人類史的なレベルで、画期的な物質世界の認識の深まりであった、と言ってよい。
元素の周期表のナゾを完全に解いたのが、20世紀にはいり、1930年ごろまでに成立した量子論であった。「原子と分子の世界」を解く手法が量子論だった。

「原子と分子の世界」は人類が親しく扱ってきた「物質」の世界を包括するのであり、その世界は、電気的な力によって結合している世界である。電気力を媒介している粒子が「電子」であり、電子のふるまいを律するのが量子論であった。
1920年代に量子論が理論として完成し、物質の成り立ちを解くことができるようになった。物質が持つ様々な性質、色や比重や固さ、沸点や氷点の説明、化合物がなぜできるのか、化合の条件はどういうものなのか。金属はなぜ電気を通すのか、セトモノはなぜ絶縁体なのか。半導体とは何か。もちろん、このような無機物質だけでなく、有機物質や生物体を構成する蛋白質や脂質や等々のすべての物質について、その物質の成り立ちを解く方程式を手に入れた。
量子力学の完成者のひとり、ポール・ディラックは次のように述べているという。
物理の大部分と化学の全体を数学的に取り扱うために必要な基本的法則は完全にわかっている。これらの法則を適用すると複雑すぎて解くことのできない方程式に行き着いてしまうことだけが困難なのである。(1929)
これらはすべて、原子が電気的な力で結びついている世界(物質世界)の話である。自然界のなりたち、すなわち無機物質と有機物質との関係はどのようになっているのか。生物体にとって、なぜ栄養が栄養であり、毒が毒であるのか。地上で人類が生活する上で出会う物質世界の森羅万象について、そういうすべての現象が“物質の理論としての量子論”によって、原理的には解かれるということになったのである。これが20世紀の前半のことであった。そして、この「物質世界は解ける」という展望は変わることなく現在も引き継がれているし、その成果を全人類は日常的に享受しているわけである。
この「原子が電気的な力で結びついている世界」は、われわれ生命体が存在している世界であり、生命体がその法則の支配下に構成され“生きている”世界である。下で述べるように、核エネルギーの世界はこれとはまるで違う異世界である。
ただし、「物質世界は解ける」という理念を持つことと、実際に解くこととはまるで違う。ディラックの言う「複雑すぎて解くことのできない方程式に行き着く」のが普通である。そのため20世紀後半は、物質の理論(物性論)や生物の理論(分子生物学)など、個別の質的に異なる世界の探求が、新しい理念の下に改めて盛んになったのである。

「原子と分子の世界」の特徴を表す数字を挙げておきたい。それは、この後に論じる“原子核の世界”(異世界)と対比するためである。
この「原子と分子の世界」でもっとも単純な元素が水素である。水素は陽子1個(正の電荷を持つ素粒子で、原子核である)と電子1個(負の電荷を持つ素粒子で、陽子に比べるととても軽く、約1700分の1)が電気的に結びついてできている。この電子を陽子から引きはがすことを電離する(イオン化)というが、電離するのに必要なエネルギーは水素の場合、14eVぐらいである。これは水素原子の原子核と電子の結合の強さを表していると考えられる。頑丈さといってもいい。他の元素の電離エネルギーはこちらを参照して欲しい。いずれも30eV以下である。(eVは電子ボルトであるが、その定義はここでは必要ないので、ある種のエネルギーの単位と承知していればよい。

同じように、水素と酸素が結合して水ができる反応で出てくるエネルギー

2 + 1/2 O2 = H2 + 3.0eV

これは、もっともありふれた“燃焼反応”であるが、水の分子の結合の強さが 3.0eV であることを表している。他の燃焼反応に関与するエネルギーも1分子あたりほぼ3〜4eVと考えてよい。
このように通常の、われわれの「原子と分子の世界」の関与するエネルギーは、1原子・1分子あたりで数十eV以下と考えておいてよい。
なお、原子のなかに入っている電子のうち、もっとも強固に結合しているのはウランの一番内側のK殻電子と考えられる。これは0.11MeVという大きなエネルギーで結合している。約105eVである。ただし、これは“原子を壊す”のに必要なエネルギー=イオン化エネルギーの上限値と考えられる。


これに対して、原子核の中から飛び出してくる放射線のエネルギーは、MeVの大きさである

238Uが放出するアルファ粒子1個のエネルギーは4.3MeV。235U1個の核分裂で発生するエネルギーは平均200MeV。M(メガ)が表しているのは106、百万である。
このように、われわれ生物が生活している通常の「原子と分子の世界」(数十eVの世界)と、「原子核内部の世界」(数MeV以上)は、まったく“桁違い”の世界である。先に、これを異世界と言っておいた。
6桁違うというのが、どういう違いであるのかを、実感することさえ難しい。たとえば、段差20pの階段はわれわれの日常生活での“高さの差”であるが、これの百万倍は200qである。人工衛星の飛ぶ高さだ。イギリスで行われる「カタツムリ選手権」の最高記録は、60pを3分間だそうだが、これの百万倍というと時速12000qになるが、2004年に達成された航空機世界最高速度に匹敵する(長距離弾道ミサイルの速さの半分ぐらい)。

20世紀の前半までに人類が知った原子核エネルギーというものは、それまでの、地球上にある生物圏のすべての物質世界とはまったく質がちがう、桁違いに大きなエネルギーなのであった。この桁違いに大きな原子核エネルギーを上手に使えるように手なづけることができれば、素晴らしいのであるが、すくなくとも、この「原子核の現象」=放射能とわれわれ生物は、そのままで共存することは不可能であることをよく覚悟することが必要である。
放射能の怖さは、この桁違いに大きなエネルギーの怖さなのである。あまりにも桁違いで、異質であるために、われわれ生物は放射能を感覚することがまったくできない。そこに放射能があるかどうかを、生物は知ることができないのである。これは、長い生物進化史のなかでわれわれ生物は放射能と直接かかわることがなかったことを意味している。おそらく、宇宙環界の放射能がある程度下がってきた段階で、はじめて生物の発生が可能となり、放射能によって壊されない範囲で生物としての生存が許されてきたのである。それゆえ、放射能と生物とのあり得べき関係はただひとつ隔離である。生物の世界のなかに放射能が自由に無制限に入りこむということはけしてあってはならない。もし、それを許せば、生物は(すくなくとも現生種の生物は)絶滅する他ないであろう。生物と放射能は隔離なしの文字通りの共存ということはありえない。
ついでに述べておくが、生物進化史は地球史と同様にきわめて古いことを強調しておきたい。逆にいうと、現在のわれわれ人類の中には、30億年をうわまわる地球生物史の記憶が集積していると言ってよいのである。かつて「大地のように揺るぎない」という表現があったが、プレート理論が実証されて以来、大地の不変性といってもせいぜい数千万〜数億年であって、われわれ生物の方がうわまわるかも知れない深さを持つのである。それだけ、生物の持つ“生命の謎”が深いと考えられる。生命体としての時間の深さを個々のわれわれが持っていることを認識することは意味があると思う。


「原子と分子の世界」と「放射能の世界」が6桁も違っているということを最初に意識的に利用したのは、ラザフォードの散乱実験(1911年)であろう。それまでにいくつも原子モデルが提案されていたが、ラザフォードは金箔にラジウムから出るアルファ線を当てて曲がって出てくる(散乱される)アルファ線を注意深くしらべ、(金の)原子の直径の1万〜十万分の1という小さな原子核の存在を実証したのである。この実験は、正電荷をもつアルファ粒子がきわめて大きなエネルギーをもって金の原子に衝突することを、巧みに利用したものである。
この実験の結果をもとに、よく知られている、小さな原子核のまわりを電子がまわっている、という(古典的)原子モデルがつくられた。これを「ラザフォードの原子モデル」という。この原子モデルを矛盾なく説明するために、1930年頃までに量子力学がうち立てられたと言ってよい(ボーア、シュレディンガー、ディラックら)。
つまり、「原子と分子の世界」の解明のそもそもの端緒となるラザフォードの実験は、ラジウムのアルファ線を利用しているのである。桁違いに大きなエネルギーをもった粒子線をゾンデとすることによって、「原子」の構造が究明されたのである。

したがって、20世紀の初頭から1930年頃までにうち立てられた量子力学と原子構造の解明が、ひきつづいて、放射能と原子核の研究につながっていくことは必然的であった。原子構造の解明に成功すれば、原子の中心にある原子核について探求が進むことは当然であり、さらに原子構造の解明の重要な道具となった放射能(放射線)の研究に向かうのは当然である。それは、とどめようがなかった。
しかし、その段階までの「放射能の世界」は、原子核崩壊によってアルファ線やベータ線、ガンマ線が放出され、その際、原子が変換すること(たとえばベータ崩壊によって、炭素が窒素になる 14C→14N +e-)、つまり、元素がかならずしも絶対不変のものではないことなどが判明していた。その状況が一変したのが核分裂の発見(ハーン、シュトラスマン、マイトナー、フリッシュら、1939年)であった。なぜなら、核分裂現象を用いると、6桁以上も異なる「放射能の世界」のエネルギーを利用することが可能となるからである。

はやくも1945年に最初の原子爆弾がアメリカによってつくられ、日本にたいして2度も実戦使用された。それがたんに熱と爆風の巨大爆弾というだけでなく、同時に、通常兵器の延長線上には考えられない残酷で永続する放射線障害をもたらすものであることは明白となった。原子爆弾は無差別な大量殺戮兵器であり、その使用は議論の余地なく非人道的であり、正当な戦争行為から大きく逸脱した残虐兵器であるといわざるをえない。

ところが、アメリカの政治-軍事-産業の中枢部(その背景にウランビジネスの世界支配企業が存在する)が原爆製造と使用のための「マンハッタン計画」でたくらんだことは、原爆の実戦使用より更に更に罪深いものであった。
それは、第2次大戦後の世界戦略の中核として核兵器を位置づけるために、原子爆弾が「熱と爆風の巨大爆弾」であることと爆発瞬間の強い放射能は認めるが、事後の永続する放射能は存在しないとする虚偽を全世界にばらまいたことである。
「原爆はおそるべき爆発力だ、しかし、放射能はたいしたことじゃない」という虚偽を、体制順応の科学者と報道機関を動員し、権力のありったけの陰謀と策略を用いて、宣伝した。“自由世界を守る”と称して科学的事実・医学的事実の発表そのものが抑圧され、自由な研究が妨げられた。
広島・長崎の原爆被曝者、アメリカ国内の“アトミックソルジャー”や“風下住民”やプルトニウム人体実験被害者、大洋州の原水爆被曝者等々の被害を密封し見殺しにした。1991年湾岸戦争以降の劣化ウラン弾による被曝者(中東-バルカンの住民、米軍兵士)を見殺しにしている。情報が開示されていないが、旧ソ連での放射能被害が世界最悪ではないか、とも言われる(既出の「中国新聞社」の「核時代 負の遺産」旧ソ連編が貴重なルポとなっている)。中国の核実験の放射能被害の実態も(すこしは洩れてきているが)不明である。

核兵器以外では、原子力発電所−核燃料処理工場−核廃棄物貯蔵所での被曝が深刻である。これは、放射能の量が核兵器とくらべて比較にならないほど膨大であること、万一事故がおこればきわめて深刻な事態となること、日常的な運転による放射能物質の漏洩が無視できないことなど、どれ一つを取っても簡単な問題はない。
膨大な量の放射性物質を20世紀後半に人類は地上に造りだしてしまったのであり、現在もますます膨大な量を新たに造りだしつつある。われわれ生物は放射能と共存することができない。放射能は、6桁以上違う、いわばわれわれとは“ちがう世界の存在”であり、放射性物質は隔離するしか防衛の方法がないのである。このことは、よくよく考える必要がある。
長い目で見た場合、膨大な量の放射性物質の、安全な・長期(数万年以上)にわたる隔離がもっとも深刻な課題である。人類の文明といっても数千年しか経っておらず、“先のことはよく分からない”という無責任な状態で、結局先送りするしか手がないのである。
長い目で見た場合、もう一つ心配なことは、このまま原子力利用を続けた場合、重大事故の確率が確実に上がることである。チェルノブイリ級の原発事故が必ず起こると考えておいて間違いない。日本では大地震および原子炉の老朽化が殊に心配である。原子力関係の科学者・技術者の質の低下、意識の低下も心配である。
原子炉での重大事故は、人的ミスがらみで生じることが多い。純然たる施設の老朽化や手抜き工事などの技術的欠陥だけではなく、人的な判断ミスや対応ミスと複合して事故が重大事故に発展していく。
原子力は、それが発見されてから実用段階に応用されるまでに、ほとんど時間的な余裕がなかった。不幸なことに「マンハッタン計画」という軍事的なスタートをし、東西冷戦のヘゲモニー争いの重要な道具として期待され、技術として熟成する時間的な余裕を持たなかった。「蒸気機関」にしても「電気モーター」にしても、それらが産業現場に使用されるまでには、それぞれの技術の要求する「熟成時間」があった。その技術の危険性や限界をよく弁えた熟練工が育成されることと、技術が生産現場に応用されることと別のことではなかった。
原子力に関しては、熟成時間なしに、軍事的・政治的な意図と命令が優先されて、実用化と試験的開発とが同時に行われるという、危ういものであった。しかも、その巨大技術は熟成に要する時間を長く要求するはずのものであった。この人類が初めて接する危険な巨大技術を、日常的に運転する技術者集団の、熟成と技術的水準の維持と高い意識の持続は必須のものである。
原子力技術に対する一般社会の敬意が消滅していっている現在、原子力関係の科学者・技術者の質の低下、意識の低下がことに心配されるのである。


「JANJAN」の田口汎の連載論文に、ローレン・モレの話が紹介されている(レバノン:劣化ウランの実験場 2006-9/13)。
わたしは(ローレン)、この後も「劣化ウラン弾」の不正使用や「放射性毒ガス」について取材を受けることになる。新たな戦争は、「新しい兵器の実験場」であると同時に、「旧式兵器の廃棄場」にもなっている。現段階で、前地球規模の大気は、ユーゴスラビア、アフガニスタン、イラクで使用された「劣化ウランのガス」によって覆われている。現在分かっているのは、使用された「劣化ウランの雲」はほぼ7〜9日前後で地球全体を覆うという事実である。それはイギリスの大気調査で、確実になっている。

 「劣化ウランのガス」は急速に世界の空を覆い、殊に熱帯地方の偏西風、貿易風、大循環によって運ばれるのである。乾燥地帯特有の「砂嵐」や「チリ嵐」は語るまでもない。

 「アメリカ疾病センター(CDC)」の報告によっても、1990〜2002年間で糖尿病の増加は、アメリカのみでも1300万5000人増加している。この数値は、日本の人口動態調査でも、放射線起因疾病とガンの死亡率は、アメリカの数値と合致している。インドや英国でもそれに準じた結果となっている。

   矮星といえる様な小さなこの惑星は、劣化ウランの毒性ガスが他の要因と一緒になって、恐竜が死滅した時期を思わせる危機にある。アメリカとイギリス、それにイスラエルが加わり、今や地球全体を「アウシュヴィッツのガス室」を思わせる危機に追い込んでいるのである。
糖尿病の原因に放射性物質が公認されているわけではないが、20世紀後半の全世界的な糖尿病の急増は、“全世界的な現象”が関係していると考えるのは理にかなっている。日本では60年代半ばに3万人であった糖尿病患者数が2004年には740万人(250倍!)になっていることは、食生活の変化と医療検査の普及だけで説明できるとは思えない。
糖尿病は膵臓の機能が落ちて、インスリンの分泌が無くなるか不順になることが根本原因である。ローレン・モレは「SENKI」のインタビュー(2006-12/5 前出)で次のように、放射能と糖尿病が関係することは、広島・長崎の後すでに医師は気づいていただろう、とのべている。
私は友人に言いました。「こんなことは誰も言っていないし、信じられないかもしれないが、糖尿病の世界的な流行は放射能と関係しているとしか思えない」。(中略) 私は、科学者が放射能と糖尿病の関連性を知っていたはずだと考えて研究を始めました。広島の原爆投下後、日本でも糖尿病が大変増えていますから、専門家は放射能と糖尿病の関係を知っていたはずです。

 研究していくとマンハッタン・プロジェクトを実施したローレンス・バークレイ研究所の1963年の内部レポートが、糖尿病と放射能との関連について報告していることが分かりました。糖尿病にかかっている人の血液中の放射性物質を研究していたのです。
この内部レポートを書いた研究者にローレン・モレは尋ねているが、「忘れてしまった」という返事しかかえってこなかった。
次に出てくるイットリウム(元素記号Y、安定同位体の原子量89)は、カラーテレビの赤色発光体に使われている物質だという。
核分裂生成物のひとつにイットリウム90がありますが、これが体内に入るとすい臓に集中します。すい臓は糖尿をおさえるホルモン・インスリンを分泌しており、この機能が被曝することで異常をきたすのです。2ヶ月の被曝で糖尿病になることは、すでに動物実験で確認されています。

 専門家は糖尿病と放射能との関連性については1980年代から知っていましたが、データを公開しませんでした。私は糖尿病の発症率を地域ごとにマッピングしました。結果、糖尿病の発症地域と放射性降下物の分布地域とがぴったり一致したのです。
ローレン・モレは、原発や劣化ウラン弾使用による放射性物質が地球全体をおおい、それを体内に取り込むことで糖尿病の世界的な急増が生じている、と考えている。ただし、目下これは少数意見である。
動物性脂質のとりすぎ、肥満、運動不足などが糖尿病の原因の多数意見である。「自家用車の台数の増加」と糖尿病の患者数増加を大まじめに比較しているサイトまである。
次は、「多数意見」の側の見解である。
世界で2億4,600万人と推定される糖尿病患者の3分の2以上は、比較的貧しい発展途上国の人々であり、いまやエイズと並ぶ死因としてより多くの対策が必要になっている。このような冷静な調査結果が、先ごろ米ニューヨークで開かれた「Global Changing Diabetes Leadership Forum」で報告された。同フォーラムは、糖尿病に関するヘルスケアの専門家や政治家、指導者層が集う最も大きな会議の1つ。

国際糖尿病学会(IDF)のマルチン・シリンク会長は「糖尿病の蔓延はまさに疫病のようだ。糖尿病患者の70%は途上国人口が占めている。中国やインド、南アメリカなど、経済が発展して急速にライフスタイルが変化している国で急増している」と警告する。(ヘルスデー・ジャパン2007-4/19)
「糖尿病の蔓延はまさに疫病のようだ」という言葉を覚えておこう。わたしはローレン・モレ説にただちに同意できないが、ただ、モレ説は、1. 全世界的な蔓延であること、2. 生活スタイルや習慣が多様である人びとを等しく襲っていること、3. 20世紀後半に急増したこと、などを説明するのに理にかなっていると思われる。

科学的な、医学的なデータや論文の発表がたえず抑制されていること、核関連の歴史をしらべてくると、いたるところに抑制の話が転がっている。体制的学者の無責任な「安全宣言」にぶつかる一方で、公的な組織の集めたデータの発表が抑制される。
核兵器-原子力科学のスタートの「マンハッタン計画」のなかに、そもそも、重大な虚偽が仕込まれていて、「自由を守る」の名のもとに人命さえも容赦なく犠牲にしてきたのである。科学的事実・医学的事実の発表さえも抑圧されてきたのである。そのことは、現在も持続している。
20世紀の後半に入ってから、アメリカ政府の述べるすべてのメッセージはこの虚偽をバイアスとして、含んでいる。彼らの言う「民主主義・自由・博愛」は、虚偽のフィルタを通ってきた有毒のものである。ベトナム戦争でも、湾岸戦争でも、イラク戦争でも、抑圧された人びとは数え切れない犠牲を払ってそのことを体験したはずである。

最後に、明治以来の日本の「死因別死亡率」の変遷を眺めておこう。
第2次大戦後、一貫して増加し続けているのがガン(悪性新生物)である(厚生労働省「人口動態調査」 でも、お役所はどうして「悪性新生物」なんていうのだろう。悪性腫瘍じゃいけないのか?)。ガンの原因は多岐にわたるが、この一貫する増加の原因の何割かは、核兵器と原子力発電とによって全世界にまき散らされた放射性物質であると考えてまちがいないだろう。



原子核内部に存在する核エネルギーの秘密を人類が知ったことで、核兵器や放射能によって殺され・苦しむ無数の人びとをつくりだした。そうなった原因の最大のものは、原爆製造の最初の歴史的段階で、アメリカが虚偽によって全世界を説得したことである。アメリカは現在もまだそれを訂正していない。そして、国連常任理事国をはじめとする核兵器保有国家や、日本をはじめとする原子力発電を推進している国家や、軍事産業−ウラン企業−国際金融資本は、それを根拠にして全世界に放射性物質をまき散らしている。

だが、原子核エネルギーを人間が理解することで、はじめて、太陽のエネルギー源を理解することができた。また、恒星の光っている理由を知ることができた。わが宇宙のそもそもの成り立ちについて、踏みこんで探求する手がかりになった。それは、時間の始源と、空間の始源をつきつめることであった。高エネルギーの世界が、極微の素粒子の世界に結びつく。
宇宙の成り立ちは天体の進化を知ることであり、その進化過程で成立した生命について、その根源を問う土台が用意されたと考えることができる。

原子核についての知見は、人類の科学史の長い蓄積があって初めて可能だったのであり、しかも、それは必然的であった。放射能は原子核の内部を露出する現象だといってもいい。それは、われわれ生物の「原子や分子の世界」とは6桁以上も異なる世界、異世界であった。その異世界とわれわれ生物は、共存することはできない。原子核内部は、核力の深いポテンシャルの井戸の底に入っていることで、やっとわれわれと共存できるのである。この異世界の猛烈さは、浅はかな虚偽によってつじつまを合わせられるようなものではない。
われわれ人類(生物)は、一部の科学者に原子核内部を垣間見ることは許容しても、核兵器や原子力発電のような日常生活へ核エネルギーを導入し、それと共存しようとすることは諦めるべきである。

原子核の内部が露出し、そこから溢れでるエネルギーを知ったのは、たしかに人間の英知である。それによって、宇宙のなりたちの解明がいくらか進み、それはわれわれ生命体の謎の解明に結びつくものである。
しかし、その人間の英知はなんと愚かなのだろう。






内部被曝 (その8)  終わり

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