ヘラの三つの森の中にシンハラの国がある。
そうでないとしたら,私達の国は何処かへ行ってしまったのだ……。


「ヘラの三つの森の中に」と題された三分ちょっとの歌の冒頭部分です。1981年4月11日,ロンドンのカムドン・センターで開かれたコンサートでナンダー・マーリニが歌いました。

  ヘラhela というのは、たとえば「ヘラ・バサ」が「シンハラ語」を意味するように「シンハラ」のことを言います。そして,それはスリランカをも意味します。
  「ヘラの三つの森」はスリランカ全土を支配していたシンハラの古代三王国のことです。輝けるランカー島は私達シンハラ人のもの,古代から私達シンハラ人がよりどころとしていた島。この島を出て行ったら,何処にも行くところなんてない……シンハラ・ナショナリズムは崖っぷちで民族の存亡を賭けているという彼らの意識を,この歌は明確に教えてくれます。

  「ヘラの三つの森」は放送禁止になりました。それほどに過激な歌です。シンハラ人の心境は極限に至りやすいと、往々指摘されますが、「島を追い出されたら,行くところなんてない」という閉塞の状況がシンハラ人の孤独,孤立を生み出したこと、逆にそれが完璧なまでの連帯感を生む核になっていたことを、この歌が改めて教えてくれます。
 
孤独。連帯。スリランカのシンハラ人を読み解くときのキー・ワードです。


 ロンドンでのライブで「ヘラの三つの森の中に」が歌われた翌々年,コロンボに「暗黒の6月」がおとずれタミル人とシンハラ人の争いが始まり、それは20年を経た今年に至っても続いています。あまりに長い争いの軌跡は、シンハラ人の間にも,タミル人の間にもすでに軋みを生んでいます。