2006年5月17日
2006年度、渡邊ゼミ・演習Ⅰでの発表第2回目です!!
2班が取り上げた判例は
「制限超過利息と貸金業規制法43条1項の適用
最高裁平成16年2月20日 第二小法廷判決
(平成15年(オ)第386号、(受)第390号不当利得返還請求事件)
(民集58巻475頁、判時1853号32頁、判タ1147号101頁)」 です。
まずは本件事案をご覧下さい。
<事案>
X(原告・控訴人・上告人)は、貸金業者Y(商工ファンド、被告・被控訴人・被上告人)との間で平成7年5月19日、金銭消費貸借等の方法により継続的に信用供与を受けるための基本契約を締結し、これに基づいて同日から平成11年8月13日にかけて1件50万から300万の規模で計32件の貸与が実行された。利率は日歩8銭であった。
Xは一定の取引については元本を一括返済したほか、一括返済しない部分については、毎月請求される利息等を支払ってYとの取引を継続した(基本契約には、Yが認めた場合最長5年間これが可能であるとの約定がある)。その後、Xは利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払い金が生じているとして、Yに対してその返還(418万円強)を求めた。Yはこれに対して、貸金業規正法43条1項のみなし弁済を主張した。
<判旨>
【原審】 ⇒ 控訴棄却=Yの勝訴
貸金業者である被控訴人Yから金銭を借り受け、天引き又は前払いの方法で利息を支払ってきた控訴人が、利息制限法に定める制限額を超える部分を元本に充当すると過払いになるとして、不法利得に基づき過払い金の支払い等を求めた事案において、原審(東京高判平成14
年11月28日判決)は貸金業法43条1項及び利息制限法1条1項は利息の前払いと後払いとで区別を設けていないこと、利息天引きは利息前払いの一種であ
り、貸金業法43条1項は利息制限法2条の適用も排除する趣旨であることからすれば、前払い利息、天引き利息いずれについても債務者が利息の支払いに充当
されることを認識した上でこれを支払えば、みなし弁済の対象となる任意の弁済に当たるとして、Yの主張を認め、Xの請求を排斥した。
【最高裁判決】 ⇒ 破棄差戻し=Xの勝訴
「貸金業規制法43条1項の規定が利息制限法1条1項についての特則規定であることは、その文言上からあきらかであるが、①上記同法(利息制限法)2条の規定の趣旨から見て、法43条1項の規定は利息制限法2条の特則規定ではないと解するのが相当である。
したがって、貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づき利息の天引きがされた場合における天引き利息については、法43条1項の規定の適用はないと解するべきである。」
→①貸金業規正法43条1項は、利息制限法2条の特則規定ではないのではないか。
「貸金業規制法43条1項の適用要件として、法17条1項所定の事項を記載した書面(以下17条書面)をその相手方に交付しなければならないものとされているが、②17条書面には、法17条1項所定の事項のすべてが記載されていることを要するものであり、その一部が記載されていないときは、法43条1項適用の要件を欠くというべきであって、有効な利息の債務弁済とみなすことはできない。」
→②17条書面に一部でも不備があれば、43条1項は適用できないのではないか。
「17条書面の交付の場合とは異なり、18条書面は弁済の都度、ただちに交付することを義務付けられているのであるから、③18条書面の交付は弁済の直後にしなければならないものと解するべきである。
前記の通り、Xによる本件各弁済の日から、20日あまり経過した後に、YからXに送付された本件各取引明細書には、前回の支払いについての充当関係が記載されているものがあるが、このような支払いがされてから20日余り経過した後にされた本件各取引明細書の交付をもって、弁済直後に18条書面の交付がされたものとみることはできない。」
→③18条書面の交付が弁済の20日余り経過した後になされたということは、「弁済の直後」には含まれないのではないか。
では、2班の判例評釈を見ていきましょう!!
<検討>
判旨① 利息が天引きされた場合における貸金業規制法43条1項適用
本事案における重要な争点の一つは、利息が天引きされた場合の貸金業規制法43条1項の適用についてである。利息の天引きの規定には利息制限法2条があるが、本件は貸金業規制法43条が利息制限法2条を排除して適用できるかが条文にないため問題となった。利息の天引きの場合における43条適用については①否定説と②肯定説の二つの説がある。
①否定説
利息が天引きされた場合には貸金業規制法43条1項の適用を否定し、利息制限法2条を適用すべきとする。適用を否定すれば、支払われた超過利息分は元本に充当し、さらに過払いとなっている部分も不当利得として返還請求できる。法制当初からの多数説で、下級審裁判例もそのほとんどがこの説をとっている。
②肯定説
近時見られるようになった見解で、利息の天引きが行われた場合であっても、貸金業規制法43条の規定する要件を具備する限り、利息制限法の適用を排除し、その支払いを有効な利息の債務の支払いと解す。さいたま地裁平成13・11・30や本件原審がこの説を採用した。
本件原審は肯定説を採ったが、最高裁が従来の下級審判例及び学説における主流である否定説を採用することを明らかにした点で本判決は重要な意義を持つ。
判旨② 「43
条1項の規定の適用要件をして、法17条1項所定の事項を記載した書面」(以下「17条書面」という)と18条所定事項を記載した書面をその相手方に交付
しなければならない、とされているが、その書面には法17条1項所定の事項全てが記載されていることを要する。その一部が記載されていないときは、法43
条1項適用要件を欠いている、というべきであるか。
1.そもそも、貸金業法は利息制限法の例外としての、債務者保護のため、法定書面の交付を詳細にして、義務、行為規範をして業者に課し、43条はこれを遵守する業者に対する特典である。
2.また貸金業法が法定書面の交付を詳細に義務として業者に課したのは、契約内容や充当関係が不明確であることによって、債務者の不利益や紛争を防止しようとしたものである。
以上2点から、貸金業法43条を適用するためには、17条書面の記載内容等は、債務者にとって一義的、明確、正確でなければならず、不明確、不正確、不利益であってはならないのである。
貸金業法の趣旨は、以下のとおりである。
1. 債務者に契約内容を知らせる
2. 債務者が不利益に扱われることを防ぐ
3. 後日の紛争を防止する
まず、なぜ1班がこの判例を重要判例として取り上げたのでしょうか?理由として次の3点が挙げられています。
①これまでの判例と一線を画した、最高裁平成9年9月4日判決の流れをくんでいる。
②当事者の主観的認識が重視されている。
③より一般的経済秩序の維持が指向されている。
※最判平成2年1月22日第二小法廷判決※
<判示内容>
・・・また、17条書面の意義は「契約時に債務者に契約内容の詳細、充当計算の手がかり、ルールを一般的、一義的に明示させるためのもの」である。
↓
これはすなわち、いつ、いくらを支払い、それがどのように充当されるかについて、その都度でないと判らず、しかもその内容がチェックできないというのでは、債務者を極めて不安定な立場に置くことになるので、法17条は貸金の利率、返済の方式、返済期間及び返済の回数、利息の計算の方法、返済の方法、各回の返済期間及び返済金額等についての、契約全体を通しての条件、ルールを契約時に一般的、一義的に契約書面に明示し、遅滞なく債務者に交付することを求めたものである。
17条書面の意義に関しては、厳格説と緩和説がある。
本件最高裁は、厳格説を採用している。
厳格説・・・上記より、貸金業者は、厳格な書面を作成することが期待されている。
また、「みなし弁済」を受けるためには、法17、18条所定の厳格な規制を遵守することが必要である。このような法の趣旨からすれば、必要的記載事項が一部でも欠けている場合には、みなし弁済の効果は認められないとするべきである。
下級新判例も分かれていたが、厳格説に立つものが多く、緩和説は少なかった。
今回の最高裁判決が、最高裁としては初めて、厳格説に立つことを明らかにしたものである。
判旨③ 18条書面の交付期間について
貸金業法18条には「弁済を受けたときは、その都度、直ちに」同法18条1項の受取証書を債務者に交付しなければならないとある。しかしこの規定は、同法2項により、口座振込みの場合において弁済者の請求があったときに限って適用される。
では、本件の銀行振り込みの場合は?
*銀行振り込みによる送金の場合の18条書面交付について*
最高裁判所平成11年1月21日判決(民集53巻1号98頁 甲81)
=銀行振り込みによる場合でも特段の事情がない限り
①払い込みを受けたことを確認した都度、直ちに
②18条書面を債務者に交付しなければならない。と解す。
○同法43条1項2号は受取証書の交付について何らの除外規定を設けていない
⇒緩和する解釈は許されない
○債務者は、受取証書の交付を受けることによって、払い込んだ金額の利息、元本等への充当関係を初めて具体的に把握することができる
⇒当該充当結果についての、異議申立機械を付与するためのものである
では、18条書面はいつ交付するべきなのか?
①弁済を受けたときと同時
最高裁事務総局民事局編・貸金業関係事件執務資料42頁
「直ちに」・・・時間的な即時性が最も強い
②入金日の翌日
最高裁事務総局民事局編・消費者関係法執務資料
「貸金業法43条関係裁判例の解説」111頁
東京高判平成9年6月10日「預金口座への入金を通常知りうる時点でその都度、直ちに」
横浜地裁平成8年2月8日「受取証書は原則として、入金日の翌日に交付(送付)されなければ、みなし弁済はされないというべきである。」
「直ちに」の解釈についての判例は、他にもさまざまなものがある。
*特段の事情の解釈
○上記の最高裁判決が、交付の必要性について、特段の事情のない限り、交付を必要と判断していることは明らかであるが、交付時期についても特段の事情のある場合に「直ちに」でなくてよいといっているかはわからない。
○特段の事情は極めて例外的な貸金業者が同法18条1項所定の書面の交付のために尽くすべき手段を尽くしたにもかかわらず、これを交付できなかった場合と厳格に解釈される
最高裁事務総局民事局編・消費者関係法執務資料
東京高裁平成9年11月13日判決を引用
⇒この事案において特段の事情を充足するような事実は一切存在しない。
<まとめ>
「以上から私たちはこの判例には賛成の考えをもつ。しかし、そもそも43条1項の存在自体に疑問がある。この法律は貸金業のためのものであり、利息制限法で定められた利率を超えての利息を得ることを認めることとなる。このような法律は廃止するべきではないかというのが私たちがこの事案を検討して得た見解である。」
本
件事案のような法律問題が生じていることについて、貸金業者側からは「みなし弁済の要件が厳しすぎる」との意見があるが、他方、有識者からは「みなし弁済
は、利息制限法に違反する無効な弁済を「例外的に有効な弁済とみなす」として特典を与えるものであるから、厳しい基準をクリアしなければならないのは当
然」という意見がある。また、ヤミ金も社会問題となっており政府による法改正が必要であると考える。立法が曖昧なためにこのような問題が生じているのであ
る。違反者には刑罰を科すなど、政府が明確な立場を示さない限り解決は難しいと感じた。
<参考資料>
民集58巻2号
LEX/DBインターネットTKC法律情報データーベース
金融・商事判例集 1163号39頁 / 1136号32頁
ジュリスト 1271号99頁