2006年5月10日

 

 1班が取り上げた判例は

「他人の商標等の表示と同一又は類似のものを使用した商品の売買契約の効力と民法90条

最高裁平成13611日 第一小法廷判決

(平成12年(受) 第67号売掛代金請求本訴、損害賠償請求反訴事件)

出典:判例時報175762頁」 です。

まずは本件事案をご覧下さい。

 

<事案>

メ ンズウェア中心の衣料品販売会社の訴外A社(米国ポロ社)は、世界的に有名な馬に乗ったポロ競技者の図形と「RALPH LAUREN」の文字を商標とし て使用している。しかし、インドネシアでは、A社とは無関係の者が上記図形と文字をA社に先んじて商標登録し、これを使用してA社商品に酷似した商品(本 件商品)を生産、日本国内でも輸入されていた。A社が日本では平成4年10月に、上記図形と文字の結合からなる標 章を商標登録したところ、本件商品の輸入業者らは、図形と文字を分離するなどの方策を講じていたが、平成6年8月にはA社は図形のみの商標登録も行ったの で、遅くともこの時点からこの方策も許されない状態になっていた。

Y (被告・控訴人・上告人)は、平成4年5月ころから本件商品を仕入れて販売していたところ平成5年5月にA社から第一回目の警告を受けていたが、平成5年 11月ころ。少し前に本件商品の取り扱いを始めたX(原告・被控訴人・被上告人)から。本件商品を日本国内で流通させても問題ないとの説明を受け、その取 引を勧められた。

そ こでYは、本件商品を仕入れ、販売することが不正競争防止法に違反することを認識しつつ、A社商品との誤認混同による売り上げ上昇を予測し、問題が生じた ときにはXに責任を負わせるとの思惑でA社からの警告を告げることなく、同月下旬頃からXとの取引を開始した。本件商品に関しては、平成5年6月頃に同業 他社が不正競争防止法違反による摘発がなされ、Y自身も平成6年12月、平成7年7月にA社から第二・三回目の警告を受けていたが、なお取引を継続してい たところ、平成7年10月24日、XYともに商標法違反及び不正競争防止法違反の疑いで福岡県警の強制捜査を受けるに至った。

本 件商品の売れ行きは良好で、XのYに対する売掛金総額(本件商品も含む)は9000万円近くに達していた。そこで、XはYに対して、売掛代金を請求し訴訟 を起こしたが、Yは本件請求が公序良俗に反し許されないと主張した。原審は(おそらく一審も)、Yの違法性の認識や利益の獲得に着目して、この主張を排除 してXの請求を容認したので、Yが上告した。

 

<判旨>

破棄差戻し。

本 件商品の販売は不正競争防止法に違反し、かつ、遅くとも平成6年8月以降は商標法にも違反するところ、本件商品の取引は、衣料品の卸売業者であるXと小売 業者であるYとの間において、本件商品が周知性のあるA社の商品等表示と同一又は類似したものを使用したものであることを互いに十分に認識しながら、あえ てA社の真正な商品であると誤信させるなどして大量に販売して利益を上げようと企てたものであり、この目的達成のために継続的かつ大量に行われ、警察から 商標法違反及び不正競争防止法違反の疑いで強制捜査を受けるまで継続されたものであることから、その犯意は強固なものであったといわれなければならない。 不正の目的をもって周知性のある他人の商品等表示と同一又は類似のものを使用した商品を販売して、他人の商品と混同を生じさせる不正競争を行い、商標権を 侵害した者は、不正競争防止法及び商標法に違反するというだけではなく、経済取引における商品の信用の保持と公正な経済秩序の確保を害する著しく反社会性 の強い行為であり、このような売買契約は民法90条により無効であると解するのが相当である。

では、1班の判例評釈を見ていきましょう!!

まず、なぜ1班がこの判例を重要判例として取り上げたのでしょうか?理由として次の3点が挙げられています。

①これまでの判例と一線を画した、最高裁平成9年9月4日判決の流れをくんでいる。

②当事者の主観的認識が重視されている。

③より一般的経済秩序の維持が指向されている。

①の最高裁平成9年9月4日判決とは、『証券取引法に違反する損失保証契約につき、「証券市場における価格形成機能をゆがめるとともに、証券取引の公正及び証券市場に対する信頼を損なうものであって、反社会性の強い行為である」として、公序良俗違反として無効とした。』というものです。

この判例がこれまでの判例と一線を画した、つまり、従来ではこのような事案についての契約は有効とされてきたのです。平成9年判決を契機にその流れは変わり、さらに今回の事案においては理由②③を重視し、本件売買契約を公序良俗違反として「無効」と判断するようになりました。

本判決の重大なポイントは『公序良俗違反で「無効」と判断』というところにあります。

まず、このような売買を無効にするにあたっては、「取締法規違反」が考えられます。しかし、本件で問題となった商標法および不正競争防止法には、違反行為の私法上の効力を否定する規定はありません。

だからといって、このような不正売買契約が認められてよいのでしょうか?

そ こで本件事案にあたって、最高裁は「当事者双方がその違法性を十分に認識しながら、むしろ消費者の誤認混同を利用して大量の販売によって利益をあげようと したもので、経済取引における商品の信用の保持と公正な経済秩序の確保を害する著しく反社会性の強い行為であるという点に着目して、本件商品の売買契約を 公序良俗違反であるとして無効」としたのです。

公序良俗については、民法90 条に規定があります。この民法90条とは「契約の内容が、社会的妥当性を欠く(公序良俗に反する)場合、たとえこれを直接禁止する規定がなくても、このよ うな契約は無効となることを定めた条文」です。民法90条自体はとても抽象的であいまいな規定ですが、該当行為を類型化すると以下のようになります。

<公序良俗違反の行為の類型>

1)犯罪にかかわる行為

2)取締規定に反する行為

3)人倫(倫理秩序)に反する行為

 (a)婚姻秩序に反する行為

 (b)親子間の道義に反する行為

4)射倖行為

5)暴利行為:他人の無思慮・窮迫に乗じて不当な利益を得る行為。

6)基本的人権を侵害する行為

 (a)男女差別に関するもの

 (b)自由を極度に制限する行為

本判決における売買契約は不正競争防止法および商標法違反で、まさしく(2) に当てはまるといえます。取締法規に該当しない違反行為も、民法90条公序良俗違反でもって取り締まることができるようになりましたが、問題は民法90条 の適用範囲がどこまで拡大が可能かということです。社会が多様化するにつれ、今まで生じなかった問題が次々に浮上するようになりました。これらがいくら社 会的妥当性を欠くといっても、すべて民法90条を適用してよいものなのでしょうか?

「適用範囲の確定」については、今後の最高裁に残された課題ともいえます。

では、最後に1班のまとめの意見です。

<まとめ>

  「民法90条は非常に抽象的な法律である。抽象的であるが故に、流動的で社会の変化に従っていける。今回の事案は、情報化、グローバル化の時代の中で問題 視されている知的財産についてである。今日、人々の価値観は多様化しており、明らかに通常の価格より安い、または明らかに偽ブランドと分かるような表記の ある商品が売れている。そもそも、ブランドとはその品質の高さを誇り、買い手はそのブランドの品質を信用して買うものではなかろうか。しかし実際はブラン ドのマークが一人歩きし、品質が伴わなくとも偽ブランド品が売れている。損害を受けるのは、忠実に品質を守ってきたブランドである。もちろん、本物と錯誤 して買った場合、消費者も保護すべきであるが、ほとんどの場合は偽物と認識して買っているのではなかろうか。今回の判決は、時代の流れに沿った判決だと思 う。従来の学説によると、法令違反行為でも当然に効力が否定されず、故に判例は多くの場合を有効としており、経済が発展し、取引が多様かつ活発になった今 日では、経済秩序の維持が難しくなってしまう。近時の学説は経済法令の違反の増加をふまえ、法令違反行為の取引の効力を否定すべきケースが増えてきたこと を指摘し、今回の判決にも、経済取引における商品の信用の保持、公正な経済秩序という文言が含まれており、経済秩序の維持の重要性が高まっていることを酌 んでいるとおもう。しかし、法律に沿って業者を罰するだけでは根本的な解決になっていない。儲かるならば、業者は違法と認識していても繰り返しするだろ う。このような事案を増やさないためには、法律の整備も大事だが、それ以上に私たち消費者ひとりひとりのモラルがそれ以上に大切だと思う。偽ブランド品は 正当な、消費者により良いものを提供してくれる業社に損害を与えていることをしっかり認識すべきだ。偽ブランド品を買う消費者にも責任は十分にあると思 う。」

今 回の発表によって、私たちは「消費者としてのあり方」を考えさせられました。自らの持ち物を見回してみて下さい。かなり高い確率で偽ブランド商品があるは ずです。消費者、ブランド会社、偽ブランド流通会社それぞれが自己の利益を追求するあまりに、社会全体としての秩序が見失われているようにも思えます。こ れを契機に「偽ブランドが社会に与える影響」、そしてさらに、私たち「消費者のあり方」について考えてみてはどうでしょうか?

<参考資料>

金融・商事判例1126号7頁

内田貴「民法Ⅰ〔第二版〕」259頁、近江幸治「民法講義Ⅰ」146頁、四宮和夫・能見善久「民法総則〔第五版〕」229頁、星野英一「民法概論Ⅰ」188頁

http://www.thefuture.co.jp/hanrei/2003/06.html

http://homepage1.nifty.com/piyoko/report/report06.html

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H05/H05HO047.html