ホーム(目次)へ


手作りイカダで利根川を下る
(05年7〜8月のブログ日記を複写したものです)

このイカダ下りの話は、06年7月17日のTBSラジオ、ニュースバラエティ「バツラジ」で放送されました。

○月×日
やってみるか

誰でもみんな、ガキの頃、手作りのイカダや舟で川下りをしたいなと思ったことがある。
でも、ガキには作る能力がないんだよ。
それが大人になって、せっかく能力を持てた頃に、こんどはソノ気が無くなる。
・・・てな話をSioさんとしていた。

あれこれしゃべるうちに話が発展。タイヤチューブでイカダを作って利根川を下ってみよう、ということになった。

童心に還ってみるか。
なんであれ、初めての体験をすれば、新しい気分にもなれるだろう。




○月×日
チューブ入手

高崎のKiriさんGanさんに、この話をしたら、
「チューブなら、知り合いの修理工場から手に入りますよ」

数日後には大型トラックのチューブ6本が送られてきた。
半ば与太話だったのに、にわかに現実味を帯びてきた。

Sioさんと相談して、とりあえず修理屋さんに、お礼に粗末な菓子折りを送った。
古チューブだけど、こんな僅かなお礼でいいのかな?
川下りが面白かったら、また考えようか・・・



○月×日
太平洋に流される?

利根川は日本では大河だ。
下流域は、両岸に広大な葦原が広がり、ゆったりと流れている。
きっと、アマゾンの川下り気分を味わえるだろう。

しかしだ。
利根川は太平洋に流れ出る。東京湾じゃないぞ。外海だぞ。
失敗したらどうする?

大丈夫、携帯電話で助けが呼べる。
でも、念のためライフジャケットは着けようぜ。



○月×日
流れない?

何よりもまずは基礎データ収集だ。
河川事務所を探した。
利根川は取手市を境にして、上流河川事務所と下流河川事務所に管轄が分かれている。
ふ〜ん、やっぱり大河だな。

電話で問い合わせた。
イカダ下りは違法ですか?
「いいえ、全くの自己責任です」
コンプライアンスは問題ない。

流速は?水温は?浅瀬は?堰は?いろいいろ教えてもらう。
利根川は、河口から上流19キロの地点に、河口堰がある。
この堰、何のためにあるのかというと、「塩害防止」だそうな。
満潮になると、比重の高い塩水が、川底を這って上流まで侵入するそうだ。
堰が出来る前には50キロも上流まで塩害が出たという。
だから、堰は満潮に閉じて、干潮になると開けたりしている。

なかなか勉強になる。
新しいことをやろうと踏み出せば、こうやって賢くなれる。

下流域の流速は毎秒50センチぐらい。洪水時でもせいぜい1メートルぐらいだそうだ。
毎秒50センチを時速に直せば・・・なんと2キロも無いじゃないか。
取手から成田に下るだけで10時間以上かかる計算になる。
それに、満潮で河口堰が閉じたらどうなる?
流れないぞ。



○月×日
利根川は水が冷たい?

「利根川は水が冷たいそうだよ。今年は大雪だったから、いまだに雪解け水が流入している。」
「泳げると思っても心臓が止まってしまう。川の専門家のGanさんが言うことだから間違いないぞ」
と、Kiriさんは嬉しそうに嚇かす。



○月×日
環境にやさしいTakeちゃん

「上手く接岸出来なかったらどうする?」と聞くから、
「イカダを捨てて泳いで帰る」と答えた。
そしたらTakeちゃん真顔でこう言った。
「粗大ゴミを川に放置したらいけませんよ」
Takeちゃんはエライ!




○月×日
送別会

Kiyoさんとkiriさんが珍しく誘うので飲みに言った。
なんでだろと思ってたら、今生の別れが近いので、今日は送別会だって。

若い兄ちゃんが一人で切り回している蕎麦屋だが、料理はどれも旨い。
海無し県なのにサンマの刺身があるし、豚の角煮はとろけるようだ。
最後に食った打ちたてのモリソバは絶品だ。

でも料金はワリカン。
本心では、太平洋に流れちまえと思っているのかも。
流れてたまるか。




○月×日
CADで描いた設計図

Sioさんが建築用CADでイカダの設計図を描いた。
そもそも、このCADはSioさんが自分で作ったソフトだというからスゴイ。

出来た図面はたいしたことないが・・・

丸いチューブに、コンパネ90×90を乗せたのが最小ユニット。
これなら車で運べる。こいつを6つ連結して、竹ざおで繋げばイカダが完成。

Sioさん曰く・・・心配なのは操縦性。
櫂で漕いでも、イカダが前進しないでグルグル回るだけだと困る。
ゴールで岸に漕ぎ寄せられないと、流れっぱなしになる。
で、方向性を出すために、魚みたいな尾びれを付けという。
ウン、なかなか考えてある。



○月×日
膨らましてみる

ぺちゃんこチューブ1本を車に積み、近所の無人ガソリンスタンドにエアーを入れに行った。
ガソリンは有料だが空気はタダだ。

膨らますと、大型トラックのチューブは、やはり大きい。
巻尺で各部の寸法を測った。これで浮力計算が出来る。
ドーナツ型の体積計算は難しいので、Sioさんまかせる。

入れたエアーは、どうやって抜こうか?
バルブの中央から出ているピンをネジ回しの先端で押してみたら、僅かにシュー音がする。
この方法だと、1本抜くのに1日はかかるだろうな。

そこで、金属棒をクラインダーで削り、バルブを抜きとる専用工具をこしらえた。
5分もかからずに簡単に出来た。
これでバルブの芯を抜き、放置しとけばエアーは自然に抜ける。




○月×日
浮力計算

Sioさんが浮力計算をした。
チューブ6本×50キロ=300キロだって。

これはチューブが丸ごと水没した状態での浮力だ。
チューブは半分沈んだぐらいを想定するのが現実的だろうと言う。
モーターボートが傍を通れば揺られるし、イカダが橋脚に衝突する可能性もある。
喫水には余裕が必要だな。

二人の体重だけで150キロに近い。
俺はフェザー級だが、Sioさん一人で稼いでいる。
イカダに丸穴を開けて、チューブの穴から下半身を川に入れてもらおうか。
江戸城の石垣はそうやって運んだのだから、前例はある。

脚の届く深さの場所では歩けるから、推進力にもなるぞ。
座礁防止、浅瀬からの脱出にも使える。
グッドアイデアかもしれない。
嫌がるかな。




○月×日
実際に浮かべてみる

少年時代に海で遊んだ実感では、チューブ1本の浮力が50キロ台とはとても思えない。
もっとあるような感じがする。

そこで、今日は近所を流れる古利根川で実験した。
命綱で岸に繋いだワンユニットを、川面に浮かべて恐る恐る乗ってみた。
小さいので安定が悪く、ひっくり返りそうになってヒヤリ。
本番前の実験で、早くも落水したら恥だ。



画像が暗いうえ水が鏡になって見にくいので、水面の位置に赤点を入れた。
乗っかってもチューブは半分ぐらいしか水没していない。
このユニットを6つ連結して二人乗りなら、水没の懸念はなさそうである。
予定通り、イカダの上に寝椅子を載せて、悠々と下ることにしよう





○月×日
「危ない危ない」

昼休みに
kiyoさんが来た。
「ブログ見たよ。実験までしたんだって。お前、ホントにやるんだ。」
自分と同じに「口だけ」だと思っていたらしい。

相変わらず、危ない危ないと言う。
やたらに危険を強調する。
前職の習慣で、つい保険加入を薦めてしまうのかな?



○月×日
帆をかけたい

Sioさんが帆をかけたいと言い出した。
帆で推進力を得れば、流れ任せではなく、操縦が可能になる。
利根川の地図を見ると、中州がいくつもある。
操縦できれば座礁が避けられる。
帆は欲しいのだが、難しいから無理だろう。
全く期待しないままに、「じゃ、考えてよ」と応えた。

Sioさんはその後「歯医者で親知らずを抜く日だ」と早引けしてしまった。
親知らずを抜くのは、生まれて初めてらしく、ニコニコ早退していった。
今時分は、帆のことなんぞ考えている余裕も無いだろうな。




○月×日
kiriさんの書き込みコメント

転ばぬ先の竿。
やはり、深さを測るためにも、岩にぶつかるのを止めるためにも、櫂と竿は必要ですね。
雨が降ったときにも、日照りのときにも、屋根は必要でしょう。
浮き輪、ライフジャケット、半ズボン、ロープ2本、名前が判るような目印が要りますね。
リュックサックの中身は、水筒(お湯と水)、インスタントラーメン(浮き輪代わりになります)
懐中電灯は、今は手動式あり、ラジオ、ライター、夜遭難したらのぼりを燃やし、目印にすると何とかなる。
絵入りで似たようなイカダ作りを見つけました。
大人8人くらい乗れる大きさです。545文字以内なので送れません。
絵は良く似ていました。しかし頑丈そうでした。
残りの時間を楽しんでください。

kiriさん、応援コメントありがとうございます。
しかし、行間を読むと、何を心待ちにしているかが見える。




○月×日
 Ganさんのコメント

早速読みましたが、着々と計画が進んでいるようで、良かったです。
ところで、どこからスタートするのか書いてありませんが、浅瀬や中洲があるのに、操舵版が固定で水中にかなり深いようなので、気がかりです。
群馬の利根川より、かなり流れは緩やかなようですが、気をつけてください。
「大きな波の下には岩がある」が群馬の常識です。

Ganさん、どうも。
チューブありがとうございました。
万一何があっても、チューブのせいには致しません。
利根川も、埼玉まで下れば、だいぶ優しくなるようですが、教わったノウハウを活かして、成功させます。






○月×日
こんなイカダです

各部を縛るロープは省略してある。
機能的には、これでほぼ完成かな。

これを見ると、2人とも機能一点張りの、デザインオンチだ。
もっとカッコ良くならないか、と額をつき合せたが・・・ならなかった。

このイカダも、普段の服装も、同じ。
ファッションに関心が無いんじゃなくて、無いのはセンスだな。
誰か、楽しいアイデアない?
もう日が無いけど。



○月×日
決行は8月6日

最初考えた下流域は流れが遅いので、少し上流の古河市付近に出発点を変更した。
利根川の管轄は栗橋にある河川事務所に変る。
データを問い合わせてみた。
8月の水温は、外気温35度のときは28度。28度のときは25度。まあ泳げる温度だ。
しかし流速は毎秒65センチ前後で、下流域とあまり変らない。
時速で2
.5キロぐらいしかないから、河口堰まで下ったら3泊4日もかかる。
今回は日帰りにとどめよう。

イカダ本体の準備は、チューブを膨らませ、竹竿とロープを買ってくればオシマイだ。
2本の櫂はSioさんが手作りする。
あとは日除けや小間物をどうするかだ。

何人もの方から「出発の様子を撮影するよ」とのお申し出があった。
ありがたいのだが、大勢がカメラを並べると周辺住民に迷惑なので、今回は上州通信のTakeカメラマンだけにお願いすることにした。
撮影の申し出は多いのだが、「もう一人乗れますよ」と誘っても、誰も乗らないのは、どうしてだろう。



○月×日
イカダは3000円

随分と低コストなイカダである。
チューブは貰い物だし、
5.5ミリの耐水ベニヤは3枚で1800円、カット代はサービスだった。
ロープは
200円ぐらいだったかな。

驚いたのは竹竿の値段だ。
ジョイフル本田で、
3メートルを4本と2メートルを6本買ったが、なんと、3メートルは194円で、2メートルは168円!
我が眼を疑って、何度も値札を見直してしまった。
自然に生えたのを取ってきたにしても、安すぎる。

自宅のクズ材も使ったが、買い物は全部で
3000円ぐらいである。
たった
3000円の筏に2人の命が乗るわけか。



○月×日
イカダに耐熱タイル

「チューブはクギ1本で簡単にパンクする。・・・・無茶はいけませんよ」
野鳥撮影の先輩である
BIRDOPIAのSさんから、こんなメールを頂戴した。
「う〜む・・・・」

図星を指された。
途中の浅瀬と、ゴールの石だらけの浅瀬対策をどうしようかと、心配していたところである。
ちょうど今飛行中の、ディスカバリーの耐熱タイルと同じ問題だな。
地上に再突入するための鎧が無ければ、帰還は危ういってことか・・・よし、浮き輪チューブの下面に「耐熱タイル」を貼り付けることにしよう。

1800円の追加投資をして、90×90のベニヤ板
6枚を買ってきた。
ロープを通す穴を幾つかあけるだけで、たちまち耐熱タイルは完成。
ディスカバりーの野口さんの作業よりも簡単だ。

まだ付けていなかった筏の名前だが・・・耐熱タイル問題をきっかけにして、自然に「ディスカバリー」に決まった。
さあて我がディスカバリー、無事に帰還できるかな?




○月×日
小道具の準備

決行日まではもう休日が無いので、残った作業は夜やらねばならない。
庭のウッドデッキで蚊に食われながら、竹竿の先端部に、フック代わりのL字型建築金物を取り付けた。
何かを引っ掛けて引き寄せたり、ゴール地点の柵にイカダを寄せるのに役立つだろう。
決行当日の仕事量を減らすために、あらかじめベニヤ板の穴にロープを通しておくなど、あれこれゴソゴソやった。

Sioさんは竹と合板と木ネジを使って櫂を2本完成させたらしい。
ライフジャケットも2着購入したといっていた。

カミさんが川下りに備えて、飲料を買ってきてくれた。
見ると、お茶やポカリスエットと一緒にリポビタン
Dが入っている。
遭難しそうになったら2人で「ファイトー、イッパァーツ!」とやりなさい、だって。
カミさんの、全然心配していない様子が、心配だ。




○月×日
子供時代のこと

自分が育った町には、秋田杉を加工する製材所がひしめいていた。町は米代川の河口にあり、上流から秋田杉の原木を荒縄で結び合わせたイカダが、ひっきりなしに運ばれてきて、製材所が建ち並ぶ付近の川面はイカダで覆われていた。
このイカダに乗って遊ぶ子供の溺死事故が結構多かった。縄の緩んだ丸太は乗ればクルリと回って危ない。
丸太と丸太の間に足を滑らすと、隙間が開いて水中に落ちてしまう。そして次の瞬間には、開いた丸太の間隙が閉じてしまうのである。
だから子供たちは、学校でも家庭でも「イカダに乗ってはいけない」と口やかましく言われていた。

杉の原木と一緒に山奥から運ばれてくるのだろうか、製材所に行けば珍しい大型の蟻が居た。小学校低学年のころ、一人で製材所に蟻採りに出掛け、夢中になりすぎて帰宅が遅れたことがある。
すっかり暗くなっていたので「これは叱られるな・・・」と恐れながら、そっと玄関に入ったとたん、親父に張り倒された。イカダのある付近に遊びに行って暗くなっても帰宅しない、というので大騒ぎになっていたのだ。オロオロしたお袋が神仏頼みをしたらしく、仏壇には灯明が光っていた。

イカダにちなんで、昔のことを思い出した。優しい甘い親父だったから、引っ叩かれたのは後にも先にもこれ一回きりという、甘酸っぱい記憶である。



○月×日
決行前夜の差し入れ

明日も晴れて暑くなりそうだ。
麦藁帽子や、日焼け止めクリームは用意したけれど、筏の上の日射は堪らないだろうな。風が無さそうなので、イカダの上に立てるビーチパラソルを準備した。

気になっていた利根川沿いの花火大会の予定を、OKIちゃんのホームページで調べた。
明日は出発場所近くの渡良瀬遊水地で花火があるが、川下りには影響ない。

夜、そのOKIちゃん夫妻が激励と差し入れに来てくれた。差し入れを開けて感激。
お守りとお菓子が2人前入っている。
お守りは、久伊豆神社の「交通安全」。
なるほど、イカダも「交通」なんだな。

「OKIちゃんの趣味のアルバム」というホームページは、近辺の行楽情報と実用リンク集がものすごく便利だ。まもなくアクセス数が100万に届くメジャーなホームページである。
差し入れが効いてPRするわけではない。
OKIちゃんの趣味のアルバム






○月×日1
最高気温37度

いよいよ今日だ。
予報を見ると、なんと最高気温が37度だって。
ボクはやせっぽだから、イカダの上で干物かミイラになりそうだ。
たっぷり水を飲もう。

時々川の中に入らないと熱中症になるかも知れないので、慌てて水泳パンツを用意した。
さてと、そろそろ出かけるか。



川下り決行・・・イカダを組み立てる

手作りイカダで川下りをすると言えば、危ないと思われてしまう。
みんなが「大丈夫か?」と言う。
遊びはスリリングな方が面白いから、危険を期待する気持ちがあるのだろう。
期待にはお応えしなくちゃ。というわけで、決行前のブログでは危なさを強調してしまったかも。
古河市から下流域の利根川はゆったりした流れだから、急流下りのような危険は無い筈だ。



さて決行。
忘れ物をしたため約束に遅れ、Takeちゃんを待たせてしまった。ゴメン。
Takeちゃんは早めに現地入りし、川下りコース沿いに撮影ポイントを探索していたという。
しかし、「川沿いに追っかけるつもりだったが、道路が無いよ」とこぼしていた。
出発は古河市付近の利根川橋下。ゴールは10キロ下流の境町の高瀬舟の船着場としたのだが、この間には、川面を見渡したり、川岸に近づける道路がほとんど無い。
ということは、この区間にはイカダを接岸させて撤収出来る場所も無いということなのだが、この時点ではそれに気付かなかった。

10時半にイカダの組み立てを開始した。
6個のチューブを並べ、ベニヤ板を乗せてロープで縛り付ける。
安全のためにチューブの下にもベニヤ(耐熱タイル)を取り付ける予定だったが、川の状況を見て省略した
ベニヤの上に構造材となる竹竿を組む。
さらにその上にベニヤを乗せて甲板とする。
いちいち穴にロープを通すので時間がかかる。

周囲の川砂が太陽に焼かれて熱くなり、気温は40度はありそうだ。滝のように汗が流れる。

イカダがむやみに回転しないように、方向舵を取り付ける

甲板には寝椅子を固定し、ホームセンターで見つけた足場金具を、パラソルの台座として取り付ける。
パラソルのテッペンには、ゴム製のネットをかぶせ、引き綱でイカダの四隅につなぐ。
これでリゾート風イカダの完成である。




優雅な前半

重くて持ち上がらないので、ズルズルと引きずって進水した。
水に入ると急に軽くなり自由になる。水を得たイカダだ。
竿とオールを使って、川の中央へと進む。出発は12時半だった。

川の中央の、流れの速いところに乗った。といっても時速2.5キロ程度。
これが巡航速度か、随分と遅い。
オールでイカダの姿勢をコントロールしてみる。椅子に座ったまま、チョイチョイとやるだけで、簡単に向きが変えられる。

パラソルの日除けは具合が良いし、弱い向かい風が涼しく、さっきまでの猛暑はウソのようだ。
大きな川の中央はこんなにも涼しいのかと驚いた。実に快適である。
遠くなった岸辺で望遠カメラを構えているTakeちゃんは、さぞ暑いだろうな。

流れに任せ、ゆったりと下り始めた。
川幅が広いので、川中央から見る進行方向の眺望は素晴らしい。
用意した低アルコールビールで出航を祝う。
「こりゃあ、いいや」
「最高だね」

岸辺のTakeちゃんの姿がだんだん小さくなり、最後に携帯電話でお別れをした。
振り返るたびに利根川橋が遠ざかる。

何もせずにお茶を飲んでいれば、イカダは勝手に川を下ってくれる。
順調だ。
イカダはSioさんの居る場所が大きく沈むが、問題ではない。
万事順調だ。




順調に下る

オールを使うこともなく、寝椅子でノンビリしながら1時間ほど下った。


イカダの周りで頻繁に魚が跳躍する。
大きいのが跳ぶたびに歓声を上げていたら、イカダの上に魚が落ちてきた。
バタバタと暴れて、すぐに甲板の隙間から水中に消えた。
「惜しかったな」
「次は捕まえよう」
釣具を持ってくれば良かったな。

新幹線の鉄橋下をくぐる。橋の下は流れが速くなるので気持ちが良い。
橋脚の分だけ、川の断面が狭くなるからだろう。

鉄橋裏に張ったネットの中で作業している人達が居て、リゾートイカダを見下ろしている。
「おーい、どこまでいくんだぁー?」
はるか頭上なので、大声が小さく届いた。
Sioさんが叫び返した。
「太平洋!」





漕いで漕いでのゴール

ノンビリ寝転んだまま、自分の足と進行方向を携帯電話で撮影した。
新利根川橋をくぐった

川幅が広くなり流れが緩やかになったところで、向かい風が強くなって、イカダは止まってしまった。さらに風が強くなったら、なんと逆走し始めた。
イカダ下りならぬイカダ上りである。
パラソルが帆になっているようなので、慌ててたたむ。

ゴールの目印である関宿城と境大橋は、まだ見えない。
とても手漕ぎで行ける距離ではない。
かといって、川下りを中止してイカダを撤収出来るような岸辺も見当たらない。
まさか、こんなところで立ち往生?

川幅は優に
200メートル以上あり、小島や砂洲や浅瀬が多い。
地形を考えながら流れの速い場所を求めて、川幅いっぱいに右往左往するが、なかなか好都合な流れに乗れない。
こうして、汗だくのあがきを繰り返すうちに、ようやく境大橋の遠景が現われた。
「おお、見えた!」
「遠くても見えれば嬉しいな」



ゴール手前
3キロの、利根川が緩やかに左にカーブするあたりで、右方向に江戸川が分岐する。
ここも広いので流れが遅く、向かい風を受けてイカダは動かない。
左にカーブする川は、右岸の流れが速いのだが、右岸沿いに進めば、江戸川に吸い込まれるリスクがある。迷った。
「右岸はやめて、残りは漕いで行こう」

ゴールは遠くに霞んでいる。
2人は前を見ないようにして、ひたすら漕いだ。
イカダのスピードは、川岸の木々と、その背後の遠景を重ねて見れば分かる。
岸辺に眼をむけていれば、漕いでいる成果がリアルタイムで見えるから、ささやかな励みになる。
砂洲にいるカワウの群れが「ゲホ、ゲホホ」と小馬鹿にしたような声で鳴く。

2人のうち1人が漕ぐのをサボれば、イカダは手抜きした漕ぎ手の方に曲がるから、手を抜けない。
談合しないと休めもしない。
「昔、バイキングの映画か何かで、奴隷たちが並んで漕ぐ船があったよね」
「ああ、足を鎖で繋がれてね。」
「あれって船が曲がったら、曲がった側の奴隷にムチが入ったと思うな」




1時間ほど、休まずに黙々と漕ぎ続け、やっとの思いで境町の船着場にたどり着いた。
「やれやれ、着いた」
「着いて良かった」

ゴール到着は
5時キッカリだった。
10キロを4時間半だから、平均時速は2.2キロ。
大幅遅れと思っていたが、意外にもほぼ計画通りの速度だった。

川下りのゴールとともに、このブログもおしまいである。
前半の、リゾートイカダからの眺めとくつろぎは、実に贅沢だった。
流れ任せのイカダで、複雑な川の流れを体験出来て面白かった。
それにしても、前半優雅に過ごしたツケを、後半にしっかりと支払わされた川下りであった。


(使い終えたイカダのセットを欲しい方に差し上げます。ただし取りに来られる方に限ります。
8月末日までご連絡ください。
アドレス→
kenharu100@excite.co.jp


ホーム(目次)へ