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鳥屋のエッセイ
P.9

新東名サービスエリアのスズメ

親スズメが、フードコートのテラス席を餌場にしていた。
全く人を恐れずに客の足元まで来て、もの欲しそうに見上げる仕草が可愛いから、すぐに菓子のかけらを貰える。

菓子をくわえた親スズメは、テラスの真上にある屋根のスキマへ一直線。
僅か1秒ほどで子スズメへの給餌を終えると、すぐにまた元の餌場に舞い戻る。
テラス席の客は「えっ、まだ欲しいの?」と、再び菓子を落としてやる。
巣とテラス間のピストン輸送である。

これを観察していた暇人のボクは心配になった。
小鳥の繁殖期である今は、子育てに欠かせない幼虫類などのタンパク源が豊富な時期である。
にもかかわらず、サービスエリアの子スズメは、ほぼ炭水化物だけで育てられているようだ。
ハンバーガーの客が摘んで落としてやるのは、だいたいがパンであって、ハンバーグではない。

はたして、この子スズメは育つのだろうか。
育ったとしても、巣から飛び立てるのだろうか。




ネットで鳥探し

珍鳥に見物人が殺到するのはネットのせいだ、と言われる。
野鳥のホームページやブログを持っている人たちは、出現場所がばれないように注意を払っているようだが、個々の掲載者が場所を秘匿したつもりでも、何人かの情報を組み合わせることで出現場所が読めてしまうことがある。

友人のQさんは、ネットで野鳥の出現場所を探り出す名人である。
彼はある野鳥を見たいと思い、ネット検索をしていて有望なブログを見つけた。
ブログには、その野鳥の写真や観察内容が毎週のように掲載されている。
しかし出現場所は「○山」という伏せ字になっている。

少人数の仲間で秘密裏に鳥を観察し、情報漏れを警戒しながら報告し合っているようで、「カメラマンが殺到したらまずい」などと書かれていた。

ブログにはコメントが書き込まれているから、それを辿ったり、検索すれば仲間のブログやホームページを閲覧することが出来る。
Qさんは毎日、複数の人が漏らす情報の断片を集めて推理を働かせた。

「○山」「山の頂上で待てば鳥が出る」「山は某市の市内にある」「標高665m」「毎週日曜日に誰かが観察に出かけている」・・・これでビンゴ!となった。
「某市」と「標高665m」でネット検索すれば、一発で山の名前がわかる。
あとは、日曜日に○山の頂上でブログの皆さんを待ち伏せすればよい。


Qさんは東京発の新幹線に乗り、日帰りで野鳥撮影を成功させ、凱旋した。
凱旋当日のブログには「どこから情報が漏れたのだろう」と書かれ、翌日になると「漏らしたのは俺じゃないよ」というコメントが登場していた。
ウェブ掲載には用心が欠かせない。
特に、複数の人が参加する掲示板やブログは要注意である。






カワセミの居る公園

穏やかに晴れたので、いつもの公園にカワセミ撮影に行った。
公園はリタイヤしたおじさん達の溜まり場で、遊びごとのグループがある。
カワセミ組、ヘラ釣り組、自転車組、おしゃべり組・・・。
リタイヤした人は、幼児と同じように「公園デビュー」をして、お仲間が出来ていくようだ。

ボクはカワセミ組だ。
若手の団塊世代は新鋭のデジタルカメラ、最長老はご本人みたいなフィルムカメラを使っている。
ザリガニすくいの坊やにカワセミを飛ばされても、みんなニコニコ好々爺。
「待てばまた戻ってくるさ」と平和なものだ。

公園は老若男女が仲良く過ごす場所だ。
子供叱るな、来た道だから。
年寄り笑うな、行く道だから。






鳥は成功体験を繰り返す

ツバメは住宅の玄関先や、人が24時間出入りする道の駅で営巣する。
フクロウは大勢の野鳥カメラマンが集まる神社の境内で、毎年子育てを繰り返す。
ケリは繁殖に成功した場所を、翌年再利用する確率が高く、それは90%以上にもなる。
旅鳥は毎年同じ樹木の実を食べに立ち寄るが、近くにある同種の木の実を、あまり食べようとしない傾向があるようだ。

バードウォッチングを続けているうちに、「野鳥は成功体験を繰り返す」と思うようになった。
この考えに立つと、鳥たちの行動がとても理解しやすくなる。


ツバメたちは最初に、いろんな場所に分散して営巣し、たまたま人間の多い場所に巣を構えたツバメは、カラスの被害を免れて繁殖に成功する。
人の出入りが多ければ、巣を覗き込む人が居たりして、鳥のストレスは多いはずだが、それでも繁殖に成功すれば、その個体は再び同じ場所に巣を構える。
個体のレベルでは「結果としての成功」が最重要ファクターであって、途中のストレスなどは二の次になっているようだ。
人を避けるタイプのツバメは、カラスの被害を受けて子孫を残せないから、種のレベルでは、人を恐れる性質が淘汰されることになる。

ツバメの営巣場所選びを「カラスを避ける目的で、人の近くを選んでいる」と見ても構わないが、ツバメ自身に尋ねれば「人間は大嫌いだしストレスも多いけど、とにかく去年子育てに成功した場所だからね」と答えるに違いない。

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