ホームズ，グラナダシリーズ/ボヘミアの醜聞

　記念すべき、グラナダ・シリーズ第一作。いきなりで恐縮だが、あまり好きなエピソードではない。ホームズが負けるエピソードは、何話かやったあとの方が良いという気がする。もっとも、いきなり「負けるエピソード」をもってきたことにより、「このホームズシリーズは、今までのホームズとは一味違うぞ！」と宣言したのかも知れない。

　エレーナ･アドラーの家に泥棒が入る

　　　まず勇敢でかつ美しいエレーナの登場。さすがの存在感。この配役はなかなか説得力がある。
　　　アドラー家の召使（もしくは執事）は絵に描いたようなナイトキャップを被っている。ナイトキャップを被るという習慣は、いつごろからなくなったのだろうか？

　ベーカー街221bへようこそ

　　"Baker Street"の道路標示が映り、オープニングと同じアングルで通りへカメラが移動すると、さあいよいよ始まるぞ！とわくわくする。しかも左折してくる馬車のアングルも同じだから、なかなか凝っている。
　　「ホームズ先生はイライラして…」と訴えるハドスン夫人。「困ったホームズ先生，頼みますよドクター」という彼女の心情がいきなり吐露されていて、面白い。
　　乱雑な部屋に、コカイン注射器。憂鬱な様子で椅子にうずくまるホームズ。何もかもこれまでの「古風な」ホームズとは異なる、「グラナダ決定版宣言」が始まる。「7パーセントのコカインは良い。君もひとつどうだね？」というホームズの最初の台詞は凄い。そして医者として、友人として説教をするワトスン。シリーズに一貫してあらわれる二人の関係もよく表現されている。
　ホームズは「ドクター、誤診だな。興奮剤はこっちだよ」と依頼の手紙を見せているが、「うふふふ…」と不気味に笑ったり、その後も爆笑したりしているので、やはりコカインはやっていたのだろうか。
　NHKではそれまでのシーンがごっそりカットされている。そしてホームズが寝室のローソクに火をつけ、「君それをどう思う？」と言う所から始まる。見ている方は、突然二人の日常に飛び込んだようで、、これはこれで新鮮な感じがした。このエピソードのホームズはやたらと手を磨く。「身だしなみはきれいなホームズ」の表現だろうか？さて、依頼の手紙に関して、二人での観察，推理，分析，情報交換が始まる。ホームズ・シリーズならではの面白さだ。理論的でありつつ、冒険心にも溢れた良いシーンだと思う。

　特異な依頼人がやってくる

　　さて、依頼人がやってくるので部屋の隅にカップを放り込む、紙を押し込む。これでは殆ど子供である。後でハドスン夫人が大いに怒るに違いない。
　部屋に入ってきた依頼人。あんな覆面をして乗り込んできて、やおら警察に通報されないのは、時代なのだろうか？その上依頼人ボヘミア王の格好は冗談としか思えない。白を着るのは白衣の職業か、花嫁さんだけにしてほしい。王が依頼内容については当面極秘だと言った後、「だってさ」とワトスンを見やるホームズの表情がいい。
　「人名簿を調べてくれないか、ワトスン君。」
　"Kindly look her up in my index."
　Kindly 命令形...という言い方は、学校では習わなかった。上品な言い回しなので、ある時使ってみたら「古風な言い方だねえ」と言われた。。
　王はエレーナとの思い出を語り、彼女とのダンスシーンになる。楽団が目隠ししているのはなぜ？モーツァルトの真似か？いや皇太子の恋は秘密だから？私にとっては大きな謎。
　署名，紙，印璽，そして写真･･･というの王とホームズの一連のやりとりは、紙上ではもとより、ドラマにすると更にリズムカルで良い。再び回想が始まり、射的，乗馬のシーンの音楽はさながらワーグナー（スカラ座はあまりワーグナーはやらなかったとは思うが）。この音楽はドラマ全般に使われ、エレーナ自身も歌っている。王は「今私は30歳」と言うのだが、ここで私はびっくり仰天。どうしても彼は30歳代には見えない。日本人だからそう思うのであって、欧米人は驚かないのだろうか？エレーナから写真を取り戻すために王がした事、買収，強盗，置き引き･･･ワトスンは「おいおい」という表情。それを聞いたホームズは大爆笑。かなりしつこく笑い続ける。やっぱりコカインをやってたに違いない！王が退出，ワトスンが言った「ロマノス」って何の料理のお店だろうか。ホームズは「チャイコフスキーが聞きたい」と言っているので、ロシア料理だろうか。そしてワトスンを強引に部屋から追い出す。「おやすみ！」おいおい、それはないだろうホームズ…

捜査開始と作戦決行

　潜入捜査の為に馬丁に変装したホームズ。これがニール・ヤングそっくりなのだ！そうか、ニール･ヤングはバッファロー・スプリング・フィールドを結成する前はロンドンで探偵をしていたのか！さて、この二ール・ヤングが馬の世話をして植木も切る。シット・コムなら熊とかのトピアリーにするのだろう。エレーナがピアノを弾きながら歌い始めるのだが、やおら発声練習をおっぱじめないのは、ありがたい。そうこうしている内に、結婚の証人にされてしまうニール・ヤング。居合わせた酔っ払いを結婚の証人にするという設定は、欧米のお話ではよく出てくる。
　さて、ワトスンも参加して夜の作戦決行となる。馬車での移動中に気づいたのだが、デヴィッド・バークはちょっと考えて、舌先で上唇をなめる癖がある。
　さて、玄関前の大騒ぎ，家に入ってまた大騒ぎ。実はこの展開が、私の「このエピソードは好きではない」という判定の原因。ややドタバタし過ぎといった所か。