5.映画 Rosencrantz and Guildenstern are dead (Part 2)
      ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ (その2)

 日本語には「ボケとツッコミ」という、大変分かりやすく便利で、素的な表現があります。英語においてはそれにあたるものがあるかどうか分かりませんが、「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」という映画において、主役の二人に対しては、「ぼけとつっこみ」という表現こそが、もっともしっくりくるのではないでしょうか。「ロズギル」第二弾は、この二人のキャラクターと主演の二人にスポットを当てます。


 ローゼンクランツ (ゲイリー・オールドマン)
 
 正真正銘のボケ。しかも、それは超ド級のボケなのです。何しろ自分と相方の名前の区別がつかない。飽きもせずにコイン投げを繰り返し、質問された事をすぐに忘れる。多少健忘症の気があると思われます。しかし、彼はボケでありながら直感的で実は大天才なのです。様々な物理的な大発見をするのですが、そこは根がボケなので、立証できない。手先が器用らしく様々な物を作るものの、大抵は相方が駄目にしてしまう。相方も、自分自身でも「ボケ」である事を認識しているローゼンクランツですが、先ほども述べたとおり、彼は直感的で、相方よりも真理をダイレクトに感知する能力に長けいることは間違いないようです。

 さて、このローゼンクランツを撮影当時30歳位だったゲイリー・オールドマンが演じています。その後の彼の役柄からは考えられないほど、このローゼンクランツは可愛らしいのですから、やはりただ者ではない役者ですね。相方のティム・ロスよりも背も高いし、体格も良い黒髪で髭面なのに、仕草や、少し舌っ足らずな喋り方、表情から歩き方まで全てが可愛いらしいのです。そんな彼ですから、寄る辺も無い,相方には怒鳴られる、悲しくなって泣き出してしまうともう、ティム・ロス…いや、ギルデンスターンならずとも、肩を抱いて「大丈夫、俺が何とかするから」と言ってやりたくなります。もっとも、この相方も「何とか」出来ないのが、この映画なのですが…


 ギルデンスターン (ティム・ロス)

 当然ツッコミなのが、ギルデンスターンです。このツッコミのパターンは数種類あり、一番多いのは「無視」。無表情に「無視ツッコミ」をされると、ロズならずとも更にボケたくなるという物です。そして、ボケに対して「議論吹っかけ」。コイン投げや、ハムレットを観察した上での考察など、かなり意地悪く議論を仕掛けます。そして、「黙れ」などの一言でピシャリと突っ込む,もしくは静かに、ゆっくりと、低い声でボケを指摘(でも目は怒っている)。ハムレットに対する「想定問答」で、全然要領を得ないロズの襟を、ギルがつまんでもう一度説明する場面などが私のお気に入り。それからロズが「箱の中」を延々と語った後でギルが静かに「俺、お前をぶっ殺すよ」というのは、本当に最高でした。しまいには、時々大声で短く怒鳴る。
 そんなギルデンスターンですが、相方がボケながら常に真理を見抜いている事には気づきません。それでも、時々どきっとさせられてはいるようです。

 ギルデンスターンを演じるのは撮影当時28,29歳だったティム・ロス。すましていればそれなりにハンサムな彼ですが(「海の上のピアニスト」参照)、この映画では横柄な喋り方,歩き方,苛立ちを非常に上手く演じています。しかも、あまり表情を変えずに演じるのですから、流石です。そして、実は「ロズギル」という存在そのものがこの映画の中では「基本的にはボケ」である所を、彼は上手く演じています。相方と一緒にダクトから落ちた後や、船の中で信書を読んだ時の表情や仕草が、この微妙な雰囲気を上手く出しています。


 至高のコンビネーション

 この映画の中で、ローゼンクランツとギルデンスターンは、殆ど行動を共にしており、この二人のやり取りこそが、映画の「主役」です。元が舞台作品だっただけに、台詞の応酬は圧巻です。中庭での「想定問答」で二人が分析,要約する所などは、殆ど音楽的といっていいほどの素晴らしい会話の応酬。
 そして忘れてはいけないのが、「質問ゲーム」。テニスのネットを挟んで、様々な制約の元ひたすら質問し続けた者の勝ち(3ポイント先取で1ゲーム。2ゲーム先取)。このシーンは、一度見ただけでは分かりません。私も何度も見直し、舞台の脚本を読んで大いに感動しました。実際にこのゲームをやろうとしたら、余程頭の良い人同士でないと、成り立たないと思われます。

 会話はもちろんですが、歩き方も,仕草も息がぴったりのふたり。特に「歩く」シーンは、二人のキャラの違いが際立ち、そのコンビネーションがまた素晴らしいのです。二人の体格差,髪の色の違い,表情,喋り方など全てが、計算しつくされたかのような(実際には「演じたらそうなった」という所でしょう)、バランスを保っています。
 この映画のやや難解なテーマ…「存在とは?」「死とは?」…などの呪縛を離れ、二人の絶妙なコンビネーションを楽しみ、大いに笑うのも「ロズギル」の楽しみの一つです。


 その後のゲイリー・オールドマンと、ティム・ロス

 前述しましたが、「ロズギル」は1990年の作品です。映画俳優としてはまだ駆け出しだった主演の二人は、その後「実力派」の地位を確実なものにし、様々な映画に出演したのは皆さんもご存知の通りかと思います。
 ゲイリー・オールドマンは特に、「レオン」での悪役ぶりが有名になりましね。ティム・ロスも「二枚目の正義の味方」のような役よりは、一癖,二癖ある役柄の方が多いようです。偶然ですが、二人とも「ピアニスト」の役を見事に演じています。
 「ロズギル」での共演がよほど楽しかったのか、実際の友人としても二人は大の仲良しになったようです。以前は「共演したいぞ」光線をお互いに発射しまくったのですが、揃って大物になってしまったがゆえに、最近ではそれも中々実現しそうにありません。
 悪役や曲者の印象の強い二人ではあっても、私にとっては「可愛らしくて憎めない」ローゼンクランツとギルデンスターンこそが、ゲイリー・オールドマン,ティム・ロスの最高の役柄になっています。

 …そして、私のささやかな欲望。
 この二人にホームズ&ワトスンを演じさせたい。勿論、原作に忠実なホームズとワトスンではなく、「ややキャラの違う」ホームズとワトスンとしてです。「オールドマン@天才だけど大ボケのホームズ」と、「ロス@大ボケ天才を上手くあしらうツッコミのワトスン」…どうでしょう?シャーロキアンには却下されるでしょうか…?





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