15.The Mighty Boosh / ザ・マイティ・ブーシュ (コメディ)

  モンティ・パイソンでも書いたとおり、私は大のコメディ・ファンです。特にイギリスのシュールでナンセンスで、アホらしさが炸裂した感じが好きで、しかもその作品には舞台作品のように複数回の鑑賞にたえらるようなクオリティを求めがちです。
 海外の作品となると中々目にすることがないのですが、今回ご紹介する「ザ・マイティ・ブーシュ」(略して「ブーシュ」)も、まだ日本では公開されていない作品です。しかし、これが素晴らしい作品なのです!ぜひとも沢山の皆さんにこの素晴らしいコメディに触れていただきたく、この場でご紹介しようと思います。


 「ザ・マイティ・ブーシュ」とは?

 イギリス人のコメディアンコンビである、ジュリアン・バラット(Julian Barratt)と、ノエル・フィールディング(Noel Fielding)の一連の作品が「ザ・マイティ・ブーシュ」です。この二人は原案、脚本、主演をこなすので、クリエイター(creator, 創造者,創作者)と呼ばれます。二人はまず舞台作品から始まり、ラジオ、そしてテレビへとその活動の範囲を広めてきました。
 テレビ作品は、1話完結のシチュエーション・コメディ(シットコム)。でも、シットコムに多いラフ・テイク(笑い声)は入っていません。主人公のハワード(ジュリアン)とヴィンス(ノエル)は、動物園の飼育員。でも毎回飼育員らしからぬ騒動に巻き込まれて縦横無尽の大活躍を見せます。殺人カンガルーとのボクシングや、怪しいミュータント騒動、手違いで死神に命を取られ、伝説のサファイアを求めて北極圏へ…などなど、その活躍は現実離れし、シュールでナンセンスで、アホ全開のバカ騒ぎの連続です。
 動物園の飼育員だったのはテレビシリーズ1まで。シリーズ2からは動物園を飛び出し、ハワードとヴィンスはミュージシャンを目指しながら、あいも変わらず突飛な冒険に巻き込まれていくのです。

 舞台作品だった時からイギリスでは非常に話題になり、いくつもの賞を受賞しています。ラジオでもその勢いは止まらず、テレビもカルトなコメディファンの心をがっちりつかみました。一方で、「受け付けない」という人も居るようです。それだけ作品が強烈だという事でしょうか。ともかく、若者を中心にコアな人気を獲得し、テレビシリーズは2シリーズ14作品を数え、2006年春のライブ・ステージ65公演は軒並みSold Outを記録しました。
 サイン会でも長蛇の列ができ、音楽雑誌でもジュリアンとノエルがインタビューを受けるなど、最新の英国カルチャーを体現する存在になっています。


 ブーシュの主な登場人物

ハワード・ムーン (ジュリアン・バラット)
 背の高いヒゲ男。動物園の飼育員だが、ジャズ狂いで、自意識過剰。自分は優秀な飼育員であり、尚且つそれ以上の人物だとの思い込みが激しい。でも毎回ひどい目にあっている。根は単純なので、騙されやすく、けっこう素直。相棒のヴィンスと動物園内の小屋に住み着いていたが、シリーズ2からはミュージシャンを目指しつつ友人宅に居候。
 演じるジュリアンは、イングランド北部出身のジャズ・ギタリストで、スタンドアップ・コメディアンでした(レディング大学卒…名門。英国コメディアンは高学歴伝説の一片あり)。96年ごろからはノエルとコンビを組んでいます。

ヴィンス・ノワー (ノエル・フィールディング)
 巨大目玉に長髪のコックニー兄ちゃん。動物と会話ができる飼育員。生意気で減らず口。ファッション狂いで音楽はエレクトロ・ポップとモッズの信奉者。要領が良くて女性にもモテる。相棒のハワードが「俺はこうするぞ」と言うと、必ず「じゃあ俺はどうなるの?」と言っていた…のはシリーズ1までで、2からはふてぶてしく可愛げがなくなった。
 演じるノエルは、ロンドン出身のコックニー(独特の訛りがある)。絵が得意で、アート・スクールに進学し、在学中からスタンド・アップを始めます。偶然目にしたジュリアンの舞台で彼にほれ込み、コンビを組むことに。
 
ボブ・フォッシル (リッチ・フルチャー)
 しょーもない動物園のGM。アホが服を着て歩いているような炸裂っぷり。怪しいダンスに、絶望的なバカ喋り。素晴らしい演技力のリッチは、ジュリアンとノエルがコンビを組み始めた頃からの友人で、アメリカ人。

ナブー (マイケル・フィールディング)
 動物園では売店の店員をしているシャーマン。容姿と職業は怪しいが、実は最もまともな人物。シリーズ2では更に頼りがいのあるキャラになる。演じているのは、ノエルの実弟、マイケル。

ボロ (シリーズ2からデイヴ・ブラウン)
 ヴィンスと仲良しなゴリラ。シリーズ1では動物園の動物に過ぎなかったが、シリーズ2からはナブーの相棒に。演じているのは、ノエルの同級生で、ジュリアンの友人でもあるデイヴ。

 他にも動物園の豪腕オーナー,ベインブリッジや、ハワードが恋している同僚のミセス・ギデオンなどが登場。そして毎回出てくる様々な化け物、変な生き物キャラなどは、ジュリアンやノエル、リッチ、デイヴなどが兼務しています。


 ブーシュの魅力

ポップでシュールでナンセンス、要はアホ炸裂
 ブーシュはパイソンのような短いスケッチの連続ではなく、一応ストーリーが存在するドラマです。しかし、その内容たるやナンセンスでびっくりするほどシュール。この手の笑いを受け付ける人にはとてつもなく可笑しく、駄目な人は全く駄目でしょう。
 ハワードとヴィンスの掛け合いも、息が合っているようなズレているような、テンションの高いような、低いような…糸で針の穴を通すようなトリッキーさ。ハマると、この二人の会話を聞いているだけでも幸せになれます。

カラフルでキッチュなビジュアル
 それぞれの方向で見栄えのする主役二人の容姿に、様々な衣装、ファッション、舞台設定。そして奇妙な生き物の造形と色彩感覚などは、アート・スクール出のノエルがデザインしています。二人で書いた脚本を、ノエルが絵コンテにする事も多く、映像的な出来栄えもクリエイター二人の意思が強く反映されています。

マニア心をくすぐる音楽の数々とダンスシーン
 作中には非常に沢山の音楽ネタが登場します。これは、クリエイターの二人が、ジャンルこそ違えど、かなりの音楽好きである所に起因しています。特にジュリアンはプロのジャズ・ギタリストでもあり、作中に登場する無数のオリジナル音楽は彼が全て作っています。ノエルとの掛け合いから生まれる、ヘンな歌も満載。上記のビジュアル面とのコラボレーションで、毎回音楽に乗せてのダンスが披露されます。

作り手の体温と情熱
 クリエイターのジュリアンとノエルは、年こそ五つ離れていますが、ハワードとヴィンスそのままの仲の良い友人同士。互いの得意分野を生かし、相手の手助けをしつつブーシュを作って行く姿勢もまた、コメディ作品さながらに見ごたえがあります。
 また、低予算のせいなのか、クリエイターの趣味なのか、ブーシュ製作の仲間には身内が多い。出演者には家族や同級生、アニメーターも同級生なら、特殊効果はジュリアンがノエルと出会う前にユニットを組んでいた仲間だったりすると言う具合。ゲストで出演したミュージシャンでさえ、これまたクリエイター二人の友人。身内であるが故の心地良いコアさが、更に楽しいです。


 さぁ、ブーシュを鑑賞しよう!

 問題は、「ブーシュ」がまだ日本未公開という事です。いや、大丈夫!ネットの発達した現代社会、日本の私たちでも、「ブーシュ」を手軽に鑑賞できるのです。

ブーシュのDVD再生方法
 イギリスのDVDはリージョンこそ日本と同じですが、再生方式がPAL(日本はNTSC)という具合に、違っています。
 でも、心配ご無用!あなたのパソコンにDVD再生機能さえあれば、PALのDVDも鑑賞可能なのです。
 
イギリスからのDVD購入
 「アマゾン」というネットショッピングサイトを、利用した事がある方も多いと思います。アマゾンの英国版も、日本版とは大差ありません。この英国版アマゾンで、「ブーシュ」のDVDを購入すれば、1週間ほどで届きます。しかも、豪華特典がつきながらも、値段が安い(日本のDVDの高さが異常なのだ)。

言語の問題
 残念ながらイギリスから取り寄せる「ブーシュ」のDVDには、日本語字幕がついていません(当たり前か)。しかし、心配ご無用!日本のファンサイトには、DVD収録作品の全翻訳スクリプトがアップされているのです。なぁに、映画でも字幕を好む日本人。翻訳スクリプトさえあれば、ブーシュを楽しめること請け合いです!


 ブーシュのファンサイト

 上記の、ファンサイト。はい、もうお分かりだと思いますが、この私が運営しています。お友達のあさみさんが、イギリス旅行に行った折に目にしたコメディについて、私に話してくださったのが全ての始まり。すっかりブーシュの魅力に取り付かれた私は、自分の鑑賞の助けとして、そして日本の皆さんにブーシュを知っていただきたく、ファンサイトを開設しました。
 ブーシュの作品案内や、全テレビ作品の翻訳、製作者の紹介や、キーワード事典などをアップしています。もちろん、DVDの再生方法や、イギリスからのDVD購入方法など、できうる限りの手引きをアップしていますので、ぜひともこれを利用して、ブーシュの世界に触れてみてください。


ザ・マイティ・ブーシュのファンサイト 
The World of The Mighty Boosh / ザ・マイティ・ブーシュの世界




 …とは言いましても、やはり「ブーシュ」を日本で放映するのが一番ですね。NHK辺りに、放映希望のお便りでも出してみようかと目論む、今日この頃です。


こちらのページも参照してください
 ザ・マイティ・ブーシュのオフィシャルサイト(英語)
 BBC コメディの、ザ・マイティ・ブーシュ・ページ(英語)



                                                     22nd July 2006


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