11.荒野の七人 The Magnificent Seven  ( 映画 )

  「荒野の七人」は、黒澤明監督の「七人の侍」の西部劇版として知られている一方、純粋な西部劇としても名作中の名作です。オリジナルの「侍」が4時間の大作だったのに対して、2時間にまとめているので、後半の物語展開には多少無理があるのですが、それを差し引いても素晴らしい出来です。
 そもそも、私は西部劇なんて下らない、ガン・ファイトなんてつまらないと思っていました。ただ、スティーブ・マックィーンの格好良さが評判だったので見たのですが、もう一回見ただけですっかり虜になってしまいました。今回は、この映画をご紹介しましょう。


 あらすじ

 メキシコの農村イストカランは、毎年収穫の時期になるとカルベラ率いる盗賊達に苦しめられていた。この苦境から脱するべく、彼らは銃を購入して闘う決意をする。村民達はアメリカ国境の町で凄腕のガンマン・クリスにアドバイスを求めるが、彼の勧めでガンマンを雇う事にする。
 クリスは腕の確かなガンマンを集め、村民達とともに村へやってくる。村の防御をすすめ、村民達にも銃の扱い方を教えて、カルベラの襲来に備える。そしてやってきたカルベラは、七人のガンマンと村民達に思わぬ攻撃を受け、一度は立ち去る。
 しかし、カルベラの再来を予感した村民達の心には動揺が…村と盗賊、そして七人のガンマンの結末や如何に?


 七人のガンマン キャラクター紹介

クリス:ユル・ブリンナー
 冷静沈着だけど情もある黒ずくめの頼れるリーダー。「侍」では勘兵衛の役どころ。眼光鋭く、動きはしなやか。演じるは「王様と私」のユル・ブリンナー。芸達者な彼はコメディも、歌もダンスも、西部劇も行けるクチ。そもそも彼が黒澤の「七人の侍」に惚れ込み、脚本の翻訳権を買い取った事から、「荒野の七人」は始まった。画面上も、撮影中も王様のように悠然としていたらしい。

ヴィン:スティーブ・マックィーン
 フットワークの軽いサブ・リーダー格。銃も凄腕。コミカルとシリアス両面があって、完璧なバランス感覚を有する。クリスとタメっぽく接しているが、俳優同士はなんと十五歳も離れている。テレビで注目されたマックィーンは、この映画で大ブレイク。完全に主役を食ってしまった。これほどピンクのシャツが似合う男は居ない。

チコ:ホルスト・ブッフホルツ
 クリスとヴィンの格好良さに惚れ込んで、メンバーに入れてもらった若造。「侍」の菊千代と、武四郎を足した役どころ。ブッフホルツはなんとドイツ人。銃の打ち方は拙いが、乗馬の腕はかなりのもの。盗賊を馬から引き摺り下ろして、代わりに跨ってしまうアクションは凄かった。

ハリー:バックス・デクスター
 クリスの友人で仕事と聞きつけ、志願してきた山師。村の護衛に20ドルというのは建て前で、実は物凄い報酬があると思い込んでいる。一番現実的でドライだが、村人と仲良くなるのは得意。デクスターは溺れかけたフランク・シナトラを助けたと言う、武勇伝の持ち主。後にプロデューサーに転身した。

オライリー:チャールズ・ブロンソン
 ハリーからの情報でスカウトされた仕事人。特に愛想がある訳でもないが、子供には大人気。ブロンソンは長い間テレビや映画でチョイ役をやっていやが、この映画で一気に大ブレイク。大スターにのし上がった。そのぶちゃむくれた顔に、くったくのない笑顔、ムンムン臭い立つ男気全開には熱心なファンが多い。しまいには「ブロンソンズ」などというリスペクト・バンドを結成する輩(みうらじゅん&田口トモロヲ)まで現れた。男性用化粧品「マンダム」のおじさんとしても有名。

ブリット:ジェームズ・コバーン
 ナイフ投げ,銃,双方ともに最高の腕を持つ寡黙な男。「侍」の久蔵の役どころで、もっともオリジナルに近いキャラ。台詞は少ないが強烈な印象を残す。「ルパン三世」の次元はこのブリットをモデルにしていると言うのは、有名な話。吹替えは小林清志が担当。「侍」の大ファンだったコバーンは、一番お気に入りの久蔵役がもらえて、「クリスマスと誕生日とバレンタインがいっぺんに来たようだった」と語っている。彼もこの映画でブレイクし、大スターとなった。

リー:ロバート・ヴォーン
 クリスの知人の賞金稼ぎだが、今やおたずね者の身。確かな腕の持ち主だが、これまで倒してきた敵の亡霊に慄き、自分の腕前に自信を失っている。洒落者で陰のあるキャラを、ヴォーン(ナポレオン・ソロなどが有名)が好演。彼は七人の内現在存命の最後の一人。90年代のテレビシリーズ「荒野の七人」にも、ゲスト出演している。


 「荒野の七人」の魅力

 前にも書いたように、この「荒野の七人」は、黒澤明の名作「七人の侍」をベースにした西部劇です。しかし、「荒野」を「侍」と比べて善し悪しを論じるのは、野暮というものです。
 「荒野」を製作した人々はみんな「侍」と黒澤のファンで、それらへのオマージュとして「荒野」を製作しました。それと同時に、西部劇を作るんだという意気込みが当然ある訳ですから、「侍」にあって「荒野」にないもの、「荒野」にあって「侍」にないものがあって、当然なのです(私は「荒野」を先に見ていたので、「侍」を見た時に「ヴィン(マックィーン)が居ないぞ!」と喚いたものだった)。
 「荒野」は純粋に西部劇として、アメリカの時代劇として観賞するのが一番です。黒澤明自身が西部劇ファンで、一西部劇作品として「荒野」を気に入ってくれたそうです。

 「荒野の七人」の魅力はとても沢山あります。七人のガンマンそれぞれの際立った個性や、格好良さ、生活を守る事の困難さと尊さ、孤独、仲間意識、異文化の軋轢と交流など、見る人によって様々な事を感じるでしょう。
 どんな鑑賞者でも、同じように印象に残るのは、何と言っても音楽です。エルマー・バーンスタインによるテーマ曲は、誰でも知っている名曲です(マルボーロのCM曲と認識している人も居るでしょう)。
 余りの格好良さにどうしても七人のガンマンに目が行き勝ちですが、イストカランの農民達や、盗賊達も、中々力の入った演技と演出がなされています。特に、イーライ・ウォラック演じるカルベラの存在感はかなりのもの。DVDの特典コメントでは、イーライと手下を演じるメキシコ人たちが、撮影外でも一致団結した団体行動をしていたと言う興味深い話が、爆笑と共に展開されていました。
 さて、何と言っても私がこの映画に惚れ込んだ要素として、どうしても次に挙げる二人の俳優の存在ははずせません。彼らについて語ってみましょう。


 格好よさ炸裂の二人

スティーブ・マックィーン
 私は「荒野の七人」におけるマックィーンの、桁違いの格好良さに衝撃を受け、この作品一本で「一番好きな俳優はスティーブ・マックィーン」と宣言するほどです。
 マックィーンは背は小さいし(175cm 恐らく七人の中で一番小さい)、顔は猿だし、特に声が良い訳でもないのですが、その魅力的な青い瞳にはだれもが引き込まれます。気のない様子で立っているのも格好良ければ、機敏に動き始めても格好良い。帽子をいじる,散弾の中身を振る,ウィスキーにちょっとむせる,背中のガン・ベルトに指を突っ込む…それら全ての小さな仕種から目が離せません(もちろん観客の目を自分に集めるために、わざとやっている。主演のブリンナーが台詞を言う後ろでも、バンバンやらかすので、しまいにはさすがの王様もキレたらしい)。
 そもそも、マックィーンというのは運動神経の良い俳優です。最初は馬が苦手だったそうですが、テレビ時代にみっちり練習し、この映画の頃は「乗馬が上手い」と評されています。特に、助走をつけて馬に飛び乗り、全力疾走しながらライフルを撃った姿にはしびれました。

 マックィーンの演技で目を奪われるのは、アクションだけではありません。人懐っこい笑顔と、コメディの才能も楽しませてくれます。
 特に映画の前半、賭けに負けた時の表情は傑作です。可愛い事この上なし。それから、村での食事の時。村娘がしつこくチコにちょっかいを出している間、じっと空の皿を前にして待っているヴィン(マックィーン)。しかも、チコにはこれでもかと料理がもられたのに、ヴィンにはちょびっとだった時には、「んー?」という表情(これが上手い)で、そっと首を捻る仕種が最高でした。
 後半では、ぐっとシリアス感が増します。七人を取り巻く状況が変化し始めた時は、クリスに「これは大変な問題だぞ。俺達も良く話し合って、これからどうするか考えないと。」と、わざと感情を隠すような顔つきで言います。…素敵。(言葉が見当らない)
 それから、クリスに「あんたの村を思う気持ちは俺にもわかるんだ。そうさ…」と心情を語るシーン。それまでのヴィンはコミカルだったり、意外とクールだったりするくせに、いざ心情を語ると温かい。演じるマックィーンの素行は「俺様キングの目立ちたがり屋。やりたい放題」なだけに、それもあいまってクリス(ブリンナー)も、「言ってくれるよ、まったく。でも嬉しいぜ。」という表情を引き出され、素晴らしいシーンになりました。

 私はもう最初から最後まで、マックィーンを見る目が完全にハート状態です。他の人が喋っているシーンでもどうしても目はマックィーンを探してしまいます。そしてアクションシーンでは彼の大活躍に心躍らせ、撃たれた時は本当に動揺してしまうくらい、とにかく魅力的でした。
 この余りにも魅力的過ぎる俳優が出演した映画は、意外に小数。マックィーンが物凄く仕事を選ぶ人だったこともありますし、レースに打ち込んでいたという事もあります。そして一番惜しいことに、マックィーンは早く亡くなりました。七人の中では二番目に若かったにもかかわらず、一番最初に亡くなったのは彼です。1980年に50歳で死去。肺ガンでした。


ジェームズ・コバーン
 「荒野の七人」は何人かの大物スターの誕生を世に知らしめる作品となりましたが、そんな大スターの一人が、ジェームズ・コバーンです。コバーン演じるブリットは、非常に寡黙な役柄。台詞が11しかなく、しかもそれらがすべて短い。しかし、この映画の中で強烈な印象を残した登場人物の上位に、かならず挙げられるでしょう。
 オリジナルである「七人の侍」と対応した形としては、久蔵にあたるブリットが一番オリジナルに近いです。ブリットはナイフ投げ,銃,ともに敵ではなく自分に勝つために鍛え上げると言う、求道的な男。そのやや浮世離れした雰囲気を、コバーンは存分に醸し出していました。
 コバーンの格好良さは、なんと言ってもその姿です。身長191cmで細身。やや猫背気味に立つ姿は、ちょっとした仙人のよう。そして誰もが目を見張るのが、コバーンの脚の長さです。本当に信じられないような素晴らしい長さ!これはもう脚線美の極致です。脚線美と言えば欧州のディートリッヒ、米国のコバーン!しかもお尻が物凄く小さいので、斜めに掛けられたガン・ベルトがまるで春の若木に絡みつくツタのよう(余りの格好良さに冷静な表現が出来なくなっている)。
 さすがに撮る方もそれがよく分かっているようで、コバーンが映るシーンではそのスタイルの良さが映えるようなアングルになっています。カウボーイ・スタイルというのは上着が短くタイトなファッションなので、彼の格好良さが一番出るのでしょう。
 ブリットを演じる時のコバーンの表情は、厳しくもなければ、微笑んでも居ない。強いて言えば寝ているのではないかのような表情です(ブリットは寝ているシーンが多い)。どちらかと言えば押しの強い積極的な性格の多いガンマンの中で、異色の存在です。チコが憧れるのも無理もありません(チコの台詞に「俺は皆と一緒に行くんだ。クリス,ヴィン,ブリット…」と言うものがある)。


マックィーンとコバーン
 二人の俳優に特に魅力を感じるとすれば、この二人が同じシーンに登場すれば嬉しさも倍増です。ヴィンは当然クリスと一緒のシーンが多いのですが、意外にブリットと同じ画面に収まるシーンも多く登場します。最初に七人のガンマンと盗賊が対峙するときも、クリスはヴィンとブリットを背後に従えていますし、一緒にカードをしているシーンもあります。
 恐らく、撮る側もマックィーンとコバーンを同じ画面に収める事の効用を分かっていたのでしょう。この二人の身長差は15cmもありますが、双方共に黙って立っているだけで格好良いのですから、組み合わせてみたくもなります。
 実際、この二人の関係はどうかと言いますと ― そもそもマックィーンが前にも書いたような性格の俳優のため、私は「俳優の友達は少なそうだ」と思っていました。しかし、コバーンはで「スティーブとはテレビで何度か競演して、不思議と馬が合った」と語っています。この二人はブルース・リーに弟子入りして共に師の棺を担いだり、早く死んだマックィーンのドキュメンタリーでは、ナレーションをコバーンが担当したりと、どうやら友達ではあったようです。
 「荒野の七人」におけるこの二人のシーンで私が好きなのは、村人にヴィンとブリットが拳銃の扱い方を教えるところです。ブリットはカウントをしながら真面目に村人を指導していますが、ヴィンは村の女たちの方に気を取られて、ニヤニヤしています。それを誤魔化そうとしても、ブリットにはバレバレ。「てめぇ、いい加減にしねぇと、撃ち殺すぞ!」というコバーンの無言の表情が、絶妙でした。


 再度お勧めの言葉とちょっとした注意点

 「荒野の七人」は、製作当時こそぱっとしなかったものの、今や西部劇の名作に数えられ、大きな影響をおよぼした映画となりました。複数の男たちが一つの目標向かってひたすら挑み続けるという、群像劇としも大成功したこの作品は、同じくジョン・スタージェス監督の「大脱走」を生み出す素地にもなりました。一方を見たことのある方は、もう一方も見ることをお勧めします。

 最後に字幕と吹き替えについて。現在販売されているDVDは、残念ながら字幕の出来が非常に悪いです。訳し方が悪いとか、そういう次元ではなく、間違った翻訳が余りにも多いのです。これでは、全然意味が通じないし、ストーリー展開的にも間違っているところが多すぎます。
 英語の字幕があるので、これを読んで理解できれば良いのですが、なにせ西部のアメリカ英語なので、これまた難しい。こうなると吹き替えが一番良さそうです。マックィーンは宮部昭夫が定番なのですが、「荒野の七人」だけはなぜか内海賢二が担当。ちょっと低すぎるような気もしますが、中々良い吹き替えです。
 NHK衛星放送で放映した時の字幕は、上手さについては吹き替えには適いませんが、間違っては居ない分DVDよりは余程ましです。放映があるときは、どうぞお見逃しなく。


                                                9th April 2005

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