10.アンタッチャブル The Untouchables (小説)
   マーティ・レハートについて語る About Marty Lahart

  司法省酒類取締局の捜査官だったエリオット・ネスが、小人数の特殊部隊を設立した時、構成メンバーの選抜も彼に一任されました。エリオットは、司法省の推薦者リストからも何人か引き抜いていますが、最初から彼の頭の中で「この人だけは入れよう」と思っていた人物もありました。その筆頭に上げられたのが、私のお気に入りキャラ,マーティ・レハートです。
 あまりにもナイスキャラなので、なぜ映画には登場しなかったのか、不思議でなりません。彼が登場するとエリオットが食われるからでしょうか?

マーティ・レハートはこんな人

 マーティの年齢と体格は記されていませんが、エリオットの親しい友人であり、軽口を叩き合う中である事、そして柔道の練習相手としても好敵手でもあるので、ほぼ同年齢,同じような体格(身長180cm)と思われます。
 黒い髪に青い瞳でいつもニコニコしているマーティは、アイルランド系。とにかくよく喋り、冗談ばかり言っています。そして余りにもよく笑うので、マフィアがマーティにつけた渾名が「笑い屋 the Laugher 」。でも、急に真面目になったりして、時々エリオットを驚かせます。
 そして捜査官としての誇りも高い。マフィアが賄賂を贈ろうとした時、マーティとサムが演じた「叩き返し劇」は正に痛快です。
 マーティは大のスポーツ好きで、野球,ボクシング,フットボール,バスケットボールなど、マニア的知識を駆使して語りまくります。元フットボールのスター選手ガードナーが自分の仲間になると知った時には、エリオットの無知振りに驚き、「一人でガードナーに会いに行くなんてずるい!」としつこく言ってエリオットにくっついて行く始末。

 現場でのマーティは、持ち前のバイタリティと行動力と度胸で、非常に有能な捜査官。サブ・リーダーとして別働隊長になったりもします。
 潜入捜査も得意。女性が苦手なフリールとの凸凹コンビで、闇酒場へ遊び人に扮して潜入。まんまとマフィアが使う電話機をつきとめ、盗聴大作戦の始まりです。アナログな当時の盗聴は、盗聴する電話を誰かが使い、その声をたよりに線をコネクトしてしまうのです。そこでマーティが延々と電話口で喋り続け、その声を外のコネクタボックスで判別する事に。アンタッチャブルズはこの作戦のために役割を分担します。

エリオット:「チャップマンの担当が一番気の毒だ。盗聴部屋にかかってきた、マーティの声を延々聞いているんだ。」
マーティ:「チャップマンに言っておいてくれよ。俺が電話で口説き始めても、本気にするなってね!」
チャップマン:「そりゃいい。俺は一度、マーティがどうやって女を口説くのか、聞いてみたかったんだ。」

 相棒はマーティ

 最初の内はサムやガードナーとも組んで活動していたマーティですが、後半になると殆どエリオットと組むようになります。どうやらエリオットは、「相棒はマーティ」と定めている模様。更に、マフィアがエリオットの命を狙い始めると、二人は常に一緒に行動するようになります。まさにエリオットが撃たれる寸前、危険を知らせたのもマーティでした。
 捜査過程で疑問に思ったことや、ちょっとした計画など、エリオットが最初に相談するのも、大抵はマーティです。
 
 ここで私は思うのですが、なぜエリオットは一緒に行動する人にマーティを選んだのでしょう?ボディ・ガードとしてはサムやクルーナンでも良いはずですが…。
 恐らく、マーティはエリオットにとって仕事仲間以上に、友達だったのではないでしょうか。殺し屋から身を守るためには、朝から晩まで張り付いていなければならず、仕事と私生活の別もあったものじゃありません。そうなると、気兼ねなくすごせる仲の方が好都合ですし、いざと言う時の息の合い方も違います。
 それから、エリオットはマーティの明るさに救われていたのかもしれません。「呆れるほどよく喋る」とか、「しつこい」とか言う割に、エリオットはマーティに黙って欲しいとは思っていないのです。それどころか、マーティがいつも笑顔で昼食に行こうと言ったり、天気の良い午後には野球観戦に誘ったりすると、喜んで付き合うのです。
 アル・カポネが君臨するマフィアとの戦いは陰鬱で、心休まる間がありません。恋人の身の安全を思うと、デートもままならず、両親にも会えません。一方ではマーティは、『こいつとなら、とことん一緒に闘って行ける』という相棒だったに違いありません。

 命を危険に晒す期間が長くなるにつれ、マーティの笑顔が以前のような心の底から輝くような笑顔でなくなった事に、エリオットは気付きます。それはつまり、アンタッチャブルズ全体の疲労を示していました。これも、逆説的にマーティという存在を良く表わしているような気がします。

 モデルのマーティ

 マーティ・レハートという人物は、私の作品で言うと三銃士のポルトスが一番近いです。ポルトスの衣装マニア振りを、マーティのスポーツマニアぶりに置き換えるとちょうど良さそうです。

 一方で、実は私のオリジナル小説「ハル&デイヴィッド」に登場するデイヴィッド・ギブスンも、マーティとキャラがかぶっているのです。
 マーティはいつも笑っていて良く喋り、デイヴィッドは仏頂面。この二人の違いは、表に出す感情の部分の違いでしかありません。マーティは心の「動」の部分を顔に出し、デイヴィッドは「静」の部分を仏頂面に貼り付けているのです。どちらにせよ、エリオットやハルにとって、掛け替えのない相棒であると言う点は揺るがないでしょう。
 アイルランド系の顔で、黒い髪という容姿の面でも被るマーティとデイヴィッド。たとえて言うなら、「アンタッチャブル」と「ハル&デイヴィッド」を映像作品化する時に、同じ役者に演じてもらいたい…と、言った所でしょうか。

 
                                                 29th October 2004

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