1. 坂の上の雲  1st July 2011 ドラマ第二部の感想を追加しました!

 雑記の記念すべき第一弾は、私が最も好きな作家・司馬遼太郎(1923〜1996)の中でも、一番好きな作品「坂の上の雲」です。
 この作品は、日清・日露戦争を秋山好古・真之兄弟と正岡子規を中心に描いた「近代日本の青春の記録」です。1968年から4年にわたって文芸春秋に連載されました。
 私は現代に生きる人間として、全ての戦争と人殺しを悪だと思っていますし、司馬遼太郎自身もやはりそう認識していました。この認識と、塩野七生が言う「歴史は娯楽だ」(名言)という認識は共存できると、私は思っています。歴史を愛する人間は、前者の悪と後者の快楽を同時に認識することが出来ると、信じて疑いません。

 この作品の凄さは、読み出したら止まらない、とにかく続きが早く読みたい、電車の中で1冊終わろうものなら、なぜ次の巻を持ってこなかったのかと自分を呪いたくなる。仕事をしていても続きが気になり、トイレに本を持ち込んで読んでしまう…そんな凄まじいまでの面白さです。
 歩き始めたばかりの「若い」ちいさな、ちいさな日本という国の青春が、司馬遼太郎によって余すところ無く描ききられています。
 そしてそこに登場する男達は、何と魅力に満ちているのでしょうか!私は特に、秋山兄弟の兄・好古、陸軍の児玉源太郎に魅了されてしまいました。乃木希典は旅順戦において指揮官としての無能ぶりを披瀝しながらも、彼が誠実で人望の篤い「人物」である事は認めざるを得ません。後に神格化されてしまった海軍の広瀬武夫中尉は、神でも何でもなく、人間として「男の中の男」でした。その他「世界で2番目に立派な髭を自称する男」「ロシア恐怖症の初代総理大臣」などなど、とにかく日本の青春を生きる人々は、涙が出るほど瑞々しく、可憐なのです。

 青春とは、かくあるものなのだ。私はそう思いました。

 日本から目を転じても、清国とロシアの名将軍や、愛妻家の軍艦技師、小気味が良いほど老獪な英国などなど、どこを取っても「面白い」としか言いようがありません。最後の1冊などは、一度の中断もなしに一気に読み切り、最終章では涙が止まりませんでした。

 司馬遼太郎の文章は、私にとって理想です。簡潔でクールで、でもどこか熱くてユーモアがある。「坂の上の雲」はその最たるものでしょう。最近は司馬遼太郎を「良識の水準器」、「思想家」のように捉える向きがあるようですが、私は飽くまでも「小説家・司馬遼太郎」のファンです。
 近々、この小説がNHKでドラマ化されるようですが、私はとても心配です。素晴らしい小説が、上手く実写化出来ている例もあります。しかし「坂の上の雲」はスケールが大きすぎて、やはり無理なのではないかと思われてしまうのです。私はここまで原作のファンなので、どんなキャスティングが出てきても、文句を言ってしまいそうです。

 蛇足ですが、私が好きな司馬遼太郎作品のベスト3を記しておきましょう。一位はもちろんこの「坂の上の雲」。二位は「燃えよ剣」。三位は「項羽と劉邦」です。



 
NHK スペシャルドラマの感想:第一部

 第一回:少年の国
 大河ドラマ「坂の上の雲」の感想。大前提として、私は活字で読む原作の大ファンなので、ドラマ化そのものが大反対。あれほどの名作を、なぜ映像化するのか、皆目分からない。だから、全体的に評価は辛い。活字好き故と思って、お許し願いたい。

意外と(笑)良かった点
1. ナレーション
 司馬遼太郎の文章を、ナレーションとして多用したところ。しかもその声が渡辺謙(私は彼の声が好き)。「坂雲」という作品は、飽くまでも原作者が書いた小説であり、資料ではない。このドラマが、原作を尊重すると言う姿勢を保つのであれば、このナレーションの多用は続けて欲しい。「それじゃドラマじゃないじゃん!」と言われれば、そりゃそうだけど。私はドラマ化そのものが嫌なんだもんね。

2. 資料映像
 古い写真や映像を大量に挿入して、世界観の説明に用いているところ。ドキュメンタリーっぽくて歓迎。私はドラマの持つ「作り物」っぽさが嫌い。しかもこの時代は、意外となじみの薄い時代なので、これらの映像に上記ナレーションが加わるのは、良い手法だと思う。

3. 何名かの配役
 伊東四郎は、好々爺が良い感じ。近藤正臣なのに出番はあれだけ!高いなー。信兄さんの青年時代、そうそう、美男子だもんね。香川照之、この人はもともと演技が上手い。松たか子、狆っぽい。阿部寛…色白じゃないし、不満は残るが、バタ臭くて背が飛びぬけて高い、って辺りをカバーできる俳優は選択肢が限られるから仕方が無い。

4. 明るい
 全体的に雰囲気が明るいのが結構。原作に貫かれる雰囲気は、楽天的で、明るい雰囲気。かなり大事。下手にシリアスぶって暗くて重い展開にならないように祈る。(旅順は暗いが、児玉さんが一人で頑張って照らすのよ!あと、津野田ね。)

良くないところ
1. 配役
 淳のモッくんは、最初からあまりピンと来ていない。16歳ってのも無理。海軍兵学校からの帰省の時に、モッくんに切り替えれば良いのに。淳は兄さんの指導下・予備門時代はまだ子供で、軍人になる決心をしたところで、大人になる ― という切り替えが欲しい。升も16には見えないけど、まぁ彼は切り替えが難しいからね。

2. カットしないでほしかった。
 紅鳥センセイ(時間が足りないんだよな)。名古屋の和久さん(かなり好きなのに)。津和野の五月人形(愛嬌があって良かったのに)。寺田が信を品定めするところ。「騎兵の父」誕生の瞬間だと思うんだけど。虚子と碧五桐も出しておくべきだったのでは?(次回の野球の所で出すのか)
 「信兄さんのためなら命もいらん」、どこかで入れるべきなのでは?まぁ、難しいとは思うが。終始、淡々とした司馬文章には、ごく稀にこういうドキっとするような言葉があって、それが効果的なんですよ。
 升の「達磨さんのようじゃ」は、どうしてカットしたんだろう。もったいない。
 加藤の叔父は次回以降?信兄さんと仲良しなのだが。フランスでつるむんでしょ?重要人物・陸さんも次回以降?
 カットこそされなかったけど、上京した淳が、最初に信に会うところ、もうちょっと印象的にやってほしかった。あのシーンでは、明らかに騎馬姿の信に、淳が惚れるのよ。その感情って、後になって淳の進路選択に影響しているはず。

3. トロい
 花火は一発どっかーん!で、おしまいにして。「お死に!」も、もっと手短に。
 「旅費は父が用立ててくれましょう。」の後も、お父さんの反応を捏造するのはNG。結局、ドラマ化すると、登場人物たちが一々感情をある程度露出したリアクションをせねばならず、それが鬱陶しい。「ここ、面白いところですよ、感動するところですよ」と、馬鹿みたいに説明じみた事をするのは、司馬遼太郎ワールドにはそぐわない。あのシーンは、無表情な父子の沈黙で終って欲しかった。
 「命もいらん」をカットする割りに、「あしが守ってやる」が多すぎて、うざい。(←段々、言葉が悪くなってきた)
 うざいと言えば、秋山兄弟を囃すガキも要らん。べつに、秋山兄弟に「かわいそう感」を持たせる必要は無い!
 旅立ちの「さーよーなーらー!」のシーンも長すぎる。私、こういうのあまり要らないんだよね。

4. 失礼な
 狆を失敗した。やっぱり、「ある日、つい、『狆』とよんだ。」を再現してほしかった。せっかくナレーションを多用しているんだから、不可能じゃないと思うけどな。信兄さんはお姫さまに、あんな無礼な事は申しません。(それに、あのお姫様は派手すぎだろう)。
 淳が、「お前の兄さんも…」と言うのも、よろしくない。「お律さんの」とお言い。お武家さんは、超貧乏でも礼儀だけは正しいのだ。

5. 原作に無いエピソードいらん
 お律さんはどうしても、出番を増やさなきゃ駄目なのか?うーん、淳への感情は、升が「好きなんじゃ」と察知するんだけど…淳が帰省するときに(次回以降の話ね)、お律よりもよっぽど升の方がソワソワして待ってる、ってところが重要なんじゃん。
 横浜の捏造エピソードも要らん。悪い英国人と、格好良い正義の英国海軍士官を対比し、更に軍艦を見せて、淳が海軍へ行くきっかけにしたいのだろうけど、このわざとらしさが嫌。「海の向こうには…!」みたいなウソ臭い台詞も嫌。

 簡単にまとめると(!)こんなものだろうか。全体的には、思ったほど悪くなかった(!!)。でも、初回はドラマ化し易いだろう。そのうち、本当に開戦となったら、大変だ。あまり期待しないでおく。


 第二回:青雲

意外と(…)良かった点
1. 引き続きナレーション

 「のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲がかがやいているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。」 ― この言葉で締められる名文(これは、「あとがき」である)を冒頭にきちんと繰り返したところ。まぁ、初回ほどはたっぷりしてなかったけど…あの初回の冒頭は良かった。たぶん、あれがすべて中で一番良い点なんだろうな。
 それから、「人間は、友人がいなくても十分生きてゆけるかもしれない。しかし子規という人間はせつないくらいにその派ではなかった。」を残してくれたの嬉しかったな。別になくても良い個所かも知れないけど、子規という人を表現するのに、すごく良いところだと思う。

2. 原作にないけど良いじゃん。
 賑やかになった陸大。信と一緒に、長岡や藤井が出てきたのには驚きつつ、良かった(もう一人、誰だっけ)。信は淳にくらべると学友紹介が少ないから、なかなかよろしい。それにしても、長岡って信の同期なんだ(微妙に学年が違うかもしれない?でもほぼ同世代)。私は信よりかなり上だと思ってたよ、プロペラ(笑)。
 お姫様の鯛差し入れ。エピソード捏造そのものはともかく、兄さんとお姫様の間で、固まる淳と升が良かった。なんとな〜く兄さんとお姫様の間に漂う、微妙な気体…その居心地の悪さ。モッくんの「返してきます…」が、彼の演技の中で一番良かった(そこか!)。

3. 阿倍ちゃんの姿
 彼が信兄さんのイメージそのものかというと疑問だし、演技力もよくわからないけど、たださすがに姿は良い。美男で長身、軍服に馬、とても絵になる。ちぇッ、結局イイ男には弱いのか…でもメッケルに「西洋人か?」とは言わせなかったのね。

4. キャスティング2名
 広瀬。この役者さんを知らないけど、硬派っぽくて良いかも。
 藤野。正直言って、すごーい端役なのに、あんなに良い役者の、良い演技をあてはめるのって、ぜいたく。

やっぱり良くないところ
1. 大ミスキャスティング

 高橋英樹の児玉源太郎…!わー!最悪!全然ダメ!ありえない!高橋英樹は良いんだけど、薩摩系だってば!山本権兵衛とか、陸軍黒木か、野津が良いと思う。児玉は、超小柄で、超頭が良くて、明るくて少し甲高い声のでなきゃ。だから橋爪功にしろと、あれほど言ったのに!
 児玉さんはほぼ主役級じゃないか。耐えられるかなぁ…自信がないぞ。

2. お律出し過ぎ
 しつこく出し過ぎ!やりたい事はわかるが、くどい!東京まで来なくて良い!淳の帰省は2度目の方が重要なんだから、そっちに集中させれば良いのに。この点は、構成上の問題だと思う。失敗だ。
 1回目の帰省はカットしても良かったんじゃ。やるなら、お父さんの「目のとびきりするどい小男があるいているのをみたが、ありゃお前そっくりじゃ」をやってください。

3. そこ、カットするか?!
 淳が予備門退学を相談するために、信に会いに行くところ。だめだよ、陸大から八重洲に行って、兄さんの馬術を見物するところカットしちゃ!サラリと書いてあるけど、けっこう重要なんだ。迷っている淳に、決心を促す要素の一つが、兄さんの格好良い姿なんだから。原作者がわざわざ挿入した意味を考えろ…。
 兄さんが淳の兵学校合格に、ちょっとウルっときちゃうころとかも、カットされた〜。
 前回も言ったが、加藤の叔父はマジでカットなのか?!秋山と正岡の繋がりを示す、重要なファクターでもあるのに。

4. 俳句はまだじゃ
 子規が俳句に照準を合わせるのは、無銭旅行よりだいぶ後でしょ。淳と別れてからじゃないか?
 そもそも、あの置手紙のシーン。もったいなさすぎる。雰囲気とか、ライティングとか良くできているのに、せっかく壁の線描までちゃんとセッティングしたのに。なぜ、そこで一句、二句なんだ!ヤボだ!うざい!そこは「あげなことをしおって」で、ボロボロ泣きださなきゃ。それが二人にとって、少年時代との離別でもあるんだからさ。
 やっぱ、役者の実年齢に無理があるんだ。もっと若いひとなら、原作通りに行って、良い感じなのに。なんだよ、あの一句、二句って!

 ほかにも細かいことは色々。子規は良い雰囲気にできてる。できれば、もう少し食いしん坊の方が。あぁ、淳の「海の向こうのナンタラカンタラを見てみたい…」みたいな、わざとらしいセリフはマジで要りません。置手紙シーンもそうだけど、結局このあたりがドラマという手法の限界ではないだろうか。何もかも、不必要なほど分かりやすく直截な表現で伝えずにはいられないらしい。
 おっと、淳の文章上手は出さなくて良いのか?夏目は無愛想でもないし。うむむむ。
 はぁ…やっぱり回を追うごとにヤバいことになりそう。そもそも、まだ文庫本1巻も終わっとりません。大丈夫なのか?お律を出すよりもやるべきことがあるだろう。バルチック艦隊の苦難の旅路とか、カットされるんだろうな…。あの、しまいには応援したくなっちゃう旅路の描写、秀逸なのに…。


 第三回:国家鳴動
 最初から期待していなかったし、こうなる事は分かっていたが、やはり現実を突きつけられると、辛いものがある。…回を追うごとに悪くなっている!!やはり、あの原作の再現は無理なんだ。早くもギブアップか…。

段々少なくなっていく、意外と良かったところ
1. キャスティング

 陸。佐野史郎の穏やかで優しい雰囲気がぴったり。人徳あり気で結構々々。
 伊藤。良い役者もってきたな〜。伊藤ってちょっと損な役回りの人だけど、実のところ超一級の政治家で、司馬遼太郎が好きなタイプ(現実的で頭の良い人)なんだよね。ただ、もうちょっとだけ明るさが欲しいかな。
 陸奥。カミソリだけど、死期が近そうな感じが良く出ている。

2. 陸大一期生、楽しそうだな
 信の婚礼シーンは捏造だけど、陸大一期生は悪くない。特に長岡のおっちょこちょいな感じが良く出ている。

3. 子規は良い感じ
 香川照之と子規って、顔つきはまったく類似性がないんだけど(子規はタレ目)、すごく良い感じの演技をしている。明るいのが重要。最初の吐血後に松山に帰ってきたところ、体がきつくて人力車に乗るのだが、その様子がすごく上手い。そして門前で身構えるのが良い。
 変な悲壮感ではなく、明るさを失わないで欲しい。

どんどん増える良くないところ
1. そのキャラ造形はどうなの

 山県。うーん、ちょっと…違うなぁ。伊藤の呼称は「伊藤さん」か?「伊藤くん」の方が狂助っぽいじゃないか。
 川上。切れ者は、確かにそうなんだけど、なんか悪人っぽい。昭和の陸軍キャラとは違うのだが。しかも、なかなか死にそうにないじゃん。
 東郷。げげ、なんか喋っとる!異常なほどの無口で、時々喋ると、相手がビックリするぐらいじゃなきゃいけないのに。それから、少し飄々とした所も欲しい。
 夏目。前回から気になっていたのだが…駄目だ、もっと無愛想にしなきゃいかん。マエストロの息子は、夏目にしてはモッサリしすぎだ。夏目は江戸っ子だぞ。一人称も「ぼく」で良いのか?手紙とかはともかく、口語は「俺」の方が好きだが。

2. 構成ミス?
 子規の喀血は、前回の最後にもって来るべきなのでは?今回の冒頭だと重苦しいオープニングになって、子規の明るさと、その暗い命運の対比が効いていない。前回、淳の帰省1回目にあんな時間をかけたのがまずかったんだ。
 日清戦争開戦も、ちょっと時間をかけすぎ。伊藤を丁寧に描くのは嬉しいけど、懊悩シーンが長くて…「時間がないんだってば!」と、叫んでしまう。
 淳と鎮台さんの喧嘩も長い。入れても構わないが、もっとすっきり処理しなきゃ。長々とやる割には、お父さんの「もう兵学校へお帰り」とか、子規の小言をカットする。イカン。第一、「淳が帰ってくると賑やかで良い」なんて、真逆じゃないか。イカーン!

3. カットするな / カットしろ
 兄さんのフランス時代は、もう少しエピソードを入れるべき。特に、騎兵とは何かという大命題を、ここではっきりさせねば。加藤の叔父は、結局完璧削除か…。もったいない。信兄さんと飲んで欲しかったのに。
 虚子と碧吾桐はちゃんとナレーションでフォローしなきゃ。何者か分からないじゃないか。

 お父さんの死と、信の結婚はもっとチャッチャと手際よく片付けて欲しい。時間がないんだからッ!お父さんの所は、淳が船で兄さんの手紙を読むだけで十分。帰郷は時間の無駄。
 兄さんの結婚も、なぜ児玉さんが世話するんだ。必要に迫られて(お母さんを東京に引き取ったので、家の宰領者が必要になった)、娶るんじゃないか。いきなり佐久間家に来て、求婚、お姫さま仰天!はい、高砂!陸大一期生全滅ッ!…ぐらいのスピード感があったら、良かったのに。
 ありきたりな「家族愛」エピソードの捏造は、「坂雲」にそぐわない。その点で言うと、出征のところでの多美さんもNG。やるなら気丈に見送って、後でそっと泣くぐらいでなきゃいかん。

 東郷のエピソード丸々不要。なにあれ。淳も意味不明。東郷は、むしろ豊島沖,「浪速」で初登場する方が効果的。キャラクター説明を懇切丁寧にする演出なのだろうけど、そういうウザさが嫌い。第一、時間がない。

4. 早くも次回予告で心配だ
 全部で何回だっけ?日清戦争にそんなに時間をかけて大丈夫なのか?確かに兄さんは「一人でも旅順に行く」と言ったけど…あの熱血口調はイメージじゃないな。「前へ出るけんの」…でしょ?
 淳もアリキタリ展開になっているような気配が…。やだな〜あれが所謂「死亡フラグ」ってやつか。B級映画じゃあるまいし。まさかとは思うけど、「定遠はまだ沈みませんか」を筑紫でやったらどうしよう(私、松島に関しては一家言あるんだ)。


 小さなことだけど、伊藤が「高杉さんが夢に…」なんてわざとらしい台詞も余計だった。まぁ、陸奥がサカモトを持ち出さなかっただけ、良かったけどね。
やはり、「原作を読むべし!」の一言に尽きる。特に戦場描写の秀逸さは、筆舌に尽くしがたい。


 第四回:日清開戦
 今回は、OKとNGの落差が大きかったです。しかも、双方のパートがはっきり分かれる。これって、どちらの方が良いのでしょうかね、良さが集中するか、分散するか…。

前半に片寄っていた、良かったところ
1. 高陞号事件

 顛末を丁寧に描いていて、非常に良かった。ほんと、これは凄く良かったですよ。重要な所をゆっくり見せて、ドンパチはスパっと切る、潔さも良い。
 後日談として、権兵衛&平八郎の会話もやっていたところも、高評価。今までも、これからもこれくらいのクォリティと、ドライさが欲しいのだが…

2. キャスティング
権兵衛:石坂ヘーさんは、ちょっとスマート過ぎるかと心配したんだけど、意外と良かった。そうだな、権兵衛はけっこう政治も出来るから、これくらいが丁度か。
小村:これはナイス!すんばらしい!小男で風采が上がらず、口が悪いんだけど、ギラギラしていて、したたかで、超使える感じ。特にあの声が良い。通訳さんも良いね。世界の車窓から。
大山:見た目は良い感じ。…でも、猫より犬なんだけどな。
森:原作にはないけど…うぐぐ。二枚目だから許す。結局二枚目には弱いのか。戦死者より病死の方が多いという、現実の説明には良かったと思われる。

3. それ行け信兄さん
 うーん、やっぱり阿部ちゃんはずるい。我慢できずにお毒見前に飲んじゃうのも、ねつ造だけど可愛いから許す。格好良いのは得だな。馬てんこもり。清国軍もてんこもり。


後半に片寄り気味だった、良くないところ
1. しゃべり過ぎ

 大山と、東郷がしゃべり過ぎ。大山はニコニコしていて良いけど、あんなに軽々しくは喋っちゃいけない。
 東郷も、あれじゃ東郷じゃない。淳との絡みを増やしたいのだろうが…あれでは「気まずい淳との初対面」が出来ないじゃないか。安っぽい演出、本当に邪魔。

2. 飄が欲しい
 信兄さんはちょっと熱血過ぎる。「前へ出るぞ!」…じゃなくて、「前へでるけんの」でしょ?!まぁ、小さいことかな。

3. まーつーしーまーーーーッ!!!!
 一番ショックだったのが、黄海海戦がまったく描かれなかったこと。あれじゃ、「サネユキと楽しい筑紫の仲間たち」じゃないか。伊東と、丁のやりとりも、広瀬のセリフで片付けられてしまった。ひどい。西京丸を「のりまわす」樺山はどこへ行ったんだ?!
 なんと言っても、伊東その人が出てこないし、連合艦隊旗艦「松島」のマの字も出てこない。(私の曾祖父は松島とともに海底に眠っておる。←ワタクシごとじゃ)。
 旅順陥落はあっけなかったのであの「処理」でも仕方ないとして、黄海は苦戦したし、日本海軍の課題も浮き彫りになったのだから、ここをオミットしてしまうのは、いただけない。大マイナス点。

4. 淳がうざい(←表現がランボーになってきた)
 たしかに、筑紫の被弾で淳がショックを受けるのだが、それはぐっと心にしまうところが、重要なのに。あんなに大っぴらにされると、引く。ショックは受けても、傲岸なところは失わない。そうでなければ、淳のキャラクター造形から崩れてしまう。
 その要らん淳の苦悩を引き立てる、「水兵さんたちとの心温まる交流」も、白々しくて不要。どうせなら、花田は日本海海戦が終了後も生きていて、淳と良いコンビにしてほしかった。ああいう、お手軽過ぎるキャラクター造形が無いから、原作は名作なのだよ。
 繰り返しになるが、淳と東郷の後半シーンも不要。初対面の時との、時間の経過が表現できていないので、不自然。前回、出会いシーンを作ったところから間違っているんだ。

5. 今回は子規のシーンも残念過ぎる
 従軍が決まって、大喜びするところまでは良かった。しかし、清国に行ってからの原作にないエピソードはいらない。原作では子規が晴れ晴れと出かけて、のんきに帰ってきて、そして喀血する…この急降下がズキンと胸に来て…読みながら泣きそうになった。せいぜい、森との邂逅程度で済まして、ニコニコしたまま帰国すればよかったのに。
 もみじ打ちを再現したのは良いが、虚子と碧梧桐が相変わらず出てこない。これはまずい。子規は病気ではあっても、寂しくはないのだ。いつも周りに人がたむろしていて、不思議に明るい子規でなきゃいけないのに。律を泣かしているひまがあったら、あの二人を出せ。須磨の看病はどうするつもりだろう?(あのシーンもかなりグっと来るのに…まさかカットするのか?!)


 全体的に、淳の主役度に重きを置き過ぎなのではないだろうか。坂雲の主役は3人だし、「小さな明治日本という国家」とも言える。子規が死んで、秋山兄弟もまったく出てこない展開も、原作には大量にあるし、そこもまた凄い良い。
 下手に淳を際立った主人公処遇にして、しかも、悩める若者という、手のかかる演出もくっけているうちに、時間が足りなくなって、大事なところがカットされる。それはいかん。
 そういう、「懇切丁寧、察しの悪い人にも分かるような演出」が必要とされる、普通のドラマなら当たり前の手法は、「坂雲」には全く向いていない。だからこそ、私はドラマ化には大反対なのだ。小説というスタイルの持つ、良さをそのままにしてほしい。
 次回予告でも、子規は非常に心配。頼むから、強いが故の明るさを消さないでほしい。
 今回の前半に多かった、「良かった所」が薄れてしまわないように、願うばかりだ。文句ばかりブーブー言っているけど、けっこう良いな〜って思っている箇所もあるのだよ。一応。

 おお、小さいことだが…ヒゲ広瀬、ちょっと世界のナベアツに似てない?



 第五回:留学生
 「坂の上の雲」、私のドラマ化大反対呪いを跳ねのけ、第一部の放映が終わりました。努めて、良いところを見出そうしていたのですが…残念ながら、回を追うごとに良いところが減り、5話目もしかりでした…

あまりないけど、無理やり挙げる良かったところ
1. 香川氏は演技が上手い

 再度言うまでもないけど、上手い。痩せてきてるし。ヘルシア緑茶。あまり泣いてもらっては困るのだけど、どうも許せてしまうのが、彼の演技である。

2. 広瀬エピソード
 ふんどし一丁写真とか、餅食い競争とか、どうでも良さそうで、けっこう好きなネタを映像化しているのが良い。兵学校では、広瀬が劣等生だったこともちゃんと出てきてて、良いね。
 写真は時期が違うし、どうして淳まで脱ぎだすのかは分らないけど、アホっぽくてOK。
 どうせなら、お母さんが広瀬も子規を知っていると思いこむところも、織り込めばよかったのなぁ。
 ついでだが、信兄さんのシーンをちょこっとだけど作ってくれてありがとう。原作でも、この時期は出番が無いのよ。

3. アメリカ留学が丁寧
 マハンのシーンは、カットを危惧したけど、けっこうきちんと出していて、好感触。その発言も、邪念のない生粋の「戦略家」っぽくて痛快。軍人は、政治なんぞ声高に語るべきではないんじゃ(by 信兄さん)。
 19世紀末のニューヨークや、ワシントンの様子、衣装など、眼に楽しい。是清先生再登場は、上手く使った感じで良かった。


かなり酷いな〜と思った、良くないところ
1. それを言葉にしなければならないのか?

 淳が、松山に子規を見舞うところ。「坊主になろうと思った」は、言おうとして、だまった。でなきゃ!陽気に、無邪気に「いくさのあいだどうおしていたぞ」と尋ねる病人の子規には、言わないから良いんじゃないか!淳が、自分のために強がり、子規への優しさを発揮する、こういうちょっとした所を、露骨なセリフや演出にして台無しにしてしまっている。
 同様のことは、3回目にもあった。キュウリ封じの時、原作ではキュウリを持たせようとするお母さんを、淳が振り切ってお見舞いに行くのに。ドラマではキュウリを持参している。こう…愛情ゆえの気恥ずかしさとか、矛盾した行動とか、そういう微妙で、いじらしい一瞬が、ことごとく「露骨でベタベタな表現」にされているのには、我慢がならない。他にも、お父さんの「淳や、もう兵学校へおかえり」とか、信の帰郷時に淳が気恥ずかしくて逃げ出すところとか…。
 この「表には出さないけど、胸に確かにある思い」というのは、文章ならではの表現であって、やはりドラマという手法には無理なのだろうか。

2. 犠牲者,虚子と碧梧桐
 ずばり、律のせいで出番が削られた。ひどい。この二人はもっと前からきちんと出しておかなきゃ。子規の従軍前から、重要な役割を持っているし…須磨の療養が完全にカットされたのは、非常にもったいない。須磨から始まる虚子の献身は、軽んじちゃいけない。
 虚子と碧梧桐の役割を律にあてがって、淳とシーンを増やそうとする意図が、私には受け入れがたい。虚子には、子規が死ぬ時に重要な役割があるのだから。どうして原作が泣けるのかという要素の一つは、間違いなく虚子の献身と心情なのだ。
 別方向からいえば、子規は淳に限らず、色々な人から愛されており、虚子と碧梧桐もその中の人だ。重い病に侵されながらも、常に強くて、優しくて、明るさを失わない子規を映す鏡は、多い方が良いじゃないか。

3. 陳腐な演出
 広瀬の引き立て役にされるボリス、淳の引き立て役にされるロシア海軍士官(名前失念)。この2名に関する演出が最悪。こんな陳腐で白々しい演出が、最近でもテレビドラマでは普通なんですか?
 特にボリスが広瀬に投げられるシーンが最悪。なにあれ。プーチンじゃあるまいし、ちゃんと受身をやっていない人を、床に投げるなんて。広瀬ほどの柔道家がやるとは思えない。しかも周囲がニコニコして拍手喝さい?!笑わそうとしているのだろうか?


 他にも細かいところは、いろいろある。外交は機密こそ一大事なのに、小村ほどの人が、淳ごとき(!)に、日英同盟をあんなにわかりやすく漏らすなんて、あり得ないとか(原作では暗にほのめかす程度で、淳には分らない)、俊輔が聞多を「お前」呼ばわりはしないだろうとか…。
 来年への思いとして言うと、まず1年の空白が馬鹿みたい。まぁ、日本放送協会の事情があるのでしょうね。来期のタイトルも趣味が悪い!「子規逝く」!?えええ?!「十七夜」しかあり得ないだろう!「広瀬死す」も最悪。センス無し。そのあともエピソードのバランスが悪そう。遼陽,沙河,黒溝台,奉天などは、どうやらまともにはやってもらえそうにない。まぁ、出来ないのだろうけど。出来ないなら、ドラマ化なんてしなきゃ良いのに。
 残念ながら、悪いところばかり目につき、悪い期待しか持てずに終わってしまった。まぁ、1回目,2回目などはまぁまぁ良かったし、−特に1回目はナレーションの多様具合が良かったので、また見たいかな。

 結局、私が言うべきことはただ一つ。原作を読もう!2度読みがお勧め!来年まで時間があるので、より多くの人が原作を複数回読んで、その良さを知ってくれますようにと願っている。


 NHK スペシャルドラマの感想:第二部

 第6回 :日英同盟
良かったところ…なんてあったっけ?

1. 虚子と碧梧桐が出てきた

 何だ、この消極的な長所は…。いや、前回シリーズでほぼ完全無視状態だったのに比べれば、出てきただけマシと言うべきだろう。それ以外には何も言えない…。

2.朝日がたっぷり見られた
 まぁ、いわゆる敷島型なので、三笠と兼務なんでしょうけど。お船ドーン!…っていうのは重要です。

どうしよう、他に長所が見当たらない。

良くないところ…だらけですよ
1. 虚子と碧梧桐の登場が唐突過ぎる

 登場したのは嬉しいけど、前段階の説明がなさすぎで、唐突感が否めず、キャラとして弱い。やはり、前回シリーズで、紅葉打ちのところにちゃんと「おたのみぃ」を入れなかったのが、いけなかった。須磨の療養も非常に大事なのに。
 ここをオミットすると、次の話(子規の死)の説得力が失われてしまう。「十七夜」で泣けるのは、虚子のおかげなのに。…ま、まさか、あの虚子の役割まで、誰かにやらせるのか…?!そんな事やったら、本当に最低なので、それは無いだろう…

2. 子規の描写が中途半端
 下手に抒情的な流れに持って行き過ぎ。これは脚本の問題。「のどかな春でございます」をひっぱるくらいなら、彼の壮絶な文筆活動にもっと時間を割くべきだし、陸さんもちゃんと出して、「死という悲しみ」だけに流されない、本当の強さ、たくましさ、人の優しさを表現しなければ。
 あれでは、単に弱っていく子規が可愛そうなだけになってしまうぞなもし。

3. 広瀬に時間を割き過ぎ
 気持は分かるが、ちょっとやり過ぎ。「猿に音楽など…」とか言う、白々しい演出不要。そもそも、「このボリス」が、「あのボリス」であることに、全く気付かなかった!え、「あのボリス」は、少尉候補生で、「タケニイサン」と言って広瀬を慕うから意味があるんでしょ?あんなぼやけた(しかも、陳腐な)描き方じゃ、しょうがないだろう。
 それから、豊後竹田の夢ビジョンとか、要りません。あれ、必要なの?

4. 同盟工作のバランスに難あり
 伊藤が独自に日露同盟に働く所を丁寧に描くのは良いが、その一方では林董の働きもきちんと描かねば意味がない。それに、期待を裏切られた伊藤がまるで馬鹿を見るような処理で終わるのもいただけない。彼は現実を見るや、それなりに自分の働きを見出して、ちゃんと立ち働くのである。それが伊藤俊輔の俊輔たるところだし、司馬遼太郎も彼のそういう所が好きだったりする。
 たぶん、あの宮殿シーンを増やしたいが故の脚本バランスの悪さが影響しているのだろう。確かに、あの宮殿シーンがすごいことは分かるが…。「坂雲」の良さは、林董のように、ビッグネームではないけど、良い働きをする人々も細密に描き出しているところ。結局、ドラマは最初から無理だった…と言うべきなのだろうか…

 本当に、今回は長所無し。次回も心配。予告映像の、石原さとみのいでたちを見ただけで、吐きそうになってしまった。ほんと、面白くもなんともない捏造する暇があったら、もっと原作でオミットしてはいけないシーンを再現したら?…と言いたい。
 原作至上主義なだけの私に言われたくないだろうが、エンディングテーマも悪くなったぞ。私はあの手の白々しいベルカントの日本語歌いあげが苦手。サラ・ブライトマンの方が良かったぞ!
 …と、言うわけで。今回は超辛口。次回はいかに?!

 第7回 :子規、逝く

 前回はあまりにも良いところが無かったので、今回は多少持ち直したような印象。持ち直せるだけに、もっと良くなるはずという口惜しさもある。

持ち直した良かったところ
1.菅野美穂が泣かせた

 展開的に、当然といえば当然だが、彼女には泣かされた。一番危惧された、真之が律を抱き寄せるシーンでも、先に泣かされてしまっていたので、そっちが勝った。
 子規に尽くしつつも、けちょんけちょんに書かれ、それを知ってか知らずかかなり不機嫌そうな様子が良い。彼女の面構えは同情を誘うのではい、― つまり媚を売らないつっけんどんな感情が良く表現できている。それだけに、号泣するところがさらに胸にズキンとくる。今回は、彼女が全てを持って行ったと言って良い。
 子規の死後、律が共立に通うエピソードも入っていて良かった。これは原作にはないのだが、原作にとって番外編的な作品である、「ひとびとの跫音」に出てくる。ついでに言えば、陸の娘が見舞に来るシーンも、同様のもので、うまく挿入出来たと思う。

2.お姫様がなんだか強いぞ
 信三郎兄さんの出番が少ない分、元お姫様の出番を増やしたのは、まずくない。しかも口うるさい。できれば、枕の下から豆袋を奪ったうえで「お豆はだめですからね」と言えば良かったのに。

3.八代六郎のうまい活かし方
 原作にも八代は何度か出てくるが、ちょっとぼやけた印象になっている。存在感のある役者を持ってきて、くっきりとした八代を演出したのは、真之と広瀬双方にとって重要な人物なだけに、なかなか良い。

4.兵棋演習が見られた
 これはなかなか良かった。ちと説教臭い展開が鬱陶しいが、あれの実物再現を見られたのは、撮影場所の良さも相まって、秀逸だった。

でもやっぱり良くない事も多数
1.真之の結婚はさらっと行って良いのでは?

 このネタはあまり膨らましがいのない話なので、サラっといっても良いと思うのだが、ドラマという手法の場合はそうもいかないのだろうか?別に季のコスプレとか、どうでも良いのだが。(そもそも、あのどうでも良いコスプレ、伊東祐享だと言うではないか!なんだと、だったらちゃんと黄海海戦で伊東と松島を出せば良いだろうが!ぶーぶー!)
 お見舞いの微妙な三角ちっくな演出とか…思わず、声に出して「なんだこれ?」と言ってしまった。これは「坂雲」ではなかろう。…しかもそのせいで、小笠原がオミットされてしまったではないか。

2.くどい…?
 子規のお見舞い、子規の葬列、その後の墓参り、(入院)、共立の前で待ち伏せ…と、律と真之のシークエンスが多すぎて、くどい。いくつかを統合して、すっきりさせてもよかろう。ただでさえオミットしているエピソードが多いのだから。

3.那須の乃木は必要か?
 原作には、この那須における乃木はまったく出てこない。ちょっと説得力に欠けるシーンだし、乃木がどういう人かも出し切れていない。どうも乃木という切り口は失敗しているような気が…。もっと、大車輪になって働きまくっている児玉にフォーカスしても良いのでは?

4.虚子と碧梧桐を最後まで活かしきれず
 これは、すでに第一部から始まっていた事なのだが、とにかく虚子と碧梧桐の扱いは大失敗だった。
 まず、なんと言っても、子規が発病して最初に松山に帰京した際、友人と野球をやろうと言いだし、中学生だった虚子たちから道具を借りるシーンがないところで、致命傷を負っている。司馬遼太郎は、このシーンを描きたくて、「坂雲」を書いたようなものだとさえいっている。制作側は、そのことを知らなかったのだろうか?ここを取り落してしまっては、「坂雲」をドラマ化する意義を放棄してしまったようなものだ。ただの「日露戦争ドラマ」でも良くないか?
 虚子と碧梧桐が大学を飛び出し、上京、須磨で子規を看護し、従軍する子規を見送り…という、一連の彼らの働きもまるっきり無視してしまった。これでは、子規の死に際して、虚子がどうしようが説得力がない。そもそも、子規の死のシーンも、どうして原作とは違う展開にしたのだろう?答えは分かっている。虚子と碧梧桐の要素をオミットしたために、虚子視点である子規の死も、必然的に描けなかったのだ。菅野美穂の演技に救われたとはいえ、原作はもっと凄い。そのせいで、虚子の「子規死すや…」の句がひどく唐突で、浮いてしまっている。

 結局は、構成と脚本の失敗と言うほかない。どうも不思議なのだが…制作側は、原作を何回読んだのだろう?まさか2,3回ではあるまいに、この大きな構成上の失敗はあれで良しなのだろうか?それでもなお、くどい律のシーンや、夢ビジョンを作らなければいけないだろうか?
 こうなると、「坂の上の雲」という作品の良さとは何か、という根本的な問題になる。きっと、私の意見と、ドラマ制作者,構成担当者,脚本家の意見はまったく合わないだろう。

 次回は、どうなるだろうか。好古の大胆不敵傍若無人シベリア偵察(?)はきちんと描けるだろうか?真之にばかりフォーカスしているので、心配だ。大庭とか、大丈夫か?後で児玉に酷い目に遭わされる彼だけに、ちゃんと描いてほしい。
 それから、真之は「さっさと会戦しろ!」…派な人で、酒を飲んで気炎を上げる方なのだが、そこは大丈夫か?そこで信三郎兄さんにポカンと怒られなきゃいかんのだが。まぁ…期待はしていない。

 第8回 :日露開戦

坂雲8回目…いや待てよ。全部で13回なんですよね?でもまだ3巻の中盤にしか来ていないのですが…。全8巻………

気を取り直して、良かったところ
1.盛装が見られた!

 やっぱり、海軍,陸軍の盛装した兄弟は格好良いです。特に兄さん。ところで、八代はともかく、高橋って真之の結婚にそんなに関わっているの?単にNHK的にお気に入りキャラなのか?だったら戦争債大作戦もちゃんと描くんだろうな?

2.やっぱり菅野美穂は良い
 べつに今回、彼女の出番なんていらなかったのだが、出てきたら出てきたで、あの表情はよかった。「ドジョウ?」彼女は愛想のない女をやらせたら日本一だ。同じ女として、ああいうタイプは共感する…。

3.お馬さんやお船が沢山でてきた
 三笠!出ましたよ三笠!サルーンとかも出てきましたな。馬もずいぶんてんこもりで。がんばりましたね。

4.子煩悩な兄さん
 子供かかわいくて仕方がない兄さん(当人はそれを恥じているらしいが…)。おお、次女健子さんではありませんか!彼女こそ、律が真之のことを好きだったのではないかと推測する当の本人。シバ先生、女児の直観ってのは、甘く見ちゃいけませんよ…

展開が遅いのに悪かったところが多いというのはどうなんだ
1.好古傍若無人、それ行け偵察大作戦をオミットした

 これはかなり致命的!!!原作の中でも特に素晴らしいシーンなのに!このドラマ、本当に好古を描く気がないよな…。しかし、原作ファンの半分はおそらく兄さん贔屓ではないかと思われる(私もそっちの方)。
 その兄さんが、シベリアに乗り込み、「あいさつじゃ」だの、「おっ、ここが司令部らしいな!」とか言ってそっこらじゅう見て回ってしまう大立ち回りを演じる(しかも笑える)のに、バッサリカット。…予算の関係で、撮影できなかったのだろうか。

2.真之、兄さんから説教を食らうの下りをオミットした
 だめだなぁ…天津から戻った兄さんが、さっそく弟情報を収集して、説教するのが良いのに。それっぽいシーンがなくもないが、下手にお涙の家族の風景に転換してしまったのがいけない。真之という、およそ傲岸としか言えない天才が、兄さんにだけは絶対服従で、それがあるからこそ、海軍での仕事が成り立つほどの影響力なのに。その重要性が分かっていない。

3.構成に難あり
 これはいつものことだが…今回は展開が遅くてうっとおしく、大事なところをカットするわりに、要らないシーンをさしこむ。最後のシーンも、連合艦隊が出撃するところまで一気に持っていかなければいけなくないか?大門軍団がそろっただけで終わってしまったじゃないか。ところで、森山慶三郎はちゃんと出てくるんでしょうね?彼のシーンはかなり印象的だぞ。

4.そこまでやるな!
 日高は短刀こそ抜くが、権兵衛と取っ組み合いはしておらぬ!なんだありゃ。ドラマってああいう演出をしなきゃいけないような規則なのか?真之の嫁も、出番を増やし過ぎで面倒くさい。佐世保の下りは要らないだろう。
 明石のところの演出も変。栗野はたしかに、当初明石の才能を察知することができなかったとは言え、なにも意地悪をしていたわけじゃない。第一、あのドラマの演出では、明石の仕事を蔑んでいるようではないか?違うんだよな…原作をちゃんと読めば分かるが、明石は「堂々と」スパイ活動するところが面白いのに。階級だってかなり上なんだから、栗野のあの態度はおかしい。

 やはり改めて訊いてみたいのだが、制作側は原作を何回読んだのだろう?10回は読んでいなきゃ困るが…。それでもああいう演出や、省略や構成にしても平気なのだろうか?それとも、原作を読めば読むほど、ドラマ化は無理だという気持ちが強くなるので、読まないことにしているのだろうか…?

 第9回 :広瀬、死す

良かったところといえば、確かに良かったところだが
1. 三笠の中とか、色々船が

 ひとつの軍艦セットで、色々な船のシーンを兼務させているのだろうが、船っぽいシーンが色々出てきて面白い。水雷艇の全貌がよく分からないのは惜しいが。

2. 閉塞作戦
 広瀬が戦死することになる閉塞にじっくり時間をかけているところは良かった。彼の死のシーンもまぁ、それほどひどい演出もなく、すんなり行った方かな。

3. 状況説明は分かりやすい
 まず制海権の掌握、旅順の意義、旅順口の重要性などの説明は、分かりやすい。

4. ロシア側の「日本士官葬儀」についてのエピソード
 この葬儀の下りは、原作にはない。しかし、このエピソードは面白い。

良いところは、結局悪いところに繋がってしまう悲しさよ
1. アレクセーエフはアレで良いのか?

 ちょっとやりすぎのような気が…。水雷の奇襲まで、折込済みみたいな感じは、ないはずだが。あのキャラだけで、ロシア側の開戦が決してしまうというのも、やや不自然。製作側に、原作を出た範囲での解釈が加わったな…

2. 有馬のキャラはアレで良いのか?
 確かに有馬は閉塞に積極的だった。しかし、やや割を食う役柄(「意地悪」とは言わないが)をあてはめられては、ちと気の毒。原作では、ちゃんと真之が「閉塞するしかありませんな」とコメントしている。ドラマとしては、閉塞失敗の責任を、真之に負わせたくないのか?そういう必要があるか?
 無論、有馬が全責任を取ることで、真之という作戦の中枢を守ろうとしたのは良かったのだが。

3. 時間配分はもう放棄したのか?
 旅順口に時間をかけて、丁寧に描いたのは良いが、時間をかけすぎではないか?全体の時間を計ると、旅順口だけにあれだけとどまっていては、話が展開し切れない。陸軍にいたっては、全く出てこない!(確かに、まだ動く時期ではないのだが…)
 これは、「坂の上の雲」という長い物語をドラマ化しようとした時点で、すでに失敗しているといわざるを得ない。完全映像化は無理にしても、あの作品の良さは何か、ということを考えると、あの省略のしかた、アンバランスな時間のかけ方では、小説のドラマ化にはなっていない。結局、このドラマは小説のダイジェストどころか、部分的な映像化にしかなっていないといわざるを得ない。

4. いや、別に面白い台詞じゃないから
 脚本側としては、「用心棒になってください」が面白いと思っているらしいが…いや、私はぜんぜん面白いとは思わない。原作でも、真之が子規の用心棒だったこともないし、律だってべつに子規の用心棒なんてしていない。彼らの間にあるのは、敬意と愛情であって、庇護欲ではないのだが?どうも私は「守ってやる」という台詞が好きじゃないらしい。
 用心棒というのもぜんぜんシーンにはそぐわない、変な印象。日本に残った女たちが支えあいながら、がんばっているということを表現したいらしいが、どうも失敗ではないかと…

 項こそ立てないが、開戦直後、森山が島村と真之を垣間見るシーン、すごく良いのだが、オミットされた。やれやれ。仕方がないか。
 また1年間の休憩。旅順口のところで止まるというのも、困ったものだ。このドラマは、原作を読んでもらうという点においては、貢献しているのだろうか?そうでなければ、私にとっての救いがひどく少ないのだが


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