エピローグ

The Three Musketeers  三銃士  Pastiche  パスティーシュ


  義理人情が高くつく
  

 銃士隊長のトレヴィルは、頭を抱えていた。
 (どうしてこうなるのだろう…)
 確か、パリ市中で問題を起すのを回避させ、枢機卿の攻撃をかわすために三銃士とダルタニアンをバニアに派遣したはずだが、結局問題が何倍にも膨れ上がってしまった。
 枢機卿は自分の護衛士たちの職務遂行を、銃士たちとダルタニアンが妨害したと言って酷く立腹している。騙されただの、民家に閉じ込められただの、一体どうしたらそんな騒ぎになるのだろうか。四人分の馬まで突きつけられては、返す言葉もない。
 しかも、バニア要塞に立てこもっていたはずの『愛と自由のバニア騎士団』はいつの間にか姿を消し、しかもその脱出に四人の男が手を貸したのではないかという目撃情報が、ブラー川の対岸からチラホラとあがってくる始末。
 しかも帰京した四人とも馬は盗まれ、更に必要経費が足りなかったと平気な顔で ― ポルトスが言うではないか。彼の言い分では、そもそも偵察に行っただけで騎士団が解散してくれたのだから、万々歳 ―だ、そうだ。トレヴィルにはどうも納得できない。

 ついでに、事のあらましも説明せずに、アトスが一人でやって来て、司法手続きの代行を申し入れに来た。彼が提出した書類には、ラ・フェール伯爵の署名がある。トレヴィルは眉を寄せて、顔を上げた。執務机の前には、アトスが無愛想に立っている。トレヴィルが尋ねた。
 「お前、この名前を使ったのか。」
アトスは黙って頷いた。
「あの三人はこれを…?」
「知りません。」
「本当か?」
「正確には、一人が見て見ぬふりをしています。」
「ポルトスだな。」
トレヴィルは書類を折りたたむと、添え書きを作り、署名してひとまとめにした。
 「よかろう。これは私が預かって、午後にでも手続きを完了させよう。司法省から、このガバノンって男の名づけ親に連絡が行くだろう。アトス。お前、署名した以上はちゃんと責任を取れよ。」
「それは勿論。分かっています。」
そう言い捨てて、アトスは一礼すると、踵を返して執務室から出て行った。

 数ヶ月後、ラ・フェール伯爵の元に、リヨンから一通の手紙が届き、パリのアトスに転送されてきた。バニアを脱出してから二週間後、パトリス・ガバノンは息を引き取った。そしてその報告がリヨンの名付け親に届けられた。エリックの後見人となったこの人物は、エリックの財産の詳細をリストにしてラ・フェール伯爵に報告し、エリックが十八歳になるまで財産管理を行うと署名していた。
 最後に、エリックはサン・マルクを離れて、リヨンの後見人の所に引き取られ、学校に通うことになったと、添え書きされていた。


                     義理人情が高くつく 完




あとがき

 私の三銃士パスティーシュ第四作を、最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
 今回の作品のネタを仕込んでいた時、私はちょうどスティーブ・マックィーン主演のテレビドラマ「拳銃無宿 Wanted: Dead or Alive」のDVDを夢中で見ていました。30分ものの簡潔なストーリー展開の中には、子供が行方不明になった親探しの依頼をする話が、いくつかありました。今回のパスティーシュでは、このネタを拝借したという訳です。
 ドラマでは多くの場合マックィーンが子供の親を無事に連れ帰り、ハッピーエンドとなるのですが、さすがにそこまでは出来ませんでした。そもそも、私は親子の情感よりもアトスやポルトスの佇まいを描く事に力点を置いておりましたので…。
 第10章の表題になっているWith God on Our Sideという言葉は、私が大好きなミュージシャン,ボブ・ディランの詞で、邦訳では「神が味方」と呼ばれています。原曲では、世界に存在する様々な困難 ― 戦争や貧困を含む ― に苦しむ時も、きっと神様がそばに居てくださる ―という、かなりプロテスト色の強い曲です。
 しかし、特にライブの時などにこの曲を歌うディランは、力を抜いて何でもないように歌うのです。語るのでもなく、諭すのでもない。どの神様か、どの宗教なのかは関係なく、きっと、どこかに、誰かがそばに居てくれるのだ ― 肉体はなくとも、誰かの思いが ― 愛であれ、友情であれ、ただの腐れ縁であれ ― きっとあなたのそばに居てくれる。私はそんなメッセージが好きで、今回の作品に挿入しました。

 今回の作品で残念だったのは、せっかくのダルタニアンというキャラクターを、前作ほどには生かしきれなかった所かも知れませんね。みなさんは、どのようにお感じになたでしょうか?
 ご感想などありましたら、また掲示板やメールでお寄せ下さい。新たな作品作りの力になりますので。
 最後に、もう一度応援してくださった皆さん、読んでくださった皆さんにお礼を申し上げます。

                                 12th February 2006

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