原作 「三銃士」の基礎知識


 原題は Les Trois Mousquetaires フランス語(私は慣れで英語の題を使うことが多いのですが)。
 作者はアレクサンドル・デュマ(ペール)大デュマなどとも呼ばれます。1802年生まれ,1870年没。

 「三銃士」は1844年に新聞連載小説として発表さた当時から熱狂的に支持され、その人気は150年以上経った現代でも衰えません。お話の舞台は1620年代のフランス(つまり現代の日本人作家が幕末動乱期の小説を書くようなものか?)。ガスコーニュから上ってきたダルタニアンが、アトス,ポルトス,アラミスの三銃士と固い友情で結ばれ、権謀術数渦巻く宮廷,戦場に華々しく活躍するというもの。史実とフィクション,しゃれた会話や痛快な行動、ありふれた勧善懲悪とはまた異なる価値観と、何と言っても作品全体にあふれる「若さの輝き」が魅力の小説です。
(右の写真は、新聞連載後ただちに本で発売された「三銃士」の広告。最上部円形内の肖像が原作者デュマ。パリ国立図書館蔵)


 これは私個人が強く思うことですが、「三銃士」には無駄がないという点が特筆するべきではないでしょうか。程よい長さに、機敏な場面転換、更に巧妙な複線が折り重なって、「これぞ小説!」という一つの理想形が、デュマの「三銃士」なのだと思います。

 この「三銃士」があまりにも好評だったため、(現代の映画などでも良くあることですが)続編の「二十年後」と「ブラジェロンヌ子爵」が書かれました。が、私個人の感想としては、「無駄のない構成」において、続編は「三銃士」に及ばないのではないかという気がします。そもそも、「三銃士」はこれ一つで完結している訳ですから、いたし方がないのかもしれません。ともあれ、そこは大デュマ。続編も退屈などとは程遠い秀作であることは間違いありませんので、ぜひ一読を。


 共立女子大学の鹿島茂教授は、デュマについて、次のようなことを述べています。少し長くなりますが引用してみましょう。

 「アレクサンドル・デュマ(ペール)というのは、ある意味でフランス文学史における最大の謎である。なぜかというと、デュマのように、名誉欲、性欲、食欲のすべての面で桁外れではあっても、精神面では、異常なところも変態的なところもない健康的な快男児が文学者として成功したばかりか、大文豪として名を残したというケースは、他には全く見当たらないからだ。
つまり、本来、文学に漂流してくるような人間というのは、心のどこかに、健康な一般人とはちがう偏差があり、世間では絶対に自分は受け入れてもらえないという確信のようなものをもっていのが普通だが、デュマはこうした文学青年的なところがまったくない、しごくまっとうな健康優良児だったからである。」

健康的な快男児!
これこそ、「三銃士」を不朽の名作にしているキーワードかも知れません。上記のデュマ評は、そのまま主人公ダルタニアンにもあてはまることではないでしょうか?更にデュマの場合黒人の混血児という出生が、彼の正当な評価を長い間(生前生後に渡って)妨げていたということを考え合わせると、この健康的な快男児の存在は、まさしく奇跡的とも思えるのです。

The Three Musketeers  三銃士  


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