The Three Musketeers  三銃士  レスター監督版映画 「三銃士」 & 「四銃士」 

  リチャード・レスター監督版を見よう!

 朝日新聞社が発行した「週刊朝日百科世界の文学」によると、
 「民衆娯楽メディアの決定版たる映画が登場すると、デュマの小説は争うように映画化された。とくに、『三銃士』はたんに波乱万丈のストーリーであるばかりか、若手スター集団活劇という側面があるため、世代が代わるたびに映画化が企てられた」…のだそうです。そうだとすると、1960から70年代にかけての世代の「三銃士」こそが、レスター監督版という事が出来るでしょう。
 私はなぜ、レスター版が好きなのか?…これから色々と語っていくわけですが、ここまで書いてふと気づきました。この「世代」が重要なファクターなのかも知れません。アトス,アラミス,ポルトスの役者は1926年から1935年までの生まれでやや年上ですが、主役たるダルタニアンを演じるマイケル・ヨークは1942年生まれ。まさに60年代の申し子です。そして監督であるリチャード・レスターもまた、60年代に世界を変えた若者のパワーを撮った人物です。60年代のカルチャーの余韻が強く、咀嚼もされた70年代、まさにこの映画は作られました。60年代を中心としたロックンロール好きの私は、非常に根源的な次元のカルチャーとして、このレスター版に対する愛着を持っているのかもしれません。
 やや漠然とした前置きが長くなりました。ともあれ、まずはレスター版映画「三銃士」と「四銃士」の魅力をご紹介しましょう。


レスター版の基本情報

 リチャード・レスターは当初、映画を一本製作するつもりだったようです。しかし、彼曰く「上映時間が長く、物語の内容が良すぎて一つにまとめるのはもったいないから」、ふたつに分けられました。したがって音楽を除くすべてのスタッフ、キャストが同じ。撮影も同時に行われました。ですから、この二本の映画はオリジナルとその続編というより、一つの映画ととらえた方が良いでしょう。
 まず1973年に「三銃士(The Three Musketeers)」が公開され、1975年に「四銃士(The Four Musketeers)」が公開されました。監督や多くのキャストはアメリカ人ですが、映画そのものは「イギリス映画」となっています。
 今でも時々、衛星映画劇場などで放映されますし、DVDも出ています。重版はされていないようですが(それが映画の常識らしい)、今でもネットなど探せば入手可能です。日本版では「三銃士」と「四銃士」が一緒に収録されているので、とてもお得。アメリカ版では二枚組のボックスセットになっています。


原作に忠実?「のみならず」の上手さ

 レスター版に対する評価でよく眼にするのが、「原作にもっとも近い」という評価です。これは本当です。大筋では原作の通り物語は進行します。そして幾つかの重要な場面では、かない詳細に忠実だったりもします。特にダルタニアンと三銃士の出会いのシーンは、かなり忠実ですね。そして、少々ショッキングな結末も、原作を尊重しています。映画は全体に、明るく楽しく軽いノリですが、本当に大事な所はきちんとおさえているのです。よくハリウッドで作られるような「すべてがおめでたく、都合の良い結末」では、決してないのです。
 しかし、一方でかなり思い切って原作を切り捨てているのも、レスター版の特徴でもあります。全てを盛り込もうとすると、とても200分では収まりません。そこで切り捨てるものはバッサリ切り捨て、原作の全体を構成しなおしているのです。既に原作を全て読んでいる人が鑑賞する事も、ある程度計算に入れているような節があります。また、登場人物もかなりそぎ落としています。その分、複数の役割を担う人(ロシュフォール)なども登場する事になりました。
 ですから、レスター版は完全に「原作に忠実」とは言い切れません。忠実でありつつも、上手くはしょり、構成しているというのが実際のところです。映画として楽しむには、これは非常に重要な努力だったと思います。私は原作を読んだ後にこの映画を初めて見たのですが、まず「凄く忠実だ」という感想を持ち、次に「上手くはしょった」と思いました。製作側の狙いは、見事に的中したということだと思います。


はまり役の豪華キャスト

 レスター版の宣伝文句としてよく言われるのが、「豪華キャスト」です。そう、確かに豪華キャストです。しかも、それの全てが「はまり役の豪華キャスト」なのです。原作に忠実に「はまって」いるのは、ダルタニアン,リシュリュー,ミレディ,バッキンガム公爵といったところでしょうか?そして原作の良さを上手く映画にする上で、「はまっている」のが三銃士。主役のダルタニアンを上手くはめ込むために、三銃士には多少の手が加えられています。しかし、それは原作の延長上に「切捨て」と「追加」が入っているように思われます。
 原作とは違うキャラクターなのが、ロシュフォールと、コンスタンス。この二人は、映画化におけるしわ寄せを食う形になっています。しかし、そこはレスター版。違うキャラならそれはそれで、いい加減なキャストは組まず、「映画版での」はまり役を持ってきています。とくにロシュフォールのクリストファー・リーは、なかなかのものです。


演出の妙 ― 常に笑いを忘れない

 
しっかりした原作がある上に、それに忠実であろうとするのですから、演出の余地は自ずと限られてきそうですが、そこで思いっきり遊んだ演出を加えているのも、レスター版の特徴です。特に、笑いに対する細心さには感心します。レスターは元々、コメディの脚本を手がけていただけあって、この点は抜かりがありません。その「笑いの演出」は、モンティ・パイソンなどに代表されるようなブリティッシュ・テイストが強く、インテリによるお馬鹿な笑いと言ったところでしょうか。もちろん、デュマの原作自体、常に笑いを忘れずに読者をひきつけているのですから、その点もよく反映されていると思います。


 まずは簡単に、レスター版の特徴を列記してみました。しかしこれだけではありません。書き始めるときりがありませんので、細部については別にページを設けて、語っていこうと思います。とにかく愛着のある作品だけに、チャプターごとの語りなども加えてみたいところです。

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