映像化された最高のホームズ

 今や日本でグラナダテレビと言えば、シャーロック・ホームズ!定番になりましたね。グラナダテレビは、そもそもマンチェスターを拠点にしているイギリスのテレビ局です。
 グラナダテレビがシャーロック・ホームズ・シリーズをドラマ化したのは、1984年から約10年間の事。かなり昔の事になるのですが、今見てもその魅力はまったく色褪せる事がありません。さすがは古典と、その映像化の最高傑作です。ドラマは2時間のスペシャル版も含めて、全41作品製作されました。原作が60作ある事を考えると、かなりの数をカバーしている事が分かります。
 このシリーズの特徴は、とにかく作りが丁寧である事。原作のストーリー構成をよく吟味した脚本と、演出が光ります。グラナダについて、「原作に忠実」という評価が一般的なのですが、私が思うに「原作よりも、更に本物らしい」という、不思議な出来栄えだと思います。つまり、原作における矛盾点や、不自然な点を上手にフォローし、ドラマとして面白く仕上げている点が評価できると思うのです。原作にはない、小さなオリジナルシーンも、「いかにもありそう」な上手い作りで、感心します。
 セット、衣装、小道具なども「金を惜しまない」という心意気がよく伝わります。特に男性陣の衣装は仕立ての良さをテレビ画面を通じて伝えなければならないとあって、半端ではありません。この手の本物志向は、映画ではよく見られますが、テレビドラマで実現した点が凄いですね。
 登場人物のキャラクター作りにおいては、私がここで言うまでもありません。ホームズの「ディアストーカーにインバネスコート、いつでもどこでも曲がりパイプ」という古風なイメージを排し、「スマートでダンディなヴィクトリア朝紳士の見本・ホームズ」を見事に登場させました。また、ホームズの親友にして記録者であって、道化役ではないワトスンの本来の姿も、とても鮮やかです。
 それらの人物を演じる役者陣にも、定評があります。主演のジェレミー・ブレット,デヴィッド・バーク,エドワード・ハードウィックの3人は勿論、その他の出演者もよく「ハマって」いました。
 その質の高さゆえにファンの方も多く居ます。リンクページには、そんな方々の素的なサイトさんも紹介しております。更にグラナダが楽しくなること、請け合いです。


 私とグラナダ・ホームズ

 NHKは海外のドラマを数多く紹介していますが、グラナダ・ホームズを放映したのは、特に大きな功績でしょう(その一方でBBCの「レッド・ドワーフ」(これまた私が大好きなドラマ)も放映するのだから凄い)。NHKでの放映は、ほぼ本国と同時期で私は小学生でした。当時はまだドラマやミステリーへの興味は薄かったので、89年の第4シリーズまでは初回放映を見ていません。ただ、予告でいきなりワトスンがぶっ倒れていた(つまり「空き家の冒険」)のを、微かに記憶しています。その後、総合,衛星などで繰り返し再放送されて、その凄さを知ったという次第。必死になってビデオに撮ったのを微笑ましく思い出します。自宅が加入していたので、ケーブルテレビで見た事もありました。これは慣れ親しんだ吹替えではなく、役者本人の声。さらにノー・カットだったので、非常に驚きました(とくに、最初に見たのが「入院患者」だったので、驚きもひとしお)。
 第5シリーズからは毎回、初回放映をチェックしました。新作が放映されるという情報を得るたびに、家族や友人とわくわくした物です。ですから1995年9月、新聞にジェレミー・ブレットの死亡記事を見つけた時には、本当に驚きました。
 「この人、一体いくつだったんだ?!」
実際は61歳でした。死亡記事の写真は、トップハットを被ったホームズ・スタイルの笑顔だった事を鮮明に覚えています。
  彼の死によって、グラナダのホームズ・シリーズは終わりました。しかし、そこは天下無敵の人気シリーズ・ドラマ。NHKで再放送される事数知れず。放送される度に本屋では原作が前面に押し出され、DVDボックスセットの新聞広告が紙面を占領する。こうして、その魅力はいまだに新たなグラナダ・ホームズ・ファンを創造し続けているのです。


面白いのは…

  散々「グラナダは素晴らしい!」と書いた訳ですが、しかし世の中に完璧なものなんて無い…と言ったのは佐野元春だったか、ボブ・ディランだったか。さすがのグラナダにも欠点はあります。その最大のものを、過激に表現すると…

「面白いのはバスカヴィルまでだ!」

 グラナダの全41作品の内、26番目の作品が「バスカヴィル家の犬」です。つまり私の感想としては、面白いのは前半だという事。こう言い切ってしまうのは、少し乱暴ですね。バスカヴィル以前にも「これはちょっと…」という作品もありますし、バスカヴィル以降にも、良いものはあります。全体的な評価はいまいちだけど、好きなシーンはあるという事も。それらは例外として、総じて前半の方が出来が良いと思います。
 シリーズの後半は、「名作ドラマ」と言う評価が定着したが故のプレッシャーなのか、全体的に演出過多に陥ったような印象があり、私は「引いてしまった」というのがその理由です。それから、「面白い原作のネタが尽きた」という事情もあるでしょう。これはグラナダのせいではなく、ドイルのせいなので仕方がありません。
 そんな訳で、DVDはバスカヴィルを収録した第26巻までしか購入しておりません。そのくせ、テレビで放映する時はバスカヴィル以降の作品だって必死になって録画に励み、しっかりリピートするのですから、やっぱり好きなんですね。

Sherlock Holmeshe   シャーロック・ホームズ


  グラナダテレビ製作ドラマシリーズ
  

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