グラナダテレビ製作ドラマシリーズ / 各エピソード別感想

 空き家の怪事件 / プライオリ・スクール / 第二の血痕

Sherlock Holmes

 空き家の怪事件

 エドワード・ハードウィック初登場作品にして、グラナダ・ホームズの後半開始作品。「最後の事件」を全くまともに鑑賞できない私であるが、この作品による後始末は中々上手いと思う。

 カラタス詩集などいかがですか?

 初めてこの作品を見たとき、ハードウィック・ワトスンを、てっきり前回までの同じ人(デヴィッド・バーク)が「年を取ったのだ」と解釈して納得してしまい、同じように考えた人も数人知っている。良く見れば顔は全然違うのだから気付いても良さそうなものだが…。
 ロナルド・アデア卿殺害事件について、監察医としてワトスン参加するというのは面白い演出。検死法廷のシーンなども興味深い。続いてワトスンの診療所のシーンとなるが、前半にはなかった設定で、これも興味深い。

 ホームズがワトスンの前に現れ、有名な気絶となるのだが、私としてはホームズがワトスンを介抱するシーンは無い方が良い(つまり、NHK放映時のカットバージョン)。その方が、ワトスン一人称的な叙述手法が際立つ。ひとしきり驚き、再会を喜んだ後に襟元の乱れやブランデーに気付く方が、表現としては私の好みなのだが。
 ホームズの「死ななかった」という説明の場面は、それを信じるワトスンの素直さがやや不自然だが、前作が前作なだけに仕方がない。まぁ、男の人らしい無邪気さと解釈しておこう。「兄さんほどには信用されなかったわけだ」という、ワトスンとホームズのやり取りが好き。情愛と理性のぶつかりを、穏やかに流す事はけっこう難しい。大人であればこそ出来ること。

 ゴキブリが頭の上に!(いしいひさいち 参照)

 モラン大佐との対決は、ベイカー街の細工につきる。いくらハドソン夫人が低姿勢で蝋人形を動かしても、やはり本人と思い込むのは不自然だろう。現場に駆けつけたレストレードは、よくも「騙されている」と思わなかったものである。警官としてはやや無防備か?
 それにしても、ホームズはワトスンに会う前に、スコットランドヤードと連絡をつけていたことになる。どこまでも仕事人間で、まことに結構。

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プライオリ・スクール

 イギリスの寄宿学校の様子が出てきて、興味深い。モンティ・パイソンのエリック・アイドルは7歳からこの手の寄宿学校に入れられ、その暗鬱とした雰囲気が嫌いだったとの事。無論、暗いのは建物と周囲の様子であって、当人達は別の手段で楽しく過ごしていたと思うが…。

 42種類のタイヤ

 校長がベイカー街にやってくるなり、ばったり倒れるところは原作と共に大好きなシーン。同時に横になっていたホームズが跳ね起き、「なんだこりゃ」という顔をするのも良い。ただ演出としては部屋は明るいほうが、間抜け感が出るような気がする。

 失踪当夜のサルタイア卿と教師の行動の推理とその再現は、緊迫感と臨場感があって面白い。更に、その推理に伴って翌日の探索となる。タイヤ痕の追跡については、シャーロッキアン各位の指摘があるが、私にはメーカー名の方が興味深い。吹き替えでは「ハウンド」になっているが、オリジナルでは「ダンロップ」。吹き替えが「ルーバー」になっている方も、「パーマー」。公共放送ならではの配慮だろう。

 プロットとしては良く出来ている作品だが、明るい雰囲気が好きな私には、最後にワイルダーを死なせてしまったのが残念。

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第二の血痕

 グラナダ・シリーズの中でも、特に私がお気に入りの作品。原作はそれほどでもなかったのだが、このドラマ化は大好きである。

 上流階級のスピーディな展開

 まず首相と伯爵がベイカー街にやってくるくだり。わざと悠々とお茶を飲もうとするホームズの子供っぽさと、それには付き合わないワトスンの対比が良い。更に、慌てて食器を下げるハドソン夫人の様も、どこの家庭にもありそうな風景だ。
 首相と伯爵が引き上げたあと、伯爵夫人が乗り込んできた下りは、スピード感もあるし、彼女の秘めた狼狽振りも良く出ていて素晴らしい。更に、ホームズが一人で捜査に出かけようとすると、ワトスンが新聞でルーカスの死を知らせる。この階段を挟んだやり取りも、非常に格好良い。

 初めてこのエピソードを見たときに、一番印象深かったのは、ホームズが投げたマッチの火で、新聞が燃え上がるところ。どうもホームズは寝煙草も平気なようだし、危険な同居人と言えそうだ。

 やがてルーカス殺害犯の逮捕と、レストレードの登場となる。ホームズ,ワトスン,レストレードのシーンは、秋のロンドンに素敵なスーツとコート,トップハットの紳士が揃って、素晴らしい絵になっている。ルーカス殺害現場でのホームズの助け舟に、無邪気に喜ぶレストレードと、「得たいものは得た」というホームズ,それぞれ違うところの喜びが存在している様がおかしい。
マッチのシーンでも見られたように、「なぜ公表しないのか」という大きな疑問と、手紙の行方を考えている間に、ホームズは「手紙は意外な人物の手に渡っているかも」と、考えたかも知れない。だからこそ、伯爵夫人の写真をポケットに持っていたのだろう。

 大成功!

 伯爵の屋敷に乗り込むホームズとワトスン。夫人を少々脅して手紙を奪還。さて、どうやって返すのかと言うところは、見ているこっちもドキドキした。
 結局、スリ顔負けの手口で手紙を戻す。そこには明かせぬ事情がある事に勘付いている首相と、「外交上の秘密がありますので」というホームズの表情が、それぞれ格好良いオヤジを体現しているようだ。
 そして最後に「やった!」と飛び上がるオチつき。初めて見たときに、
「ホームズって良いヤツだなぁ〜!!」と声に出して言った瞬間だった。




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