グラナダテレビ製作ドラマシリーズ / 各エピソード別感想

 まだらの紐 / 青い紅玉 / ぶなの木屋敷の怪

Sherlock Holmes

 まだらの紐

 ホームズ・シリーズ屈指の名作。グラナダのドラマ化もそれに相応しい、素晴らしい出来だった。

 朝もはよから依頼人!

 朝7時15分のワトスンの寝室。ホームズがきっちりスーツを着こんで煙草をふかしている。この男、自分は完全に身支度が終わってから、人を起こしに来ると言う、非常にイヤな奴である。
 事情を説明する依頼人ヘレン・ストーナー。これぞ、女子相続人!結婚とともに遺産を相続する。姉が婚約者と楽しんでいるシーンの回想では、クロケーが出てくる。日本では殆ど馴染みがないが、英国ではメジャーなスポーツなのか、「不思議の国のアリス」にも登場する。金持ちが庭に綺麗に芝を生やし、ゲートを設置するものらしい。どうでも良いが、パイソンの第四シリーズに、グレアムが、芝に侵入してゲートを齧るムースを猟銃で撃つシーンがある。
 それにしても、この依頼人との最初の会談シーンは、「ジェレミー・ブレットによるもっともホームズらしいホームズ」がよく出ている。
 さて、ワトスンが朝食に食べるあの謎の物体は何?私にはコウモリのから揚げにしか見えないが…魚…ニシン=キッパーらしい。フォルティ・タワーズにも登場するが、英国の朝食ではポピュラーだそうだ。

 ストーク・モランの昼と夜

 ストーク・モランへ出かけるホームズとワトスン。そもそもこの作品の挿絵が、「ディア・ストーカーにインバネス」というホームズスタイルを植え付けたわけだが、ドラマでホームズが着ている長いコートは、素晴らしくスマート。
 現場検証 ― 固定されたベッド、変な通気候、鳴らないベルの紐、煙草の匂い、口笛 、そしてジュリアの最後の言葉 ― これらが全て綺麗に繋がって、非常に爽快。蛇はミルクを飲まないとか、調教は無理 ―などの矛盾点を、すべて相殺してありあまるほどの、素晴らしいプロットだと思う。

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青い紅玉

 珍しいホームズの有態に、クリスマスという季節感が楽しい、人気作品。もちろん、私も大好き。

 So, this is Christmas.

 ベーカー街の冒頭に撤水車が出てくるが、これも「クリスマスなので、町を清掃」という表現なのだろうか?続いて巨大なガチョウを携えた男が登場と言う、突拍子もなさがそもそも良い。
 そして、有名な寝起きホームズ。私は初めて見た時、本気で誰だか分からなかった。リハーサルの時点で、さて髪をどうしたものかと、ひと悶着しただろうか?ともあれ、思い切って前髪を下ろしたのは、懸命な選択でした!
 ブラッドストリート警部は、後期とはキャラ俳優が違う。
 さて、これまた有名なベーカー街での帽子を巡る会話の応酬。改めて言うまでもないが、グラナダ・ホームズの醍醐味。
 それにしても、クリスマスの落し物のガチョウの胃袋から宝石が出てくると言うこの発想、感嘆の一言に尽きる。これ以上に魅力的なプロットが、その後生み出されただろうか?

 行動すれば、行くべき所に行き着く

 落し物から始まった物語は、ずるずるとガチョウの持ち主,酒場,コヴェント・ガーデンの市場へと展開する。私が書く物語も、大体この流れをくんでいる。情報を聞き出すために酒を飲んだり、賭けを装ったりと言うのも、よくある形式だが、見てて楽しいので好き。
 ガチョウ卸のブリッケンリッジは特にお気に入りのキャラ。威勢が良くて喧嘩っ早い。
 物語の核心人物ライダー登場。この俳優ケン・キャンベルは、英国では名の知れた人なのだろう。フォルティ・タワーズにも登場した。
 私はどういう訳か、ライダーをベーカー街に連れてきてからの展開が、雰囲気的にあまり好きではない。それまでのホノボノした雰囲気が、急に刺々しくなるのが辛いからだ。もちろん無実の男が囚われているという深刻な事実があるのだから、この方が現実的なのかもしれない。しかし、私だったらきっと、それまでの雰囲気と盗んだ宝石をガチョウに飲み込ませたと言う展開を、そのままホノボノ路線に乗せ続けて最後まで持っていってしまうだろう。

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ぶなの木屋敷の怪

 「家庭教師に雇うので、髪を切ってください」というプロットも、前作に続いて絶妙な設定。ただ、ちょっとバタバタした展開で、「美しき自転車乗り」と同じくすっきりしない感じがする作品。

 霧の日に議論を吹っかける男

 機嫌の悪いホームズは、ワトスンに議論を吹っかける。「歯型で織工を…」というホームズの無茶な理論は、パイソンではケンブリッジ組(特にジョン・クリーズ)が書きそうなノリで、笑いを誘う。
 依頼人のヴァイオレット・ハンターは、シリーズ中でも最も美しい人の部類に入るだろう。美しいというだけではなく、可愛らしく、チャーミング。ホームズ世界の中では、少し珍しいタイプの女性と思われ、彼女の雰囲気とホームズの雰囲気のギャップが面白い。

 ぶなの木屋敷にて

 ハンター嬢からの連絡を受けて、やってきたホームズとワトスン。インで、おじさん二人と、可愛らしいレディが、巨大なケーキを前に、人毛の房を見比べている。私がインの主人なら、警察に通報している。
 ハンター嬢は、手に鏡を忍ばしたり屋敷探検をしたり、ホームズに勇敢さを見込まれるだけの事はある。トラー夫人を地下室に閉じ込める時の、「開けて」「どうぞお先に」という吹替えがお茶目で好きだ。
 この後、侵入者の登場,屋敷に乗り込むホームズとワトスン,ルーカッスル夫妻の帰宅,空腹の犬がルーカッスル氏を遅い、拳銃が火を噴き、けが人が発生…という展開になる。結局ホームズは大した事をしていないような気がするのが、この作品の物足りなさの原因だろう。

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