原作「シャーロック・ホームズ」の基礎知識

 今更大真面目に書くのも馬鹿馬鹿しい話ですが、「シャーロック・ホームズ」という題名の小説があるわけではありません。
 19世紀末から20世紀初頭にかけてロンドンを中心として、自称「私立諮問探偵(unofficial consulting detective)」のシャーロック・ホームズを主人公とする60編の推理・ 冒険小説を総じて「シャーロック・ホームズもの」と呼ぶわけです。
 原作者はアーサー・コナン・ドイル(1859〜1930)。1887年から1924年にわたって、主にストランド・マガジンなどにホームズの小説を連載しました。しかし彼は本来眼科医で、プロの文筆家ではありませんでした。また、彼自身は歴史小説家を夢見ていたため、ホームズの爆発的な人気振りには多少困惑していたようです。
 60編のホームズものには、ある一定の型があります。それを私なりに、簡単に列記しましょう。

1.主役はもちろん探偵シャーロック・ホームズ。天才的な頭脳と行動力の持ち主。仕事以外の点でも個性が強い。

2.作品のほとんどが(例外あり)「私」=ホームズの友人・ワトスンの一人称の視点で語られる。

3.話の構成を簡潔にまとめると、
  「依頼人が事件が持ち込む」→「調査,推理の展開」→「解決」となる

 60編の作品のうち、4つが長編ですが、「バスカヴィル家の犬」を除く3編は上記3.とは異なる構成になっています。すなわち、「解決」の段になって犯人による長い昔話が挿入されるのです。この3作が他の作品に比べて私の評価が低いのは、この型から外れてしまったが故かも知れません。

 私はよく作品を「よく出来ている」もしくは「よく出来ていない」と評価することがあります。上記の型の中で、物語が無駄なく、矛盾無く、しかも爽快に納得いくように展開,終結したときに、この評価は高くなります。「ホームズ」は「この手の評価」を受ける小説の先駆けだっただけに、辛い点をつけられる事も多いのですが、そもそも「この手の小説」という素晴らしいジャンルを確立した点において、ドイルの功績は絶大なものがあると思います。
  さて、ここまでホームズ物の「骨格」を述べましたが、忘れてはいけないのは、この「骨格」彩る個性豊かな登場人物です。登場人物と言っても、主な登場人物といったら、数人にしかならないのですが。そこがこのシリーズの「簡潔な面白さ」を支えているとも言えるでしょう。


 登場人物 (この項は文語体です)

シャーロック・ホームズ Sherlock Holmes
 
 仕事のためなら、殺人から傷害,窃盗,不法侵入,犯人隠匿,結婚詐欺までやってのける自称「世界でただ一人の私立諮問探偵」。卓越した観察力と推理力、そして行動力が彼を天才的探偵とならしめた。仕事命で、仕事が無いとただの「引きこもり」と変わらない。
 ロンドン,ベーカー街221b在住。独身。兄が居る。態度は総じて紳士然としているが、性格はやや尊大で、人を見下す傾向がある。しかも友人ワトスンを無理やり自分につき合わせることが多いため、日本の有名な漫画のキャラクターに例えて「ジャイアン」などと言われてしまう。解剖室の死体を棒で叩いて回るといなどという、奇行も多い。ヘビースモーカーでコカイン依存症(に、違いない。アヘン疑惑もある)。化学実験好きでヴァイオリン演奏もするので、基本的に理系頭脳の持ち主なのだろう。長身痩躯。身だしなみは綺麗だが、部屋は汚い。



ジョン・H・ワトスン John H. Watson
 
 アフガニスタン帰りの医者。ホームズの友人でルームメイト。友人の探偵としての才能を、小説の形で世に発表している。彼の小説は「私」という一人称で語られるため、彼自身の人物像は詳しく表現されていない。ともあれ、ホームズから全幅の信頼を寄せられており、時として依存されているので、かなりの人物らしい。だが、ホームズの奇行や性格上の難点なども小説に書いてしまうあたり、ただの「良い人」だけではないと思われる。
 第2作で出会った女性と結婚しているが、大雑把な原作者(ドイル)が細かい設定に気を配らなかったため、その時期があやふや。お陰で、シャーロッキアンによって、「ワトスンは2度,いや3度,数え方によっては4度結婚した」などという珍説奇説が奉られた。しかもドイルはワトスンのファースト・ネームまで間違えている。エイブラハム・アダムズ牧師並みの健忘症…というよりは、単に性格の問題だろう。

 シャーロッキアン各位の説はさておき、個性的で天才肌の探偵と、それを語る好人物の友人という取り合わせが、後の小説世界に大きな影響を与えたことは間違いない。
(この項、つづく)

Sherlock Holmeshe   シャーロック・ホームズ


  原作 シャーロック・ホームズ
  

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