Sherlock Holmes シャーロック・ホームズ

  
英語でシャーロック・ホームズを読む

 私は中学,高校で英語の授業を受け、その成績もあまり良くなかった…という程度の英語能力の持ち主です。その後、専門学問分野研究においても、出来るだけ英語に関わらない様にしたほど、得意とは言えません。

 しかしその一方で、ロックや海外ドラマ、コメディのファンであるため、意外に英語で「楽しむ」機会は多いのです。
 そのような訳で、ここ数年は英語で読書をする事が増えました。読書は別に英語の判断に間違っていても恥をかく訳でもないし、試験で悪い点をつけられる訳でもありません。それに勇気を振り絞って発音する必要もありません。しかも、読むのに時間がかかるので、恰好の暇つぶしです。
 最近は、アマゾンのようなネット・ショッピングサイトの充実で、洋書も簡単に手に入るようになったのも、英語読書のきっかけになりました。

 これまでに読んだものは、クリスティを1冊,パイソンのスクリプトをかなり,三銃士の英訳(大人用と子供用)といった所です。いずれも、その理解度は6割ほどだと思います。

英語素人による英語読書のコツ

 英語読書の先輩が、コツを教えてくれました。
 1.よほど困らない限りは、辞書を引かない。分からない単語は分からないままにする。
 2.同じ作品を2回連続で読む。最初に分からなかった所が分かってくる
 3.日本語訳の本は屋根裏部屋の金庫にしまうか、売り飛ばすかして、絶対に見ない

 そして、私が自分なり考えた、英語読書のコツは以下の通り
 1.電子辞書を持つ。仕方なく辞書を引くにしても、それが煩わしくては読むどころではない。
 2.しおりは、ポストイットを使う。普通のしおりでは、どこまで読んだか分からない。
 3.ペイパーバックを買う。電車の中など、出先でも常に読むような執念を持つべし。
 4.文章の冒頭の副詞(fortunately, particularly,など)は、辞書を引いてでも理解しておくと楽。

 これらを踏まえて、私はコナン・ドイルによるシャーロック・ホームズの英語読書に挑戦し、このたび The Adventures of Sherlock Holmes (シャーロック・ホームズの冒険)を読み終わりましたので、思った事などを記してみようと思います。

 苦難と快楽!

 まず、第一の印象は、「読みにくかった」です。
もちろん、私の英語能力にそのそものに問題があるのですが、クリスティに比べてもやや読みにくく、会話中心のパイソンと比べるとかなり読みにくいのです。
 良く考えてみれば、当たり前の事です。ドイルの文章は約100年前のもの。どこがどうという事をはっきり指摘する事は出来ませんが、100年もの時間を経た人間の文章が、簡単にフィットするはずがないのです。
 たとえば、同じ現代日本語でも、夏目漱石にはそれなりの ― 100年前の癖があり、21世紀の日本語とは、やはりどこか違うのと同じ事です。

 一番難儀するのは、長い文章です。これは日本語でも同じですが、語順が変る英語では、なおさら大変です。主語がはるか遠くにあったりして、一体自分は、今何を読んでいるのかが分からなくなってしまうのです。
 結局、文章は短く簡潔な方が良い、という事でしょう。もっとも、ドイルとて100年後に英語の成績の悪い日本人が、苦心惨澹しながら読むなどとは想像だにしなかったでしょうが。

 もちろん、苦難ばかりではありません。英語読書には良い事も沢山あります。
 まず、会話が面白い。学校の教科書に載っているような文章ではなく、会話が楽しめるのはドラマを見ているようでもあります。
 そして、頭の中で自分なりの翻訳が出来る事です。
 例えば、英語では I しかない一人称は、日本語だと沢山のバリエーションがあります。自分で英語読書すれば、一人称のどれを選択するかを、どこかの翻訳家の趣味に合わせずに済むのです。
 それから、理解力の強化にもなります。
 日本語での読書は、「分かって当たり前」なので気付かないのですが、英語読書の場合「これは一体、どうなっているのか、これはどう繋がるのか、これはどうしてなのか」という事を、立ち止まって考えねばならなくなります。物事を適当に流してしまっては、全然お話が分からなくなってしまうからです。
 人の話をぼんやり聞き流してしまったり、本も斜め読みにしてしまいがちな日常を、少し鍛え直す事になるのではないでしょうか。

 英語読書初心者にとってのホームズ

 英語読書の初心者にとって、ホームズは適当か?…Yesと即答したい所ですが、やはり少し難しいと思います。
 大衆文学とはいえ、やはりホームズ物は「大人の読み物」です。少し子供向けの英語で慣らしておいてから、という方が良いかもしれません。
 日本語訳のホームズにも「子供向け」があるように、英語でもやはり「子供向け」がありますので、ここからホームズに入るのも手だと思います。

 ただし、初心者でもホームズに挑戦できるのではないか、という要素もあります。
 第一は、短いと言う事です。前述しましたが、1回目にはまったくチンプンカンプンな英語でも、2回目には何故か理解できるという場面が、よくあります。しかし、長い作品だと2回読む事自体が大変です。その点、ホームズの短編は適当な長さです。
 第二は、ホームズは「何だか良く分からない叙情小説・心理小説」ではないという事です。普通に読めば、普通にお話の展開が理解できるように出来ています。当たり前のようですが、実は重要な事だと思います。

 さて、私が読んでいて感じた事を一つ。
 名作という評価のされている作品ほど、読みやすかったです。私自身がすでに日本語でよく理解しているという事もあるのですが、やはり「作品の出来が良い=文章の出来が良い」という事だと思うのです。その点、The Adoventures of Sherlock Holemsは、殆ど外れがないと言えました。
 それから、日本語で読んだ時は気付かなかった点も何点か。例えば、The Noble Bachelor は、題名の付け方の上手さに、感心しました。他にも、翻訳では気付かない「上手さ」が、感じられるのではないでしょうか。

 さあ、あなたも英語読書に挑戦しませんか?
 6割理解の私は、結構好きになってきました。

 Oxford World’s Classicsについて

 最後に、私が用いた版について、記しておきましょう。
 オックスフォード・ワールド・クラシックス・シリーズは、その名の通りイギリスのオックスフォード大学出版のシリーズです。
 原典が英語の作品はもちろん、外国文学も素晴らしい品揃えです。私は三銃士もこのシリーズで読みました(英語訳の善し悪しは、また別に意見がありますが)。今や私の中では「何はともあれ、オックスフォード」に、なっています。(http://www.oup.co.uk/

 日本のアマゾンでも品揃えが良いので、かなり簡単に手に入りますし、値段も手ごろです。
 オックスフォードの特徴の一つは、詳細な注釈です。例えば、The Adventures of Sherlock Holmesの場合、全406ページの内、編集者による前書き,ドイルのクロノグラフ,作品年表,巻末注釈などだけで114ページもあるのです。何と、全体の30%近くを占めています。
 これはもう、親切丁寧を通り過ぎて、やり過ぎの観もあります。特に注釈は「変なシャーロッキアン」の域に達しています。
 それでも、これらの注釈・解説が思わぬ所で役立ったりもします。読み進んでいる間は、よほど気にならない限りは、注釈など飛ばしてしまえば、問題ないと思います。『巻末注釈』でお分かりの通り、本筋は原典に忠実なのも、私は気に入っています。
 ホームズ・シリーズは今の所、“A Study of Scarlet” “The Adventures of Sherlock Holmes” “The Memories of Sherlock Holmes” “The Hound of The Baskervilles“ “The Case-Book of Sherlock Holmes”の5作品が出版されています。続きが待たれます。

                                                       14th June 2004

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