婚礼当日ほどではないにしても、翌日のトーナメントも好天に恵まれた。川に面した広いトーナメント会場は、朝から見物人でごったがえしていた。
 貴族達のために桟敷席がしつらえられ、美しい幕がそれを彩る。中央にはモンタキュート家とメイブリー家の紋章の幕が張られ、モンタキュート夫妻とウィルフレッド・メイブリーが席に就いた。そして、花嫁のマチルダが現れると、見物人たちの間から拍手があがった。
 続いて、一段高く、王家の紋章のある幕が張られた貴賓席にサマーセット伯爵,ジョン王子、そしてトーナメントの主催者であるランカスター公爵兼モンマス生まれの皇太子ハルが席につくと、更に歓声が高まった。
 豪華なローブを纏って正装したハルは、立ち上がると新郎新婦に祝福の言葉を述べ、神に短い祈りを捧げた。そして声も高らかにトーナメントの開会を宣言すると、華やかなファンファーレが鳴り響き、騎士道の華が幕を開けた。
 広い競技場へ、次々と美しい甲冑に身を固めた戦士が馬に乗って現れ、馬上試合を展開した。今回の競技は、主に槍(ランス)で行われる。槍の試合とは言っても、勝敗を分けるのは槍捌きだけではなく、乗馬の腕も重要だった。
 トーナメントに出場するのは、近隣からの者はもちろん、遠方からも駆け付けた腕に覚えのある騎士、郷士達である。それに、花婿のアーサー・モンタキュートが加わり、競技場狭しと駆け回った。
 二日前の雨のおかげか、さほどの土煙もあがらず、快適なトーナメント観戦となった。桟敷席の人々も、競技場を取り囲んだモンマスの町や近辺の村の人々も、次々に現れる美しい騎馬武者に見惚れ、声援を送っている。
 競技者達は、誇り高き騎士道に基き、折り目正しく、正々堂々と勝負を挑み、桟敷席のレディや、高貴な人々 ― とりわけ皇太子への礼を欠かさなかった。それを受けるハルも、落ち着いた風情で戦士達の健闘を称え、勝利者にはその栄誉を祝福する言葉を贈った。
 さんざん貴賓席など嫌だと言っていたハルだが、いざその場になってみると、実に堂々たる物だった。

 デイヴィッドは、競技場の一番外側 、モナウ川の土手に座って、遠巻きにトーナメントを眺めていた。土手を覆う草の冷たさが、秋の深まりを知らせる一方、日の光が明るく降り注ぐ。時々白い雲が流れてきた。
 デイヴィッドはトーナメントが始まった時から、この土手に座っていた。見物人達は競技や桟敷席の人々に釘付けで、彼に気付く気配もなかった。
 トーナメントも進み、決勝に近付いてきた頃、人影がデイヴィッドの頭の上に落ちた。
 デイヴィッドが顔を上げてみると、そこには美しいドレスの上から、無造作に地味なマントを羽織った、ジェーン・フェンダーが立っていた。
「やあ。」
デイヴィッドが言うと、ジェーンは型通りの挨拶は抜きにして言った。
「ここ、よろしい?」
「ああ。構わないけど。」
 答えたデイヴィッドの隣りに、ジェーンも同じように座った。デイヴィッドは競技場の方を見遣ったまま、ジェーンに尋ねた。
「こんな所に居て良いのかい?レディ・マチルダの側に居なきゃいけないんだろう?」
「あなたこそ、皇太子殿下のお側に居なくて良いの?」
「良いんだよ。ジョン様が張り付いているし。俺が必要なのは、ああいう仰々しい席じゃない。」
「私もよ。マチルダには、アーサーも、モンタキュートご夫妻も居るわ。」
 デイヴィッドが少しジェーンの顔を見遣ると、彼女は笑いもせずに真っ直ぐに競技場と桟敷席を見詰めていた。
 暫らく二人は黙っていたが、ふとジェーンが尋ねてきた。
「ねえ。結局、昨日の騒ぎの主は、何者だったの?」
「え?ああ…」
「私たちを襲った強盗達にも、お金を渡していたんでしょう?」
「うん。」
デイヴィッドは、小さく息をついた。
「あの、赤毛で顎に傷痕のあるガーナーという男は、ホットスパーの従者だったんだ。」
「ホットスパー?3年前のシュールズベリーで戦死した、パーシー家の?」
「君の父上はシュールズベリーで戦死したんだったな。そう。あのホットスパーだ。」
 デイヴィッドは、カットベリーの報告を思い出しながら説明した。
「ホットスパーの忠実な従者だったガーナーは、主人の戦死後、復讐をしようと決心したらしい。復讐の相手は、皇太子ヘンリーだ。」
「どうして殿下を?」
「どうやら、『ホットスパーは皇太子との一騎打ちに敗れて戦死した』という、あの噂を本気にしていたらしい。…いや、本気にしていないにしても、ハルほど復讐するのに適当な人物はなかっただろう。」
「彼の仲間は?」
「彼らも、何らかの形でホットスパーや、パーシー家の恩顧を受けていた連中だ。彼らは、皇太子が今回の婚礼でモンマスを訪れ、トーナメントを主催すると知って、この機会を狙う事にしたんだ。ガーナーはハルの顔を知らなかったし、皇太子ともなれば守りが固いと考えたのだろうから、絶好の機会だ。」
「馬上試合を挑んで、殿下を殺そうとしたのね?」
「そうだ。でも、正式な登録は出来ない。ハルは主催者だから、正式な試合では対戦できないからね。そこで、前もって見物人達に金をばらまいて、試合の終了後に皇太子と、ガーナーとの試合を促す歓声を上げる様、細工をしたんだ。モンマスの人々は皇太子の勇姿が見たいに決まっているし、それに謎の緑の騎士が現れるなんて、御伽噺みたいで、面白いと思っただろうよ。」
「でも、対戦するとしても切っ先を布で覆った槍でしょう?」
「真剣を隠し持つぐらい、造作も無い事さ。それに、ガーナーはハルとまともに勝負して、勝つ自信があったんじゃないかな。ところが、そこにフォールスタッフが現れたんだ。」
「あの、お爺さんね?殿下とあなたの友達なの?」
「友達と言えば、友達だな。ガーナーは偶然に出会った自称『皇太子殿下の親友』を、利用する事にしたんだ。フォールスタッフはハルの顔を知っているし、町に出てくる事も察知していた。ガーナーはそのフォールスタッフの案内でハルを見つけ出し、殺そうとしたんだ。」
 ジェーンは納得した様子で、数度頷いた。しかし、またすぐに尋ねた。
「でも、ガーナーはどうして大金を持っていたの?緑の騎士のために町の人に配ったお金も、かなりのものだったそうじゃない。」
「その事は、彼は何も言っていないらしいが…」
デイヴィッドは少し首を傾げながら続けた。
「恐らく、ノーサンバランド伯爵から出ているんじゃないかな。」
「ノーサンバランド伯爵…ホットスパーの父親ね?伯爵がガーナーや仲間達の援助をしていたと?」
「憶測の域を出ないけどね。そうでないと説明がつかない。手段はともかくとして、死んだ息子を慕って、その仇を討とうとしたガーナーに資金援助をしても、おかしくはないだろう。」
 ジェーンはデイヴィッドから視線をはずすと、ぼんやりとトーナメントの競技場を見遣った。丁度、決勝進出者のアーサーが登場したところで、大きな歓声が上がった。続いて対戦者も姿を現す。両者は馬上から桟敷の貴賓席へ礼をして、いよいよ決勝が始まった。

 「ホットスパーは、立派な騎士だったんでしょうね。」

 唐突に、ジェーンが呟いた。デイヴィッドがゆっくりと彼女の方をみやると、ジェーンは被っていたベールを外し、髪を少し強くなった秋風になびかせていた。
「そうだな。」
 デイヴィッドは短く同意した。彼もハルも、ホットスパーと特に親交があった訳ではない。それでも、ホットスパーが騎士物語に登場するような、勇士だったことは知っていた。
 そして、手段を選ばずに主君の仇を討とうとした、ガーナー。彼は手段を選ばなかった点では騎士にふさわしくはなかったが、主君に対する忠節という点では、騎士に相応しかったのかもしれない。

 (騎士道か…)

 デイヴィッドはぼんやり考えた。

 しかしそれは、ジェーンの声ですぐに遮られた。
「それでガーナー達は、これからどうなるの?」
「一応今回の事は、町で『どこかの騎士二人組』と喧嘩騒ぎを起こしたって事になっているから。モンマス城代の権限で、身元引受人の所に、強制的に身柄を移す。」
「ノーサンバランド伯爵の所ね?」
「そう。」
 ジェーンは小さく頷いた。彼女にも分かっていた。シュールズベリーの戦いには参加せずじまいで、長男と弟を失ったノーサンバランド伯爵が、これから謀叛を起こすであろう事は明白な情勢だった。ガーナー達は、その伯爵の元へ行く。彼らは志を貫く事だろう。

 トーナメントの興奮は、最高潮に達していた。決勝に進んだ二人は、競技場の中央で何度か槍を繰り出してはかわし、馬を回して再度打ち合いを繰り返した。そして、とうとうアーサー・モンタキュートの槍 ― 競技用に先を保護した槍が、相手の胴に当り、審判を務めるサマーセット伯爵の右手がさっと上がったのだ。
 審判の判断を待つまでもなく、観衆がどっと沸いて一斉に立ち上がった。そして勝利者たるアーサーに祝福の拍手が送られ、桟敷席の人々も立ち上がって勝利者の栄誉を称えた。

 デイヴィッドとジェーンは、相変わらず土手に座ったまま遠巻きにその光景を眺めていた。
「レディ・マチルダは、立派な夫を迎えたようだな。」
デイヴィッドが言うと、ジェーンも小さく頷いて同意した。
「そうね。優しくて、申し分のない立派な騎士だわ。」
「君はどうなんだい、女子相続人さん。母上はトーナメントでこれと思う騎士を見つけてこいと、おっしゃったんだろう?」
「母の言う事を、いちいち真に受けてなんかいられないわ。」
「お互い、親には苦労するね。」
「そちらは、父上でしょう?あなたが生れた時に卒倒したって言う…」
「良く知っているな。」
「マリーが教えてくれたわ。あなたのための、女の子用品の話もね。」
「役に立った?」
「ええ。」
ジェーンはとぼけた表情で頷いた。
「ご丁寧に、花嫁衣裳まであるわよ。」
「花嫁衣裳?あのクソ親父め…それ、本当?」
「本当。花嫁衣裳用の生地と糸があるのよ。感謝していると、父上に伝えておいて。もっとも、まだ仕立てをする予定はないけど。」
「仕立てたかったら、とりあえず初対面の騎士に斬ってかかるような真似は、やめるんだな。」
また何か言い返されるのかとデイヴィッドは身構えたが、ジェーンの反応は意外だった。
「悪かったわ。」
「神妙だね。」
すると、ジェーンは真面目な表情で言った。
「昨日、モンマス城から町に飛び出して、あなたと皇太子殿下がエールまみれの姿で戻ってくるのを見た時、分かったのよ。」
「何が。」
「あなたが、負傷した事の重大さ。」
 アーサーが馬を下り、ハルの前に進んで祝福を受けようとしている。ジェーンは呟くように続けた。
「あなたが、利き腕の右肩を動かせないほど負傷したって事は、皇太子殿下をお守りするのに、支障をきたしたって事ね。」
「大袈裟だよ。」
デイヴィッドは軽く言って、肩をすくめてみせた。
「でも、一昨日のあなたの態度は、それを物語っていたわ。あなたは、殿下を ― 」
 ジェーンが言い終わらない内に、デイヴィッドは立ち上がった。

 風が吹き、白い雲が流れた。
 土手から、観衆の頭上、競技場、桟敷の貴賓席へと影が走って行く。

 デイヴィッドは黙って桟敷席を見つめていた。花嫁マチルダ,父親のメイブリー,モンタキュート夫妻,サマーセット伯爵,ジョン王子,そしてハルの姿が見えた。皇太子の祝福を受けたアーサーは、改めて観衆に向かって手を振っている。

 ジェーンはデイヴィッドを見上げて、話題を変えた。
「傷の具合はどう?」
「え?…ああ。」
 デイヴィッドは立ったまま、我に返ったようにジェーンの方に向き直った。
「だいぶ良いよ。今朝見たら、傷口がふさがっていた。」
「大した回復力ね。一昨日のは誤診。動かさないでいるのは、10日で良さそう。本当は吊っていて欲しいのだけど…」
「悪くない医者だ。」
「ありがとう。」
「レディ・マチルダが頼りにする訳さ。」
「どうかしら。もう彼女には、アーサーが居るわ。」
 溜息まじりに言いながら、ジェーンも立ち上がった。
 「ねぇ、ついでに教えてくれない?皇太子殿下のあの右頬の傷跡。」
「よく気づいたな。よほど明るくないと見えないと思ったが。」
「医者だもの。…あれ、もしかしシュールズベリーの時に負ったの?」
 デイヴィッドは暫くジェーンの顔を見つめていたが、息を吐きながら貴賓席へ視線を戻した。
 「そうだ。どうして分かった?」
「おととい、シェールズベリーの話になった時に何となく。圧勝だったのに、楽しい思い出でもなさそうだったから…」
 デイヴィッドは黙ったまま静かに、小さく頷いた。

 観客達の間から少しずつ、皇太子の出馬を願う声が上がり始めた。
「皇太子殿下、ご出馬を!」
「殿下の勇姿をお見せ下さい!」
 声は段々増えて行く。彼らは、もう緑の騎士が登場する事はないとは、知らないのだ。

 デイヴィッドはその様子を見ながら尋ねた。
「レディ・マチルダが結婚して…ジェーン、君はどうする?」
「さあ。マチルダが嫁いだ以上、私が叔父の所に居る理由はないから。ダルシーに帰るわ。」
「お目出度いのに、悲しそうだね。」
「あなたにも、いつか分かるわよ。親友が結婚した時の寂しさがね。」
「別に、彼女が親友じゃなくなる訳じゃないさ。」
「分かってる。せいぜい、口うるさい母の所に戻って、毎日喧嘩でもして暮らすわ。」
 デイヴィッドは少し笑った。自分はウェイルズに暫らくとどまるので、ロンドンでのセグゼスター伯爵との言い争いとは、少し遠ざかっていられそうである。

 「皇太子殿下、ご出馬を!」
 観客達は声をからして叫んだ。しかし、肝心の緑の騎士が一向に姿を現さない。やがて、その事を不信に思った人々の間からざわめきが起き始めた。
 すると、ハルがゆっくりと立ち上がり、人々の声を鎮めた。そして、大きな声で言った。
 「お集まりの皆さん、ありがとう。皆さんのかくの如き熱心な要望を聞いて、私も嬉しい限りだ。ぜひとも、ひと勝負したい所だが、さて誰と対戦するか。優勝者のアーサー・モンタキュート卿にお相手願いたいのは山々だが、そろそろ彼を美しい花嫁の元にお返ししようと思う。そこでだ。」
 ハルは一呼吸置いてから、また良く通る声を上げた。
「ここは一つ、我が親友サー・デイヴィッド・ギブスンと対戦したいと思う。皆さん、いかがですか?」
 観衆の間から、熱狂的な歓声が上がった。

 「なに考えているんだ、あいつは…」
 土手に立っているデイヴィッドは、舌打ちをしながら呟いた。

 皇太子と、武勇の誉れ高き親友のサー・デイヴィッドの馬上試合である。観客たちは大いに沸いた。
 するとまた、ハルが人々に言った。
「しかし、これから私とサー・デイヴィッドが甲冑を身に着けるのでは、皆さんをお待たせしてしまう。ここは一つ、軽装のままの対戦と参ろう。それから、更にもう一つ趣向をこらそうではないか。私もサー・デイヴィッドも右利きだが、この機会に、左手だけの槍捌きを競ってはどうかと思う。」
 この言葉に人々は更に喜び、歓声を上げた。
「皇太子殿下と、サー・デイヴィッドの対戦だ!一生に一度の、見ものだぞ!」
「左手での勝負なんて、そうそうあるもんじゃないぞ!」
 歓声はやがて、サー・デイヴィッドはどこだ、どこだと騒ぎ始めた。ハルはさっさと桟敷の貴賓席を降りて、準備を始めている様子だった。

 「呼んでるわよ。行かなくて良いの?」
 突っ立っているデイヴィッドに、ジェーンが言った。デイヴィッドは不機嫌そうに答えた。
「止めないのかい、お医者さん。」
「何言ってるのよ。あれは、皇太子殿下があなたを励まそうとしているんじゃない。友情を無にするような、馬鹿じゃないわ。」
「やれやれ。」
 デイヴィッドはゆっくりと土手を下り始めた。
 土手に残ったジェーンはデイヴィッドの後ろ姿を見送っていたが、彼が土手を下りきった頃に、急に大声で呼びかけた。
「ねぇ!」
「なに?!」
デイヴィッドは面倒くさそうに振り返った。
「一つ、訊き損ねたわ。あの、ロヌーク夫人って、何者だったの?!」
「知らん!謎の美女だ!」
「何ですって?!」
「俺がどうして、この土手でトーナメントを見物していたと思う?彼女を見つけるためさ!」
「それで、収穫は?!」
「なし!きみだけ!」
 そう言い捨てて、デイヴィッドはトーナメント会場へと歩いて行った。

 皇太子ハルと、サー・デイヴィッド・ギブスンによる馬上試合は、白熱した物になった。二人とも甲冑は着けず軽装で、槍も木製を用いたのだが、どの試合よりも激しく火の出るような勝負だった。本来なら馬術に長けたデイヴィッドの方が有利だったが、今回の彼は手綱を取る右手が利かないし、意外にもハルの左手が強い事が判明し、勝負はなかなか着かなかった。
 観客達は息を飲んで勝負の行方を見守ったが、かなり経った所で、サマーセット伯爵が引き分けを宣言した。それでも観客達も大満足で、このトーナメントはモンマスとその周辺の村々では、長い間語り種となった。
 所で、多くの観客の中に混じっていたティプル村の人々は、貴賓席の皇太子はサー・ハロルドに良く似ているなどと呑気な事を言っていたが、やがてハルとデイヴィッドが甲冑をつけずに馬を駆って競技場に現れるや、開いた口がふさがらなくなった。
 モンマスの商店の若旦那達も、事情は同じだった。給仕の少年に聖ジョージのメダルを贈ったのは、皇太子殿下だったのだと判明し、大騒ぎになったのである。

 こうして、モンマス城代モンタキュートの長男アーサーと、マチルダ・メイブリーの婚礼とその祝宴は終わりを告げた。
 翌日早速、皇太子とサマーセット伯爵,ジョン王子に率いられた一個大隊はウェイルズ前線の視察に出掛け、ロンドンに戻ったのは1ヶ月半後である。帰路にティプルに立ち寄る事は、さすがに出来なかった。
 レディ・ジェーン・フェンダーは、領地ダルシーに戻った。娘が収穫無しで帰ってきた事が無念でならない母親は、弟であるメイブリーにさんざん愚痴をこぼしたという。
 フォールスタッフとネッドは、一昼夜モンマス城の牢屋に押し込められた後、釈放された。ランカスター公爵に召し抱えてもらうという夢のついえた二人は、散々な有り様でロンドンのレッド・ホロウに戻ってきた。もっとも、帰りの旅費はハルの配慮で与えられたのだが。
 ニコラス・ガーナーとその仲間達は、ノーサンバランド伯爵の元に強制送致された。伯爵が謀叛を起こして、皇太子率いる国王ヘンリー四世軍に敗れるのは、2年後の事である。
 デイヴィッドの肩の怪我は多少の痕が残ったものの、ウェイルズの視察中に完治してしまった。

追記

 ランカスター公爵位は、1413年ヘンリー五世の即位と同時にイングランド国王位と併合され、その広大な領地は国王の財産となっている。その管理・統治はランカスター公爵領相(Chancellor of the Duchy of Lancaster)が担当し、1915年にはウィンストン・チャーチルがこの職に就いている。

                              モンマスの祝宴 完



あとがき
 私のオリジナル小説ハル&デイヴィッドの第二作「モンマスの祝宴」を、最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
 この作品は、最初に私の頭の中に「デイヴィッドの負傷」というイメージが沸いたところから始まりました。そこに貴重な女性キャラクターを登場させ、シェイクスピアで大活躍したホットスパーを絡めながらの構成は、かなり順調だったと思います。やはり新しいキャラクターを活躍させ、賑やかになるのは楽しいですね。これからもハル&デイヴィッドのシリーズは、素敵な仲間を加えつつ楽しく展開してゆきたいと思います。
 最後に、もう一度応援してくださった皆様にお礼を申し上げます。
 そして、数々の素敵なイラストと、励ましのお言葉を下さったあさみ様に、― 満を持して ― お礼を申し上げます。
                               7th November 2004


10.ランカスター公爵主催のトーナメントが、賑々しく開催される事
Original Novel   Hal & David  オリジナル小説  ハル&デイヴィッド


  モンマスの祝宴
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