当サイトで「ハル&デイヴィッド」の連載が始まって3年になります。その間4作品を連載し、様々なコメント,励まし,そしてイラストなどを頂き、それらがまた私の力となってきました。
 ここれは、そんな「ハル&デイヴィッド」が最初に形作られた頃の姿 ― プロトタイプについて、披露してみたいと思います。題して、「ハル&デイヴィッド誕生秘話」!


 主役は一人?

 私がシェイクスピアを知ったとほぼ同時に、「ヘンリー四世」に登場したハル王子が気に入り、彼を主役にした小説が思い浮かんだという話は、どこかで書きました。当初、この小説の主役はハル一人で、相棒は居ませんでした。したがって、タイトルも「ハル&デイヴィッド」ではありません。実のところきちんとしたタイトルは決まっていませんでした。仮にワープロのフロッピーに文章を保存していましたが、そのフロッピーには「Hal V」と手書きしていました。恐らく、「ハル」という名前と、「ヘンリー五世」の後半部分が残ったのでしょう。
 最終的にハルの相棒としてデイヴィッドというもう一人の主役が創造された訳ですが、「ハル&デイヴィッド」というタイトルはこのサイトに連載を始める直前にやっと決まったもので、それまでしばらく、「Hal V」という仮のタイトルを使っていました。

 アクセサリー・オプション

 ハルとデイヴィッドの容姿に関する設定は、今でも大雑把なものしかありません。デイヴィッドに関しては、細かく決まっているように見えて、実はジョージ・ハリスンと同じという事。
 髪の色については、デイヴィッドはジョージと同じく黒に近い茶色。ハルは少し明るい茶色で、少々金髪交じりという程度まで、設定してあり、それはプロトタイプも現在の連載作品も同じです。
 さて、ここでプロトタイプ特有の設定を披露しましょう。それはアクセサリー。ハルとデイヴィッドは、二人ともピアスをしていたのです。これはどうしてなのか、私自身にもわかりません。ただ、そういうイメージが出来上がっていたのです。二人とも小さな石のピアスを(多分両耳に)つけており、その色はハルは青(サファイア)、デイヴィッドは赤(ルビー)でした。
 このピアスという設定、プロトタイプの会話にもたまに出てきました。
「その男、背が高くて、髪はこげ茶色で、赤い耳飾りをつけていたか?」…など。
 しかし、この設定は段々と私のイメージからは薄れて行き、サイトに連載を始めることには、完全に消えていました。現在のハルとデイヴィッドは、耳になにもつけていません。

 ワトスン君

 プロトタイプと、現在との一番の大きさは、文章の形式です。現在の「ハル&デイヴィッド」が普通の三人称で書かれていますが、プロトタイプはデイヴィッドによる一人称語りの形式でした。つまり、シャーロック・ホームズ物における、ワトスンの一人称語り形式と同じですね。
 これは、当初デイヴィッドがハルを映す鏡として登場したからです。ですから、物語冒頭の一文は、以下のようになっていました。
 「19年前、私の母が六人目の子を身ごもった時、誰もが生まれてくる子は女の子だと信じて疑わなかった。」
 その後、デイヴィッドの存在がどんどん大きくなり、更に状況説明が一人称では困難な場合が多くなった為、この一人称形式は早いうちに無くなりました。もし、この形式のまま連載を始めていたら、「ハル&デイヴィッド」は随分違う小説になっていたでしょう。

 泣く人と誤解

 プロトタイプでは、ハルの性格が現在のものとは多少違っていました。今思うと驚きなのですが、ハルが涙しながら何かをデイヴィッドに訴えるシーンがあったのです(イメージなので、具体的にどういう訴えかは分かりません)。他にも、時々メランコリーで、悲しげで、デイヴィッドにその心を救ってもらおうとする姿勢も多少あったと思います。
 この設定は、恐らく私の若さに起因していたのでしょう。王子様に涙を流してもらったり、デイヴィッドに甘えるようなところがあって欲しいという気持ちが、私にあったようですが、今やそういう気分は皆無です(笑)。そして、このプロトタイプでもって連載を始めないで、本当に良かったと実感しています(笑笑)。

 もう一つ付け加えて言うなれば、ハルのジョンに対する態度が違います。ここでジョンが持ち出されたのは、プロトタイプの当時は登場する弟はジョンだけだったからです(シェイクスピアの影響でしょう)。私は大きな誤解をしてました。即ち、ヘンリー四世の四人の息子のうち、最初の妃の子はハルだけで、下の三人は後妻の子だと思いこんでいたのです(実際は同じ母親から4人の男子、2人の女子が生まれています)。
 このため、兄を慕うジョンに対し、ハルは母違いという現実を踏まえて多少の距離を置いて接していたのが、プロトタイプです。その後、私は誤解に気づき、更に先ほど述べたようなハルの性格から、現在のハルに変化していましたので、ジョンに対する態度も変わっていったのです。

 第一話

 プロトタイプは殆ど設定集のようなもので、しっかりとした物語は出来上がっていませんでした。ただ、メモのように散文が残っており、それが第一話という事になります。
 連載した「ハル&デイヴィッド」と、プロトタイプは始まり方がほぼ同じでした。デイヴィッドが自分が生まれた時のエピソードに思いを馳せ、そこへハルが飛び込んできます。そして二人して外出し、その先で「事件」についてハルが語るのです。その事件の内容が、「甲冑職人」とは待ったく別でした。プロトタイプ曰く、「最近、妙な強盗が頻発している。両替屋に押し入っては、麻袋を切り裂き、中身の金貨をすべて出して、麻袋だけを盗んでいく」という話です。
 実はこのプロトタイプ、ストーリーとしてはここで終わっています。一体、どういう事件だったのかは、私にも分かりません。


 改めてプロトタイプを思い出してみると、捨てるには惜しい設定も幾つかあったように思います。メモのように残していた文章は、当時使っていたワープロのフロッピーに保存してあるので、きっと再生は出来ないでしょう。そのフロッピーももう無くしてしまったかも知れません。

 さて、今回は「ハル&デイヴィッド」連載前の姿について披露しましたが ― では、この先の「ハル&デイヴィッド」はどうなのでしょう?はっきりしているのは、私の頭の中には「最終回」がほぼ完全な形で出来上がっているという事です。構成という面では未完成ですが、一つ一つの場面、台詞、人物の動き、感情などは出来上がっており、更にエンディング・テーマ曲まで決まっています。
 恐らく、私はこの「最終回」に向かうための物語を、「ハル&デイヴィッド」として書いているのだと思います。そこまでに、何話存在するのか、今の私には全く見当がつきません。「最終回」は、一生書かないかも知れません。― 書くか書かないかは別として、それが既に出来上がっているという事は、気が楽なような感覚がします。私が軽い気持ちで「ハル&デイヴィッド」を書いているのは、この「姿なき最終回」のおかげかも知れません。

                                          13th November 2006

Original Novel   Hal & David  オリジナル小説  ハル&デイヴィッド

  「ハル&デイヴィッド」誕生秘話 〜 プロトタイプ紹介 〜
                           
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