グラン・ヴァカンス 廃園の天使I

数値海岸は、バーチャルリゾートだった。AIの住人がゲストを迎えもてなすのである。しかし、ゲストが来なくなって内部時間で千年。いつまでも変わらず続くかに思えたが、小さな、しかし決定的な変化が訪れていた。

20世紀初頭の海外の少年文学を思わせるような書き出しで始まり、ゾンビ映画のような中盤を経て、終局へ向う様はとても美しく圧倒的である。また、物語の裏に見え隠れする背徳の快楽は、その美しさに磨きをかける蝋のようだ。
AIという単語でひっかかりを覚えない訳ではないが、我々が「現在」使っている「人工知能」という意味での「AI」と、まったく別の意味を持っていてもいいと思う。また、千年というのも実時間では、どれほど経過しているか、判らない点もよいと思う。つまり、千年経過したとAIが思わされている可能性もあるわけだ。
この数値海岸という世界は仮想現実技術とAIを組み合わせた18禁ゲームの世界なのではないか、と思った。
そんなAIを使用して何をさせたいのか、仕組んだ者の意図が気になるし、回収しきれていない伏線などある。連作ということなので、今後の作品群に期待したい。

書名:グラン・ヴァカンス 廃園の天使I
著者:飛 浩隆(ノート)
カバーディレクション&デザイン:岩郷重力
発行所:早川書房
印刷所:株式会社享有堂印刷所
製本所:大口製本印刷株式会社
初版発行:2002年9月30日
ISBN4-15-208443-X C0093
形態:四六版変形並製(124608 ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
定価:1600円+税
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