「ゴッキー」私的考察シリーズ VOL.2
「かしまし宇宙娘」 懲りない面々



 さて、前回の「駅前親切軍団」からガラッと変わって、今回取り上げるのは「かしまし宇宙娘」です。
 「♪ウチら〜よう〜きな〜 かっしまっしむっすめ〜」という歌があったけど、ただの「かしまし娘」じゃないです。「宇宙」です。よく宇宙を感じるなんて申しますが、それってよくわかんないですよね。榎本俊二の描く「宇宙娘」。なんのことはないです、ご存知「まんじゅう型宇宙人」。俗称「饅頭星人」です。
 「饅頭星人」というのは、ハッキリ言って私が勝手に命名したものですが、恐らく誰でも「あいつのことだな!」とお解かりになっていただけると思います。ただ、榎本尊師はあまり固定観念となるのを避けているようで、正式名称はあくまで「宇宙人」です。いや、それすらも怪しいが。ただ「何巻何ページに出てきた、丸い顔だけのキャラで、手刀で即死するヤツ」なんて言うと長いし、第一即死するヤツなんてごまんと出てくる漫画ですからわかりません。

 さて、そんな饅頭星人の魅力溢れるこの一本な訳ですが、どういう流れだったかというと・・・。

男(人間)が「おいでおいで〜」と、饅頭星人の女性グループに手招きする。
それに反応した「かしまし宇宙娘」が逆上せ上がって男の方へ。他の二人が口々に「行っちゃダメ」「殺される」と説得するも聞かず。
男の周りをグルグル回る宇宙娘。もうゾッコンだ!
頃合を見計らって男が手刀チョップ! 宇宙娘即昇天。



 こんな感じですね。「おいで〜」と手招きされただけでゾッコンになっちゃう宇宙娘も大概ですわ。ほんまに。しかもそれを見て友達の子のセリフが「行っちゃダメ〜!」「殺される〜!」ですよ。普通「殺される〜!」なんてセリフ出るはずが無いですよね。それが平然と出てくるんですから(笑)。しかもその声が耳に入らない。恐らく止めた二人は過去に同じような経験で友を亡くしたことがあったのでしょうね。経験則で止めているのに、乙女の恋心は走り出したら止まりません。Can't stop loving youです。

 で、グルグル回って夢中さをアピールするかしまし娘。どこがそんなによかったんでしょうかね?

手刀チョップ→即昇天というのは、これは「えの素」でもよく見受けられるのですが、この頃はみちろうやばあちゃんが繰り出すような、「形が変わる」凄まじい一撃ではなく、ほんとにあっさりしたチョップです。でも死亡。勿論黒色化。あっさり天に召されます。
ですが、この「饅頭星人」は初登場時からとってもひ弱なキャラとして御馴染みです。初登場時は、円盤から降りてきたこいつらが、ジェットエンジンをかついだオヤジによってチョップで全滅させられています。また、変な踊りを見ただけで泡吹いて即死したりもしてまして、相当弱いです。また、不時着してサエナイ姿を鏡で見せ付けられたりして、いじめられてたりします。ですから、このオチはお約束でもあるのですね。というか、予想通りのオチで大満足です。ゴッキーで死ぬなんて言うのは、ウンコするのと同じくらい日常的ですからね。
 ですがはじめて見る人にとっては、「なんでチョップされて死ぬんや!」というツッコミとともに笑いがこみ上げます。もう大成功なわけですよ。

 「ゴールデンラッキー」というのは、非日常的なものをあっさり描きあげることにより日常的な光景として見せているのが醍醐味の漫画です。「ありえない」「そんなわけない」という観念を笑いに換える技法といいますか。その点人がバンバン死んでいくという、あり得ない状況を滑稽に伝えています。これが現実だったらどうでしょうか?例のテロ事件以降のアメリカの反応を見ればわかります。というかあれが正常な姿なのでしょう。それがどうでしょう。この漫画では、「まんじゅう型」の「宇宙人」が「手招きされただけゾッコン」にまってしまい、「手刀で即死」です。
 我々の宇宙人観というのは、まずその存在の有無から始まり、一部では神学論争となっています。そりゃそうだろう。宇宙人の存在は神や人間と言った起源を根底から覆すものですから。そして宇宙人というと古くはタコのような火星人が連想されます。それは西洋においてタコがデビルフィッシュと言われたことと無縁ではないでしょう。また忌み嫌われているタコの奇怪な姿が火星人へと連なっていくのは、想像に難くありません。
 そして最近ではグレイ型や「エイリアン」に出てくる異星人などグロテスクな宇宙人を読む人は想像するでしょう。榎本俊二はそのまず概念を打ち破ります。おまんじゅうを連想させる姿。そしてその表面には顔だけが描かれています。手も足もありません。顔だけ。ですが愛嬌のある顔です。決して凶暴な顔ではありません。こんな宇宙人を創造した人はなかなか居ないはずです。しかも激弱です。チョップ一つで即死。変な踊りを見ても即死。なかなか生命力が乏しいやつです。これは地球の環境に適応できていないかもしれませんね。おそらく彼らの故郷であるおまんじゅう星雲では、そんな「死ぬほど」の外的要因がなく平和に暮らしていたのでしょう。

 さきほども少し触れましたが、手刀についても見てみましょう。榎本漫画の伝統として「手刀」は古くから使われている技法です。ゴッキー第一巻から使われており、最初の犠牲者となったのも、この饅頭星人です。
 「手刀」を食らうと、まず間違いなく高確率で死に至ります。というか即死。「なんでチョップされたくらいで死ぬねんな!」とはやる気持ちは抑えましょう。榎本漫画の中では死ぬんです。文句あるか? というかツッコまざるを得ない状況になれば、作者としては大成功でしょう。そして「チョップで死ぬ」という衝撃的事実は読者の記憶に強烈に刷り込まれることになります。これも「非日常的」な出来事を「日常」で描いたことによる結果ですね。
 しかもこの手刀は回を追うごとに、まさしく「刀」としての機能を持つことになります。悪のジェイコブが善のジェイコブを紙ふぶきのごとく手刀で切り刻むという事件が起こったのです。しかもその手刀は少なくともその切る対象に「触れていない」ように見えます。ただ空中でその相手に向かって手刀を切る。一番近いイメージは、大相撲で勝った力士が懸賞を拝領する時に「心」という字を空に書くのですが、それが一番近いでしょう。あんな感じで、そしてもう少し早く手を動かすことにより、手刀は文字通り「刀」としての機能を持つに至りました。よくばあちゃんやみちろうが、首やらチンコを切ったりしてますがこういうところにその源流があるんですね。ルーツを知る旅。感動的ですなぁ。