福井の文化財巡り 2017年7月21日-23日

7月21日(金)

初日は福井の国宝鐘2口を拝観する。朝イチの新幹線のぞみで新横浜を発った。

敦賀へ

恐竜博士
恐竜博士がお出迎え(10:33)
まずは敦賀を目指す。名古屋でこだまに乗り換えるが、こだまは普通車両が全席自由席にだったのでびっくりした。米原で敦賀行きの各駅停車に乗り換えたら、2両編成の電車は混雑していて、シルバーシートがかろうじて空いているだけだった。あまり気が進まないが、長旅になるので、空いているシルバーシートに陣取った。しかし、2、3駅を過ぎると、若者たちがごっそり降りてしまった。どうやらそのあたりが学校の最寄り駅だったようだ。車内はとたんにスカスカになった。
50分で敦賀に着いた。へんてこな恐竜博士がベンチに座っていた。この後、福井中のあちこちのベンチでこの恐竜博士と遭遇することになる。

常宮神社

最初の目的地は常宮神社だが、バスは一日3本だけで時間が合わず、のっけからタクシーを使うこととなった。20分もかからずに神社に着いた。
社務所は閉まっていたが、事前に拝観の予約をした際に、不在のときは電話するようにと言われていたので、そのとおりにした。少し間を置いてから、宮司夫人と思しき女性が現れ、朝鮮鐘の収まっている収蔵庫を開けてくれた。
コンクリート製の小さな蔵は、朝鮮鐘の周囲を人が回れるだけのスペースしかない。ラジカセかなんかに録音してある宮司氏の説明音声と、折々に奥様の肉声による補足を聞きながら鑑賞。かなり間近に寄って見られたのは嬉しかった。天女の絵が描かれているあたりは、日本のいわゆる梵鐘とはまるで印象が違う。てっぺんのつまみと撞き座の角度が45度なのに気付いた。これは当たり前のことなのだろうか。全面に墨の落書きがあるのも、今となっては微笑ましい。江戸時代のものではないかとの話。
秀吉が朝鮮から持ち帰ったという伝承があるため、隣国の市民団体かなんかが例によって勝手に略奪認定して返還運動をしていたこともあり、拝観を停止していたというが、最近になってようやく落ち着いてきたので拝観再開となったとのことだった。
朝鮮鐘は写真撮影が禁止なのは残念だが、絵ハガキを売っていたので、それを買った。

越前町織田文化歴史館

越前町織田文化歴史館
越前町織田文化歴史館(11:19)
幟
梵鐘は永遠に不滅です(12:21)
またタクシーで駅に戻る。運良く近くに車がいたとのことで、ものの5分で迎車が来た。この分だと10:35のサンダーバードに間に合いそうだ。次なる目的地は越前町織田文化歴史館だ。いろいろ考えた結果、武生からまたまたタクシーで越前町に行くことにした。そうすれば、充分時間がとれたうえで、帰りは12時半のバスが使えるはずだ。
武生駅で織田文化歴史館へと告げると、運転手氏はきょとんとした顔。劔神社の隣の博物館と説明したら「ああ、あの資料館ね」という反応だった。40分くらいかかったろうか。 文化館の入口前は広い駐車場で、たくさんの幟がはためいており(この幟の主張が面白かった)、ぱっと見には地方によくある公共の入浴施設のようだった。中に入ると涼しくて気持ちよかった。この日の福井の予想最高気温は37度だ。入口から右の翼が図書館で、左が資料館だ。
資料館の展示は、地方によくある地元の歴史の解説なのだが、その解説が、おっそろしいほど、もっのすごっく詳しい。こういう施設をよく使うだろう社会科の授業の小学生にはさすがに難解にすぎる。その分、興味を持つ大人には読み応えのある内容なのだが。自分は途中の泰澄大師の解説あたりで集中力が途切れてしまったが、織田信長のルーツがここだということは理解した。とにかく、作った人の歴史愛が感じられる解説なのだった。
さて、梵鐘は、資料館すぐ隣の劔神社の所有するもの。先ほどの朝鮮鐘とは対照的に、よく見かける、いかにも鐘らしい文様だった。美術的には取り立てて面白いというものではないが、この鐘の価値は古さだ。銘のある鐘のうちでも3番目に古いものだという。その辺が評価されての国宝指定なのだろう。

北鯖江駅

北鯖江駅
北鯖江駅(13:20)
バスが来るまで20分くらいあるので、劔神社の境内を散歩したが、またすぐ暑くなってしまったので、資料館に戻ってロビーでカルピスゼリーの缶飲料(初めて見た)を飲みながら涼んだ。
バスは2方向に出ているが、武生行きではなく、福井により近い北鯖江行きのバスに乗った。バスに揺られること1時間弱、北鯖江は完全無欠の無人駅だった。時刻は13時を過ぎている。腹が減ったが、店らしいものは見当たらない。武生に行けばこんなことにはならかったがもう後の祭りだ。途中でバスが大型ショッピングモールを経由したときがチャンスだったが、そこで降りてしまうと、駅まで酷暑の中を歩くことを考えると、恐ろしくて降りる気になれなかった。

福井駅

越前そば
昼食の越前そば(14:02)
ややあって電車が来た。10分ほど乗り、福井駅に着いたのは13:45。福井は北陸新幹線延伸で整備が始まっているのか、駅前には真新しい小綺麗なビルが建っていた。その中の蕎麦屋で越前そばを食した。
この日は鐘を2つ見て行動終了の予定だったが、思いのほか早く済んでしまったので、午後が中途半端に空いてしまった。一乗谷が近いが、わざわざ行くにはいまひとつ気が乗らないので、ちょっと遠いが、旅行後半に行こうと思っていた瀧谷寺に行くことにした。福井からは電車で1時間近くかかる。
えちぜん鉄道は2両編成のローカル私鉄だったが、女性車掌がいたりした。車内はあまり涼しくなく、弱冷車なのかと思うほどだった。たぶん外が暑すぎたのだろう。

瀧谷寺

山門
瀧谷寺山門(重文)(15:41)
観音堂
瀧谷寺観音堂(重文)(16:13)
瀧谷寺は、2泊めに予定している芦原温泉に近い。だからそのついでに寄るつもりだった。あわら湯の里を過ぎ、三国駅に着いたのは15:26と、もう夕方といっていいくらいの時間だったが、まだまだ暑かった。寺まで日陰を探して歩くが、それでも汗がだらだら止まらない。総門で拝観料を支払い、松のうっそうとした雰囲気のいい参道に入ると、暑さは大分やわらいだ。
国宝を拝みに宝物館に行きたかったが、順路の矢印はまず本堂を指していたので従った。棟続きの庫裏(というか、棟をつなぐ廊下なのか)から内に上がり、もう一人居合わせた人と一緒に本堂で簡単な説明を聞いた後で寺内を拝見となった。伽藍建造物はこの夏に重文指定を受けたばかり。観音堂は欄間の彫物などが凝っていた。
本堂を辞して宝物館へ。お目当ての金銅毛彫宝相華文磬は、コの字型の部屋の左奥にうやうやしく鎮座していた。なるほど、これは美しいものだ。地の魚子模様はよく見えなかった。宝物館では、他に仏像がよかった。
ひととおり拝観したら16時半。今日はこれで行動終了とし、今宵の宿を予約してある福井へ戻ることにした。結果論だが、こんなことなら1泊めを芦原温泉にしておけばよかった。

福井の夜

のどぐろ
のどぐろの煮付け(19:14)
恐竜
福井駅前の恐竜(20:25)
予約したビジネスホテルはおそらく駅に一番近い宿。チェックインしたあと、駅の反対側にある違うホテルのダイニングである日本料理橘に行った。のどぐろのコースを注文したら、一人に2尾も出てきた。塩焼きと煮付けの2種だ。美味かった。
福井は駅前も恐竜推しで、オブジェがたくさんあった。夜空のビルと恐竜という組み合わせは、なんだか怪獣映画のようだった。

7月22日(土)

岡田啓介と松尾傳蔵
福井駅前の岡田啓介と松尾傳蔵の像(06:51)
2日めは、恐竜博物館と丸岡城見物。国宝巡りという点では、メインである3つを昨日のうちに見てしまったので、今日はオプションみたいな感じだ。
まずは恐竜博物館に向かう。特別展のチケットがセットになった切符がえちぜん鉄道から発売されているが、特別展は「恐竜の卵」ということであまり興味がわかなかった。そこで、平常展チケット+土休日専用の一日フリー切符という組み合わせにした。電車フリー切符は、終点の勝山までと、帰りは勝山から途中の比叡山口までしか乗らない予定だが、それでもトクになってしまう激安切符だ。平常展チケットも、福井駅のセブンイレブンでベネフィットステーションで買ったらほんのちょっぴり安くなった。

恐竜博物館

恐竜博物館
恐竜博物館内部(08:34)
恐竜
精巧な模型(09:20)
福井発7時の電車は1両運転で、ほぼ席が埋まる程度の混み具合だった。平日はもっと通勤客が多いのかも知れない。電車が進むにつれ乗客はどんどん減っていき、比叡山口を過ぎたあたりでは10人もいなかった。終点の勝山駅は、待合室が小洒落たカフェになっていた。古い駅舎を改装した際に作ったものらしい。勝山から博物館へは市営のコミュニティバスが連絡している。電車の乗客のほとんどが乗った。バスはコミュニティバスのためだろう、(地域住民のために)やたらと遠回りしてから博物館に着いた。
夏休み期間は朝8時半開館で、入口前にはほとんど親子連ればかりの50人くらいの列が出来ていた。すでに暑いが、そんな中、ゆるキャラたちが働いていた。
開館し、行列のみなさんを見送ったあとにゆっくりと入館。建物は黒川紀章の設計とのことで、そこはかとなく六本木の国立新美術館のテイストがした。巨大な卵型空間のエントランスをエレベータで下に降りたあとの廊下壁面には化石が絵画のように飾られていて、美術館のようだった。中は写真撮影可なので、楽しめた。
写真ばかり撮っていたのでなかなか進まず、平常展だけにもかかわらず、見終わったら10時半になっていた。

白山神社平泉寺

鳥居
精進坂と一の鳥居(11:21)
本社
白山神社本社(11:32)
10時半とはまた微妙に半端な時間だ。どうするか迷った挙句、最近売出し中(?)の白山神社平泉寺が意外と近いので、行ってみようということになった。バスがちょうど出たばっかりなので、仕方なくまたタクシーを呼んだ。
ちょうど、吉川英治の『私本太平記』を読んでいるところで、日野資基(大河ドラマでは榎木孝明が演じた)が平泉寺に後醍醐側に味方するよう依頼しに行ったという記述もあって、興味を持っていたところだった。かつてはそれほどの大勢力だったのだ。一段奥まった場所には楠正成の墓もあった。
しかし現在の平泉寺は、たとえば建物は、最も古いもので江戸時代末期ごろで、重文級のものはない。かつての勢いは、いやに広い参道などから想像するしかない。結局、その苔むした参道を散歩するだけ、といった感じだった。神仏分離で神社になってしまったので(白山神社)、仏像も残っていない。観光地としてはいいかもしれないが、文化財ウォッチャーとしては見るべきものはあまりないと言える。

勝山駅

パンケーキ
昼食のパンケーキ(13:07)
腹が減ったが神社近くの2軒の食堂は満席。パンでも売ってそうな売店らしきものも見当たらない。しかたないのでソフトクリームを食べながらバスを待った。バス停の前には「歴史探遊館まほろば」なる施設があり、そこに発掘調査の出土品などが展示されていた。
勝山駅に戻ったら待合室カフェがあったので(来たときにチェックしたのにすっかり忘れていた)、これ幸いと、ここでパンケーキを食べて昼飯とした。コーヒーも柔らかい味で、美味しかった。
福井行きの電車も空いていた。予定どおり永平寺口で降り、東尋坊方面へのバスに乗った。バスは途中で丸岡城を経由する。さらにそのあとはバスで芦原温泉に移動するので、えちてつバスの1日フリーきっぷ(1000円)を買った。

丸岡城

石瓦
丸岡城天守(重文)の石瓦(14:42)
丸岡城
丸岡城天守(重文)(14:59)
40分くらいかかって丸岡城に着いた。バス停は城跡の公園の入口だった。暑い中を、ゆるゆると登っていく。坂の途中に券売所があり、ここで天守と資料館と一筆啓上館の共通券を購入。行きたいのは天守だけなのだが、共通券以外はないもよう。ただ、チケットには越前織のブックマークが付いていて、なぜだかちょっと得した気になった。
なお少しだけ登り、ようやく天守に着いた。天守は武骨そのものだった。入母屋屋根に望楼が乗るのが古式であるが、ここはまたちょっと様子が違う。石落としは隅に作るところが多いが、ここは隅にはなく、出窓に作っている。
内部も武骨そのもので、階段の急なことといったら、これはもう階段じゃなくてハシゴと言っていいレベルだ。なんと補助用ロープまで下がっているのだ。
建物で一番見たかったのは石の屋根だ。石なのに、ちゃんと瓦の形になっている。戦後間もなくの福井大地震で倒壊して再建しているが、その際は石のしゃちほこは上げなかったとのことで、天守入口付近に置いてあった。
中にいると城が見えないので、そそくさと外に出てまた外観を眺めた。その後は歴史資料館に行ったが、見るべきほどのものはなかったのですぐに出て、バス停隣の「まる桜花ふぇ」に入り、涼しい中でケーキセットなどをいただきながらバスを待った。一筆啓上館には寄らなかった。

芦原温泉

バスは空いていたので助かった。ここまでの旅程で、座れなかったのは北鯖江・福井間の電車だけだった。公共交通機関を使う人が少ないのだ。
JRの芦原温泉駅で観光客が乗ってきた。宿はこの駅ではなく、もっと先のあわら湯の里にある。そのままバスに乗っていき、あわら湯の里駅のひとつ前のバス停で降りたら、目の前が本日の宿だった。

7月23日(日)

3日めは朝から本降りの雨だった。しかも、前々から言われていたとおり、このあと強くなるという予報。というわけで結局2泊で切り上げて帰宅することにした。最終日となった3日目は金沢と高岡とどちらへ行くか迷ったが、屋外を歩き回らなくてすむ金沢へ行くことにした。
宿にJR芦原温泉駅までの送迎をお願いして、8:57発の金沢行き各停に乗った。電車はなかなか混んでおり、加賀温泉あたりからは通路の通行もままならないほどになった。我々は席には座れたが、補助いすだったので、1時間の着席は尻が痛かった。

金沢21世紀美術館

スイミング・プール
エルリッヒ「スイミング・プール」(11:30)
美術館
金沢21世紀美術館(12:19)
金沢は大都会だった。そして観光客の多いことといったら、なんかもう、凄まじくて圧倒されてしまった。兼六園などの主な観光地はバス(土日は100円で乗れる)で行くが、車内はぎゅうぎゅう。しかも雨ときている。そして、雨宿りがてらにと思っていた21世紀美術館は、東京の美術館の特別展さながらの大行列が出来ていた。なんか萎えたが、来てしまったのでしょうがないので入ることにした。
列はチケット売り場の列だった。この日は特別展が同時に2つ開催されていた。が、美術に関心のない観光客の目当ては、テレビなどで紹介されたプールなどのオブジェである。ややこしいのは、それらのオブジェは2つの特別展の会場内にあったり、また無料スペースに展示されているものもあったりすること。どのチケットを買えば(あるいは買わなくても)お目当てのものが見られるのかをよくよく考えなければいけない。我々は特別展を両方とも見た。いくつか面白いものもあったが、3年前のヨコハマトリエンナーレの方が楽しめた。
有名なエルリッヒの「スイミング・プール」は雨天時は地上部分は立入禁止で近寄れないのだが、偶然にも近くを通りかかったときに一瞬だけ雨が止み、数分間だけ上から見ることができた。

石川県立美術館

ケーキ
ミュゼ・ドゥ・アッシュのケーキ:白山(左)と金沢(12:58)
色絵雉香炉
色絵雌雉香炉(左、重文)と色絵雉香炉(国宝)(13:33)
ミュージアムショップなどをうろうろしている間にまた雨が上がったので、その間隙をぬって石川県立美術館へ行く。地図で見ると隣なのですぐ着くと思っていたら、21世紀美術館側には入口がなく回り込む必要があり、思いのほか時間がかかった。
県立美術館には石川県出身の有名パティシエ辻口某の店があるので、何はともあれ、ティータイムとなった。金沢店限定の「友禅」「金沢」「白山」などというケーキを食したが、かなり美味かった。やはりもてはやされるだけのことはあると感心した。
喫茶のあと、ようやく展示を見た。ここには仁清の色絵雉香炉があり、色絵雌雉香炉と仲良く一室に置いてあって、しかも写真撮影可というのが嬉しい。
他には、旧藩主前田家が所蔵していた国宝がたまに展示されることがあり、この日は万葉集(金沢万葉)の展示だった。美しい料紙の万葉集だった。

北陸をあとに

金沢駅
金沢駅(15:04)
日本酒
寿司屋で日本酒を楽しむ(18:04)
見終わった頃は雨はしっかり降っていた。駅に行くバスの時間をしっかり確認してから美術館を出て、今度はそれほど混んでいないバスに乗って(座れた)、金沢駅に着いた。バスを降りたら雨は小降りになっていた。駅で土産を買ったりしてから駅ナカの寿司屋で早めの夕食をとり、帰路に着いた。北陸新幹線はガラガラで、びっくりした。
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